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熱交換器とは、温度の異なる流体の間で熱を移動させる装置です。加熱、冷却、凝縮、蒸発、廃熱回収など、化学プラントのほぼすべての工程で使われます。
熱交換器の計算では、最初にエネルギー収支から交換熱量を求め、次に総括伝熱係数と温度差から必要な伝熱面積を求めます。この2段階を区別すると、複雑に見える式を整理しやすくなります。
この記事では、代表的な熱交換器の種類、並流と向流の違い、熱収支、総括伝熱係数、対数平均温度差(LMTD)、伝熱面積の求め方を例題で解説します。
熱交換器設計の基本式
\[
\dot{Q}=UA F\Delta T_{lm}
\]
交換熱量 \(\dot{Q}\) は、総括伝熱係数 \(U\)、伝熱面積 \(A\)、LMTD補正係数 \(F\)、対数平均温度差 \(\Delta T_{lm}\) の積で表します。
熱交換器とは
米国原子力規制委員会(NRC)は、熱交換器を「ある流体から別の流体、または周囲へ熱を移す装置」と説明しています。多くの熱交換器では、2つの流体は金属壁などで隔てられ、混ざらずに熱だけを受け渡します。
高温流体から低温流体へ熱が移動するとき、実際には次の伝熱過程が直列に起こります。
- 高温流体から壁面への対流伝熱
- 壁内部の熱伝導
- 壁面から低温流体への対流伝熱
伝熱の全体像は伝熱とは?熱伝導・対流・放射の違いで確認できます。
熱交換器の主な用途
| 用途 | 役割 | 化学工学での例 |
|---|---|---|
| 加熱器 | プロセス流体を加熱する | 反応器供給液の予熱 |
| 冷却器 | プロセス流体を冷却する | 反応生成物の冷却 |
| 凝縮器 | 蒸気を液体へ凝縮する | 蒸留塔頂コンデンサー |
| 蒸発器 | 液体を蒸発させる | 蒸発濃縮・冷媒蒸発器 |
| 廃熱回収器 | 排出熱を別流体へ回収する | 排ガスによる原料予熱 |
| リボイラー | 液体の一部を沸騰させる | 蒸留塔底部への熱供給 |
代表的な熱交換器の種類

図の見方
橙色と青色の流路が、壁を隔てて隣り合うほど熱が移りやすくなります。一方、空冷式では管内の高温流体からフィンへ熱を伝え、ファンで送った空気へ放熱します。
二重管式熱交換器
一方の管の内側にもう一方の管を通し、内管と環状部へ2つの流体を流します。構造が単純で、並流・向流の考え方を理解するのに適しています。小さな伝熱面積や高圧用途で使われますが、大面積になると装置が長くなります。
多管円筒式熱交換器
多管円筒式(シェル&チューブ)は、円筒状の胴内へ多数の伝熱管を配置します。一方の流体を管内、もう一方を胴側へ流します。
- 高温・高圧へ対応しやすい
- 材料や構造の選択肢が多い
- 伝熱管の機械洗浄が可能な構造を選べる
- 折返し流やバッフルによって複雑な流れになる
化学プラントで広く使われる一方、実設計ではLMTD補正係数や胴側流動を考慮します。
プレート式熱交換器
薄い波形プレートを重ね、プレート間の流路へ高温流体と低温流体を交互に流します。単位体積当たりの伝熱面積が大きく、乱れを生じやすいため、コンパクトで高い総括伝熱係数を得やすい装置です。
ガスケット式は分解洗浄や増設がしやすい一方、温度・圧力・流体適合性に制約があります。溶接式やろう付け式もあります。
空冷式熱交換器
外気をファンで送り、フィン付き管内のプロセス流体を冷却します。冷却水を節約できますが、空気側の熱伝達率が小さいため、フィンで伝熱面積を増やします。性能は外気温や風の影響を受けます。
直接接触式熱交換器
2つの流体を直接接触させて熱を移します。冷却塔などが代表例です。伝熱壁がないため高い移動速度を得られますが、流体が混ざってもよい系に限られます。
並流・向流・直交流の違い
並流
並流では、高温流体と低温流体が同じ側から入り、同じ方向へ流れます。入口付近の温度差は大きいものの、出口へ進むほど温度差が小さくなります。
- 構造と温度分布を理解しやすい
- 両流体の出口温度が互いに近づく
- 同じ入口・出口条件なら、向流より平均温度差が小さくなりやすい
向流
向流では、高温流体と低温流体が反対方向へ流れます。熱交換器全体で温度差を保ちやすく、同じ伝熱面積なら並流より多くの熱を交換できる場合が一般的です。
向流では、低温流体の出口温度が高温流体の出口温度より高くなることがあります。ただし、外部から仕事や熱を加えない単純な熱交換器では、低温流体出口が高温流体入口を超えることはありません。
直交流
直交流では2つの流体がほぼ直角に交差します。空冷式熱交換器やラジエーターなどで使われます。流体が混合するかどうかによって温度分布が変わるため、LMTD法では補正係数を用います。
| 流れ方 | 方向 | 温度差の特徴 | 代表例 |
|---|---|---|---|
| 並流 | 同方向 | 入口で大きく、出口で小さい | 単純な二重管式 |
| 向流 | 逆方向 | 全長で比較的保ちやすい | 二重管式・プレート式 |
| 直交流 | 直角方向 | 二次元的に変化する | 空冷器・ラジエーター |
| 多流路 | 折返しを含む | 純粋な並流・向流ではない | 多管円筒式 |
最初に熱収支から交換熱量を求める
定常状態で外部への熱損失がなく、軸仕事も無視できる熱交換器では、高温流体が失う熱量と低温流体が受け取る熱量は等しくなります。
\[
\dot{Q}_h=\dot{Q}_c=\dot{Q}
\]
両流体に相変化がなく、比熱を一定と近似できる場合、
\[
\dot{Q}
=\dot{m}_h c_{p,h}\left(T_{h,in}-T_{h,out}\right)
\]
\[
\dot{Q}
=\dot{m}_c c_{p,c}\left(T_{c,out}-T_{c,in}\right)
\]
です。
| 記号 | 意味 | SI単位 |
|---|---|---|
| \(\dot{Q}\) | 交換熱量 | W |
| \(\dot{m}\) | 質量流量 | kg/s |
| \(c_p\) | 定圧比熱 | J/(kg・K) |
| \(T\) | 温度 | Kまたは℃ |
この熱収支では温度差だけを使うため、Kと℃の差は同じ大きさです。エネルギー収支の立て方はエネルギー収支とは?基本式と解き方も参照してください。
相変化がある場合
蒸気の凝縮や液体の沸騰を含む場合は、顕熱式 \(\dot{m}c_p\Delta T\) だけでなく、入口・出口の比エンタルピー差を使います。
\[
\dot{Q}=\dot{m}\left(h_{in}-h_{out}\right)
\]
例題1:熱収支から冷却水出口温度を求める
条件
- 高温水流量:\(\dot{m}_h=2.0\ \mathrm{kg/s}\)
- 高温水温度:90 ℃から60 ℃
- 冷却水流量:\(\dot{m}_c=3.0\ \mathrm{kg/s}\)
- 冷却水入口温度:20 ℃
- 水の比熱:\(c_p=4.18\ \mathrm{kJ/(kg\,K)}\)
- 外部への熱損失は無視する
手順1:高温水が失う熱量を求める
\[
\dot{Q}
=2.0\times4.18\times\left(90-60\right)
\]
\[
\dot{Q}=250.8\ \mathrm{kW}
\]
手順2:低温側の熱収支を立てる
\[
250.8
=3.0\times4.18\times\left(T_{c,out}-20\right)
\]
\[
T_{c,out}=40.0\ ^\circ\mathrm{C}
\]
答え:交換熱量は250.8 kW、冷却水出口温度は40.0 ℃
この段階では熱交換器の面積や総括伝熱係数を使っていません。まず熱収支だけで熱量と出口温度を決めることが大切です。
総括伝熱係数とは
熱交換器では、高温流体側対流、壁内熱伝導、低温流体側対流、汚れなどがすべて熱移動を妨げます。これらの熱抵抗をまとめた係数が総括伝熱係数 \(U\) です。
平板状の壁で面積が両側で等しい単純な場合、
\[
\frac{1}{U}
=\frac{1}{h_h}+R_{f,h}+\frac{\delta}{k}+R_{f,c}+\frac{1}{h_c}
\]
と表せます。
| 項 | 意味 |
|---|---|
| \(1/h_h\) | 高温流体側の対流熱抵抗 |
| \(R_{f,h}\) | 高温側の汚れ熱抵抗 |
| \(\delta/k\) | 伝熱壁の熱伝導抵抗 |
| \(R_{f,c}\) | 低温側の汚れ熱抵抗 |
| \(1/h_c\) | 低温流体側の対流熱抵抗 |
総括伝熱係数の単位は \(\mathrm{W/(m^2\,K)}\) です。円管では内面積と外面積が異なるため、\(U\) がどの面積基準かを必ず確認します。
個々の対流熱伝達率の考え方は対流熱伝達の計算方法で解説しています。
Uは装置固有の絶対定数ではない
流体物性、流速、相変化、流路、材料、汚れによって変化します。設計値、清浄時の値、運転データから求めた値を混同しないようにします。
対数平均温度差LMTDとは
熱交換器内の温度差は入口から出口まで一定ではありません。そこで、局所的に変化する温度差を、伝熱計算に使える平均値へまとめたものが対数平均温度差(Log Mean Temperature Difference: LMTD)です。
\[
\boxed{
\Delta T_{lm}
=\frac{\Delta T_1-\Delta T_2}{\ln\left(\Delta T_1/\Delta T_2\right)}
}
\]
\(\Delta T_1\) と \(\Delta T_2\) は、熱交換器両端における高温流体と低温流体の温度差です。
並流の端温度差
\[
\Delta T_1=T_{h,in}-T_{c,in}
\]
\[
\Delta T_2=T_{h,out}-T_{c,out}
\]
向流の端温度差
\[
\Delta T_1=T_{h,in}-T_{c,out}
\]
\[
\Delta T_2=T_{h,out}-T_{c,in}
\]
2つの温度差が等しい場合
式へ直接代入すると0/0になりますが、極限値はその温度差です。つまり \(\Delta T_1=\Delta T_2\) なら、\(\Delta T_{lm}=\Delta T_1\) とします。
図解|並流と向流では温度差の分布が違う
LMTD法による伝熱面積の計算
交換熱量と必要伝熱面積の関係は、
\[
\boxed{\dot{Q}=UA F\Delta T_{lm}}
\]
です。必要面積を求める場合は、
\[
\boxed{A=\frac{\dot{Q}}{UF\Delta T_{lm}}}
\]
と変形します。
二重管式の純粋な並流・向流では、通常 \(F=1\) です。多管円筒式の複数パスや直交流では、理想的な向流からのずれを表すLMTD補正係数 \(F\) を使います。
\[
0<F\leq1
\]
補正係数は流路構成と温度条件から線図や計算式で求めます。値が小さすぎる条件では、流路構成の変更を検討します。
例題2:向流熱交換器の必要伝熱面積
例題1の温度条件と交換熱量を使い、向流熱交換器の面積を求めます。
条件
- 高温水:90 ℃から60 ℃
- 冷却水:20 ℃から40 ℃
- 交換熱量:\(\dot{Q}=250.8\ \mathrm{kW}\)
- 総括伝熱係数:\(U=600\ \mathrm{W/(m^2\,K)}\)
- 向流、補正係数:\(F=1\)
手順1:両端の温度差を求める
\[
\Delta T_1=T_{h,in}-T_{c,out}=90-40=50\ \mathrm{K}
\]
\[
\Delta T_2=T_{h,out}-T_{c,in}=60-20=40\ \mathrm{K}
\]
手順2:LMTDを求める
\[
\Delta T_{lm}
=\frac{50-40}{\ln\left(50/40\right)}
=44.8\ \mathrm{K}
\]
手順3:必要伝熱面積を求める
熱量をWへ換算して代入します。
\[
A
=\frac{250.8\times10^3}{600\times1\times44.8}
\]
\[
A=9.33\ \mathrm{m^2}
\]
答え:向流熱交換器の必要伝熱面積は約9.33 m2
同じ条件を並流にするとどうなるか
同じ4つの入口・出口温度を仮定し、並流としてLMTDを求めます。
\[
\Delta T_1=90-20=70\ \mathrm{K}
\]
\[
\Delta T_2=60-40=20\ \mathrm{K}
\]
\[
\Delta T_{lm}
=\frac{70-20}{\ln\left(70/20\right)}
=39.9\ \mathrm{K}
\]
必要面積は、
\[
A
=\frac{250.8\times10^3}{600\times39.9}
=10.5\ \mathrm{m^2}
\]
です。
| 流れ方 | LMTD | 必要面積 |
|---|---|---|
| 向流 | 44.8 K | 9.33 m2 |
| 並流 | 39.9 K | 10.5 m2 |
同じ熱量と総括伝熱係数なら、LMTDが大きい向流の方が必要面積を小さくできます。
LMTD法が使いやすい場合
LMTD法は、次の量がわかっているときに便利です。
- 高温流体と低温流体の入口・出口温度
- 交換熱量
- 総括伝熱係数
- 流路構成と補正係数
一方、伝熱面積は既知でも出口温度が未知の場合、LMTDが出口温度に依存するため、試行計算が必要になります。この場合は有効度–NTU法を使うと整理しやすくなります。
有効度–NTU法の考え方
熱交換器有効度 \(\varepsilon_{HX}\) は、実際の交換熱量と、理論上可能な最大交換熱量の比です。
\[
\varepsilon_{HX}=\frac{\dot{Q}}{\dot{Q}_{max}}
\]
熱容量流量を、
\[
C_h=\dot{m}_h c_{p,h},\qquad C_c=\dot{m}_c c_{p,c}
\]
とすると、
\[
\dot{Q}_{max}=C_{min}\left(T_{h,in}-T_{c,in}\right)
\]
です。伝熱単位数NTUは、
\[
NTU=\frac{UA}{C_{min}}
\]
で定義します。流路形式ごとの \(\varepsilon_{HX}\) とNTUの関係を使い、出口温度や交換熱量を求めます。初学者はまずLMTD法を確実に理解し、その後にNTU法へ進むとよいでしょう。
汚れ係数と性能低下
運転を続けると、スケール、腐食生成物、有機物、微生物、固形分などが伝熱面へ付着します。これをファウリングといいます。
汚れ層が増えると熱抵抗が大きくなり、総括伝熱係数 \(U\) は低下します。その結果、同じ流量・入口温度でも出口温度や交換熱量が設計値から外れます。
- 入口・出口温度と流量を記録する
- 交換熱量、U値、または効率を経時的に比較する
- 圧力損失の増加も監視する
- 洗浄後の基準性能を記録する
NRCの熱交換器管理資料でも、流量と入口・出口温度を測定し、性能低下や閉塞・汚れの傾向を監視する考え方が示されています。
伝熱と圧力損失のトレードオフ
流速を上げると対流熱伝達率が高まり、必要面積を小さくできる場合があります。しかし、圧力損失とポンプ動力は増加します。
また、狭い流路や複雑なバッフルは伝熱を促進しますが、閉塞や洗浄性の問題につながることがあります。実際の設計では、次の項目を同時に検討します。
- 必要熱量と到達温度
- 許容圧力損失
- ポンプ・圧縮機の動力
- 汚れや腐食の可能性
- 洗浄・点検・伝熱管交換のしやすさ
- 材料適合性と漏えい時の危険性
- 設備費と運転費
熱交換器の計算手順
- 流体を高温側・低温側に分ける
- 流量、入口温度、出口温度、比熱、相変化を整理する
- 熱収支から交換熱量と未知の出口温度を求める
- 並流・向流・直交流などの流路形式を確認する
- 両端の温度差からLMTDを求める
- 必要ならLMTD補正係数Fを求める
- 適切な総括伝熱係数Uを選ぶ、または熱抵抗から計算する
- \(A=\dot{Q}/(UF\Delta T_{lm})\) から面積を求める
- 圧力損失、流速、汚れ、材料、保守性を確認する
よくある間違い
| 間違い | 確認すること |
|---|---|
| 熱収支と伝熱式を最初から混ぜる | まず熱収支、次に面積計算の順で解く |
| 高温側と低温側の符号が逆 | 両側とも正の交換熱量になる形で温度差を取る |
| kWとWを混在させる | UがW/(m2・K)なら熱量をWへ換算する |
| 並流と向流の端温度差を取り違える | 流れ方向の図を書いて両端を対応させる |
| LMTDを単純平均で置き換える | 温度差の変化が大きい場合は対数平均を使う |
| 補正係数Fを無視する | 多パス・直交流では流路に対応するFを使う |
| Uの面積基準を確認しない | 管内面積基準か管外面積基準かを統一する |
| 清浄時のUだけで運転性能を判断する | 汚れ抵抗と経時変化を考慮する |
まとめ
- 熱交換器は温度の異なる流体間で熱を移す装置
- 計算は「熱収支」と「伝熱面積」の2段階で進める
- 交換熱量は流量・比熱・温度変化から求める
- 総括伝熱係数Uは対流・壁・汚れの熱抵抗をまとめた係数
- LMTDは熱交換器内で変化する温度差の有効な平均値
- 基本設計式は \(\dot{Q}=UAF\Delta T_{lm}\)
- 同じ温度条件では、向流は並流より大きいLMTDを得やすい
- 実設計では圧力損失、汚れ、材料、保守性も重要
まず熱収支で「どれだけ熱を移すか」を決め、その後にLMTDとUから「どれだけ面積が必要か」を求める。この順序を身につけることが、熱交換器計算の第一歩です。
参考資料
- U.S. Nuclear Regulatory Commission, Heat exchanger
- MIT OpenCourseWare, Heat Exchangers – Log Mean Temperature Difference
- U.S. Department of Energy, DOE-HDBK-1012/2-92: Thermodynamics, Heat Transfer, and Fluid Flow
- U.S. Nuclear Regulatory Commission, Service Water System Problems Affecting Safety-Related Equipment
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