化学工学の基礎を、原理・数式と直感的なイメージの両面から、初学者にもわかりやすくお届けします。
この記事は、AIのかこまるが本文と画像を作成し、人間のサイト管理者が内容を確認して投稿・公開しています。
流体が配管を流れる、壁を通して熱が伝わる、液体中で成分が拡散する。一見すると別々の現象ですが、化学工学ではこれらを輸送現象という共通の枠組みで扱います。
輸送されるものは、それぞれ運動量、エネルギー、物質です。輸送される量は違っても、「差や勾配があると、それを小さくする方向へ流束が生じる」「流入・流出・生成・蓄積の収支を立てる」という数学的な構造はよく似ています。
この記事では、ニュートンの粘性則、フーリエの法則、フィックの法則を横に並べ、流束、拡散係数、対流、保存則、境界層、無次元数までを一つの流れで解説します。
- 輸送現象が扱う運動量・熱・物質の違い
- 流束とは何か、移動速度とどう違うのか
- ニュートン・フーリエ・フィックの法則に共通する形
- 負号が表す「高い側から低い側へ」の意味
- 分子拡散と対流による輸送の違い
- 保存則と構成式を区別する理由
- 動粘度・熱拡散率・拡散係数の共通単位
- Re、Pr、Sc、Pe、Nu、Shのつながり
単位や微分が不安な方は、単位と次元と、化学工学で使う数学の基礎を先に確認すると読みやすくなります。
輸送現象とは
輸送現象とは、空間の中で物理量が移動する仕組みを扱う分野です。化学工学では主に次の3種類を学びます。
| 分野 | 輸送される量 | 代表的な現象 | 代表的な法則 |
|---|---|---|---|
| 運動量移動 | 流体の運動量 | 粘性、配管流れ、境界層、抗力 | ニュートンの粘性則 |
| 熱移動 | エネルギー | 熱伝導、対流伝熱、熱交換 | フーリエの法則 |
| 物質移動 | 化学種の物質量または質量 | 拡散、吸収、蒸留、乾燥 | フィックの法則 |
NPTELの輸送現象講義でも、運動量・熱・物質移動は、数学的構造と分子機構の類似性を理解するために統一的に扱われています。
なぜ3分野を一緒に学ぶのか
化学プラントでは、3つの輸送が同時に起こるからです。
たとえば蒸留塔の充填物表面では、
- 気体と液体が流れ、粘性によって運動量が移動する
- 気液間に温度差があれば熱が移動する
- 揮発性成分が気液界面を通って物質移動する
という3つが同時に進みます。一つずつの法則を暗記するより、共通構造を理解した方が、未知の装置にも考え方を応用しやすくなります。
流束とは
輸送現象では、まず「どれだけ移動したか」ではなく、単位面積・単位時間あたりにどれだけ通過したかを考えます。この量が流束です。
面積 \(A\) を通過する移動速度を \(\dot B\) とすれば、平均流束 \(J_B\) は、
\boxed{
J_B=\frac{\dot B}{A}
}
\]
です。
| 流束 | 代表記号 | SI単位の例 |
|---|---|---|
| 運動量流束・せん断応力 | \(\Pi_{yx}\)、\(\tau\) | \(\mathrm{N/m^2=Pa}\) |
| 熱流束 | \(q”\) | \(\mathrm{W/m^2}\) |
| モル流束 | \(J_A\)、\(N_A\) | \(\mathrm{mol/(m^2\,s)}\) |
流束は面積を基準にした量です。装置全体を通過する速度が必要なら、流束を面積について積分します。流束が面内で一様なら、単純に、
\dot B=J_BA
\]
です。
流速 \(v\) は流体粒子が移動する速さで、単位は \(\mathrm{m/s}\) です。流束は、面積を横切って運ばれる運動量・熱・物質の量です。物質流束の単位が \(\mathrm{mol/(m^2\,s)}\) であることからも違いがわかります。
3つの基本法則に共通する形
単純な一次元の分子輸送では、3つの基本法則を次のように並べられます。
| 輸送 | 構成式 | 駆動力 | 輸送係数 |
|---|---|---|---|
| 運動量 | \(\displaystyle \Pi_{yx}=-\mu\frac{dv_x}{dy}\) | 速度勾配 | 粘度 \(\mu\) |
| 熱 | \(\displaystyle q_x”=-k\frac{dT}{dx}\) | 温度勾配 | 熱伝導率 \(k\) |
| 物質A | \(\displaystyle J_{A,x}=-D_{AB}\frac{dc_A}{dx}\) | 濃度勾配 | 拡散係数 \(D_{AB}\) |
記号は次のとおりです。
- \(\Pi_{yx}\):\(y\)方向へ運ばれる\(x\)方向運動量の分子流束
- \(\mu\):粘度 \(\mathrm{Pa\,s}\)
- \(v_x\):\(x\)方向速度 \(\mathrm{m/s}\)
- \(q_x”\):\(x\)方向の熱流束 \(\mathrm{W/m^2}\)
- \(k\):熱伝導率 \(\mathrm{W/(m\,K)}\)
- \(J_{A,x}\):基準速度に対するAの拡散モル流束 \(\mathrm{mol/(m^2\,s)}\)
- \(D_{AB}\):A–B間の拡散係数 \(\mathrm{m^2/s}\)
- \(c_A\):Aのモル濃度 \(\mathrm{mol/m^3}\)
3式は、概念的に次の形をしています。
\boxed{
\text{流束}
=
-\text{輸送係数}
\times
\text{駆動力の勾配}
}
\]
ベクトル表示なら、
\boxed{
\boldsymbol{J}
=
-\Gamma\nabla\phi
}
\]
とまとめられます。ここで \(\phi\) は速度・温度・濃度などの場、\(\Gamma\) は対応する輸送係数を象徴的に表します。
ただし、この一般式は共通構造を理解するための模式式です。運動量流束は本来テンソルであり、多成分拡散や非ニュートン流体、異方性材料では単純なスカラー係数だけで表せない場合があります。
負号が表す意味
負号は、分子輸送が場の量を均一にする方向へ進むことを示します。
- 速い流体層から遅い流体層へ運動量が移る
- 高温側から低温側へ熱が移る
- 高濃度側から低濃度側へ成分が拡散する
たとえば、\(x\)方向へ進むほど温度が下がる場合、
\[
\frac{dT}{dx}<0
\]
です。フーリエの法則へ代入すると、
\[
q_x''=-k\frac{dT}{dx}>0
\]
となり、熱流束が正の\(x\)方向を向くことがわかります。
実際の総輸送は、分子輸送だけでなく流体の一括移動、圧力差、外力、反応、相変化なども含みます。流体が流れていれば、低濃度側から高濃度側へ成分が運ばれるように見える場合もあります。負号が直接表すのは、ここで扱う分子拡散成分の向きです。
運動量移動:ニュートンの粘性則
流体内に速度差があると、分子運動によって運動量が隣の層へ渡されます。速い層は減速され、遅い層は加速される方向に働くため、速度差が小さくなります。
運動量流束として表したニュートンの粘性則は、
\boxed{
\Pi_{yx}
=
-\mu\frac{dv_x}{dy}
}
\]
です。
流体力学では、同じ現象をせん断応力 \(\tau_{xy}\) を使って、
\[
\tau_{xy}
=
\mu\frac{dv_x}{dy}
\]
と書く流儀もあります。符号が違って見えるのは、面に作用する応力を表すか、運動量の分子流束を表すかという定義の違いです。式を使うときは記号の定義と座標方向を確認します。
粘度の意味とニュートン流体・非ニュートン流体の違いは、粘度とは?粘性係数と動粘度で詳しく解説しています。
計算例1:平行平板間のせん断応力
間隔 \(L=2.0\ \mathrm{mm}\) の平行平板の間に、粘度 \(\mu=1.0\times10^{-3}\ \mathrm{Pa\,s}\) の液体があります。下板は静止し、上板が \(V=1.0\ \mathrm{m/s}\) で動きます。速度分布を直線と近似すると、速度勾配の大きさは、
\[
\left|\frac{dv_x}{dy}\right|
=
\frac{V}{L}
=
\frac{1.0}{2.0\times10^{-3}}
=500\ \mathrm{s^{-1}}
\]
です。したがって、せん断応力の大きさは、
\begin{aligned}
|\tau|
&=\mu\frac{V}{L}\\
&=(1.0\times10^{-3})(500)\\
&=0.50\ \mathrm{Pa}
\end{aligned}
\]
となります。板間隔を半分にすると速度勾配は2倍になり、同じ粘度・板速度ならせん断応力も2倍になります。
熱移動:フーリエの法則
固体や静止流体の内部に温度差があると、分子・格子振動・自由電子などによってエネルギーが移動します。一次元のフーリエの法則は、
\boxed{
q_x”
=
-k\frac{dT}{dx}
}
\]
です。IUPACも熱伝導率を、熱流束と温度勾配を結び付ける量として定義しています。
熱伝導率 \(k\) が大きいほど、同じ温度勾配に対して大きな熱流束が生じます。厚さ \(L\) の平板で、熱伝導率が一定、両面温度が \(T_h\) と \(T_c\) なら、熱流束の大きさは、
|q”|
=
k\frac{T_h-T_c}{L}
\]
です。詳細は、熱伝導と熱抵抗で扱っています。
計算例2:壁を通る熱流束
熱伝導率 \(k=0.80\ \mathrm{W/(m\,K)}\)、厚さ \(L=0.050\ \mathrm{m}\) の壁があります。高温面80 ℃、低温面20 ℃のとき、
\begin{aligned}
|q”|
&=0.80\frac{80-20}{0.050}\\
&=960\ \mathrm{W/m^2}
\end{aligned}
\]
です。面積が \(10\ \mathrm{m^2}\) なら、壁を通る伝熱速度の大きさは、
\[
|\dot Q|
=
|q”|A
=
960\times10
=9.60\ \mathrm{kW}
\]
となります。
物質移動:フィックの法則
混合物中に濃度差があると、分子のランダム運動によって成分が拡散します。二成分系の単純な一次元拡散を濃度基準で表すと、フィックの第一法則は、
\boxed{
J_{A,x}
=
-D_{AB}\frac{dc_A}{dx}
}
\]
です。
拡散係数 \(D_{AB}\) が大きいほど、同じ濃度勾配に対して大きな拡散流束が生じます。拡散係数は物質Aだけの定数ではなく、相手成分B、温度、圧力、組成、相状態などに依存します。
物質移動の全体像は、物質移動とは?拡散・対流・物質移動係数、拡散係数の性質は、拡散係数とは?気体と液体の違いで解説しています。
計算例3:液膜内の拡散流束
厚さ \(L=1.0\ \mathrm{mm}\) の静止液膜を考えます。成分Aの濃度が左側で \(100\ \mathrm{mol/m^3}\)、右側で \(20\ \mathrm{mol/m^3}\)、拡散係数が \(D_{AB}=2.0\times10^{-9}\ \mathrm{m^2/s}\) です。
濃度分布を直線と近似すると、流束の大きさは、
\begin{aligned}
|J_A|
&=D_{AB}\frac{c_{A,1}-c_{A,2}}{L}\\
&=(2.0\times10^{-9})
\frac{100-20}{1.0\times10^{-3}}\\
&=1.6\times10^{-4}\ \mathrm{mol/(m^2\,s)}
\end{aligned}
\]
となります。濃度差を2倍にするか、液膜厚さを半分にすれば、この単純モデルでは流束は2倍になります。
分子拡散と対流は違う
物理量が移動する方法は、大きく分けて次の2つです。
| 輸送機構 | 意味 | 流体が静止していても起こるか |
|---|---|---|
| 分子的輸送 | 分子運動や分子間相互作用によって、速度・温度・濃度の勾配をならす | 起こる |
| 対流輸送 | 流体の巨視的な移動に伴って、運動量・エネルギー・物質が運ばれる | 流れが必要 |
たとえば、成分Aの全モル流束 \(\boldsymbol{N}_A\) は、基準速度をモル平均速度 \(\boldsymbol{v}\) とすれば、
\boxed{
\boldsymbol{N}_A
=
c_A\boldsymbol{v}
+
\boldsymbol{J}_A
}
\]
と表せます。
- \(c_A\boldsymbol{v}\):流体の一括移動による対流成分
- \(\boldsymbol{J}_A\):平均運動に対する分子拡散成分
熱についても、流体がエンタルピーを運ぶ対流成分と、温度勾配による熱伝導成分を区別します。運動量についても、流れによる対流輸送と粘性による分子輸送があります。
壁面の対流熱伝達係数 \(h\) は、流体運動、熱伝導、境界層の効果をまとめた装置・流動条件依存の係数です。流体が持つエンタルピーの対流流束を単に \(h\Delta T\) と置くわけではありません。
保存則と構成式を区別する
輸送現象を理解するうえで重要なのが、保存則と構成式の違いです。
保存則
任意の領域について、
\boxed{
\text{蓄積}
=
\text{流入}
-\text{流出}
+\text{生成}
-\text{消費}
}
\]
という収支を立てます。質量・運動量・エネルギーなどの保存則が、問題の骨組みです。
構成式
ニュートンの粘性則、フーリエの法則、フィックの法則は、流束と場の勾配を結び付けます。これらは物質の応答を表す構成式です。
保存則だけでは、未知の流束を速度・温度・濃度へ結び付けられません。構成式だけでも、流入・流出・生成・蓄積の関係を記述できません。両者を組み合わせて初めて、速度分布・温度分布・濃度分布を求める微分方程式が得られます。
微小領域の収支
厚さ \(\Delta x\) の小さな領域で収支を立て、\(\Delta x\to0\) の極限を取ると、偏微分方程式になります。単純な一次元・非定常拡散で、拡散係数が一定、反応と対流がない場合は、
\boxed{
\frac{\partial c_A}{\partial t}
=
D_{AB}
\frac{\partial^2 c_A}{\partial x^2}
}
\]
となります。これはフィックの第二法則、または拡散方程式です。
同様に、単純化した非定常熱伝導は、
\[
\frac{\partial T}{\partial t}
=
\alpha
\frac{\partial^2T}{\partial x^2}
\]
運動量拡散は、
\[
\frac{\partial v_x}{\partial t}
=
\nu
\frac{\partial^2v_x}{\partial y^2}
\]
という似た形になります。
3つの拡散係数
上の式に現れる \(\nu\)、\(\alpha\)、\(D_{AB}\) は、すべて \(\mathrm{m^2/s}\) の次元を持ちます。
| 輸送 | 拡散係数 | 定義 | 意味 |
|---|---|---|---|
| 運動量 | 動粘度 \(\nu\) | \(\displaystyle \nu=\frac{\mu}{\rho}\) | 速度差が広がって均される速さ |
| 熱 | 熱拡散率 \(\alpha\) | \(\displaystyle \alpha=\frac{k}{\rho c_p}\) | 温度変化が物体内へ広がる速さ |
| 物質 | 拡散係数 \(D_{AB}\) | 物質系から決まる | 濃度変化が広がる速さ |
粘度 \(\mu\) と動粘度 \(\nu\)、熱伝導率 \(k\) と熱拡散率 \(\alpha\) は別物です。
- \(\mu\)、\(k\)、\(D_{AB}\) は各流束の構成式に現れる
- \(\nu\)、\(\alpha\)、\(D_{AB}\) は単純な拡散方程式の時間変化に現れる
密度、粘度、比熱、熱伝導率、拡散係数の関係は、化学工学で使う物性値も参考にしてください。
拡散にかかる時間は長さの2乗に比例する
代表長さを \(L\)、対応する拡散係数を \(\mathcal{D}\) とすると、分子拡散で変化が広がる代表時間は、
\boxed{
t_d\sim\frac{L^2}{\mathcal{D}}
}
\]
と見積もれます。逆に、時間 \(t\) で影響が広がる距離は、
\[
\delta\sim\sqrt{\mathcal{D}t}
\]
です。
この関係から、移動距離を10倍にすると、分子拡散だけで均一化する時間は約100倍になります。大型装置で撹拌や流動が重要になる理由の一つです。
計算例4:運動量・熱・物質の拡散時間
代表長さを \(L=1.0\ \mathrm{cm}=1.0\times10^{-2}\ \mathrm{m}\) とします。説明用の仮定値として、
- 動粘度:\(\nu=1.0\times10^{-6}\ \mathrm{m^2/s}\)
- 熱拡散率:\(\alpha=1.4\times10^{-7}\ \mathrm{m^2/s}\)
- 液相拡散係数:\(D_{AB}=1.0\times10^{-9}\ \mathrm{m^2/s}\)
を使います。
| 輸送 | 代表時間 \(L^2/\mathcal{D}\) | 概算 |
|---|---|---|
| 運動量 | \(\displaystyle \frac{(10^{-2})^2}{10^{-6}}\) | \(100\ \mathrm{s}\) |
| 熱 | \(\displaystyle \frac{(10^{-2})^2}{1.4\times10^{-7}}\) | \(714\ \mathrm{s}\approx12\ \mathrm{min}\) |
| 物質 | \(\displaystyle \frac{(10^{-2})^2}{10^{-9}}\) | \(1.0\times10^5\ \mathrm{s}\approx27.8\ \mathrm{h}\) |
この仮定では、液相の分子拡散による物質均一化が最も遅くなります。ただし、値の大小関係は流体・温度・相・組成によって変わります。実装置では対流や乱流混合が加わるため、この時間をそのまま混合時間とはしません。
境界層と移動係数
流体が壁面に沿って流れると、壁面近くに速度・温度・濃度が大きく変化する薄い領域ができます。これが境界層です。
- 速度境界層:壁面の粘性によって速度が変化する
- 温度境界層:壁面と流体の温度差によって温度が変化する
- 濃度境界層:壁面と流体の濃度差によって組成が変化する
壁面での移動を、境界層の詳細な分布を毎回解かずに表すため、移動係数を使います。
q_w”
=
h(T_w-T_b)
\]
\[
N_{A,w}
=
k_c(c_{A,w}-c_{A,b})
\]
ここで \(h\) は熱伝達係数、\(k_c\) は物質移動係数です。これらは純粋な物性値ではなく、流速、形状、長さ、物性、層流・乱流などに依存します。
| 区分 | 代表例 | 主に依存するもの |
|---|---|---|
| 輸送物性 | \(\mu\)、\(k\)、\(D_{AB}\) | 物質、温度、圧力、組成 |
| 移動係数 | \(h\)、\(k_c\) | 輸送物性+流れ+形状+代表長さ |
対流熱伝達とNusselt数は、対流熱伝達・Nusselt数・Prandtl数で詳しく扱っています。
無次元数で輸送の強さを比較する
輸送現象の類似性は、無次元数にも現れます。
Reynolds数
\boxed{
\mathrm{Re}
=
\frac{\rho VL}{\mu}
=
\frac{VL}{\nu}
}
\]
Reynolds数は、慣性と粘性の相対的な重要度を表します。詳しくは、レイノルズ数と層流・乱流を参照してください。
Prandtl数とSchmidt数
\boxed{
\mathrm{Pr}
=
\frac{\nu}{\alpha}
=
\frac{\mu c_p}{k}
}
\]
\[
\boxed{
\mathrm{Sc}
=
\frac{\nu}{D_{AB}}
}
\]
Prandtl数は運動量拡散と熱拡散、Schmidt数は運動量拡散と物質拡散の比です。
- \(\mathrm{Pr}\approx1\):運動量と熱が似た速さで拡散する
- \(\mathrm{Pr}\gg1\):熱より運動量の方が速く拡散する
- \(\mathrm{Sc}\gg1\):物質より運動量の方が速く拡散する
Péclet数
対流輸送と分子拡散の比を表すのがPéclet数です。
\boxed{
\mathrm{Pe}_h
=
\frac{VL}{\alpha}
=
\mathrm{Re\,Pr}
}
\]
\[
\boxed{
\mathrm{Pe}_m
=
\frac{VL}{D_{AB}}
=
\mathrm{Re\,Sc}
}
\]
\(\mathrm{Pe}\) が大きいほど対流が支配的、小さいほど分子拡散の相対的重要性が高いと判断できます。
Nusselt数とSherwood数
\boxed{
\mathrm{Nu}
=
\frac{hL}{k}
}
\]
\[
\boxed{
\mathrm{Sh}
=
\frac{k_cL}{D_{AB}}
}
\]
Nusselt数は対流熱伝達を基準となる熱伝導と比較し、Sherwood数は対流物質移動を基準となる分子拡散と比較します。
このため、熱伝達相関式と物質移動相関式は、
\[
\mathrm{Nu}=f(\mathrm{Re},\mathrm{Pr},\text{形状})
\]
\[
\mathrm{Sh}=f(\mathrm{Re},\mathrm{Sc},\text{形状})
\]
という対応した形を持つことがあります。
輸送現象の類似性はどこまで使えるか
運動量・熱・物質移動の方程式が似ているため、ある輸送現象の知見から別の輸送を推定する類似則が発達しました。Reynoldsの類似、Prandtl–Taylorの類似、Chilton–Colburnの類似などが代表例です。
ただし、次の場合は単純な類似が崩れます。
- 物性が温度・濃度で大きく変化する
- 自然対流、浮力、圧力勾配の影響が異なる
- 相変化、化学反応、放射、電場などの源項がある
- 多成分拡散で成分間の相互作用が強い
- 非ニュートン流体や異方性材料を扱う
- 境界条件や代表長さの定義が対応していない
類似則は「式の形が似ているから数値も同じ」とするものではありません。幾何形状、境界条件、無次元数、相関式の適用範囲を対応させて使います。
輸送現象と単位操作のつながり
| 装置・操作 | 主に見る輸送 | 代表的な問い |
|---|---|---|
| 配管・ポンプ | 運動量 | 圧力損失、流量、せん断応力はどれくらいか |
| 熱交換器 | 運動量+熱 | 圧力損失を抑えながら必要な熱量を移せるか |
| 蒸留・吸収 | 運動量+熱+物質 | 気液接触、平衡、移動速度、塔径をどう決めるか |
| 乾燥 | 熱+物質 | 材料へ熱を与え、水分を外へ移す速度はどれくらいか |
| 膜分離 | 物質+運動量 | 膜透過、濃度分極、圧力損失をどう扱うか |
| 反応器 | 反応+3輸送 | 混合、拡散、除熱が反応速度や選択率を制限しないか |
装置設計では、平衡や反応速度だけでなく、必要な量が必要な速さで移動できるかを確認します。輸送が遅ければ、理論上は反応・分離できても装置性能は得られません。
輸送現象を解く基本手順
- 輸送される量を決める:運動量、熱、物質のどれか
- 対象領域を決める:全装置、微小要素、境界層など
- 座標と正方向を決める:負号や境界条件の混乱を防ぐ
- 輸送機構を整理する:分子輸送、対流、反応、発熱など
- 保存則を立てる:流入-流出+生成-消費=蓄積
- 構成式を選ぶ:ニュートン、フーリエ、フィックなど
- 仮定を明記する:定常、一次元、物性一定、反応なしなど
- 境界条件・初期条件を与える:壁面値、入口値、対称条件など
- 式を解き、単位と極限を確認する
よくある間違い
| 間違い | 正しい考え方 |
|---|---|
| 運動量・熱・物質移動は完全に同じ | 数学的な類似はあるが、輸送量、係数、境界条件、源項は異なる |
| 流束と装置全体の移動速度を混同する | 流束は単位面積あたり。全移動速度は面積積分する |
| 負号を暗記して、座標方向を決めない | 勾配と流束の向きを同じ座標で確認する |
| すべての物質移動が高濃度から低濃度へ進む | 分子拡散成分は勾配に逆向きだが、総流束には対流も含まれる |
| 熱伝導率 \(k\) と熱伝達係数 \(h\) は同じ | \(k\) は輸送物性、\(h\) は流れと形状を含む移動係数 |
| 粘度 \(\mu\) と動粘度 \(\nu\) は同じ | \(\nu=\mu/\rho\) で、単位と役割が異なる |
| 保存則だけで分布を求められる | 流束を場の変数へ結び付ける構成式が必要 |
| 構成式はどんな材料・条件にも成立する | 非ニュートン性、異方性、多成分系などでは別のモデルが必要 |
| 拡散時間は長さに比例する | 代表的には \(t_d\sim L^2/\mathcal{D}\) で長さの2乗に比例する |
| 無次元数が同じなら装置性能も必ず同じ | 幾何形状、境界条件、他の無次元数、相関式の範囲も合わせる |
確認問題
3問のミニテストで、ここまでの内容を確認しましょう。選択すると、その場で正誤と解説が表示されます。
QUICK CHECK
1 / 3移動現象・初級
このミニテストの回答結果は保存されません。学習記録を残す場合は化工演習室をご利用ください。
まとめ
- 輸送現象は、運動量・熱・物質が空間を移動する仕組みを統一的に扱う
- 流束は単位面積・単位時間あたりに移動する量で、流速とは異なる
- ニュートン・フーリエ・フィックの法則は「流束=-輸送係数×勾配」という共通構造を持つ
- 負号は、分子的輸送が速度・温度・濃度の差を小さくする方向へ進むことを表す
- 総輸送には分子拡散だけでなく、流体の一括移動による対流成分も含まれる
- 保存則は収支の骨組み、構成式は流束と場の変数を結び付ける関係である
- 動粘度 \(\nu\)、熱拡散率 \(\alpha\)、拡散係数 \(D_{AB}\) はすべて \(\mathrm{m^2/s}\) の次元を持つ
- 代表拡散時間は \(t_d\sim L^2/\mathcal{D}\) で、距離の2乗に比例する
- PrとScは拡散係数同士、Peは対流と拡散、NuとShは対流移動と分子輸送を比較する
- 類似則を使うときは、式の形だけでなく幾何形状・境界条件・適用範囲を確認する
輸送現象の本質は、公式の数ではありません。何が、どの駆動力によって、どの抵抗を通り、どの速さで移動するかを共通の言葉で考えられることにあります。
かこまるの化工演習室では、流動・伝熱・物質移動の基礎問題を分野別に解き、学習履歴を残せます。3分野を行き来しながら、式の共通点と違いを確認してみてください。
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この記事は輸送現象の基礎学習用です。実設備の流動・伝熱・物質移動計算では、物性の温度・圧力・組成依存性、多相流、乱流、自然対流、反応、相変化、放射、非ニュートン性、複雑形状、境界条件を考慮し、適用範囲が確認された相関式・数値解析・実験データ・専門家の検討を用いてください。
参考資料
- MIT OpenCourseWare:Transport Processes
- MIT OpenCourseWare:Transport Phenomena in Materials Engineering
- NPTEL・IIT Kharagpur:Transport Phenomena
- NPTEL:Mass, Momentum and Heat Transport Analogies
- IUPAC Gold Book:Thermal Conductivity
- NISTIR 5592:Fick’s First and Second Laws


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