化学工学の基礎を、原理・数式と直感的なイメージの両面から、初学者にもわかりやすくお届けします。
この記事は、AIのかこまるが本文と画像を作成し、人間のサイト管理者が内容を確認して投稿・公開しています。
水や空気は、流す速さを変えても粘度がほぼ一定です。一方、ケチャップ、塗料、高分子溶液、スラリーなどは、かき混ぜ方や流す速さによって「さらさら」「どろどろ」の程度が変わります。このような流体を非ニュートン流体と呼びます。
非ニュートン流体では、粘度を1つの定数として扱えません。そこで、せん断応力とせん断速度の関係を測り、べき乗則、Binghamモデル、Herschel–Bulkleyモデルなどで表します。
この記事では、流動曲線の読み方、見かけ粘度、代表的なモデル、管内圧力損失の計算までを、図解と例題で順番に学びます。粘度そのものが初めてなら、先に粘度・動粘度とニュートン流体を読むと理解しやすくなります。
- ニュートン流体と非ニュートン流体の違い
- せん断応力・せん断速度・見かけ粘度の意味
- 擬塑性、ダイラタント、塑性流体の見分け方
- べき乗則、Bingham、Herschel–Bulkleyモデルの使い分け
- べき乗則流体の管内圧力損失を求める方法
- 時間依存性や測定条件で間違えやすい点
非ニュートン流体とは?
平行な2枚の板の間に流体をはさみ、上の板だけを動かす状況を考えます。板を動かすために必要な力を \(F\)、板の面積を \(A\) とすると、流体に加わるせん断応力 \(\tau\) は次式です。
\tau=\frac{F}{A}
\]
一方、板に垂直な方向を \(y\)、流れ方向の速度を \(v\) とすると、速度が位置によってどれだけ変わるかを表すせん断速度 \(\dot{\gamma}\) は次式で表されます。
\dot{\gamma}=\left|\frac{dv}{dy}\right|
\]
ニュートン流体では、せん断応力とせん断速度が比例します。
\tau=\mu\dot{\gamma}
\]
比例定数 \(\mu\) が粘度であり、温度と圧力が一定なら流す速さによらず一定です。これに対し、せん断応力とせん断速度が単純な比例関係にならない流体が非ニュートン流体です。
ニュートン流体は「かき混ぜ方を変えても粘度が同じ」、非ニュートン流体は「かき混ぜ方によって抵抗の感じ方が変わる」流体です。ただし、温度変化によって粘度が変わるだけなら、それだけで非ニュートン流体とは呼びません。
見かけ粘度とは?
非ニュートン流体では粘度が一定でないため、あるせん断速度におけるせん断応力との比を見かけ粘度 \(\eta_{\mathrm{app}}\) と定義します。
\eta_{\mathrm{app}}=\frac{\tau}{\dot{\gamma}}
\]
単位は通常の粘度と同じ \(\mathrm{Pa\,s}\) です。ただし、見かけ粘度には「どのせん断速度で測った値か」を必ず添える必要があります。たとえば「粘度は1 Pa·s」とだけ書いても、非ニュートン流体では条件不足です。
代表的な非ニュートン流体の種類
せん断薄化流体(擬塑性流体)
せん断速度が大きいほど見かけ粘度が小さくなる流体です。高分子溶液、塗料、シャンプー、ケチャップなどが代表例です。静置時には形を保ちやすく、塗る・押す・ポンプで送ると流れやすくなるため、工業製品でも頻繁に利用されます。
せん断増粘流体(ダイラタント流体)
せん断速度が大きいほど見かけ粘度が大きくなる流体です。高濃度のデンプン懸濁液などで見られます。粒子が密に存在する系では、急な変形によって粒子同士が動きにくい構造をつくり、抵抗が増えることがあります。
降伏値をもつ流体
ある大きさの応力を超えるまで流れず、それを超えると流れ始める理想化モデルです。この境目の応力を降伏応力 \(\tau_0\) と呼びます。歯磨き粉、泥しょう、ペーストなどの挙動を近似するときに使われます。
降伏応力より小さい応力の範囲では変形が極めて遅く、観測時間内に流れないように見えます。実際の材料では、測定時間や測定装置によって求めた降伏値が変わることもあります。
べき乗則モデル
降伏値をもたない非ニュートン流体を、限られたせん断速度範囲で表す最も基本的なモデルがべき乗則モデルです。
\tau=K\dot{\gamma}^{n}
\]
- \(K\):コンシステンシー指数 \([\mathrm{Pa\,s^n}]\)
- \(n\):流動挙動指数 \([-]\)
見かけ粘度は次式になります。
\eta_{\mathrm{app}}=\frac{\tau}{\dot{\gamma}}=K\dot{\gamma}^{n-1}
\]
| \(n\) の範囲 | 分類 | せん断速度を上げたとき |
|---|---|---|
| \(n=1\) | ニュートン流体 | 見かけ粘度は一定 |
| \(n<1\) | せん断薄化 | 見かけ粘度が低下 |
| \(n>1\) | せん断増粘 | 見かけ粘度が増加 |
両辺の対数を取ると、次の直線関係になります。
\log\tau=\log K+n\log\dot{\gamma}
\]
\(\log\tau\) 対 \(\log\dot{\gamma}\) のグラフで、傾きが \(n\)、切片が \(\log K\) です。
例題1:せん断速度による見かけ粘度の変化
べき乗則に従う流体の \(K=1.2\ \mathrm{Pa\,s^n}\)、\(n=0.55\) とします。せん断速度が \(0.1, 1, 10, 100\ \mathrm{s^{-1}}\) のときの見かけ粘度を求めます。
\(\eta_{\mathrm{app}}=K\dot{\gamma}^{n-1}=1.2\dot{\gamma}^{-0.45}\) より、
| \(\dot{\gamma}\ [\mathrm{s^{-1}}]\) | \(\tau\ [\mathrm{Pa}]\) | \(\eta_{\mathrm{app}}\ [\mathrm{Pa\,s}]\) |
|---|---|---|
| 0.1 | 0.338 | 3.38 |
| 1 | 1.20 | 1.20 |
| 10 | 4.26 | 0.426 |
| 100 | 15.1 | 0.151 |
せん断速度を1000倍にすると、見かけ粘度は約 \(1/22\) まで低下します。ポンプや撹拌槽で流体が動いているときの粘度を、静置時の低せん断粘度だけで判断してはいけない理由がわかります。
べき乗則だけでは足りない場合
Carreau–Yasudaモデル
実際のせん断薄化流体は、非常に低いせん断速度ではゼロせん断粘度 \(\eta_0\)、非常に高いせん断速度では無限せん断粘度 \(\eta_\infty\) に近づくことがあります。その広い範囲を表せる代表式がCarreau–Yasudaモデルです。
\eta=\eta_\infty+(\eta_0-\eta_\infty)\left[1+(\lambda\dot{\gamma})^a\right]^{(n-1)/a}
\]
べき乗則は簡単ですが、適用範囲の外へ外挿すると粘度を過大・過小評価する可能性があります。実測範囲が広い場合は、低せん断側と高せん断側の平坦部を表せるモデルを検討します。
Binghamモデル
降伏応力を超えた後に、せん断応力とせん断速度が直線関係になるモデルです。
\tau=\tau_0+\mu_p\dot{\gamma}\qquad (\tau>\tau_0)
\]
\(\mu_p\) は塑性粘度です。単純で扱いやすい反面、流動開始後に強いせん断薄化を示す流体には合わないことがあります。
Herschel–Bulkleyモデル
降伏応力とべき乗則を組み合わせたモデルです。
\tau=\tau_0+K\dot{\gamma}^{n}\qquad (\tau>\tau_0)
\]
\(\tau_0=0\) ならべき乗則、\(n=1\) ならBinghamモデルになります。スラリーやペーストのように、降伏値とせん断薄化を同時に示す材料の近似に使われます。
例題2:Bingham流体の流動開始
\(\tau_0=20\ \mathrm{Pa}\)、\(\mu_p=0.15\ \mathrm{Pa\,s}\) のBingham流体を考えます。加えたせん断応力が15 Paと50 Paのときの挙動を求めます。
15 Paは降伏応力20 Paより小さいため、理想Binghamモデルでは定常的に流れません。50 Paでは、
\dot{\gamma}=\frac{\tau-\tau_0}{\mu_p}
=\frac{50-20}{0.15}=200\ \mathrm{s^{-1}}
\]
このときの見かけ粘度は \(\eta_{\mathrm{app}}=50/200=0.25\ \mathrm{Pa\,s}\) です。
べき乗則流体の管内流動
円管内の十分に発達した流れでは、流体モデルにかかわらず、圧力損失と壁面せん断応力の力のつり合いから次式が成り立ちます。
\tau_w=\frac{\Delta P D}{4L}
\]
\(D\) は管内径、\(L\) は管長、\(\Delta P\) はその区間の圧力損失です。べき乗則流体が円管内を層流で流れるとき、壁面せん断速度は平均流速 \(\bar{v}\) から次式で求められます。
\dot{\gamma}_w=\frac{3n+1}{4n}\frac{8\bar{v}}{D}
\]
したがって、\(\tau_w=K\dot{\gamma}_w^n\) を用いると、
\boxed{\Delta P=\frac{4L}{D}K
\left(\frac{3n+1}{4n}\frac{8\bar{v}}{D}\right)^n}
\]
\(n=1\) とすると、\(\Delta P=32\mu L\bar{v}/D^2\) となり、ニュートン流体の層流式と一致します。
例題3:管内圧力損失
\(K=0.50\ \mathrm{Pa\,s^n}\)、\(n=0.60\) のべき乗則流体が、内径40 mm、長さ10 mの直管を平均流速0.80 m/sで層流流動しています。圧力損失を求めます。
まず壁面せん断速度を求めます。
\dot{\gamma}_w=
\frac{3(0.60)+1}{4(0.60)}
\frac{8(0.80)}{0.040}
=186.7\ \mathrm{s^{-1}}
\]
壁面せん断応力は、
\tau_w=0.50(186.7)^{0.60}=11.52\ \mathrm{Pa}
\]
したがって、圧力損失は、
\Delta P=\frac{4L}{D}\tau_w
=\frac{4\times10}{0.040}\times11.52
=1.15\times10^4\ \mathrm{Pa}=11.5\ \mathrm{kPa}
\]
壁面での見かけ粘度は \(\eta_{\mathrm{app},w}=11.52/186.7=0.0617\ \mathrm{Pa\,s}\) です。管内流れでは、平均速度から壁面せん断速度を評価し、その条件に対応する粘度や応力を使うことが重要です。
一般化レイノルズ数
ニュートン流体ではレイノルズ数で層流・乱流を判定します。べき乗則流体では、Metzner–Reed型の一般化レイノルズ数がよく使われます。
Re_g=
\frac{\rho\bar{v}^{2-n}D^n}
{K,8^{n-1}\left(\dfrac{3n+1}{4n}\right)^n}
\]
例題3で密度を1000 kg/m³とすると、\(Re_g\approx444\) です。これは層流域にあると判断できます。ただし、一般化レイノルズ数や摩擦係数には複数の定義があり、Darcy摩擦係数とFanning摩擦係数の取り違えにも注意が必要です。使用する相関式と定義を必ずセットで確認してください。
どのモデルを選べばよい?
| 観測される挙動 | 第一候補 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 原点を通る曲線、限定された範囲 | べき乗則 | 配管・撹拌の概算 |
| 低・高せん断側で粘度が平坦 | Carreau–Yasuda | 広いせん断速度範囲 |
| 降伏後がおおむね直線 | Bingham | 簡便な降伏応力モデル |
| 降伏値があり、その後も曲線 | Herschel–Bulkley | スラリー、ペースト |
最も複雑なモデルを選べばよいわけではありません。装置内で想定されるせん断速度範囲において、必要な精度でデータを再現できる最も単純なモデルを選びます。
レオメーター測定で大切なこと
非ニュートン流体の物性は、回転式レオメーターなどでせん断速度を変えながら測ります。データを設備設計に使う場合は、次の点を記録します。
- 温度、濃度、組成、粒径などの試料条件
- せん断速度の範囲と増減の順序
- 各条件で保持した時間
- 使用した治具、すべりの有無
- 前処理・撹拌履歴・静置時間
塗料やゲルのような流体では、一定せん断速度でも時間とともに粘度が変化することがあります。せん断を続けると粘度が低下し、静置すると回復する挙動をチキソトロピーと呼びます。
せん断薄化は、定常状態での「せん断速度に対する依存性」です。チキソトロピーは、「せん断を加えた時間や履歴に対する依存性」です。流動曲線だけでなく、上り・下りの掃引や時間変化も確認します。
化学工学でどこに効く?
配管とポンプ
圧力損失や必要動力は、運転時の見かけ粘度に左右されます。静置時の粘度だけを使うと、圧力損失を大きく見積もりすぎたり、逆に降伏応力を無視して始動圧力を小さく見積もったりします。
撹拌・混合
撹拌槽では、羽根の近くと槽壁付近でせん断速度が大きく異なります。強いせん断薄化流体では、羽根の周囲だけが低粘度になり、離れた領域が十分に動かない「洞穴化」が起こることがあります。詳しくは撹拌・混合の基礎で解説しています。
塗布・押出・充填
ノズル内では流れやすく、塗布後には垂れにくい性質が望まれることがあります。せん断薄化や降伏応力を利用することで、加工性と形状保持性を両立できます。
よくある間違い
- 粘度を1つの数字だけで表す:温度とせん断速度を併記します。
- べき乗則を全範囲へ外挿する:モデルを当てはめた範囲を明記します。
- せん断薄化と時間依存性を混同する:定常値と履歴依存性を分けて測ります。
- 降伏応力を無視する:ポンプ始動や配管滞留では特に重要です。
- 摩擦係数の定義を混ぜる:DarcyかFanningか、相関式の原典を確認します。
計算の基本手順
- 温度・濃度・測定履歴をそろえた流動曲線を用意する。
- 実装置で想定されるせん断速度範囲を見積もる。
- その範囲を再現できるモデルを選び、パラメータを決める。
- 配管なら壁面せん断速度、撹拌なら代表せん断速度を評価する。
- 対応する見かけ粘度・せん断応力から圧力損失や動力を求める。
- 実測値や試運転データと照合し、安全率を検討する。
理解度チェック
QUICK CHECK
1 / 3流動工学・初級
このミニテストの回答結果は保存されません。学習記録を残す場合は化工演習室をご利用ください。
まとめ
- 非ニュートン流体は、せん断応力とせん断速度が単純な比例関係にならない。
- 見かけ粘度 \(\eta_{\mathrm{app}}=\tau/\dot{\gamma}\) は、せん断速度とセットで扱う。
- べき乗則の \(n<1\) はせん断薄化、\(n>1\) はせん断増粘を表す。
- 降伏値をもつ流体にはBinghamまたはHerschel–Bulkleyモデルを検討する。
- 管内流動では壁面せん断速度を評価し、運転条件に対応する物性を使う。
- チキソトロピーなどの時間依存性は、せん断速度依存性と分けて考える。
理解したつもりを、解ける自信に変えましょう。かこまるの化工演習室では、流動工学を含む化学工学の確認問題に無料・ログイン不要で挑戦できます。
参考資料
- IUPAC Gold Book: shear viscosity
- IUPAC Gold Book: shear-dependent viscosity
- IUPAC Gold Book: Bingham flow
- NIST: Rheology


コメント