放射伝熱とは?ステファン=ボルツマンの法則と放射率を例題で解説

放射伝熱とは?ステファン=ボルツマンの法則と放射率を例題で解説 放射伝熱

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放射伝熱とは、物体が放出・吸収する電磁波によって熱エネルギーが移動する現象です。熱伝導や対流とは異なり、物質が存在しない真空中でも熱を運べます。

高温の炉の近くで、空気に触れていなくても顔が熱く感じられるのは、放射伝熱の身近な例です。化学工学では、加熱炉、ボイラー、高温配管、乾燥装置、燃焼設備などの熱設計で重要になります。

この記事では、黒体と放射率の意味、ステファン=ボルツマンの法則、周囲との正味放射伝熱、2面間の計算、放射熱伝達率までを例題とともに解説します。

放射伝熱の基本式

\[
\dot{Q}=\varepsilon\sigma A\left(T_s^4-T_{sur}^4\right)
\]

温度は必ず絶対温度Kで代入します。放射は温度の4乗に強く依存することが最大の特徴です。

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放射伝熱とは

絶対零度より高い温度の物体は、内部の原子や分子の熱運動に伴って電磁波を放出します。別の物体がその電磁波を吸収すると、エネルギーが熱として受け渡されます。

熱の伝わり方には、熱伝導・対流・放射の3つがあります。全体像は伝熱とは?熱伝導・対流・放射の違いで解説しています。

伝熱形態 主な仕組み 媒質 代表式
熱伝導 物質内部の分子運動・自由電子 必要 フーリエの法則
対流 流体の移動と熱伝導 流体が必要 ニュートンの冷却則
放射 電磁波の放出と吸収 不要 ステファン=ボルツマンの法則

放射は高温ほど重要になる

熱伝導や対流の基本式は温度差に比例します。一方、放射は絶対温度の4乗差に比例するため、温度が高くなるほど急激に大きくなります。

黒体・実在表面・放射率

黒体とは

黒体は、入射した放射エネルギーをすべて吸収し、同じ温度で可能な最大の放射エネルギーを放出する理想的な物体です。黒体の放射率は1です。

「黒」という名称ですが、日常的な見た目の色だけで黒体かどうかは判断できません。放射特性は、波長、温度、表面状態などに依存します。

放射率とは

放射率 \(\varepsilon\) は、実在表面が同じ温度の黒体と比べて、どの程度の放射エネルギーを放出するかを表す無次元量です。

\[
\varepsilon=\frac{E}{E_b}
\]

記号 意味 単位
\(E\) 実在表面の放射能 W/m2
\(E_b\) 同温度の黒体の放射能 W/m2
\(\varepsilon\) 放射率 無次元

放射率の範囲は、

\[
0\leq\varepsilon\leq1
\]

です。一般に、酸化した表面や塗装面は放射率が高く、よく磨かれた金属面は低い傾向があります。ただし、設計では対象材料・温度・波長・表面状態に対応するデータを使用します。

放射率を材料名だけで決めない

同じ金属でも、研磨、酸化、汚れ、塗装によって放射率は変化します。高温設備の計算では、実際の表面状態に近い値を選ぶ必要があります。

ステファン=ボルツマンの法則

黒体が単位面積から放出する全放射エネルギーは、絶対温度の4乗に比例します。

\[
E_b=\sigma T^4
\]

この関係をステファン=ボルツマンの法則といいます。実在表面では放射率を掛けます。

\[
E=\varepsilon\sigma T^4
\]

NISTのCODATA値によるステファン=ボルツマン定数は、

\[
\sigma=5.670\,374\,419\ldots\times10^{-8}\ \mathrm{W/(m^2\,K^4)}
\]

です。通常の工学計算では、\(\sigma=5.67\times10^{-8}\ \mathrm{W/(m^2\,K^4)}\) として十分な場合が多いです。

温度は必ずKを使う

ステファン=ボルツマンの法則へ代入する温度は、セルシウス温度℃ではなく絶対温度Kです。

\[
T\,[\mathrm{K}]=t\,[^\circ\mathrm{C}]+273.15
\]

たとえば500 ℃は773.15 Kです。4乗するため、℃をそのまま代入すると非常に大きな誤差になります。

周囲との正味放射伝熱

高温表面は周囲へ放射しますが、周囲からも表面へ放射が入射しています。そのため、熱収支で必要なのは一方向の放射量ではなく、差し引きした正味放射伝熱量です。

面積 \(A\)、表面温度 \(T_s\)、放射率 \(\varepsilon\) の比較的小さな物体が、温度 \(T_{sur}\) の十分大きな周囲面に囲まれているとき、

\[
\boxed{\dot{Q}_{rad}=\varepsilon\sigma A\left(T_s^4-T_{sur}^4\right)}
\]

と近似できます。

記号 意味 SI単位
\(\dot{Q}_{rad}\) 正味放射伝熱量 W
\(A\) 放射面積 m2
\(T_s\) 表面の絶対温度 K
\(T_{sur}\) 周囲面の絶対温度 K
  • \(T_s>T_{sur}\):表面から周囲へ正味の熱移動
  • \(T_s=T_{sur}\):正味の放射伝熱は0
  • \(T_{sur}>T_s\):周囲から表面へ正味の熱移動

例題1:高温表面から周囲への放射熱量

条件

  • 表面温度:\(T_s=800\ \mathrm{K}\)
  • 周囲温度:\(T_{sur}=300\ \mathrm{K}\)
  • 表面積:\(A=2.0\ \mathrm{m^2}\)
  • 放射率:\(\varepsilon=0.80\)

手順1:式を選ぶ

\[
\dot{Q}_{rad}=\varepsilon\sigma A\left(T_s^4-T_{sur}^4\right)
\]

手順2:数値を代入する

\[
\dot{Q}_{rad}
=0.80\times5.670\times10^{-8}\times2.0
\left(800^4-300^4\right)
\]
\[
\dot{Q}_{rad}=3.64\times10^4\ \mathrm{W}
\]

答え:正味放射伝熱量は約36.4 kW

単位面積当たりでは約18.2 kW/m2です。表面温度が800 Kと高いため、2 m2の面でも大きな熱量になります。

温度の4乗依存を感覚的に理解する

黒体の放射能は \(E_b=\sigma T^4\) なので、温度を2倍にすると、

図解|ステファン=ボルツマンの法則と温度の4乗
ステファン=ボルツマンの法則と温度の4乗黒体の放射発散度は300ケルビンで約459、600ケルビンで約7348、900ケルビンで約37201ワット毎平方メートル。絶対温度を2倍にすると放射は16倍になり、実在表面では放射率を掛ける。放射エネルギーは絶対温度の4乗に比例する300 K459 W/m²600 K7,348 W/m²900 K37,201 W/m²黒体の放射発散度 E=σT⁴300 K → 600 K:温度2倍 → 放射は2⁴=16倍実在表面:E=εσT⁴  ε=1:黒体 | ε=0.3:黒体の30%温度は ℃ ではなく、必ず K を使う

\[
\frac{E_{b,2}}{E_{b,1}}=\left(\frac{2T}{T}\right)^4=16
\]

となり、放射エネルギーは16倍です。

ただし、周囲との正味伝熱は \(T_s^4-T_{sur}^4\) で決まります。「表面温度だけを4乗する」のではなく、周囲から入る放射も差し引くことが重要です。

2枚の大きな平行平板間の放射伝熱

温度 \(T_1\)、\(T_2\)、放射率 \(\varepsilon_1\)、\(\varepsilon_2\) の2枚の大きな平行平板が向かい合い、端部の影響を無視できるとします。正味放射熱流束は、

\[
\boxed{
q”=\frac{\sigma\left(T_1^4-T_2^4\right)}{\dfrac{1}{\varepsilon_1}+\dfrac{1}{\varepsilon_2}-1}
}
\]

です。分母は、両表面が黒体ではないことによる放射抵抗を表します。\(\varepsilon_1=\varepsilon_2=1\) なら、黒体間の式へ戻ります。

例題2:2枚の平行平板間の放射伝熱

条件

  • 高温面:\(T_1=700\ \mathrm{K},\ \varepsilon_1=0.80\)
  • 低温面:\(T_2=400\ \mathrm{K},\ \varepsilon_2=0.60\)
  • 向かい合う面積:\(A=1.5\ \mathrm{m^2}\)
  • 2面は十分大きく、互いだけを見ているとする

放射熱流束を計算します。

\[
q”=\frac{5.670\times10^{-8}\left(700^4-400^4\right)}{1/0.80+1/0.60-1}
\]
\[
q”\approx6.35\times10^3\ \mathrm{W/m^2}
\]

したがって、伝熱量は、

\[
\dot{Q}=Aq”=1.5\times6.35\times10^3
\]
\[
\dot{Q}\approx9.52\ \mathrm{kW}
\]

答え:高温面から低温面へ約9.52 kW

形態係数とは

実際の装置では、2面が互いの全面を見ているとは限りません。面 \(i\) から出た放射のうち、面 \(j\) に直接到達する割合を形態係数またはビュー・ファクター \(F_{ij}\) といいます。

\[
0\leq F_{ij}\leq1
\]

閉じた系では、面 \(i\) から見える全表面への形態係数の和は1です。

\[
\sum_j F_{ij}=1
\]

また、相反則として、

\[
A_iF_{ij}=A_jF_{ji}
\]

が成り立ちます。複雑な炉内面、配管列、遮熱板などでは、放射率に加えて形態係数を考慮します。

放射熱伝達率で線形式に直す

正味放射伝熱の式は4乗を含みますが、因数分解すると温度差に比例する形で表せます。

\[
T_s^4-T_{sur}^4
=\left(T_s-T_{sur}\right)\left(T_s+T_{sur}\right)\left(T_s^2+T_{sur}^2\right)
\]

放射熱伝達率 \(h_r\) を、

\[
\boxed{h_r=\varepsilon\sigma\left(T_s+T_{sur}\right)\left(T_s^2+T_{sur}^2\right)}
\]

と定義すると、

\[
\dot{Q}_{rad}=h_rA\left(T_s-T_{sur}\right)
\]

と書けます。

たとえば \(T_s=500\ \mathrm{K}\)、\(T_{sur}=300\ \mathrm{K}\)、\(\varepsilon=0.90\) なら、

\[
h_r\approx13.9\ \mathrm{W/(m^2\,K)}
\]

です。\(h_r\) は物性値として一定ではなく、放射率と両方の温度によって変わります。

対流と放射が同時に起こる場合

空気中の高温配管や容器では、表面から周囲への対流と放射が同時に起こります。周囲空気温度と放射を受ける周囲面温度を同じ \(T_\infty\) と近似できる場合、

\[
\dot{Q}_{total}=\dot{Q}_{conv}+\dot{Q}_{rad}
\]
\[
\dot{Q}_{total}=A\left(h+h_r\right)\left(T_s-T_\infty\right)
\]

と整理できます。対流熱伝達率の求め方は、対流熱伝達の計算方法を参照してください。

放射伝熱の計算手順

  1. 対象面と周囲面を決める:どこからどこへ放射が移動するかを整理する
  2. 温度をKへ変換する:℃のまま4乗しない
  3. 放射率を選ぶ:材料だけでなく表面状態と温度を確認する
  4. 形状に合う式を選ぶ:大きな周囲面、平行平板、複数面などを区別する
  5. 正味量を計算する:高温側の放射から低温側の影響を差し引く
  6. 対流・熱伝導と合算する:実際の装置では複数の伝熱形態を連結する
  7. 符号と桁を確認する:高温側から低温側へ熱が流れているかを確認する

よくある間違い

間違い 正しい考え方
温度を℃のまま4乗する 必ずKへ変換する
周囲からの放射を無視する 正味量には \(T_s^4-T_{sur}^4\) を使う
放射率を常に1とする 実在表面では適切な \(\varepsilon\) を用いる
見た目が黒いから放射率1と考える 設計温度と波長域に対応する実測値を確認する
形状の影響を無視する 必要に応じて形態係数を使う
放射だけで全熱損失を求める 対流や固体内熱伝導も合わせて熱収支を立てる

化学工学での利用例

  • 加熱炉・燃焼炉:火炎や高温炉壁から管群・処理物への放射
  • ボイラー:燃焼ガスと炉壁から水管への熱移動
  • 高温配管・タンク:外表面から周囲への熱損失
  • 乾燥装置:赤外線ヒーターから湿潤材料への加熱
  • 遮熱板:表面間に低放射率の板を置いて正味放射を減らす
  • 熱交換器設計:高温域で対流と放射を同時に評価する

壁の内部を通る熱伝導は、平板・円筒壁・多層壁の熱伝導計算と組み合わせて評価します。

基本式の適用限界

この記事の式は、表面を拡散灰色面として扱う基本的な近似です。次のような場合は、より詳しい放射解析が必要です。

  • 放射率が波長によって大きく変化する選択性表面
  • 鏡面反射が強い表面
  • 複雑な三次元形状や多数の表面
  • 二酸化炭素や水蒸気など、放射・吸収する気体が存在する高温炉
  • 火炎・粒子・すすを含む燃焼場
  • 表面温度や放射率が位置によって大きく異なる場合

高温燃焼設備では、表面間放射だけでなく、ガス放射や粒子放射を考慮する場合があります。

まとめ

  • 放射伝熱は電磁波による熱移動で、真空中でも起こる
  • 黒体の放射能は \(E_b=\sigma T^4\) で表される
  • 実在表面では放射率 \(\varepsilon\) を掛ける
  • 周囲との正味放射は \(\varepsilon\sigma A(T_s^4-T_{sur}^4)\) で評価する
  • 温度は必ずKを使い、表面状態に合う放射率を選ぶ
  • 複雑な形状では形態係数、実設備では対流・熱伝導も考慮する

まずは「絶対温度の4乗差」と「放射率」の2点を押さえると、放射伝熱の計算を整理しやすくなります。

参考資料

確認問題

3問のミニテストで、ここまでの内容を確認しましょう。選択すると、その場で正誤と解説が表示されます。

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