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熱交換器で液体を加熱・冷却する、反応器の温度を一定に保つ、配管や炉を断熱する。化学工学では、熱がどのように移動するかを理解することが欠かせません。
伝熱とは、温度差によって熱エネルギーが移動する現象です。熱は基本的に高温側から低温側へ移動し、その方法は熱伝導・対流・放射の3つに分けられます。
この記事では、伝熱を学ぶ最初の一歩として、3つの伝熱形態の違い、基本式、単位、熱抵抗の考え方を例題で解説します。
装置全体へ出入りする熱を整理する方法は「エネルギー収支とは?」で解説しています。
熱と温度は同じではない
温度は物体の熱的な状態を表す量です。一方、熱は温度差によって物体間を移動するエネルギーです。
たとえば、同じ80℃でも、コップ1杯のお湯と大きなタンクのお湯では蓄えているエネルギー量が異なります。温度だけでは、物体が持つエネルギー量や移動する熱量は決まりません。
物体の温度を \(T_1\) から \(T_2\) まで変化させるのに必要な顕熱は、比熱を一定とすれば、
\[
Q=m c_p(T_2-T_1)
\]
です。これは物体に蓄えられる、または物体から取り出される熱量を表します。定圧比熱と定容比熱の違いは「比熱とは?CpとCvの違い」を参照してください。
熱量・伝熱速度・熱流束を区別する
伝熱では、似た記号が使われるため、最初に3つの量を区別しましょう。
| 量 | 記号 | 意味 | SI単位 |
|---|---|---|---|
| 熱量 | \(Q\) | 移動したエネルギーの総量 | \(\mathrm{J}\) |
| 伝熱速度 | \(\dot Q\) | 単位時間あたりに移動する熱量 | \(\mathrm{W=J/s}\) |
| 熱流束 | \(q”\) | 単位面積あたりの伝熱速度 | \(\mathrm{W/m^2}\) |
面積 \(A\) を通過する伝熱速度と熱流束の関係は、
\[
\boxed{
q”=\frac{\dot Q}{A}
}
\]
です。
SI単位と次元の確認方法は「化学工学で使う単位と次元」で詳しく解説しています。
記号の注意:流動工学では \(Q\) を体積流量に使うことがあります。伝熱の記事では、熱量 \(Q\) と伝熱速度 \(\dot Q\) を文脈から区別します。
伝熱の3つの形態
| 形態 | 熱の移動方法 | 代表例 | 基本式 |
|---|---|---|---|
| 熱伝導 | 物質内部の微視的なエネルギー伝達 | 金属板、断熱材、配管壁 | Fourierの法則 |
| 対流 | 固体表面と移動する流体の間の伝熱 | 管内流、空冷、水冷 | Newtonの冷却則 |
| 放射 | 電磁波によるエネルギー伝達 | 炉壁、太陽、赤熱した物体 | Stefan–Boltzmannの法則 |
実際の装置では、これらが同時に起こります。たとえば高温流体から低温流体へ熱交換する場合、
- 高温流体から壁面へ対流
- 壁の内部を熱伝導
- 壁面から低温流体へ対流
という経路を通ります。高温では放射も無視できないことがあります。
熱伝導とは
熱伝導は、物質全体が大きく移動することなく、分子の振動や自由電子などによって熱エネルギーが伝わる現象です。
金属スプーンの先端を温めると持ち手まで熱くなる現象や、建物の壁を通して室内の熱が外へ逃げる現象が熱伝導です。
Fourierの法則
\(x\) 方向の一次元熱伝導に対するFourierの法則は、
\[
\boxed{
q_x”
=
-k\frac{dT}{dx}
}
\]
です。
- \(q_x”\):\(x\) 方向の熱流束 \(\mathrm{W/m^2}\)
- \(k\):熱伝導率 \(\mathrm{W/(m\,K)}\)
- \(dT/dx\):温度勾配 \(\mathrm{K/m}\)
負号は、熱が温度の高い方向から低い方向へ流れることを表します。温度が \(x\) とともに低下して \(dT/dx<0\) なら、\(q_x''>0\) となります。
平板の定常一次元熱伝導
厚さ \(L\) の平板で、熱伝導率が一定、内部発熱がなく、両表面温度が \(T_h\) と \(T_c\) の場合、温度分布は直線になります。
\[
\frac{dT}{dx}
=
\frac{T_c-T_h}{L}
\]
したがって、熱流束は、
\[
q”
=
k\frac{T_h-T_c}{L}
\]
面積 \(A\) を通る伝熱速度は、
\[
\boxed{
\dot Q_{\mathrm{cond}}
=
kA\frac{T_h-T_c}{L}
}
\]
です。
熱伝導率kの意味
熱伝導率 \(k\) が大きい材料ほど熱をよく通します。金属は一般に \(k\) が大きく、空気を多く含む断熱材は小さくなります。
| 材料 | 室温付近の熱伝導率の目安 \(\mathrm{W/(m\,K)}\) |
|---|---|
| 銅 | 約390 |
| 炭素鋼 | 約40~60 |
| ガラス | 約0.7~1.0 |
| 水 | 約0.6 |
| 空気 | 約0.026 |
| 一般的な断熱材 | 約0.02~0.05 |
熱伝導率は温度、組成、密度、構造などで変化します。設計では対象温度に対応する物性値を使用します。
例題1:平板を通る熱伝導
次の条件で壁を通過する伝熱速度を求めます。
- 熱伝導率:\(k=0.80\ \mathrm{W/(m\,K)}\)
- 面積:\(A=10\ \mathrm{m^2}\)
- 厚さ:\(L=0.20\ \mathrm{m}\)
- 高温側表面温度:\(T_h=30\ ^\circ\mathrm{C}\)
- 低温側表面温度:\(T_c=10\ ^\circ\mathrm{C}\)
\[
\dot Q
=
kA\frac{T_h-T_c}{L}
\]
\[
\dot Q
=
0.80\times10
\times
\frac{30-10}{0.20}
=
800\ \mathrm{W}
\]
\[
\boxed{
\dot Q=800\ \mathrm{W}
}
\]
熱流束は、
\[
q”
=
\frac{\dot Q}{A}
=
\frac{800}{10}
=
80\ \mathrm{W/m^2}
\]
です。
対流とは
対流は、固体表面と流体の間で、熱伝導と流体運動が組み合わさって起こる伝熱です。
流体は固体表面で静止するという非すべり条件を満たすため、表面のごく近くでは熱が主に熱伝導で移動します。その熱が流体の運動によって運び去られることで、全体として対流伝熱になります。
自然対流と強制対流
- 自然対流:温度差による密度差と浮力で流れが生じる
- 強制対流:ポンプ、ファン、送風機などで流れを作る
鍋の中で温かい水が上昇するのは自然対流、熱交換器の管内へポンプで水を流すのは強制対流です。
Newtonの冷却則
固体表面温度を \(T_s\)、表面から十分離れた流体の代表温度を \(T_\infty\) とすると、
\[
\boxed{
\dot Q_{\mathrm{conv}}
=
hA(T_s-T_\infty)
}
\]
です。
- \(h\):対流熱伝達係数 \(\mathrm{W/(m^2\,K)}\)
- \(T_s\):固体表面温度
- \(T_\infty\):流体のバルク温度または主流温度
熱伝達係数hは物性値ではない
\(h\) は熱伝導率 \(k\) のような単純な物性値ではありません。次の条件に依存します。
- 流体の種類と物性
- 流速とレイノルズ数
- 自然対流か強制対流か
- 表面形状と寸法
- 流れが層流か乱流か
- 沸騰や凝縮を伴うか
実際には、Nusselt数の相関式や実験データから \(h\) を求めます。
例題2:表面から空気への対流伝熱
温度80℃、面積2.0 \(\mathrm{m^2}\) の表面が、20℃の空気に接しています。対流熱伝達係数を15 \(\mathrm{W/(m^2\,K)}\) として、対流による放熱速度を求めます。
\[
\dot Q_{\mathrm{conv}}
=
hA(T_s-T_\infty)
\]
\[
\dot Q_{\mathrm{conv}}
=
15\times2.0\times(80-20)
=
1800\ \mathrm{W}
\]
\[
\boxed{
\dot Q_{\mathrm{conv}}
=
1.80\ \mathrm{kW}
}
\]
温度差が2倍になり、\(h\) が同じなら、対流伝熱速度も2倍になります。
熱放射とは
熱放射は、物体が温度に応じて放出・吸収する電磁波による熱移動です。熱伝導や対流と異なり、物質が存在しない真空中でも起こります。
太陽から地球へ熱が届くことや、離れた炉壁から強い熱を感じることが放射の例です。
Stefan–Boltzmannの法則
理想的な黒体が単位面積から放射するエネルギーは、
\[
E_b=\sigma T^4
\]
です。実在表面では放射率 \(\varepsilon\) を使い、広い等温周囲との正味放射伝熱を単純化すると、
\[
\boxed{
\dot Q_{\mathrm{rad}}
=
\varepsilon\sigma A
\left(
T_s^4-T_{\mathrm{sur}}^4
\right)
}
\]
となります。
- \(\varepsilon\):放射率 \(0\le\varepsilon\le1)\)
- \(\sigma\):Stefan–Boltzmann定数 \(5.670374419\times10^{-8}\ \mathrm{W/(m^2\,K^4)}\)
- \(T_s\):表面絶対温度 \(\mathrm{K}\)
- \(T_{\mathrm{sur}}\):周囲の代表絶対温度 \(\mathrm{K}\)
最重要:放射の4乗則へ代入する温度は、必ず絶対温度Kです。℃をそのまま4乗してはいけません。
放射率とは
放射率 \(\varepsilon\) は、同じ温度の黒体と比べて、その表面がどの程度熱放射を出すかを示す量です。
一般に、酸化した表面や塗装面は放射率が高く、磨かれた金属表面は低い傾向があります。放射率は材質だけでなく、表面状態、温度、波長でも変化します。
例題3:高温表面から周囲への放射
次の条件で正味放射伝熱速度を求めます。
- 表面温度:\(T_s=500\ \mathrm{K}\)
- 周囲温度:\(T_{\mathrm{sur}}=300\ \mathrm{K}\)
- 面積:\(A=1.5\ \mathrm{m^2}\)
- 放射率:\(\varepsilon=0.80\)
\[
\dot Q_{\mathrm{rad}}
=
0.80
\times
5.670374419\times10^{-8}
\times
1.5
\times
(500^4-300^4)
\]
\[
\dot Q_{\mathrm{rad}}
=
3702\ \mathrm{W}
\]
\[
\boxed{
\dot Q_{\mathrm{rad}}
\approx
3.70\ \mathrm{kW}
}
\]
放射伝熱は絶対温度の4乗に関係するため、高温になるほど急速に重要になります。
熱抵抗とは
熱移動を電気回路に似た形で整理すると、複数の伝熱過程を扱いやすくなります。
電流に対応するのが伝熱速度 \(\dot Q\)、電位差に対応するのが温度差 \(\Delta T\)、電気抵抗に対応するのが熱抵抗 \(R\) です。
\[
\boxed{
\dot Q
=
\frac{\Delta T}{R}
}
\]
平板の熱伝導抵抗
\[
\boxed{
R_{\mathrm{cond}}
=
\frac{L}{kA}
}
\]
対流熱抵抗
\[
\boxed{
R_{\mathrm{conv}}
=
\frac{1}{hA}
}
\]
複数の熱抵抗が直列に並ぶ場合は、電気抵抗と同じように足し合わせます。
\[
R_{\mathrm{total}}
=
R_1+R_2+\cdots
\]
流体・壁・流体の伝熱
高温流体から平板壁を通して低温流体へ熱が移動する場合、
\[
R_{\mathrm{total}}
=
\frac{1}{h_hA}
+
\frac{L}{kA}
+
\frac{1}{h_cA}
\]
です。
高温側バルク温度を \(T_{h,\infty}\)、低温側バルク温度を \(T_{c,\infty}\) とすると、
\[
\boxed{
\dot Q
=
\frac{
T_{h,\infty}-T_{c,\infty}
}{
\dfrac{1}{h_hA}
+
\dfrac{L}{kA}
+
\dfrac{1}{h_cA}
}
}
\]
となります。
この考え方を面積基準の総括熱伝達係数 \(U\) にまとめると、
\[
\dot Q=UA\Delta T
\]
という熱交換器でよく使う形につながります。
例題4:対流と壁伝導を含む伝熱
例題1の壁について、表面温度ではなく、高温側流体30℃、低温側流体10℃とします。
- \(h_h=10\ \mathrm{W/(m^2\,K)}\)
- \(h_c=25\ \mathrm{W/(m^2\,K)}\)
- \(A=10\ \mathrm{m^2}\)
- \(L=0.20\ \mathrm{m}\)
- \(k=0.80\ \mathrm{W/(m\,K)}\)
各熱抵抗
\[
R_h
=
\frac{1}{10\times10}
=
0.010\ \mathrm{K/W}
\]
\[
R_{\mathrm{wall}}
=
\frac{0.20}{0.80\times10}
=
0.025\ \mathrm{K/W}
\]
\[
R_c
=
\frac{1}{25\times10}
=
0.004\ \mathrm{K/W}
\]
全熱抵抗と伝熱速度
\[
R_{\mathrm{total}}
=
0.010+0.025+0.004
=
0.039\ \mathrm{K/W}
\]
\[
\dot Q
=
\frac{30-10}{0.039}
=
513\ \mathrm{W}
\]
\[
\boxed{
\dot Q
\approx
0.513\ \mathrm{kW}
}
\]
壁表面温度を30℃と10℃に固定した例題1の800 Wより小さくなりました。流体と壁の間にも対流熱抵抗があるためです。
定常伝熱と非定常伝熱
定常伝熱
各位置の温度が時間とともに変化しない状態です。
\[
\frac{\partial T}{\partial t}=0
\]
伝熱が起きていても、温度分布が一定なら定常状態です。
非定常伝熱
加熱開始直後や冷却途中のように、物体内部の温度が時間とともに変化する状態です。
\[
\frac{\partial T}{\partial t}\ne0
\]
非定常伝熱では、熱伝導率だけでなく、密度と比熱を含む熱拡散率が重要になります。
\[
\alpha
=
\frac{k}{\rho c_p}
\]
熱拡散率が大きい材料ほど、温度変化が内部へ速く伝わります。
3つの伝熱形態を見分けるコツ
- 物体内部や接触面を通る:まず熱伝導を考える
- 固体表面と動く流体の間:対流を考える
- 離れた物体間や真空中:放射を考える
- 高温装置:放射を無視できない可能性が高い
- 実際の装置:複数の形態が同時に起きる
真空中では流体のバルク運動がないため対流は起こりませんが、固体部材を通る熱伝導と表面間の放射は起こります。
よくある間違い
熱量Qと伝熱速度を混同する
\(Q\) はJ、\(\dot Q\) はWです。1時間に移動した熱量を求めるなら、伝熱速度に時間を掛けます。
\[
Q=\dot Q\,t
\]
熱伝導率kと熱伝達係数hを混同する
\(k\) は材料内部の熱伝導を表す物性値で、単位は \(\mathrm{W/(m\,K)}\) です。\(h\) は表面と流体間の対流を表し、単位は \(\mathrm{W/(m^2\,K)}\) です。
放射式に℃を代入する
Stefan–Boltzmannの法則では必ずKを使います。温度差だけを使う熱伝導・対流では、Kと℃の差は同じです。
対流の温度差に間違った温度を使う
Newtonの冷却則では、固体表面温度と流体の代表温度の差を使います。壁の反対側の流体温度を直接使うわけではありません。
面積や厚さの単位をそろえない
mmをmへ直さずに代入すると、1000倍の誤差になることがあります。
高温でも放射を無視する
放射は絶対温度の4乗に依存します。炉、燃焼装置、高温配管などでは、対流と放射を合わせて評価します。
まとめ
- 伝熱は温度差によって熱エネルギーが移動する現象
- 熱伝導・対流・放射の3つの形態がある
- 伝熱速度 \(\dot Q\) の単位はW、熱流束 \(q”\) の単位は \(\mathrm{W/m^2}\)
- 熱伝導はFourierの法則 \(q”=-k\,dT/dx\)
- 対流はNewtonの冷却則 \(\dot Q=hA(T_s-T_\infty)\)
- 放射はStefan–Boltzmannの法則 \(\dot Q=\varepsilon\sigma A(T_s^4-T_{\mathrm{sur}}^4)\)
- 放射の温度には絶対温度Kを使う
- 熱抵抗を使うと複数の伝熱過程を直列回路のように整理できる
- 実際の装置では複数の伝熱形態が同時に起こる
次は伝熱分野を一段深め、平板・円筒壁の熱伝導と熱抵抗を、配管断熱の例題を使って詳しく解説します。

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