蒸気圧とは?飽和蒸気圧・沸点・クラウジウス=クラペイロン式を例題で解説

蒸気圧とは?飽和蒸気圧・沸点・クラウジウス=クラペイロン式を例題で解説 相平衡・蒸気圧

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蒸気圧は、蒸留、乾燥、蒸発、沸騰、凝縮、真空操作、ポンプのキャビテーションなど、多くの化学工学分野をつなぐ基礎物性です。

「水は100 ℃で沸騰する」と覚えている方も多いでしょう。しかし、山の上や真空装置では100 ℃より低い温度で沸騰します。これは、沸点が物質だけでなく周囲の圧力によって変わるためです。その関係を決めるのが蒸気圧です。

この記事で分かること

  • 蒸気圧と飽和蒸気圧の意味
  • 蒸発と沸騰の違い
  • 温度が高いほど蒸気圧が上がる理由
  • 蒸気圧と沸点・凝縮温度の関係
  • クラペイロン式とクラウジウス=クラペイロン式の意味
  • アントワン式の使い方と注意点
  • 水の蒸気圧と減圧沸点の計算方法
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蒸気圧とは

液体を密閉容器に入れると、一部の分子が液面から飛び出して蒸気になります。これを蒸発といいます。同時に、蒸気中の分子の一部は液面へ戻って液体になります。こちらは凝縮です。

十分に時間がたち、単位時間に蒸発する分子数と凝縮する分子数が等しくなると、見かけ上は変化しない状態になります。

\[
\text{蒸発速度}=\text{凝縮速度}
\]

この状態を気液平衡といい、気液平衡にある蒸気が示す圧力を飽和蒸気圧 \(P_{\mathrm{sat}}\) といいます。工学で単に「蒸気圧」と呼ぶ場合は、この飽和蒸気圧を指すことが一般的です。

平衡でも分子は動き続けている

気液平衡は、蒸発も凝縮も止まった静止状態ではありません。両方が同じ速さで進んでいる動的平衡です。

蒸気圧は純物質では温度によって決まる

純物質で液相と気相が共存し、平衡にあるとき、飽和蒸気圧は基本的に温度だけで決まります。液体の量や容器の大きさを変えても、両相が残って平衡に達する限り、同じ温度なら蒸気圧は同じです。

ただし、液体がすべて蒸発してしまうほど少ない場合は、飽和状態に到達しないため、この説明は当てはまりません。

蒸気圧が高い物質は揮発しやすい

同じ温度で比べると、蒸気圧が高い物質ほど気相へ移りやすく、一般に揮発性が高いといえます。たとえば、常温でエタノールが水より速く蒸発しやすいことは、エタノールの蒸気圧が水より高いことと関係しています。

蒸発と沸騰は何が違うのか

比較項目 蒸発 沸騰
起こる場所 主に液体表面 液体内部と表面
気泡 必ずしも生じない 液体内部に蒸気泡が生じる
温度条件 沸点未満でも起こる 蒸気圧が周囲の圧力に達すると起こる
室温で洗濯物が乾く 鍋の水が内部から泡立つ

沸騰は、液体の飽和蒸気圧が液体に作用する圧力に等しくなったときに始まります。単純化すると、

\[
P_{\mathrm{sat}}(T_b)=P_{\mathrm{sur}}
\]

です。ここで \(T_b\) は沸点、\(P_{\mathrm{sur}}\) は液体を取り囲む圧力です。

1標準大気圧は101.325 kPaです。水の飽和蒸気圧が101.325 kPaになる温度が約100 ℃なので、「水は1気圧で100 ℃で沸騰する」のです。

沸騰時の気泡生成や沸騰曲線については、沸騰伝熱の基礎で詳しく解説しています。

圧力は必ず絶対圧力で比較する

蒸気圧は真空を基準とする絶対圧力です。ゲージ圧とそのまま比較してはいけません。絶対圧力とゲージ圧の違いは、圧力の基礎を参照してください。

温度が高いほど蒸気圧が上がる理由

液体中の分子は、すべて同じ速さで動いているわけではありません。温度が上がると分子の平均運動エネルギーが増え、分子間力を振り切って液面から飛び出せる分子が増えます。

その結果、気液平衡時に気相へ存在する分子数が増え、蒸気圧が上昇します。蒸気圧の上昇は直線的ではなく、高温になるほど急になります。

水の飽和蒸気圧の例

温度 水の飽和蒸気圧の概略値
0 ℃ 0.61 kPa
20 ℃ 2.34 kPa
40 ℃ 7.38 kPa
60 ℃ 19.9 kPa
80 ℃ 47.4 kPa
100 ℃ 101.3 kPa

20 ℃から40 ℃へ温度が2倍になったわけではありませんが、蒸気圧は約3.2倍になります。蒸気圧と温度の非線形な関係が分かります。

蒸気圧と沸点・凝縮温度の関係

同じ気液平衡曲線を、液体側から見るか、蒸気側から見るかで呼び方が変わります。

図解|蒸気圧曲線と圧力によって変わる沸点
蒸気圧曲線と圧力によって変わる沸点水の飽和蒸気圧は温度上昇とともに増加する。外圧が101.3キロパスカルなら飽和蒸気圧との交点は100度、外圧が30キロパスカルなら交点は約69度となり、減圧すると沸点が下がる。蒸気圧曲線と外圧の交点が、その圧力での沸点になる約69 ℃100 ℃30 kPa101.3 kPa温度 T →飽和蒸気圧外圧30 kPa:69 ℃で沸騰 | 外圧101.3 kPa:100 ℃で沸騰圧力を下げるほど、沸点も下がる
  • ある圧力で液体を加熱し、沸騰し始める温度:沸点
  • ある圧力で蒸気を冷却し、凝縮し始める温度:飽和温度・凝縮温度

純物質の平衡状態では、同じ圧力に対する沸点と凝縮温度は同じです。たとえば、47.4 kPa付近にある水は約80 ℃で沸騰し、同じ圧力の水蒸気は約80 ℃で凝縮します。

冷却面での液膜形成と伝熱量については、凝縮伝熱の基礎で扱っています。

圧力を下げると沸点が下がる

周囲の圧力を下げると、より低い蒸気圧で周囲の圧力に達するため、沸点が下がります。これが減圧蒸留や真空蒸発の基本原理です。

高温で分解しやすい物質でも、減圧すれば低い温度で蒸発・蒸留できます。一方、圧力を高くすると沸点は上昇します。圧力鍋で水が100 ℃を超えても液体として存在できるのはこのためです。

クラペイロン式

気液平衡曲線の傾きは、熱力学から導かれるクラペイロン式で表せます。

\[
\frac{dP_{\mathrm{sat}}}{dT}
=
\frac{h_{fg}}{T(v_g-v_l)}
\]

記号 意味 代表的な単位
\(P_{\mathrm{sat}}\) 飽和蒸気圧 Pa
\(T\) 絶対温度 K
\(h_{fg}\) 単位質量当たりの蒸発潜熱 J/kg
\(v_g\) 飽和蒸気の比体積 m³/kg
\(v_l\) 飽和液の比体積 m³/kg

右辺は通常正なので、

\[
\frac{dP_{\mathrm{sat}}}{dT}>0
\]

となります。つまり、温度が高いほど飽和蒸気圧が高いことを熱力学的に表しています。

また、蒸発潜熱 \(h_{fg}\) が大きいほど、温度変化に対する蒸気圧の変化が大きくなります。クラペイロン式は気液平衡に限らず、固液平衡や固気平衡にも適用できる一般式です。

クラウジウス=クラペイロン式

気液平衡では、通常 \(v_g\gg v_l\) です。さらに蒸気を理想気体とみなし、

\[
v_g\simeq\frac{RT}{P_{\mathrm{sat}}}
\]

と近似すると、クラペイロン式は、

\[
\frac{d\ln P_{\mathrm{sat}}}{dT}
=
\frac{\Delta H_{\mathrm{vap}}}{RT^2}
\]

となります。これがクラウジウス=クラペイロン式です。ここで \(\Delta H_{\mathrm{vap}}\) はモル蒸発エンタルピー、\(R\) は気体定数です。

狭い温度範囲で \(\Delta H_{\mathrm{vap}}\) が一定と近似し、温度 \(T_1\) から \(T_2\) まで積分すると、

\[
\ln\left(\frac{P_2}{P_1}\right)
=
-\frac{\Delta H_{\mathrm{vap}}}{R}
\left(
\frac{1}{T_2}-\frac{1}{T_1}
\right)
\]

を得ます。基準となる蒸気圧 \(P_1\) が分かれば、別の温度 \(T_2\) における蒸気圧 \(P_2\) を概算できます。

計算では絶対温度Kを使う

\(1/T\) を使うため、℃を代入してはいけません。\(T[\mathrm{K}]=t[^\circ\mathrm{C}]+273.15\) と変換します。また、\(\Delta H_{\mathrm{vap}}\) をJ/molで使うなら、\(R=8.314\ \mathrm{J/(mol\cdot K)}\) と単位をそろえます。

式の直線化

積分式は、

\[
\ln P_{\mathrm{sat}}
=
-\frac{\Delta H_{\mathrm{vap}}}{R}\frac{1}{T}+C
\]

とも書けます。したがって、縦軸に \(\ln P_{\mathrm{sat}}\)、横軸に \(1/T\) をとると、蒸発エンタルピーがほぼ一定の範囲では直線になります。その傾きは、

\[
\text{傾き}
=-\frac{\Delta H_{\mathrm{vap}}}{R}
\]

です。蒸気圧データから蒸発エンタルピーを求める実験で使われます。

計算例1:80 ℃における水の蒸気圧

水の標準沸点100 ℃における蒸気圧を \(P_1=101.325\ \mathrm{kPa}\)、モル蒸発エンタルピーを \(\Delta H_{\mathrm{vap}}=40.65\ \mathrm{kJ/mol}\) とし、80 ℃における蒸気圧を概算します。

1. 温度と単位をそろえる

\[
T_1=100+273.15=373.15\ \mathrm{K}
\]

\[
T_2=80+273.15=353.15\ \mathrm{K}
\]

\[
\Delta H_{\mathrm{vap}}
=40.65\times10^3\ \mathrm{J/mol}
\]

2. クラウジウス=クラペイロン式へ代入する

\[
\ln\left(\frac{P_2}{101.325}\right)
=
-\frac{40.65\times10^3}{8.314}
\left(
\frac{1}{353.15}-\frac{1}{373.15}
\right)
\]

\[
\ln\left(\frac{P_2}{101.325}\right)
\simeq -0.742
\]

\[
P_2
=101.325\,e^{-0.742}
\simeq48.2\ \mathrm{kPa}
\]

したがって、80 ℃における水の蒸気圧は約48 kPaと推算されます。NISTのアントワン式による値は約47.4 kPaで、今回の近似値は約1.9 %高い値です。

クラウジウス=クラペイロン式では蒸発エンタルピーを一定としたため、完全には一致しません。それでも、限られた温度範囲の概算として有用です。

計算例2:30 kPaでの水の沸点

同じ近似式を使い、周囲の絶対圧力が30 kPaのときの水の沸点 \(T_2\) を求めます。

\[
\frac{1}{T_2}
=
\frac{1}{T_1}
-\frac{R}{\Delta H_{\mathrm{vap}}}
\ln\left(\frac{P_2}{P_1}\right)
\]

\[
\frac{1}{T_2}
=
\frac{1}{373.15}
-\frac{8.314}{40.65\times10^3}
\ln\left(\frac{30}{101.325}\right)
\]

\[
T_2\simeq341.4\ \mathrm{K}
\]

\[
t_2=341.4-273.15\simeq68.3\ ^\circ\mathrm{C}
\]

したがって、30 kPaでは水は約68 ℃で沸騰すると概算できます。実際の飽和表との差が必要な設計精度を満たすかを確認し、厳密な計算では信頼できる物性データベースや状態方程式を使います。

アントワン式

実務では、蒸気圧を実験データへ合わせたアントワン式もよく使われます。

\[
\log_{10} P_{\mathrm{sat}}
=
A-\frac{B}{T+C}
\]

\(A\)、\(B\)、\(C\) は物質ごとの定数です。クラウジウス=クラペイロン式より広い範囲で実測値を精度よく表せる場合があります。

アントワン式で最も注意すること

  • 圧力の単位がPa、kPa、bar、mmHgのどれかを確認する
  • 温度がKか℃かを確認する
  • 定数の適用温度範囲を守る
  • 別の出典の定数を式へ混ぜない

たとえばNIST Chemistry WebBookの水のデータには、温度範囲ごとに異なる係数が掲載されています。式の形が同じでも、係数と単位系は一組として扱わなければなりません。

どの式を使うべきか

  • 原理を理解し、基準点から概算する:クラウジウス=クラペイロン式
  • 指定範囲内で蒸気圧を実用精度で計算する:アントワン式
  • 広い範囲や高精度の装置設計:IAPWSなどの標準物性式・物性ソフト

化学工学で蒸気圧が重要な場面

蒸留

混合物中の各成分は揮発性が異なります。蒸気圧が高い成分ほど気相へ移りやすい性質を利用して分離するのが蒸留です。理想溶液ではラウールの法則を使い、成分蒸気圧と組成を結びつけます。

蒸発・乾燥

蒸気圧と気相中の成分分圧との差が、蒸発の駆動力になります。減圧すれば沸点が下がるため、熱に弱い食品や医薬品の濃縮・乾燥にも利用できます。

凝縮器

蒸気の圧力に対応する飽和温度より壁面を低温にすると凝縮します。不凝縮ガスが混じる場合は、全圧ではなく凝縮成分の分圧に対応する飽和温度を考える必要があります。

ポンプとキャビテーション

ポンプ入口で液体の局所圧力がその温度の蒸気圧まで低下すると、液体内部に蒸気泡が生じます。これがキャビテーションの始まりです。温度が上がるほど蒸気圧が高くなるため、高温液はキャビテーションを起こしやすくなります。

ポンプ吸込条件との関係は、NPSHとキャビテーションで詳しく解説しています。

よくある間違い

蒸気圧と全圧を同じものだと思う

空気と水蒸気が混じっている場合、水蒸気圧は全圧の一部である分圧です。ダルトンの分圧の法則では、全圧は各成分の分圧の和です。

ゲージ圧を蒸気圧と比較する

蒸気圧、沸騰条件、NPSHでは絶対圧力を使います。真空設備で「−70 kPaG」と示されている場合、その値を30 kPa程度の絶対圧力へ換算してから蒸気圧と比較します。

クラウジウス=クラペイロン式へ℃を代入する

逆数温度を使うため、必ずKへ変換します。℃のまま代入すると物理的に意味のない結果になります。

蒸発エンタルピーの単位を混ぜる

\(\Delta H_{\mathrm{vap}}\) がkJ/molならJ/molへ変換するか、気体定数もkJ/(mol·K)にそろえます。また、質量基準のJ/kgとモル基準のJ/molを混ぜないようにします。

アントワン定数を適用範囲外で使う

アントワン定数は特定の温度範囲の実験データに合わせた係数です。範囲外へ大きく外挿すると誤差が増え、臨界点付近などでは特に注意が必要です。

まとめ

  • 蒸気圧は、液相と気相が平衡にあるときの蒸気の圧力
  • 純物質の飽和蒸気圧は、両相が存在する限り温度によって決まる
  • 蒸気圧が周囲の絶対圧力に等しくなる温度が沸点
  • 温度を上げると蒸気圧は非線形に上昇する
  • クラペイロン式は相平衡曲線の傾きを表す一般式
  • クラウジウス=クラペイロン式は、理想気体などを仮定した気液平衡の近似式
  • アントワン式では係数の単位と適用温度範囲の確認が不可欠
  • 蒸気圧は蒸留、減圧操作、凝縮器、NPSHなどの設計を支える物性

蒸気圧を理解すると、「なぜ減圧すると低温で沸騰するのか」「なぜ高温液でキャビテーションが起こりやすいのか」「蒸気を何℃まで冷やせば凝縮するのか」を一つの原理で説明できます。まずは温度・蒸気圧・沸点の三つを対応づけて考えましょう。

参考資料

確認問題

3問のミニテストで、ここまでの内容を確認しましょう。選択すると、その場で正誤と解説が表示されます。

QUICK CHECK

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化学工学の基礎・初級

このミニテストの回答結果は保存されません。学習記録を残す場合は化工演習室をご利用ください。

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