気液平衡図の読み方とは?T-x-y線図・P-x-y線図を例題で解説

気液平衡図の読み方とは?T-x-y線図・P-x-y線図を例題で解説 蒸留
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二成分の液体を加熱すると、いつ沸騰が始まり、最初に発生する蒸気はどのような組成になるのでしょうか。反対に、混合蒸気を冷却すると、いつ液滴が生じ、その液滴はどのような組成になるのでしょうか。

これらを一目で読み取れるのが気液平衡図です。代表的なものに、一定圧力で温度と組成の関係を表す \(T-x-y\) 線図と、一定温度で圧力と組成の関係を表す \(P-x-y\) 線図があります。

この記事では、泡点線・露点線・二相領域の意味から、タイラインとてこの法則、蒸留で低沸点成分が濃縮される理由まで、初学者向けに順を追って解説します。蒸留装置全体のイメージを先に確認したい方は、蒸留とは?沸点差・気液平衡・蒸留塔の原理をご覧ください。

この記事でわかること

  • 液組成 \(x\)、気相組成 \(y\)、全組成 \(z\) の違い
  • 泡点と露点、泡点線と露点線の意味
  • \(T-x-y\) 線図と \(P-x-y\) 線図の読み方
  • タイラインから平衡な液相・気相組成を読む方法
  • てこの法則で液相量・気相量を計算する方法
  • 気液平衡図と蒸留・フラッシュ計算のつながり
図解|T-x-y線図とP-x-y線図の違い
T-x-y線図とP-x-y線図の違い一定圧力または一定温度で使う気液平衡図と、二相域の位置を比較する。T-x-y線図とP-x-y線図の違い一定圧力または一定温度で使う気液平衡図と、二相域の位置を比較する。1T-x-y線図圧力一定沸点線と露点線2二相領域液組成 x蒸気組成 y3P-x-y線図温度一定泡点圧と露点圧POINT横線の両端を読めば、同じ平衡状態にある液相組成xと蒸気相組成yが得られる式・図の記号は記事本文の定義と対応しています
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気液平衡とは

液体と蒸気を密閉容器に入れて十分に時間を置くと、液体から蒸気へ移る分子と、蒸気から液体へ戻る分子の速度が等しくなります。この巨視的に変化しない状態が気液平衡です。

平衡状態では、液相と気相で温度と圧力が等しいだけでなく、各成分の化学ポテンシャルも等しくなります。成分 \(i\) について、

\[
\boxed{\mu_i^{(L)}=\mu_i^{(V)}}
\]

が気液平衡の本質です。

ただし、平衡にある液体と蒸気の組成まで同じとは限りません。一般に蒸気には揮発しやすい成分が多く含まれ、液体には揮発しにくい成分が多く残ります。この組成差を利用する分離操作が蒸留です。

二成分系の組成記号 \(x\)、\(y\)、\(z\)

成分Aと成分Bからなる二成分系を考えます。Aをより揮発しやすい成分、つまり同じ温度で飽和蒸気圧が高い成分とします。

記号 意味 使う場面
\(x_A\) 液相中のAのモル分率 泡点線、液相組成
\(y_A\) 気相中のAのモル分率 露点線、気相組成
\(z_A\) 液相と気相を合わせた系全体のAのモル分率 フラッシュ計算、てこの法則

二成分系なので、

\[
x_A+x_B=1,\qquad y_A+y_B=1,\qquad z_A+z_B=1
\]

です。Aの組成だけを示せばBの組成も決まります。

最初に確認すること
横軸が液相組成 \(x\) なのか、気相組成 \(y\) なのか、全組成 \(z\) なのかを確認します。同じ0.50でも、どの相を基準にした組成かで意味が変わります。

泡点と露点

気液平衡図を読む前に、泡点と露点を区別しましょう。

泡点:液体から最初の気泡が生じる点

一定圧力で液体を加熱すると、ある温度で最初の気泡が生じます。この温度を泡点温度と呼びます。一定温度で圧力を下げる場合は、最初の気泡が生じる圧力が泡点圧力です。

泡点では、系はほぼすべて液体で、ごく微量の蒸気が発生し始めています。液相組成 \(x\) が既知で、平衡な蒸気組成 \(y\) を求める問題です。

露点:蒸気から最初の液滴が生じる点

一定圧力で蒸気を冷却すると、ある温度で最初の液滴が生じます。この温度を露点温度と呼びます。一定温度で圧力を上げる場合は、最初の液滴が生じる圧力が露点圧力です。

露点では、系はほぼすべて蒸気で、ごく微量の液体が凝縮し始めています。気相組成 \(y\) が既知で、平衡な液相組成 \(x\) を求める問題です。

境界 境界に到達する操作 生じ始める相 基準となる組成
泡点 液体を加熱、または減圧 最初の蒸気泡 液相組成 \(x\)
露点 蒸気を冷却、または加圧 最初の液滴 気相組成 \(y\)

\(T-x-y\) 線図の読み方

\(T-x-y\) 線図は、圧力を一定として、温度と液相・気相組成の関係を表す図です。縦軸が温度 \(T\)、横軸が揮発しやすい成分Aのモル分率です。

通常の非共沸二成分系では、下側が泡点線、上側が露点線になります。

領域 状態 意味
泡点線より下 液相のみ 温度が低く、全量が液体
泡点線と露点線の間 液相+気相 二相が平衡で共存
露点線より上 気相のみ 温度が高く、全量が蒸気

一定組成の液体を加熱する

全組成を \(z_A\) に固定し、線図上で鉛直上向きに進むと考えます。

  1. 泡点線に達するまでは液相のみ
  2. 泡点線で最初の蒸気泡が発生
  3. 二相領域では液体と蒸気が共存
  4. 露点線に達すると最後の液滴が蒸発
  5. 露点線より上では気相のみ

泡点線上の液相組成から水平方向にタイラインを引き、露点線との交点を読めば、最初に生じる蒸気の組成がわかります。Aがより揮発しやすいなら、通常は、

\[
\boxed{y_A>x_A}
\]

となり、蒸気側にAが濃縮されます。

\(P-x-y\) 線図の読み方

\(P-x-y\) 線図は、温度を一定として、圧力と組成の関係を表す図です。縦軸が圧力 \(P\)、横軸が成分Aのモル分率です。

\(T-x-y\) 線図と上下関係が反対に見えるため注意が必要です。通常、上側が泡点線、下側が露点線になります。

領域 状態 直感的な説明
泡点線より上 液相のみ 高圧で蒸気が凝縮しやすい
泡点線と露点線の間 液相+気相 二相が平衡で共存
露点線より下 気相のみ 低圧で液体が蒸発しやすい

一定組成の液体を減圧すると、泡点線で最初の蒸気が生じます。反対に、蒸気を加圧すると、露点線で最初の液滴が生じます。

温度線図と圧力線図の覚え方
高温・低圧ほど気相が安定し、低温・高圧ほど液相が安定します。したがって \(T-x-y\) 線図では上が気相、\(P-x-y\) 線図では下が気相です。

理想溶液ならラウールの法則で描ける

理想溶液かつ気相を理想気体とみなせる場合、液相と気相はラウールの法則とドルトンの分圧の法則で結ばれます。

成分 \(i\) の分圧は、

\[
p_i=x_iP_i^{\mathrm{sat}}(T)
\]

全圧は、

\[
\boxed{P=\sum_i x_iP_i^{\mathrm{sat}}}
\]

です。また、気相組成は、

\[
\boxed{y_i=\frac{p_i}{P}
=\frac{x_iP_i^{\mathrm{sat}}}{P}}
\]

となります。飽和蒸気圧の意味と温度依存性は、蒸気圧とクラウジウス・クラペイロンの式で解説しています。

泡点圧力

温度 \(T\) と液相組成 \(x_i\) が与えられたとき、

\[
\boxed{P_{\mathrm{bub}}=\sum_i x_iP_i^{\mathrm{sat}}(T)}
\]

で泡点圧力を求めます。平衡な気相組成は、

\[
y_i=\frac{x_iP_i^{\mathrm{sat}}}{P_{\mathrm{bub}}}
\]

です。

露点圧力

温度 \(T\) と気相組成 \(y_i\) が与えられたとき、

\[
\boxed{\frac{1}{P_{\mathrm{dew}}}
=\sum_i\frac{y_i}{P_i^{\mathrm{sat}}(T)}}
\]

で露点圧力を求めます。平衡な液相組成は、

\[
x_i=\frac{y_iP_{\mathrm{dew}}}{P_i^{\mathrm{sat}}}
\]

です。

例題1:\(P-x-y\) 線図上の泡点と気相組成

95 ℃のベンゼンA/トルエンB混合物を、理想溶液とみなします。NIST Chemistry WebBookのAntoine式から、95 ℃における飽和蒸気圧を、

\[
P_A^{\mathrm{sat}}=157.4\ \mathrm{kPa},\qquad
P_B^{\mathrm{sat}}=63.6\ \mathrm{kPa}
\]

とします。液相中のベンゼンモル分率が \(x_A=0.400\) のとき、泡点圧力を求めます。

\[
\begin{aligned}
P_{\mathrm{bub}}
&=x_AP_A^{\mathrm{sat}}+(1-x_A)P_B^{\mathrm{sat}}\\
&=(0.400)(157.4)+(0.600)(63.6)\\
&=101.1\ \mathrm{kPa}
\end{aligned}
\]

発生し始める蒸気中のベンゼン組成は、

\[
\begin{aligned}
y_A
&=\frac{x_AP_A^{\mathrm{sat}}}{P_{\mathrm{bub}}}\\
&=\frac{(0.400)(157.4)}{101.1}\\
&\approx0.623
\end{aligned}
\]

です。液相ではベンゼン40.0 mol%でしたが、最初の蒸気は約62.3 mol%です。これが蒸留で低沸点成分を濃縮できる理由です。

タイラインとてこの法則

二相領域内の状態では、同じ温度・圧力で平衡にある液相組成と気相組成が異なります。状態点から水平方向へ引き、泡点線と露点線を結ぶ線をタイラインと呼びます。

タイラインの交点から、

  • 泡点線側の交点:液相組成 \(x_A\)
  • 露点線側の交点:気相組成 \(y_A\)

を読みます。系全体の組成 \(z_A\) は、二つの平衡組成の間にあります。

\[
x_A\leq z_A\leq y_A
\]

全モル流量を \(F\)、液相量を \(L\)、気相量を \(V\) とすると、

\[
F=L+V
\]

\[
Fz_A=Lx_A+Vy_A
\]

です。二式から、気相割合 \(\beta=V/F\) は、

\[
\boxed{\beta=\frac{V}{F}
=\frac{z_A-x_A}{y_A-x_A}}
\]

液相割合は、

\[
\boxed{\frac{L}{F}
=\frac{y_A-z_A}{y_A-x_A}}
\]

となります。これがてこの法則です。

例題2:液相量と気相量を求める

95 ℃、101.325 kPaで、ベンゼン/トルエンの全組成を \(z_A=0.500\) とします。飽和蒸気圧から求めた平衡組成を、

\[
x_A=0.402,\qquad y_A=0.625
\]

とすると、気相割合は、

\[
\begin{aligned}
\beta
&=\frac{0.500-0.402}{0.625-0.402}\\
&=0.439
\end{aligned}
\]

です。したがって、

\[
\boxed{\frac{V}{F}\approx0.439,\qquad
\frac{L}{F}\approx0.561}
\]

となります。全量が100 molなら、気相は約43.9 mol、液相は約56.1 molです。

てこの法則の感覚
全組成 \(z_A\) が液相組成 \(x_A\) に近いほど液相量が多く、気相組成 \(y_A\) に近いほど気相量が多くなります。状態点から反対側の端までの線分長さが、その相の量に対応します。

\(x-y\) 気液平衡線図との違い

蒸留計算では、横軸に液相組成 \(x_A\)、縦軸にそれと平衡な気相組成 \(y_A\) を取った \(x-y\) 線図もよく使います。これは温度や圧力を縦軸にする \(T-x-y\)、\(P-x-y\) 線図とは別の図です。

より揮発しやすい成分Aについて \(y_A>x_A\) なら、気液平衡曲線は対角線 \(y=x\) より上に位置します。理想系で相対揮発度 \(\alpha\) を一定と近似すると、

\[
\boxed{y_A=\frac{\alpha x_A}
{1+(\alpha-1)x_A}}
\]

です。

\(\alpha\) が1に近いほど平衡曲線は対角線へ近づき、一回の気液接触で得られる濃縮効果が小さくなります。何段も蒸発・凝縮を繰り返す蒸留塔では、この \(x-y\) 線図に操作線を重ね、マッケーブ・シール法で理論段数を求めます。

加熱による組成変化と蒸留の原理

全組成 \(z_A\) の液体を一定圧力で加熱する過程を \(T-x-y\) 線図で追ってみましょう。

  1. 泡点に到達すると、Aに富む最初の蒸気が生じる
  2. さらに加熱すると、蒸気量が増え、残液はBに富むようになる
  3. 発生した蒸気を取り出して凝縮すると、原料よりAに富む液体が得られる
  4. 蒸発・凝縮を繰り返すほど、Aをさらに濃縮できる

一回だけ気液平衡を利用する操作が単蒸留やフラッシュ蒸留です。多段で繰り返す装置が精留塔です。蒸留塔では気液平衡だけでなく、物質収支、還流比、段効率、塔内の流動、熱収支が関係します。

ギブズの相律との関係

反応のない二成分二相系では、ギブズの相律、

\[
F=C-P+2
\]

に \(C=2\)、\(P=2\) を代入すると、

\[
F=2
\]

です。温度、圧力、液相組成、気相組成のすべてを自由に選べるわけではなく、独立に指定できる強度変数は二つです。

\(T-x-y\) 線図では圧力を一定に固定するため、残る自由度は1です。温度を決めれば、平衡な液相組成と気相組成が決まります。\(P-x-y\) 線図では温度を一定に固定し、圧力と平衡組成の関係を表します。

相・成分・自由度の考え方は、ギブズの相律とは?自由度・相・成分数と相図の読み方で詳しく解説しています。

実在溶液では理想からずれる

ラウールの法則は便利ですが、すべての液体混合物にそのまま適用できるわけではありません。分子間相互作用が理想溶液からずれる場合、液相の非理想性を活量係数 \(\gamma_i\) で補正します。

\[
\boxed{y_iP=x_i\gamma_iP_i^{\mathrm{sat}}}
\]

\(\gamma_i=1\) ならラウールの法則です。強い正または負の偏倚があると、気液平衡曲線が大きく変形し、共沸点が現れることがあります。

共沸点では、

\[
x_A=y_A
\]

となり、液相と気相の組成が同じです。この点では単純な蒸留を繰り返しても組成を越えにくくなります。したがって実際の設計では、実測VLEデータ、活量係数モデル、状態方程式などを用いて平衡関係を確認します。

気液平衡図を読む手順

  1. 線図の種類を確認する:\(T-x-y\)、\(P-x-y\)、\(x-y\) のどれか
  2. 一定条件を確認する:一定圧力か、一定温度か
  3. 成分と組成基準を確認する:横軸がどの成分のモル分率か
  4. 泡点線と露点線を区別する
  5. 状態領域を判定する:液相、二相、気相
  6. タイラインを引く:平衡な \(x\) と \(y\) を読む
  7. 全組成 \(z\) を置く:二相なら \(x\leq z\leq y\)
  8. 必要ならてこの法則を使う:液相量と気相量を求める
  9. 非理想性を確認する:共沸や液液分離がないか

よくある間違い

\(x\)、\(y\)、\(z\)を同じ組成として扱う

\(x\) は液相、\(y\) は気相、\(z\) は全系の組成です。二相領域では三者は一般に異なります。

\(T-x-y\) と \(P-x-y\) で相領域を逆にする

高温・低圧側が気相、低温・高圧側が液相です。この物理的な傾向から判定すれば、暗記に頼らず整理できます。

泡点線と露点線の組成を取り違える

泡点線は液相組成 \(x\)、露点線は気相組成 \(y\) に対応します。同じ温度・圧力の二つの交点をタイラインで結びます。

てこの法則に全組成を使わない

相の量を決めるには、平衡な \(x\)、\(y\) だけでなく、供給全体の組成 \(z\) が必要です。

ラウールの法則を実在系へ無条件に使う

極性差の大きい混合物、水素結合を伴う系、共沸系では非理想性が大きくなることがあります。実測データや適切な熱力学モデルを確認します。

質量分率とモル分率を混ぜる

気液平衡図の組成はモル分率で示されることが多いですが、質量分率の図もあります。物質収支と線図で同じ基準を使っているか確認してください。

確認問題

3問のミニテストで、ここまでの内容を確認しましょう。選択すると、その場で正誤と解説が表示されます。

QUICK CHECK

1 / 3

熱力学・初級

このミニテストの回答結果は保存されません。学習記録を残す場合は化工演習室をご利用ください。

まとめ

  • 気液平衡では液相と気相の温度・圧力・化学ポテンシャルが平衡条件を満たす
  • 平衡な液相組成 \(x\) と気相組成 \(y\) は一般に異なる
  • 泡点は液体から最初の気泡が生じる点、露点は蒸気から最初の液滴が生じる点である
  • \(T-x-y\) 線図では下が液相、上が気相である
  • \(P-x-y\) 線図では上が液相、下が気相である
  • 二相領域ではタイラインから平衡な \(x\) と \(y\) を読む
  • てこの法則から液相量と気相量を求められる
  • 揮発しやすい成分は蒸気側へ濃縮され、この組成差を蒸留に利用する
  • 実在溶液では活量係数や共沸を考慮する必要がある

気液平衡図は、蒸留の「地図」です。泡点線・露点線・タイラインの三つを区別できれば、蒸発と凝縮による組成変化を視覚的に追えるようになります。

理解できたか、問題で確かめてみよう
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参考資料

例題では学習用の理想溶液近似を用いています。実務設計では、対象系・温度・圧力に対応する実測気液平衡データや検証済み熱力学モデルを使用してください。

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