気体を圧縮するとなぜ温度が上がる?等温・断熱圧縮と必要仕事を解説

冷却しながら行う等温圧縮と、温度が上昇する断熱圧縮を対比した気体の圧縮の記事アイキャッチ 流動工学
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自転車に空気を入れると、ポンプが温かくなります。これは摩擦だけではなく、気体を圧縮するために与えた仕事が、気体のエネルギーを増やすことにも関係します。一方、十分に冷やしながら圧縮すれば、温度をほぼ一定に保つこともできます。

この記事では、理想気体を対象に、等温圧縮と可逆断熱圧縮の違い、出口温度、圧縮機の必要仕事・動力を学びます。単に公式を暗記するのではなく、「熱を逃がすか」「流体が出入りするか」を区別して考えましょう。

最初に押さえること

  • 断熱は「熱の出入りがない」、等温は「温度が変わらない」。
  • 等エントロピー圧縮の温度式は、理想気体・比熱一定に加え、可逆断熱という条件で使う。
  • 以下の必要仕事は、断りがない限り定常流の圧縮機の、気体1 kg当たりの軸仕事
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気体を圧縮すると温度が上がる理由

密閉したピストン内の気体に、外から仕事 \(W_{\mathrm{in}}\) を加える場合、運動・位置エネルギー変化を無視すると、第一法則は \(\Delta U=Q+W_{\mathrm{in}}\) です。ここでは気体へ入る熱と仕事を正に取ります。

断熱なら \(Q=0\) なので、加えた仕事が内部エネルギーの増加になります。理想気体の内部エネルギーは温度で決まるため、圧縮仕事を与えると温度が上がります。「圧力が上がるから何となく熱くなる」ではなく、仕事の入力があることが出発点です。基礎はエンタルピーと内部エネルギーの記事にも整理しています。

断熱・等温・等エントロピーを区別する

過程 意味 圧縮時の特徴
等温 温度一定 理想気体では、圧縮中に熱を外へ逃がす必要がある
断熱 熱の出入りがない 通常、温度が上がる。摩擦などの不可逆性はあり得る
可逆断熱 断熱かつエントロピー生成がない 等エントロピーとなり、理想的な比較基準になる
「断熱=等エントロピー」ではありません。

実際の断熱圧縮機には摩擦や乱れなどによる損失があります。断熱でもエントロピーは増え得ます。等エントロピーの温度式を実機へそのまま適用せず、効率や物性変化を確認します。

計算に使う記号と条件

記号 意味 単位
P₁、P₂ 入口・出口の絶対圧力 Pa、kPaなど同じ単位
T₁、T₂ 入口・出口の絶対温度 K
Rₛ 質量基準の気体定数 J/(kg·K)
cₚ、cᵥ 質量基準の定圧・定容比熱 J/(kg·K)
κ=cₚ/cᵥ 比熱比 無次元
w、ṁ 比仕事、質量流量 J/kg、kg/s

気体定数は \(R_s=R_u/M\) です。モル基準の \(R_u\) と質量基準の \(R_s\) を混ぜないようにします。理想気体では \(c_p-c_v=R_s\)、したがって \(c_p=\kappa R_s/(\kappa-1)\) です。比熱Cp・Cvも合わせて確認してください。

以下では、定常運転、入口・出口の速度差と高さ差は無視、組成一定、理想気体、比熱一定とします。大きな温度変化や高圧の実在気体では、この近似を見直す必要があります。

等温圧縮:冷却しながら温度を一定に保つ

気体が圧縮されるときに、加えた仕事に対応する熱を外へ逃がせば、理想気体の温度を一定に保てます。理想的な内部可逆・定常流圧縮機では、必要軸仕事は \(w=\int_{P_1}^{P_2}v\,dP\) です。等温なら比体積 \(v=R_sT_1/P\) を代入して積分できます。

\[w_{\mathrm{iso}}=R_sT_1\ln\left(\frac{P_2}{P_1}\right)\]

圧力比が1より大きいため、必要仕事は正です。\(\ln\) は自然対数です。同じ入口状態・出口圧力で比較すると、圧縮中の温度を低く保つほど比体積が小さくなるため、可逆圧縮の仕事を減らせます。実機が完全な等温になるという意味ではありません。

可逆断熱圧縮:出口温度と必要仕事

比熱一定の理想気体で、エントロピー変化は次のように表せます。

\[s_2-s_1=c_p\ln\frac{T_2}{T_1}-R_s\ln\frac{P_2}{P_1}\]

可逆断熱では左辺が0です。整理すると、等エントロピー出口温度 \(T_{2s}\) が得られます。添字sは実際の出口温度と区別するための記号です。

\[T_{2s}=T_1\left(\frac{P_2}{P_1}\right)^{(\kappa-1)/\kappa}\]

圧力比が大きいほど、温度が高くなります。この関係の導出はNASAの等エントロピー圧縮の教材でも確認できます。

定常流のエネルギー収支は、気体へ入る熱を \(q\)、軸仕事を \(w_{\mathrm{in}}\) とすると、\(h_2-h_1=q+w_{\mathrm{in}}\) です。断熱なら、必要軸仕事はエンタルピー上昇に等しくなります。

\[w_s=c_p(T_{2s}-T_1)=\frac{\kappa}{\kappa-1}R_sT_1\left[\left(\frac{P_2}{P_1}\right)^{(\kappa-1)/\kappa}-1\right]\]

この式に \(c_v\) を入れないことが重要です。密閉したピストンでの可逆断熱圧縮は \(w_{\mathrm{closed}}=c_v(T_2-T_1)\) ですが、圧縮機は流体が出入りする開いた系なので、流動仕事を含むエンタルピーを使います。

例題1:空気を100 kPaから400 kPaへ圧縮する

入口温度300 K、入口絶対圧力100 kPaの空気を、出口絶対圧力400 kPaまで圧縮します。教材用に \(R_s=287\ \mathrm{J/(kg\cdot K)}\)、\(\kappa=1.40\)、\(c_p=1004.5\ \mathrm{J/(kg\cdot K)}\) を一定とします。等温圧縮と可逆断熱圧縮を比較してください。

等温圧縮の場合

\[w_{\mathrm{iso}}=287\times300\times\ln4\approx119\ \mathrm{kJ/kg}\]

温度は300 Kのままです。理想気体ではエンタルピーも変わらないため、定常流の収支より \(q=-w_{\mathrm{iso}}\)。約119 kJ/kgの熱を外へ捨てる必要があります。

可逆断熱圧縮の場合

\[T_{2s}=300\times4^{0.4/1.4}\approx446\ \mathrm{K}\approx173\ ^\circ\mathrm{C}\]
\[w_s=1004.5\times(445.8-300)\approx146\ \mathrm{kJ/kg}\]

等温圧縮よりも約27 kJ/kg多い仕事が必要です。途中で温度が上がるため、同じ圧力でも比体積が等温の場合より大きくなることが、この差につながります。

同じ圧力比でも冷却の有無で温度と必要仕事が変わる100キロパスカル300ケルビンの空気を400キロパスカルに圧縮。等温では300ケルビン119キロジュール毎キログラム、可逆断熱では446ケルビン146キロジュール毎キログラム。入口と出口の圧力をそろえて比較入口の空気100 kPa300 K等温:熱を逃がす400 kPa・300 K必要仕事 119 kJ/kg可逆断熱:熱の出入りなし400 kPa・446 K必要仕事 146 kJ/kg定常流の理想圧縮機、理想気体、比熱一定。圧力は絶対圧力。
同じ「4倍の圧力」でも、冷却の仕方によって温度と必要仕事は異なります。

実際の圧縮機:等エントロピー効率を使う

断熱圧縮機の等エントロピー効率 \(\eta_{\mathrm{is}}\) は、同じ入口状態と出口圧力での理想仕事を、実際の仕事で割ったものです。

\[\eta_{\mathrm{is}}=\frac{h_{2s}-h_1}{h_2-h_1}=\frac{w_s}{w_{\mathrm{actual}}}\]
\[w_{\mathrm{actual}}=\frac{w_s}{\eta_{\mathrm{is}}},\qquad T_2=T_1+\frac{T_{2s}-T_1}{\eta_{\mathrm{is}}}\]

温度の式では比熱一定を仮定しています。損失があるほど、同じ圧力まで上げるために多くの仕事が必要で、断熱なら出口温度も高くなります。効率の定義と軸仕事の関係はNASAの圧縮機熱力学の教材を参考にしています。

例題2:効率75%、流量0.10 kg/sの必要動力

例題1の条件で \(\eta_{\mathrm{is}}=0.75\) とすると、

\[w_{\mathrm{actual}}\approx146.4/0.75\approx195\ \mathrm{kJ/kg}\]
\[T_2\approx300+(445.8-300)/0.75\approx494\ \mathrm{K}\approx221\ ^\circ\mathrm{C}\]
\[\dot W_{\mathrm{shaft}}=\dot m\,w_{\mathrm{actual}}\approx0.10\times195=19.5\ \mathrm{kW}\]

これは圧縮機に必要な軸動力です。モーター効率が90%で、ほかの機械損失を別途考えない場合、電気入力は \(19.5/0.90\approx21.7\ \mathrm{kW}\) です。等エントロピー効率とモーター効率は別のものなので、何の効率かを確認します。

多段圧縮と中間冷却で仕事を減らせる理由

圧縮を途中で区切り、気体を冷やしてから次の段へ送ると、次段入口での比体積が小さくなります。そのため、適切な条件では一段で圧縮するより仕事を減らせます。

理想気体・比熱一定・各段が可逆断熱・中間で入口温度まで完全冷却・冷却器の圧力損失なしという二段圧縮では、各段の圧力比を等しくする条件が最小仕事になります。

\[P_{\mathrm{mid}}=\sqrt{P_1P_2}\]

例題3:二段に分けた理想圧縮仕事

例題1なら中間圧力は200 kPaです。100→200 kPa、300 Kまで冷却、200→400 kPaの順に圧縮します。

\[w_{\mathrm{2stage}}=2c_pT_1\left(2^{(\kappa-1)/\kappa}-1\right)\approx132\ \mathrm{kJ/kg}\]

一段の可逆断熱圧縮の約146 kJ/kgより小さく、等温圧縮の約119 kJ/kgより大きい値です。実設備では冷却水、圧力損失、段ごとの効率、設備費も関わるため、この中間圧力をそのまま最適設計値とするわけではありません。

計算で間違えやすいポイント

  • 圧力比は絶対圧力:ゲージ圧力同士を割らない。たとえば0→300 kPaGは、周囲圧力を100 kPaと近似すれば100→400 kPaAです。
  • 温度比はK:300 Kは約27℃。摂氏の値を温度比へ代入しない。
  • 断熱と可逆を区別:実機の断熱圧縮は、必ずしも等エントロピーではない。
  • 比仕事と動力を区別:kJ/kgにkg/sを掛けるとkWになる。
  • 開いた系と閉じた系を区別:圧縮機の軸仕事に密閉ピストンの仕事式を流用しない。
  • 大きな温度範囲に注意:比熱の温度依存性が重要ならエンタルピー・エントロピーを物性モデルから求める。

圧力の基準は絶対圧力とゲージ圧力、気体の基本式は理想気体の状態方程式の記事で復習できます。なお、軸仕事のない絞り弁による減圧は別の過程で、ここで扱った圧縮機の式とは区別してください。

理解度チェック

QUICK CHECK

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流動工学・初級

このミニテストの回答結果は保存されません。学習記録を残す場合は化工演習室をご利用ください。

まとめ

  • 圧縮による温度上昇は、気体への仕事入力とエネルギー収支で理解する。
  • 等温圧縮は冷却が必要で、理想仕事はRₛT₁ ln(P₂/P₁)。
  • 理想気体・比熱一定の可逆断熱圧縮では、温度比が圧力比の(κ−1)/κ乗になる。
  • 断熱の定常流圧縮機では、軸仕事はエンタルピー上昇に等しい。
  • 実機では効率を考慮し、圧力・温度・流量の基準をそろえて計算する。
理解を確認しよう

かこまるの化工演習室で化学工学の基礎問題に取り組めます。本記事のミニテストと合わせて、単位と原理を定着させましょう。

参考資料

数値例・比較図・途中計算は学習用に独自に作成しました。実機の選定・運転条件の決定には、メーカー仕様、実在気体物性、冷却条件などを別途確認してください。

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