化学工学の基礎を、原理・数式と直感的なイメージの両面から、初学者にもわかりやすくお届けします。
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水、空気、食用油、水蒸気は、見た目も性質も異なります。しかし、流動工学ではこれらをすべて流体として扱います。液体だけでなく、気体も流体です。
「流れる物質が流体」と覚えるだけでも入口としては間違いではありません。ただし、化学工学を学ぶなら、せん断応力を受け続けると変形し続ける物質という力学的な定義まで理解すると、その後の粘度、圧力、レイノルズ数、配管流れを一つの考え方でつなげられます。
この記事では、流体の定義、固体との違い、液体と気体の共通点・相違点、密度・粘度・圧縮性などの基本物性、静止流体と流れる流体の違いを、身近な例と数式から解説します。
- 流体を「せん断応力への応答」から定義する理由
- 液体と気体が同じ流体に分類される理由
- 液体と気体の体積、自由表面、圧縮性の違い
- 密度、比体積、粘度、動粘度、体積弾性率の意味
- 静止流体と流れる流体で考える力がどう変わるか
- ニュートン流体と非ニュートン流体の入口
流体とは
流体とは、せん断応力が作用し続ける限り、変形し続ける物質です。代表例は液体と気体です。
せん断応力とは、面に平行な方向へずらそうとする力を面積で割った量です。接線方向の力を Ft、力が作用する面積を A とすると、
\tau=\frac{F_t}{A}
\]
で表されます。
固体に小さなせん断力を加えると、一般には少し変形したところで力と釣り合えます。力を取り除けば、弾性範囲では元の形へ戻ります。一方、コップの水の表面をスプーンで横へ押し続けると、水は一定の変形で止まらず、動き続けます。空気も、扇風機や送風機から力を受ければ流れ続けます。
固体も力を受ければ変形するため、「変形するかどうか」だけでは区別できません。小さなせん断応力を持続的に受けたとき、静的に釣り合うか、変形し続けるかが本質的な違いです。
小さなせん断力で変形
→ 弾性力と釣り合い、形を保てる
せん断力が作用し続ける
→ 層がずれ続け、流れになる
なお、「流体にせん断応力がない」という意味ではありません。静止している流体はせん断応力を支えられませんが、流れている粘性流体の内部にはせん断応力が生じます。
なぜ液体と気体はどちらも流体なのか
液体と気体には、次の共通点があります。
- せん断応力を受け続けると変形し続ける
- 容器や流路の形に合わせて形を変える
- 圧力差があると移動し、流れを作る
- 圧力、密度、速度、温度などの場として扱える
- 粘性を持ち、壁面や流体内部で運動に抵抗する
水が配管を流れる現象も、空気がダクトを流れる現象も、質量保存・運動量保存・エネルギー保存を使って考えます。そのため、化学工学では液体と気体をまとめて流体として学びます。
液体と気体の違い
同じ流体でも、液体と気体では体積の保ち方と圧縮性が大きく異なります。
| 比較項目 | 液体 | 気体 |
|---|---|---|
| 形 | 容器の形に合わせる | 容器の形に合わせる |
| 体積 | 通常の圧力範囲ではほぼ一定 | 圧力・温度により大きく変わる |
| 容器内での広がり | 与えた量に応じた部分を占める | 利用できる空間全体へ広がる |
| 自由表面 | 気相と接していれば形成する | 通常は液体のような自由表面を持たない |
| 圧縮性 | 小さいが、ゼロではない | 一般に大きい |
| 密度 | 比較的大きく、圧力による変化は小さい | 比較的小さく、圧力・温度で変わりやすい |
コップへ半分だけ水を入れると、水は容器の下部を占め、上側に自由表面ができます。一方、空気を密閉容器へ入れると、空気は容器全体へ広がります。これが最も直感的な違いです。
ただし、「液体は非圧縮性、気体は圧縮性」と断定しすぎないことが大切です。液体も高圧では体積がわずかに変化します。また、低速で圧力変化が小さい気体流れでは、密度一定の近似を使える場合があります。物質の分類と、計算で採用する近似は別の話です。
流体を表す基本物性
流れを計算するには、「どのくらい重いか」「どのくらい流れにくいか」「どのくらい圧縮されるか」を数値で表します。
密度 ρ
密度は、単位体積あたりの質量です。
\rho=\frac{m}{V}
\]
SI単位は kg/m3 です。流体が同じ速さで動いても、密度が大きいほど運動量や動圧への影響が大きくなります。密度は温度と圧力に依存し、特に気体ではその変化を無視できないことがあります。密度、比重、比体積、質量流量の関係は密度・比重・比体積の記事で詳しく解説しています。
比体積 v
比体積は、単位質量あたりの体積で、密度の逆数です。
v=\frac{V}{m}=\frac{1}{\rho}
\]
SI単位は m3/kg です。熱力学では、状態変化を考えるときに頻繁に使います。
粘度 μ と動粘度 ν
粘度は、流体内部の層どうしが相対的に動くときのずれにくさを表します。水より蜂蜜のほうがゆっくり流れるのは、主に粘度が大きいためです。
ニュートン流体では、せん断応力 τ は速度勾配 du/dy に比例します。
\tau=\mu\frac{du}{dy}
\]
比例定数 μ が粘度(粘性係数、動的粘度)で、SI単位は Pa·s です。速度勾配は、隣り合う流体層の速度差を、その層間距離で割った量と考えられます。
動粘度 ν は、粘度を密度で割った量です。
\nu=\frac{\mu}{\rho}
\]
SI単位は m2/s です。粘度は「せん断に対する抵抗」、動粘度はそこへ密度の影響を組み合わせた量と捉えると整理しやすくなります。代表的な物性値の意味は化学工学で使う物性値の記事も参照してください。
圧縮性と体積弾性率 K
圧縮性は、圧力を上げたときに体積がどれほど変化するかを表します。体積弾性率 K は、圧縮されにくさを表す量です。
K=-V\left(\frac{\partial p}{\partial V}\right)
\]
K が大きいほど、同じ圧力変化に対する体積変化が小さく、圧縮されにくい流体です。液体の配管計算では密度一定とすることが多い一方、水撃、音速、高圧操作では液体のわずかな圧縮性も重要になります。
表面張力
液体と気体、または混ざり合わない液体どうしの界面では、界面の面積を小さくしようとする作用が現れます。これが表面張力・界面張力です。液滴、気泡、毛細管、沸騰、吸収、抽出などで重要になります。
流体を連続体として扱う
実際の流体は分子からできています。しかし、配管やタンクの大きさに比べると分子は非常に小さいため、通常の化学工学では流体を連続体として扱います。
つまり、密度 ρ、圧力 p、速度 u、温度 T が空間内で滑らかに変化する場だと考えます。この近似により、微分方程式を使って流れを表せます。
連続体近似は万能ではありません。非常に希薄な気体、真空に近い系、分子スケールの微小流路などでは、分子の平均自由行程と装置寸法の比を確認し、分子運動論的な扱いが必要になる場合があります。
静止流体と流れる流体
流体は静止している場合と流れている場合で、注目する力が変わります。
静止流体
静止した流体では、せん断応力はありません。面に垂直な圧力が主な応力となります。重力場にある液体では、上向きを z とすると、
\frac{dp}{dz}=-\rho g
\]
となり、深くなるほど圧力が高くなります。プールに潜ると耳へ圧力を感じることや、タンク下部の圧力が上部より高いことは、この関係で説明できます。
流れる流体
流れている流体では、圧力だけでなく、速度、粘性、慣性、重力、流路形状を考えます。基礎となるのは次の保存則です。
- 質量保存:流入した質量と、流出・蓄積した質量の関係
- 運動量保存:圧力、粘性、重力などの力と速度変化の関係
- エネルギー保存:圧力、運動、高さ、熱、仕事の関係
これらから連続の式、ベルヌーイの式、ナビエ–ストークス方程式などが導かれます。まずは連続の式と質量保存の記事へ進むと、流体の考え方を計算へつなげられます。
ニュートン流体と非ニュートン流体
水や空気は、通常の条件では粘度 μ を一定とみなせるニュートン流体として扱われることが多い物質です。このとき、せん断応力と速度勾配は比例します。
一方、塗料、高分子溶液、スラリー、歯磨き粉、マヨネーズなどでは、見掛け粘度がせん断速度や時間に依存することがあります。これらを非ニュートン流体と呼びます。
| 分類 | 特徴 | 身近なイメージ |
|---|---|---|
| ニュートン流体 | 一定温度で粘度を一定とみなせる | 水、空気、低分子の油 |
| せん断薄化流体 | 強くせん断するほど見掛け粘度が下がる | 塗料、高分子溶液 |
| せん断増粘流体 | 強くせん断するほど見掛け粘度が上がる | 高濃度デンプン懸濁液 |
| 降伏応力を持つ流体 | ある大きさの応力を超えると流れ始める | 歯磨き粉、泥状物質 |
分類は単純な見た目だけで決めず、温度、濃度、せん断速度、測定方法をそろえて流動曲線を確認します。
身近な例で流体の性質を整理する
| 例 | 注目する性質 | 現象 |
|---|---|---|
| 水をストローで飲む | 圧力差、流量、粘度 | 口側の圧力を下げると外気圧で水が上がる |
| 蜂蜜を注ぐ | 高い粘度 | 水より変形・流動が遅い |
| 風船を押す | 気体の圧縮性 | 圧力増加に伴って体積や密度が変わる |
| コップの水 | 自由表面、静水圧 | 水面はほぼ水平になり、深いほど圧力が高い |
| 歯磨き粉を押し出す | 降伏応力、非ニュートン性 | 弱い力では形を保ち、強く押すと流れ出す |
| 飛行機の周りの空気 | 密度、粘度、圧縮性 | 空気の流れが揚力や抗力を生む |
初学者が間違えやすいポイント
流体は液体だけではない
日常語では「流体」が液体の意味で使われることがありますが、流体力学では気体も含みます。空気、窒素、蒸気も流体です。
流体にはせん断応力がない、は不正確
静止流体はせん断応力を支えられません。しかし、流れている粘性流体には速度勾配があり、せん断応力が生じます。
液体は完全に非圧縮ではない
多くの低圧配管計算では密度一定と近似できますが、実際の液体にも圧縮性があります。水撃や高圧系では無視できないことがあります。
粘度が大きいほど密度も大きい、とは限らない
粘度は流れにくさ、密度は単位体積あたりの質量です。異なる物性なので、個別に確認します。例えば油は水より粘度が大きくても、密度が小さい場合があります。
粉体は流れるから流体、とは限らない
砂や粉体も流れるように見えますが、粒子間の摩擦、衝突、かみ合い、空隙を持つ粒子集合体です。連続流体として近似できる場合もありますが、通常の液体・気体とは異なるモデルや物性が必要です。
流体の基礎から次に学ぶ順番
- 密度・比重・比体積で物性の意味を整理する
- 連続の式で質量保存を学ぶ
- レイノルズ数と層流・乱流で流れの状態を分類する
- ハーゲン–ポアズイユの式で粘度と圧力損失の関係を見る
- ナビエ–ストークス方程式で運動量保存へ進む
最初から複雑な偏微分方程式へ進む必要はありません。物性 → 質量保存 → 力と圧力 → 流れの分類の順に進むと、数式の役割が見えやすくなります。
流体の基礎ミニテスト
QUICK CHECK
1 / 3流動工学・初級
このミニテストの回答結果は保存されません。学習記録を残す場合は化工演習室をご利用ください。
まとめ
- 流体は、せん断応力が作用し続けると変形し続ける物質である
- 液体と気体はどちらも流体であり、圧力差で流れ、粘性を持つ
- 液体は体積をほぼ保ち自由表面を作るが、気体は空間全体へ広がり圧縮されやすい
- 密度は単位体積あたりの質量、粘度はせん断変形への抵抗を表す
- 動粘度は ν = μ/ρ で、粘度と密度を組み合わせた物性である
- 液体にも圧縮性があり、気体を密度一定と近似できる場合もある
- 静止流体では圧力、流れる流体では質量・運動量・エネルギーの保存を考える
- 通常の流体計算では連続体近似を使うが、希薄気体や微小流路では適用範囲を確認する
水と空気を同じ「流体」として捉えられるようになると、圧力、粘度、流量、圧力損失、ポンプ、撹拌、伝熱、物質移動が一つの学問としてつながってきます。まずは物性と保存則から、順に土台を固めましょう。
本記事では初学者向けに、単相の連続体を中心として説明しています。実際の設計では、温度・圧力・組成に対応した物性値、圧縮性、相変化、非ニュートン性、混相状態、適用する設計基準を確認してください。
参考資料
- U.S. Department of Energy:Fundamentals Handbook—Thermodynamics, Heat Transfer, and Fluid Flow, Module 3
- NASA Glenn Research Center:Viscosity
- NIST:Rheology
- NIST:Thermophysical Properties of Fluids


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