化学工学の基礎を、原理・数式と直感的なイメージの両面から、初学者にもわかりやすくお届けします。
この記事は、AIのかこまるが本文と画像を作成し、人間のサイト管理者が内容を確認して投稿・公開しています。
温かい空気が上へ昇る、鍋の中で温められた水が循環する、熱い配管の周りにゆっくりした空気の流れができる。これらは、ポンプやファンを使わなくても生じる自然対流の例です。
自然対流では、温度差による密度差が浮力を生み、その浮力が流体を動かします。流れを外部から与える強制対流とは異なり、温度差が「流れの原因」と「伝熱の原因」の両方になります。
この記事では、自然対流が生じる原理、Grashof数・Rayleigh数・Nusselt数の意味、鉛直平板と水平円管に対する相関式、熱伝達係数と放熱速度の求め方を例題で解説します。
- 温度差から自然対流が生じる仕組み
- 自然対流と強制対流の違い
- 体膨張係数 \(\beta\) と膜温度の使い方
- Grashof数・Prandtl数・Rayleigh数の物理的な意味
- Nusselt数から熱伝達係数 \(h\) を求める手順
- 鉛直平板と水平円管の自然対流計算
- 表面の向きや放射伝熱に注意する理由
対流伝熱の基本式を先に確認したい方は、熱伝導・対流・放射の違いとNusselt数・Prandtl数と対流熱伝達を参照してください。
- 自然対流とは
- 温度差が浮力を生む仕組み
- 自然対流と強制対流の違い
- 対流伝熱の基本式はNewtonの冷却則
- 物性値は膜温度で評価する
- Grashof数:浮力と粘性力の比
- Prandtl数:運動量拡散と熱拡散の比
- Rayleigh数:自然対流の発達度を表す
- Nusselt数から熱伝達係数を求める
- 鉛直平板の自然対流相関式
- 例題1:高温の鉛直平板から空気への放熱
- 水平円管の自然対流相関式
- 例題2:高温の水平配管から空気への放熱
- 水平面では加熱・冷却の向きが重要
- 密閉空間の自然対流は外部流れと別に扱う
- 自然対流と強制対流が同時にある場合
- 自然対流の熱伝達係数を左右する要因
- 化学プラントでの自然対流
- 自然対流を計算する手順
- よくある間違い
- 確認問題
- まとめ
- 参考資料
- この記事の情報と検証方針
自然対流とは
自然対流とは、温度差や濃度差によって生じた密度差が、重力場の中で浮力を生み、その浮力によって流体が動く現象です。自由対流とも呼ばれます。
ここでは、空気中に置かれた高温の鉛直平板を考えます。
- 平板の近くにある空気が加熱される
- 加熱された空気が膨張し、密度が小さくなる
- 周囲の冷たく重い空気との密度差によって浮力が働く
- 温かい空気が平板に沿って上昇する
- 空いた場所へ周囲の冷たい空気が流れ込む
この循環が、表面から周囲流体への熱移動を促進します。冷たい鉛直面では逆に、表面近くで冷やされた流体の密度が大きくなり、下向きの流れが生じます。
自然対流でも流体は実際に動いています。「自然」は、ポンプやファンなどの外部装置ではなく、密度差による浮力が流れを生み出すという意味です。
温度差が浮力を生む仕組み
流体の密度 \(\rho\) は温度によって変化します。温度上昇に対する密度変化の大きさは、体膨張係数 \(\beta\) で表します。
\boxed{
\beta
=
-\frac{1}{\rho}
\left(
\frac{\partial\rho}{\partial T}
\right)_p
}
\]
\(\beta\) の単位は \(\mathrm{K^{-1}}\) です。通常の流体では温度が上がると密度が下がるため、\((\partial\rho/\partial T)_p<0\) となり、\(\beta\) は正になります。
基準温度 \(T_\infty\) の密度を \(\rho_\infty\) とすると、温度差が大きすぎない範囲では、
\[
\rho
\approx
\rho_\infty
\left[
1-\beta(T-T_\infty)
\right]
\]
と近似できます。流れの慣性項や粘性項では密度を一定とし、重力による浮力項だけにこの密度変化を残す考え方をBoussinesq近似と呼びます。
理想気体では、絶対温度 \(T\) を用いて、
\boxed{
\beta\approx\frac{1}{T}
}
\]
と近似できます。ここで使う温度は℃ではなくKです。液体の \(\beta\) は一般に物性表から求めます。特に水は約4℃付近で密度変化が通常と異なるため、単純な近似を無条件に使えません。
自然対流と強制対流の違い
| 項目 | 自然対流 | 強制対流 |
|---|---|---|
| 流れの原因 | 密度差による浮力 | ポンプ、ファン、送風機など |
| 主な無次元数 | Grashof数、Rayleigh数、Prandtl数 | Reynolds数、Prandtl数 |
| 流速 | 温度差と流体物性から結果として決まる | 装置の流量や主流速度として与えられる |
| 熱伝達係数 | 一般に小さめだが条件依存 | 流速を上げることで大きくしやすい |
| 代表例 | 熱い配管の空冷、室内の暖気循環 | 冷却水、空冷ファン、管内流 |
自然対流では主流速度を最初から与えられないため、Reynolds数だけで流れを整理できません。代わりに、浮力と粘性力の比を表すGrashof数を使います。
対流伝熱の基本式はNewtonの冷却則
自然対流でも、表面と流体の間の伝熱速度はNewtonの冷却則で表します。
\boxed{
\dot Q_{\mathrm{conv}}
=
\bar h A
\left(
T_s-T_\infty
\right)
}
\]
| 記号 | 意味 | SI単位 |
|---|---|---|
| \(\dot Q_{\mathrm{conv}}\) | 対流による伝熱速度 | \(\mathrm{W}\) |
| \(\bar h\) | 表面全体の平均熱伝達係数 | \(\mathrm{W/(m^2\,K)}\) |
| \(A\) | 対流伝熱面積 | \(\mathrm{m^2}\) |
| \(T_s\) | 表面温度 | \(\mathrm{K}\) または \({}^\circ\mathrm{C}\) |
| \(T_\infty\) | 表面から十分離れた流体温度 | \(\mathrm{K}\) または \({}^\circ\mathrm{C}\) |
温度差 \(T_s-T_\infty\) にはKと℃のどちらを使っても数値は同じです。ただし、体膨張係数を理想気体の \(\beta=1/T\) で求めるときは、必ず絶対温度Kを使います。
計算の中心は、平均熱伝達係数 \(\bar h\) を求めることです。自然対流では、次の順番で計算します。
膜温度で物性値を決める → Grashof数・Prandtl数・Rayleigh数を求める → 形状と向きに合う相関式からNusselt数を求める → \(\bar h=\overline{\mathrm{Nu}}\,k/L_c\) → Newtonの冷却則
物性値は膜温度で評価する
自然対流の相関式では、表面温度 \(T_s\) と周囲流体温度 \(T_\infty\) の平均である膜温度を使って流体物性を評価することがよくあります。
\boxed{
T_f
=
\frac{T_s+T_\infty}{2}
}
\]
必要な主な物性値は次のとおりです。
- 熱伝導率 \(k\)
- 動粘度 \(\nu=\mu/\rho\)
- 熱拡散率 \(\alpha=k/(\rho c_p)\)
- Prandtl数 \(\mathrm{Pr}=\nu/\alpha\)
- 体膨張係数 \(\beta\)
温度差が大きく物性変化が無視できない場合、膜温度による一点評価では誤差が大きくなることがあります。物性値の意味は、化学工学で使う代表的な物性値で整理しています。
Grashof数:浮力と粘性力の比
代表長さ \(L_c\) に基づくGrashof数は、
\boxed{
\mathrm{Gr}_{L_c}
=
\frac{
g\beta
\left|
T_s-T_\infty
\right|
L_c^3
}{
\nu^2
}
}
\]
です。
Grashof数は、自然対流を生み出す浮力と、流れを抑える粘性力の比を表します。
- \(\mathrm{Gr}\) が小さい:粘性の影響が強く、流れが生じにくい
- \(\mathrm{Gr}\) が大きい:浮力の影響が強く、自然対流が発達しやすい
強制対流でReynolds数が慣性力と粘性力の比を表すのに対し、自然対流ではGrashof数が浮力と粘性力の比を表します。ただし、層流・乱流の判定や伝熱相関では、Grashof数にPrandtl数を掛けたRayleigh数がよく使われます。
Prandtl数:運動量拡散と熱拡散の比
Prandtl数は、
\boxed{
\mathrm{Pr}
=
\frac{\nu}{\alpha}
=
\frac{\mu c_p}{k}
}
\]
です。
- \(\mathrm{Pr}>1\):熱より運動量が広がりやすく、温度境界層が相対的に薄くなりやすい
- \(\mathrm{Pr}\approx1\):運動量と熱が同程度の速さで広がる
- \(\mathrm{Pr}<1\):運動量より熱が広がりやすく、温度境界層が相対的に厚くなりやすい
境界層の考え方は、速度境界層・温度境界層・濃度境界層で詳しく解説しています。
Rayleigh数:自然対流の発達度を表す
Rayleigh数は、Grashof数とPrandtl数の積です。
\boxed{
\mathrm{Ra}_{L_c}
=
\mathrm{Gr}_{L_c}\mathrm{Pr}
=
\frac{
g\beta
\left|
T_s-T_\infty
\right|
L_c^3
}{
\nu\alpha
}
}
\]
Rayleigh数が大きいほど、熱拡散や粘性によって温度差と流れがならされる前に、浮力による流れが発達しやすくなります。
鉛直平板では、\(\mathrm{Ra}_L\) が \(10^9\) 付近を超えると乱流への遷移が現れやすいという目安があります。ただし、遷移は表面粗さ、周囲の乱れ、端部、温度条件などにも左右されるため、すべての形状に共通する厳密な境界ではありません。
Rayleigh数には \(L_c^3\) が含まれます。同じ温度差でも、装置の大きさが変わると自然対流の状態は大きく変わります。相関式に指定された代表長さを使うことが重要です。
Nusselt数から熱伝達係数を求める
平均Nusselt数は、
\boxed{
\overline{\mathrm{Nu}}_{L_c}
=
\frac{\bar hL_c}{k}
}
\]
です。ここで \(k\) は、固体ではなく周囲流体の熱伝導率です。
相関式から \(\overline{\mathrm{Nu}}_{L_c}\) が求まれば、
\boxed{
\bar h
=
\frac{
\overline{\mathrm{Nu}}_{L_c}k
}{
L_c
}
}
\]
として平均熱伝達係数を計算できます。
Biot数も \(hL/k\) の形を持ちますが、Nusselt数の分母は流体の熱伝導率、Biot数の分母は物体側の熱伝導率です。両者の違いは、Biot数と集中熱容量法でも確認できます。
鉛直平板の自然対流相関式
一定表面温度の鉛直平板では、板の鉛直方向の高さ \(L\) を代表長さに使います。広い範囲を一つの式で扱えるChurchill–Chuの平均Nusselt数相関式は、
\boxed{
\overline{\mathrm{Nu}}_L
=
\left[
0.825
+
\frac{
0.387\,\mathrm{Ra}_L^{1/6}
}{
\left[
1+\left(0.492/\mathrm{Pr}\right)^{9/16}
\right]^{8/27}
}
\right]^2
}
\]
です。NPTELでは、この形をおおむね \(10^{-1}<\mathrm{Ra}_L<10^{12}\) の範囲に対する相関式として示しています。
\(\mathrm{Ra}_L<10^9\) の層流域では、次の相関式もよく使われます。
\[
\overline{\mathrm{Nu}}_L
=
0.68
+
\frac{
0.670\,\mathrm{Ra}_L^{1/4}
}{
\left[
1+\left(0.492/\mathrm{Pr}\right)^{9/16}
\right]^{4/9}
}
\]
どちらを使う場合でも、次をそろえる必要があります。
- 平均値用か局所値用か
- 一定表面温度か一定熱流束か
- 代表長さの定義
- Rayleigh数とPrandtl数の適用範囲
- 物性値を評価する温度
例題1:高温の鉛直平板から空気への放熱
高さ \(L=0.50\ \mathrm{m}\)、幅 \(W=0.40\ \mathrm{m}\) の鉛直平板があります。片面の表面温度は \(T_s=80\ ^\circ\mathrm{C}\)、周囲空気温度は \(T_\infty=20\ ^\circ\mathrm{C}\) です。
膜温度における空気の物性値を、次のように与えます。
- \(k=0.0280\ \mathrm{W/(m\,K)}\)
- \(\nu=1.80\times10^{-5}\ \mathrm{m^2/s}\)
- \(\alpha=2.56\times10^{-5}\ \mathrm{m^2/s}\)
放射を無視し、Churchill–Chuの広範囲相関式を使って、平均熱伝達係数と片面からの対流放熱速度を求めます。
1. 膜温度と体膨張係数
\[
\begin{aligned}
T_f
&=
\frac{80+20}{2}
=50\ ^\circ\mathrm{C}\\
&=323.15\ \mathrm{K}
\end{aligned}
\]
空気を理想気体とみなすと、
\[
\beta
\approx
\frac{1}{323.15}
=3.095\times10^{-3}\ \mathrm{K^{-1}}
\]
です。
2. Prandtl数とRayleigh数
\[
\mathrm{Pr}
=
\frac{\nu}{\alpha}
=
\frac{1.80\times10^{-5}}
{2.56\times10^{-5}}
=0.703
\]
\[
\begin{aligned}
\mathrm{Ra}_L
&=
\frac{
g\beta(T_s-T_\infty)L^3
}{
\nu\alpha
}\\
&=
\frac{
(9.81)
(3.095\times10^{-3})
(60)
(0.50)^3
}{
(1.80\times10^{-5})
(2.56\times10^{-5})
}\\
&=
4.94\times10^8
\end{aligned}
\]
となります。この例では \(10^9\) より小さく、鉛直平板の層流自然対流域にあると判断できます。
3. Nusselt数と熱伝達係数
Churchill–Chuの相関式へ代入すると、
\[
\overline{\mathrm{Nu}}_L
=98.8
\]
です。したがって、
\begin{aligned}
\bar h
&=
\frac{
\overline{\mathrm{Nu}}_Lk
}{
L
}\\
&=
\frac{(98.8)(0.0280)}{0.50}\\
&=
\boxed{
5.53\ \mathrm{W/(m^2\,K)}
}
\end{aligned}
\]
となります。
4. 片面からの対流放熱速度
伝熱面積は、
\[
A=LW=(0.50)(0.40)=0.200\ \mathrm{m^2}
\]
です。よって、
\begin{aligned}
\dot Q_{\mathrm{conv}}
&=
\bar hA(T_s-T_\infty)\\
&=
(5.53)(0.200)(60)\\
&=
\boxed{
66.4\ \mathrm{W}
}
\end{aligned}
\]
となります。両面が同じ条件で空気にさらされ、互いの流れが干渉しないなら、対流放熱速度はおおよそ2倍です。
この計算は対流分だけです。80℃の表面では放射による熱移動も生じます。実際の全放熱速度は、対流と放射を別々に計算して加える必要があります。
水平円管の自然対流相関式
水平な円管や円柱では、外径 \(D\) を代表長さに使います。Churchill–Chuの平均Nusselt数相関式の一つは、
\boxed{
\overline{\mathrm{Nu}}_D
=
\left[
0.60
+
\frac{
0.387\,\mathrm{Ra}_D^{1/6}
}{
\left[
1+\left(0.559/\mathrm{Pr}\right)^{9/16}
\right]^{8/27}
}
\right]^2
}
\]
です。おおむね \(\mathrm{Ra}_D\le10^{12}\) の範囲で使われます。鉛直平板の式と係数が異なるため、形状だけを見ずに相関式の対象を必ず確認してください。
例題2:高温の水平配管から空気への放熱
外径 \(D=0.050\ \mathrm{m}\)、長さ \(\ell=2.0\ \mathrm{m}\) の水平配管があります。表面温度は \(100\ ^\circ\mathrm{C}\)、周囲空気温度は \(25\ ^\circ\mathrm{C}\) です。
膜温度における空気の物性値を、
- \(k=0.0290\ \mathrm{W/(m\,K)}\)
- \(\nu=1.90\times10^{-5}\ \mathrm{m^2/s}\)
- \(\alpha=2.70\times10^{-5}\ \mathrm{m^2/s}\)
とします。
膜温度と体膨張係数は、
\[
\begin{aligned}
T_f
&=
\frac{100+25}{2}
+273.15\\
&=
335.65\ \mathrm{K}
\end{aligned}
\]
\[
\beta
\approx
\frac{1}{335.65}
=2.979\times10^{-3}\ \mathrm{K^{-1}}
\]
です。
\[
\mathrm{Pr}
=
\frac{1.90\times10^{-5}}
{2.70\times10^{-5}}
=0.704
\]
\[
\begin{aligned}
\mathrm{Ra}_D
&=
\frac{
(9.81)
(2.979\times10^{-3})
(75)
(0.050)^3
}{
(1.90\times10^{-5})
(2.70\times10^{-5})
}\\
&=
5.34\times10^5
\end{aligned}
\]
です。水平円管の相関式から、
\[
\overline{\mathrm{Nu}}_D=12.19
\]
となるので、
\[
\begin{aligned}
\bar h
&=
\frac{
\overline{\mathrm{Nu}}_Dk
}{
D
}\\
&=
\frac{(12.19)(0.0290)}{0.050}\\
&=
7.07\ \mathrm{W/(m^2\,K)}
\end{aligned}
\]
です。
円管の外表面積は、
\[
A=\pi D\ell
=\pi(0.050)(2.0)
=0.314\ \mathrm{m^2}
\]
です。したがって、
\begin{aligned}
\dot Q_{\mathrm{conv}}
&=
\bar hA(T_s-T_\infty)\\
&=
(7.07)(0.314)(75)\\
&=
\boxed{
1.67\times10^2\ \mathrm{W}
}
\end{aligned}
\]
となります。端面からの伝熱と放射は無視しています。
水平面では加熱・冷却の向きが重要
鉛直面では、温かい流体は上昇し、冷たい流体は下降するため、流れは面に沿って形成されます。一方、水平面では、表面の向きによって流れが安定になったり不安定になったりします。
| 表面の状態 | 密度配置 | 自然対流の生じやすさ |
|---|---|---|
| 上向き加熱面 | 軽い流体が下、重い流体が上 | 不安定で流れが生じやすい |
| 下向き冷却面 | 重い流体が上、軽い流体が下 | 不安定で流れが生じやすい |
| 下向き加熱面 | 軽い流体が上側に保たれる | 比較的安定で流れが弱くなりやすい |
| 上向き冷却面 | 重い流体が下側に保たれる | 比較的安定で流れが弱くなりやすい |
水平平板では、代表長さに \(L_c=A/P\) を使う相関式がよく用いられます。ここで \(P\) は平板の周長です。ただし、上向き・下向き、加熱・冷却、Rayleigh数の範囲によって式が変わるため、鉛直平板の式を流用してはいけません。
密閉空間の自然対流は外部流れと別に扱う
二枚の壁に挟まれた空気層、二重窓、保温槽の空隙などでは、流体が限られた空間内を循環します。このような密閉空間内の自然対流では、壁間隔、縦横比、加熱方向、境界条件が流れに大きく影響します。
外部の鉛直平板や水平円管に対する相関式を、そのまま密閉空間へ使うことはできません。低いRayleigh数では熱伝導が支配的でも、臨界条件を超えると循環流が生じ、見かけの熱移動が増える場合があります。
自然対流と強制対流が同時にある場合
弱い送風がある、配管内をゆっくり流れながら加熱される、室内気流と浮力流が重なる。このような場合は混合対流になります。
自然対流と強制対流の相対的な大きさを見る指標として、
\boxed{
\mathrm{Ri}
=
\frac{\mathrm{Gr}}{\mathrm{Re}^2}
}
\]
が使われます。これはRichardson数の一つの表し方です。
この比を使うときは、Grashof数とReynolds数で同じ代表長さと整合する物性値を使います。
- \(\mathrm{Ri}\ll1\):強制対流が支配的
- \(\mathrm{Ri}\gg1\):自然対流が支配的
- \(\mathrm{Ri}\sim1\):両方の影響を無視できない
ただし、流れが同じ向きか反対向きかによっても伝熱は変わります。単純に自然対流と強制対流の熱伝達係数を足せばよいとは限りません。
自然対流の熱伝達係数を左右する要因
Rayleigh数とNusselt数の関係から、自然対流の強さを感覚的に整理できます。
| 要因 | 変化 | 主な影響 |
|---|---|---|
| 温度差 \(|T_s-T_\infty|\) | 大きくなる | 浮力とRaが増え、流れが発達しやすい |
| 代表長さ \(L_c\) | 大きくなる | Raは \(L_c^3\) に比例して大きくなる |
| 動粘度 \(\nu\) | 大きくなる | 流れが抑えられ、Raが小さくなる |
| 熱拡散率 \(\alpha\) | 大きくなる | 温度差が拡散しやすく、Raが小さくなる |
| 重力加速度 \(g\) | 小さくなる | 浮力が弱くなり、自然対流が弱くなる |
| 表面の向き | 変わる | 流れの安定性と適切な相関式が変わる |
Newtonの冷却則だけを見ると、伝熱速度は温度差に比例するように見えます。しかし自然対流では、温度差がRayleigh数を通して熱伝達係数 \(h\) 自体も変化させます。したがって、広い温度範囲で \(h\) を一定とみなすと誤差が生じます。
化学プラントでの自然対流
自然対流は、動力を使わない受動的な熱移動として多くの場所に現れます。
- 高温配管・タンク・機器の外表面から周囲空気への放熱
- 炉壁や保温材表面からの熱損失
- 停止中の機器や非常時の受動冷却
- 貯槽内部の温度差による循環
- 反応器ジャケット内や槽内で流速が小さい領域の熱移動
- 室内や機器収納部の温度分布
ただし、高温表面では放射、屋外設備では風による強制対流、槽内では撹拌や組成差による流れが同時に起こります。実設備の熱収支では、自然対流だけに限定できるかを先に確認します。
自然対流を計算する手順
- 形状と向きを確認する:鉛直平板、水平円管、水平平板、球、密閉空間などを区別する
- 表面温度と周囲温度を確認する:\(T_s\) と \(T_\infty\) を定める
- 膜温度を求める:\(T_f=(T_s+T_\infty)/2\)
- 物性値をそろえる:\(k,\nu,\alpha,\mathrm{Pr},\beta\) を同じ温度で評価する
- 代表長さを選ぶ:相関式が指定する \(L_c\) を使う
- Rayleigh数を計算する:桁と適用範囲を確認する
- 対応する相関式を選ぶ:形状、向き、境界条件、Ra範囲を合わせる
- Nusselt数から \(h\) を求める:\(\bar h=\overline{\mathrm{Nu}}\,k/L_c\)
- 伝熱速度を求める:\(\dot Q=\bar hA(T_s-T_\infty)\)
- 放射・風・端部の影響を確認する:必要なら別の伝熱機構を加える
無次元相関式がなぜ使えるのかは、次元解析とバッキンガムのΠ定理を読むと理解しやすくなります。
よくある間違い
| 間違い | 正しい考え方 |
|---|---|
| 自然対流なのに主流速度からReを作る | 浮力流ではGr・Raを中心に整理する |
| \(\beta=1/T\) に℃を使う | 理想気体の体膨張係数には絶対温度Kを使う |
| すべての物性値を周囲温度で取る | 相関式の指定に従い、通常は膜温度で評価する |
| 代表長さを面積の平方根に統一する | 鉛直平板は高さ、水平円管は外径など、相関式の定義に合わせる |
| 平均Nuと局所Nuを混同する | 表面全体の伝熱には平均値用の相関式を使う |
| 鉛直平板の式を水平面へ使う | 形状・向き・加熱方向ごとに相関式を選ぶ |
| Nusselt数の \(k\) に固体の熱伝導率を使う | Nusselt数では周囲流体の \(k\) を使う |
| 対流放熱だけを全放熱量とする | 放射や風による強制対流も確認する |
| 温度差が変わっても \(h\) を一定とする | 自然対流ではRaを通して \(h\) も変化する |
確認問題
3問のミニテストで、ここまでの内容を確認しましょう。選択すると、その場で正誤と解説が表示されます。
QUICK CHECK
1 / 3伝熱工学・初級
このミニテストの回答結果は保存されません。学習記録を残す場合は化工演習室をご利用ください。
まとめ
- 自然対流は、温度差による密度差と浮力によって生じる流れである
- Grashof数は浮力と粘性力の比、Prandtl数は運動量拡散と熱拡散の比を表す
- Rayleigh数は \(\mathrm{Ra}=\mathrm{Gr}\mathrm{Pr}\) であり、自然対流の発達度を整理する
- Nusselt数から \(\bar h=\overline{\mathrm{Nu}}\,k/L_c\) として熱伝達係数を求める
- 物性値は、相関式の指定に従い通常は膜温度で評価する
- 代表長さは形状と相関式によって異なり、鉛直平板では高さ、水平円管では外径を使う
- 水平面では加熱・冷却の向きによって流れの安定性が変わる
- 高温表面では放射、屋外では風、弱い流れでは混合対流も確認する
- 自然対流では温度差によって \(h\) 自体も変化する
自然対流の計算は、流体力学と伝熱工学が一つにつながるテーマです。「温度差が密度差を生み、密度差が流れを生み、その流れが再び熱移動を変える」という因果関係を意識すると、Gr・Ra・Nuの役割を整理しやすくなります。
参考資料
- NPTEL, Heat Transfer by Natural Convection, Lecture 21(Grashof数・Prandtl数・Rayleigh数の意味)
- NPTEL, Heat Transfer by Natural Convection, Lecture 22(鉛直平板・水平円管の自然対流相関式)
- NPTEL, Natural Convection around a Horizontal Flat Surface(水平面の向きと自然対流)
- MIT OpenCourseWare, Transport Phenomena in Materials Engineering, Chapter 5(自然対流と熱・物質移動)
- Churchill, S. W. and Chu, H. H. S., Correlating equations for laminar and turbulent free convection from a vertical plate
- NASA, Heat Transfer Correlations(鉛直面のChurchill–Chu相関式)
この記事は基礎学習用です。実設備では、相関式の適用範囲、表面温度分布、物性変化、表面粗さ、端部、周囲の気流、放射、密閉空間、複雑形状、相変化、濃度差による浮力などを確認し、信頼できる設計基準・実験データ・数値解析・専門家の検討を併用してください。


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