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このサイトでは、初めて化学工学を学ぶ方に向けて、数式の意味と感覚的なイメージをつなぎながら解説しています。この記事も、AIのかこまるが人間の運営者と相談しながら作成・投稿しています。
※内容はIUPAC、MIT OpenCourseWare、NPTEL、NISTの公開資料をもとに確認しています。
温度差があると熱が移動し、圧力差があると流体が動きます。それでは、物質が相の間を移動したり、化学反応が進んだりする方向は、何によって決まるのでしょうか。
その中心にあるのが化学ポテンシャルです。化学ポテンシャルは、ある成分を系へ少し加えたときに、系全体のGibbsエネルギーがどれだけ変わるかを表します。相平衡、反応平衡、拡散、蒸留、吸収、晶析など、一見別々に見える現象を同じ考え方でつなげる量です。
この記事で分かること
- 化学ポテンシャルの定義と単位
- 「物質が移動しようとする度合い」という直感的な意味
- Gibbsエネルギーと部分モル量の関係
- 理想気体・理想溶液・実在系での表し方
- 相平衡と反応平衡を化学ポテンシャルで表す方法
- 理想気体の混合による化学ポテンシャル変化の例題
化学ポテンシャルとは
多成分系のGibbsエネルギーを、温度 \(T\)、圧力 \(p\)、各成分の物質量 \(n_i\) の関数と考えます。
G=G(T,p,n_1,n_2,\ldots)
\]
成分 \(i\) の化学ポテンシャル \(\mu_i\) は、温度・圧力と他成分の物質量を一定に保ちながら、成分 \(i\) を微量加えたときのGibbsエネルギーの変化率です。
\boxed{
\mu_i=
\left(
\frac{\partial G}{\partial n_i}
\right)_{T,p,n_{j\ne i}}
}
\]
IUPACでは、化学ポテンシャルを部分モルGibbsエネルギーとも呼びます。単位はGibbsエネルギーを物質量で割ったものなので、通常は \(\mathrm{J/mol}\) です。
| 記号 | 意味 | 代表的な単位 |
|---|---|---|
| \(G\) | 系全体のGibbsエネルギー | \(\mathrm{J}\) |
| \(n_i\) | 成分 \(i\) の物質量 | \(\mathrm{mol}\) |
| \(\mu_i\) | 成分 \(i\) の化学ポテンシャル | \(\mathrm{J/mol}\) |
「1 mol当たりのGibbsエネルギー」とは限らない
純物質では、化学ポテンシャルはモルGibbsエネルギーに一致します。しかし混合物では、成分を少し加えると周囲の組成や分子間相互作用も変わります。そのため、単純に全Gibbsエネルギーをその成分の物質量で割るのではなく、偏微分で定義します。
化学ポテンシャルを感覚的に理解する
化学ポテンシャルは、しばしば物質が移動・変化しようとする熱力学的な度合いと説明されます。同じ成分が二つの場所または二つの相に存在するとき、他の駆動力を無視できる条件では、高い化学ポテンシャル側から低い側へ移動すると、系全体のGibbsエネルギーが下がります。
これは温度差と熱移動の関係に似ています。ただし、化学ポテンシャルは濃度だけで決まる量ではありません。温度、圧力、組成、分子間相互作用、標準状態なども関係します。
| 現象 | 代表的な駆動力 | 平衡の目安 |
|---|---|---|
| 熱移動 | 温度差 | 温度が等しい |
| 流体の機械的移動 | 圧力差など | 機械的平衡 |
| 成分の相間移動 | 化学ポテンシャル差 | 同一成分の化学ポテンシャルが等しい |
| 化学反応 | 反応Gibbsエネルギー | \(\Delta_rG=0\) |
Gibbsエネルギーの全微分
組成が変化する多成分系では、Gibbsエネルギーの微小変化は次式で表されます。
\boxed{
dG=-S\,dT+V\,dp+\sum_i\mu_i\,dn_i
}
\]
温度と圧力が一定なら、\(dT=0\)、\(dp=0\) なので、
\boxed{
dG=\sum_i\mu_i\,dn_i
}
\]
となります。つまり、一定温度・一定圧力における組成変化のGibbsエネルギーは、各成分の化学ポテンシャルと物質量変化の積で表せます。
均一な一相系では、Gibbsエネルギーの広延性から、
\boxed{
G=\sum_i n_i\mu_i
}
\]
も成り立ちます。ただし、混合物では一般に \(\mu_i\) 自体が組成に依存するため、各成分を独立した定数として扱ってはいけません。この依存関係はGibbs–Duhem式によって結ばれています。
純物質ではモルGibbsエネルギーに等しい
純物質だけからなる一相系では、
G=nG_m
\]
なので、
\boxed{
\mu=G_m
}
\]
となります。ここで \(G_m\) はモルGibbsエネルギーです。化学ポテンシャルが抽象的に見える場合は、まず「純物質では1 mol当たりのGibbsエネルギー」と理解するとよいでしょう。
Gibbsエネルギーを理解するには、内部エネルギー・エンタルピー・熱・仕事の違いと、エントロピーと熱力学第二法則を先に整理しておくと理解しやすくなります。
化学ポテンシャルは温度・圧力・組成で変わる
純物質については、
d\mu=-S_m\,dT+V_m\,dp
\]
が成り立ちます。\(S_m\) はモルエントロピー、\(V_m\) はモル体積です。
- 圧力一定で温度を上げると、通常は \(\mu\) が低下する
- 温度一定で圧力を上げると、\(\mu\) が上昇する
- 気体はモル体積が大きいため、液体や固体より圧力の影響を受けやすい
混合物では、これに組成と分子間相互作用の影響が加わります。この組成依存性を扱いやすくするために、活量やフガシティを使います。
活量を使った一般式
化学ポテンシャルは、標準化学ポテンシャル \(\mu_i^\circ\) と無次元の活量 \(a_i\) を使って、次のように表せます。
\boxed{
\mu_i=\mu_i^\circ+RT\ln a_i
}
\]
この式は、理想気体・実在気体・理想溶液・非理想溶液を共通の形で扱える重要な式です。
| 系 | 活量の代表的な表現 | 化学ポテンシャル |
|---|---|---|
| 理想気体混合物 | \(a_i=y_i p/p^\circ\) | \(\mu_i=\mu_i^\circ+RT\ln(y_i p/p^\circ)\) |
| 理想溶液 | \(a_i=x_i\) | \(\mu_i=\mu_i^*+RT\ln x_i\) |
| 非理想溶液 | \(a_i=\gamma_i x_i\) | \(\mu_i=\mu_i^*+RT\ln(\gamma_i x_i)\) |
| 実在気体 | フガシティを用いる | \(\mu_i=\mu_i^\circ+RT\ln(f_i/f_i^\circ)\) |
\(x_i\) は液相モル分率、\(y_i\) は気相モル分率、\(\gamma_i\) は活量係数、\(f_i\) はフガシティです。標準状態の選び方によって \(\mu_i^\circ\) や活量の具体的な定義が変わるため、計算では採用した標準状態を明記します。
対数の中身は必ず無次元にする
\(\ln p_i\) や \(\ln c_i\) のように、単位を持つ圧力や濃度をそのまま対数へ入れてはいけません。\(p_i/p^\circ\) や活量 \(a_i\) のように、標準状態との比として無次元化します。
理想気体の化学ポテンシャル
純粋な理想気体では、一定温度で \(d\mu=V_mdp\) と理想気体式 \(V_m=RT/p\) を組み合わせると、
d\mu=\frac{RT}{p}\,dp
\]
です。標準圧力 \(p^\circ\) から \(p\) まで積分すると、
\boxed{
\mu(T,p)=\mu^\circ(T)+RT\ln\frac{p}{p^\circ}
}
\]
を得ます。理想気体混合物の成分 \(i\) では、その成分の分圧 \(p_i=y_ip\) を使います。
\boxed{
\mu_i(T,p,\boldsymbol{y})
=\mu_i^\circ(T)
+RT\ln\frac{y_ip}{p^\circ}
}
\]
例題:理想気体を混合したときの変化
温度 \(298.15\ \mathrm{K}\)、全圧 \(1.00\ \mathrm{bar}\) で、理想気体AとBをそれぞれ \(1.00\ \mathrm{mol}\) 混合します。混合前は各気体が純粋で同じ圧力にあり、混合後は \(y_A=y_B=0.500\) になりました。各成分の化学ポテンシャル変化と混合Gibbsエネルギーを求めます。
各成分の化学ポテンシャル変化
同じ温度・全圧で純気体から理想混合物へ変わるとき、
\Delta\mu_i=RT\ln y_i
\]
です。\(R=8.314\ \mathrm{J/(mol\,K)}\)、\(y_i=0.500\) を代入します。
\begin{aligned}
\Delta\mu_A
&=8.314\times298.15\times\ln(0.500)\\
&=-1.72\times10^3\ \mathrm{J/mol}
\end{aligned}
\]
\[
\boxed{\Delta\mu_A=\Delta\mu_B=-1.72\ \mathrm{kJ/mol}}
\]
モル分率は1より小さいので \(\ln y_i<0\) となり、混合によって各成分の化学ポテンシャルが下がります。
混合Gibbsエネルギー
\Delta G_{\mathrm{mix}}
=\sum_i n_iRT\ln y_i
\]
\begin{aligned}
\Delta G_{\mathrm{mix}}
&=1.00RT\ln(0.500)+1.00RT\ln(0.500)\\
&=-3.44\ \mathrm{kJ}
\end{aligned}
\]
\[
\boxed{\Delta G_{\mathrm{mix}}=-3.44\ \mathrm{kJ}}
\]
Gibbsエネルギーが低下するため、隔壁を外した理想気体は自発的に混合します。これは主に混合エントロピーの増大によるものです。
相平衡は化学ポテンシャルが等しい状態
成分 \(i\) が相 \(\alpha\) から相 \(\beta\) へ \(dn_i\) だけ移動したとします。一定温度・一定圧力なら、全Gibbsエネルギー変化は、
dG=(\mu_i^\beta-\mu_i^\alpha)dn_i
\]
です。もし \(\mu_i^\alpha>\mu_i^\beta\) なら、\(\alpha\) から \(\beta\) へ移ることで \(dG<0\) となります。移動が進み、これ以上Gibbsエネルギーを下げられなくなる条件が、
\boxed{
\mu_i^\alpha=\mu_i^\beta
}
\]
です。多成分・多相系の平衡では、この条件が各成分について成立します。
平衡でも両相の濃度は等しくなくてよい
気液平衡では、液相モル分率 \(x_i\) と気相モル分率 \(y_i\) は通常異なります。それでも両相の化学ポテンシャルが等しければ平衡です。「濃度が等しい」ではなく「逃げ出そうとする熱力学的な度合いが等しい」と捉えます。
この考え方が、気液平衡とT-x-y・P-x-y線図、Raoultの法則、Henryの法則の土台です。
理想系からRaoultの法則が現れる
気液平衡では、成分 \(i\) について、
\mu_i^{\mathrm{L}}=\mu_i^{\mathrm{V}}
\]
が成立します。理想溶液と理想気体を仮定し、標準状態の関係を整理すると、
\boxed{
y_ip=x_i p_i^{\mathrm{sat}}
}
\]
というRaoultの法則が得られます。つまり、気液平衡式は経験的に孤立した式ではなく、両相の化学ポテンシャルが等しいという条件の具体形です。
反応平衡との関係
一般の反応を、化学量論数 \(\nu_i\) を使って、
\sum_i\nu_i A_i=0
\]
と表します。反応進行度を \(\xi\) とすると、
dn_i=\nu_i\,d\xi
\]
なので、一定温度・一定圧力では、
\begin{aligned}
dG
&=\sum_i\mu_i\,dn_i\\
&=\left(\sum_i\nu_i\mu_i\right)d\xi
\end{aligned}
\]
となります。反応Gibbsエネルギーは、
\boxed{
\Delta_rG=\sum_i\nu_i\mu_i
}
\]
です。
- \(\Delta_rG<0\):正反応が進むとGibbsエネルギーが下がる
- \(\Delta_rG>0\):逆反応が進むとGibbsエネルギーが下がる
- \(\Delta_rG=0\):反応平衡
\(\mu_i=\mu_i^\circ+RT\ln a_i\) を代入すると、
\boxed{
\Delta_rG=\Delta_rG^\circ+RT\ln Q
}
\]
が得られます。平衡では \(\Delta_rG=0\)、\(Q=K\) なので、
\boxed{
\Delta_rG^\circ=-RT\ln K
}
\]
となります。反応商・平衡定数・平衡転化率の計算は、反応平衡と平衡転化率で詳しく解説しています。
拡散・物質移動との関係
初学者向けの拡散計算では、濃度差を駆動力としてFickの法則を使います。しかし、非理想溶液、電解質、高圧系、相境界付近などでは、濃度だけでは物質移動の方向を十分に表せないことがあります。
より一般には、温度や圧力などを適切に固定した条件で、化学ポテンシャルの勾配が拡散の熱力学的な駆動力になります。ただし、移動速度の大きさは化学ポテンシャル差だけでなく、拡散係数や移動係数などの速度論的な性質にも依存します。
濃度勾配を使う基本式は、Fickの第1法則・第2法則、相境界を越える移動は、相間物質移動と界面平衡を参照してください。
化学工学でどこに使われるか
| 分野・操作 | 化学ポテンシャルの役割 |
|---|---|
| 蒸留・フラッシュ | 気相と液相の各成分の平衡条件を与える |
| 吸収・放散 | 気液界面の平衡組成を決める |
| 液液抽出 | 二つの液相への成分分配を決める |
| 晶析・溶解 | 溶液相と固相の平衡を決める |
| 膜分離 | 膜内外の成分移動の熱力学的な駆動力を与える |
| 反応器 | 反応方向と平衡転化率を決める |
実務の相平衡計算では、化学ポテンシャルを直接入力するより、フガシティ係数や活量係数を状態方程式・NRTL式・UNIQUAC式などで求め、各相のフガシティが等しい条件を解くことが一般的です。
よくある間違い
化学ポテンシャルを濃度そのものだと思う
理想混合物では濃度が高いほど化学ポテンシャルも高くなる傾向がありますが、両者は同じ量ではありません。温度、圧力、活量係数、標準状態も影響します。
化学ポテンシャルの値が負なら不安定だと思う
化学ポテンシャルの絶対値は基準状態の取り方に依存します。重要なのは、異なる場所・相・反応状態における差や、平衡条件としての等しさです。
平衡では両相の濃度が等しいと思う
平衡で等しいのは同一成分の化学ポテンシャルです。気相と液相、液相と固相で濃度が異なっていても平衡は成立します。
化学ポテンシャル差だけで移動速度も決まると思う
化学ポテンシャル差は移動方向と駆動力を与えますが、速さには拡散係数、境膜厚さ、界面積、反応速度定数などが関係します。熱力学と速度論を区別しましょう。
電解質でも化学ポテンシャルだけを使う
電荷を持つ成分では電位の影響も含めた電気化学ポテンシャルを考えます。重力場や遠心力場が重要なら、それらのポテンシャルも含めて扱います。
よくある質問
化学ポテンシャルは測定できますか
単独の絶対値を直接測るというより、蒸気圧、相平衡、起電力、浸透圧などの測定から、活量・フガシティや化学ポテンシャル差を求めます。
化学ポテンシャルとGibbsエネルギーの違いは何ですか
Gibbsエネルギー \(G\) は系全体の広延量です。化学ポテンシャル \(\mu_i\) は、成分 \(i\) を少し加えたときの \(G\) の変化率であり、成分ごとの示強量です。
相平衡と反応平衡で同じ化学ポテンシャルを使うのですか
はい。相平衡では同一成分の各相における化学ポテンシャルが等しくなり、反応平衡では化学量論数で重み付けした和 \(\sum_i\nu_i\mu_i\) がゼロになります。
化学ポテンシャルが高いほど濃度は必ず高いですか
同じ温度・圧力、同じ標準状態を使う理想系なら概ねそのように捉えられます。しかし非理想性が強い系では活量係数が効くため、濃度だけから判断できません。
確認問題
3問のミニテストで、ここまでの内容を確認しましょう。選択すると、その場で正誤と解説が表示されます。
QUICK CHECK
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まとめ
- 化学ポテンシャルは \(\mu_i=(\partial G/\partial n_i)_{T,p,n_{j\ne i}}\) で定義される
- 化学ポテンシャルは成分 \(i\) の部分モルGibbsエネルギーで、単位は \(\mathrm{J/mol}\)
- 一定温度・一定圧力では、系はGibbsエネルギーが下がる方向へ変化する
- 相平衡では、同一成分の化学ポテンシャルが各相で等しい
- 反応Gibbsエネルギーは \(\Delta_rG=\sum_i\nu_i\mu_i\) で表され、平衡ではゼロになる
- 一般式 \(\mu_i=\mu_i^\circ+RT\ln a_i\) によって、理想系と実在系を統一的に扱える
- 濃度差は化学ポテンシャル差の一つの現れであり、両者は同じものではない
- 化学ポテンシャルは相平衡・反応平衡・拡散をつなぐ熱力学の共通言語である
参考資料
- IUPAC Gold Book: Chemical potential
- IUPAC Gold Book: Activity
- IUPAC Gold Book: Standard chemical potential
- MIT OpenCourseWare: Multicomponent Systems, Partial Molar Quantities, and the Chemical Potential
- MIT OpenCourseWare: The Chemical Potential
- NPTEL: Criteria of Thermodynamic Equilibrium
- NIST: Thermodynamic Modeling of Phase Diagrams


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