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※内容は大学の分離工学教材などをもとに確認しています。
蒸留塔では、リボイラーから熱を加えて蒸気をつくり、コンデンサーで塔頂蒸気から熱を取り除きます。どれだけ高い塔を用意しても、必要な蒸気と還流液をつくる熱量が不足すれば、目標の分離はできません。
そこで必要になるのが蒸留塔の熱収支です。熱収支からコンデンサー負荷とリボイラー負荷を求めれば、冷却水量、加熱蒸気量、熱交換器の概略設計、運転費の評価へ進めます。
この記事で分かること
- コンデンサーとリボイラーが蒸留塔で果たす役割
- 蒸留塔全体・コンデンサー・リボイラーの熱収支式
- 還流比から塔頂蒸気量を求める方法
- 潜熱を使ったコンデンサー負荷の概算
- 全体熱収支からリボイラー負荷を求める手順
- 冷却水量と加熱蒸気量への換算方法
- 熱負荷と熱交換器面積の違い
- 蒸留塔の熱収支とは
- コンデンサーとリボイラーの役割
- 蒸留塔の物質と熱の流れ
- 最初に物質収支を解く
- 還流比から塔頂蒸気量を求める
- 全凝縮器の熱収支
- 全凝縮器と分縮器の違い
- 蒸留塔全体の熱収支
- リボイラー単体の熱収支
- 例題:コンデンサー負荷とリボイラー負荷を計算する
- コンデンサー負荷から冷却水量を求める
- リボイラー負荷から加熱蒸気量を求める
- 還流比を上げると熱負荷はどうなるか
- 原料の熱状態が熱負荷へ与える影響
- コンデンサー負荷とリボイラー負荷は等しいのか
- 熱負荷と熱交換器面積は同じではない
- エンタルピーはどう求めるか
- 定常運転と起動時では熱収支が違う
- 熱収支計算の基本手順
- よくある計算ミス
- よくある質問
- まとめ
- 参考資料
- 確認問題
- この記事の情報と検証方針
蒸留塔の熱収支とは
熱収支は、装置に入るエネルギーと、装置から出るエネルギーを整理する計算です。定常状態で、運動エネルギーと位置エネルギーを無視すると、基本は次の形になります。
\[
\text{流入するエンタルピー}
+\text{加えた熱}
=\text{流出するエンタルピー}
+\text{取り除いた熱}
\]
蒸留塔では、物質がもつエンタルピーに加えて、リボイラーから加える熱 \(Q_R\) と、コンデンサーで取り除く熱 \(Q_C\) を考えます。
この記事の符号の約束
\(Q_R\) はリボイラーから系へ加える熱の正の大きさ、\(Q_C\) はコンデンサーで系から取り除く熱の正の大きさとして扱います。ソフトウェアによってはコンデンサー負荷を負値で表示するため、符号の定義を必ず確認してください。
コンデンサーとリボイラーの役割
| 装置 | 主な役割 | 熱の向き | つくるもの |
|---|---|---|---|
| コンデンサー | 塔頂蒸気を凝縮する | 蒸留系から除去 | 留出液と還流液 |
| リボイラー | 塔底液の一部を蒸発させる | 蒸留系へ供給 | 塔内へ戻す蒸気 |
コンデンサーは単に製品を冷やす装置ではありません。凝縮液の一部を還流として塔へ戻すことで、精留部を流下する液を供給します。リボイラーは塔底液をすべて蒸発させるのではなく、通常は一部を蒸発させ、残った液を缶出液として抜き出します。
還流比の役割については「蒸留塔と還流比の基礎」もあわせて確認してください。
蒸留塔の物質と熱の流れ
この図で、\(F\) は原料、\(D\) は留出液、\(B\) は缶出液です。\(L_0\) はコンデンサーから塔へ戻す還流、\(V_1\) は塔頂からコンデンサーへ入る蒸気、\(V_B\) はリボイラーから塔へ戻る蒸気です。
図解|蒸留塔はリボイラーで熱を受け、コンデンサーで熱を捨てる
最初に物質収支を解く
熱収支を解く前に、各物質流量を決める必要があります。二成分系で軽沸点成分のモル分率を使うと、塔全体の物質収支は次の二式です。
\[
F=D+B
\]
\[
Fz_F=Dx_D+Bx_B
\]
- \(z_F\):原料中の軽沸点成分モル分率
- \(x_D\):留出液中の軽沸点成分モル分率
- \(x_B\):缶出液中の軽沸点成分モル分率
これらを連立すると、留出液流量と缶出液流量は次式で求められます。
\[
D=F\frac{z_F-x_B}{x_D-x_B}
\]
\[
B=F-D
\]
還流比から塔頂蒸気量を求める
全凝縮器では、塔頂蒸気 \(V_1\) がすべて液になり、留出液 \(D\) と還流 \(L_0\) に分かれます。
\[
V_1=D+L_0
\]
還流比 \(R\) は次式です。
\[
R=\frac{L_0}{D}
\]
したがって、還流量と塔頂蒸気量は次のように表せます。
\[
L_0=RD
\]
\[
V_1=(R+1)D
\]
この関係から、留出液流量が一定なら、還流比を上げるほど凝縮しなければならない塔頂蒸気量が増えることが分かります。
全凝縮器の熱収支
コンデンサーだけを検査体積として囲みます。コンデンサーへ入る塔頂蒸気のエンタルピーを \(h_{V,1}\)、凝縮後の液のエンタルピーを \(h_{L,0}\) とすると、熱損失を無視した全凝縮器の熱収支は次式です。
\[
Q_C
=V_1h_{V,1}
-(D+L_0)h_{L,0}
\]
全凝縮器では \(V_1=D+L_0\) なので、次の形にできます。
\[
Q_C
=V_1\left(h_{V,1}-h_{L,0}\right)
\]
蒸気が露点付近で入り、凝縮液が気泡点付近で出るとき、エンタルピー差を混合物の凝縮潜熱 \(\lambda\) で近似すれば、概算式は次のとおりです。
\[
Q_C\approx V_1\lambda
\]
潜熱だけの計算は概算です
混合物は温度範囲をもって凝縮します。塔頂蒸気が過熱されている場合は過熱除去、凝縮液を冷やす場合は過冷却の顕熱も必要です。精密計算では、組成・温度・圧力に対応する入口と出口のエンタルピーを使います。
全凝縮器と分縮器の違い
| 項目 | 全凝縮器 | 分縮器 |
|---|---|---|
| 塔頂蒸気 | すべて凝縮 | 一部だけ凝縮 |
| 塔頂製品 | 通常は液 | 液と蒸気の両方を取り得る |
| 相平衡段 | 通常は理論段に数えない | 平衡に達するなら理論段に数える |
| 熱収支 | 液出口だけで比較的単純 | 気液両出口のエンタルピーが必要 |
分縮器では、\(V_1=D+L_0\) と単純化できるとは限りません。蒸気製品、液製品、還流の各流量と各相のエンタルピーを明示して熱収支を立てます。
蒸留塔全体の熱収支
コンデンサーとリボイラーを含む蒸留系全体を囲むと、内部を循環する還流 \(L_0\) や蒸気 \(V_B\) は検査体積の境界を横切りません。外部から出入りする原料・製品・熱だけを整理できます。
\[
Fh_F+Q_R
=Dh_D+Bh_B+Q_C+Q_{\mathrm{loss}}
\]
塔・配管・熱交換器から周囲への熱損失 \(Q_{\mathrm{loss}}\) を無視すれば、リボイラー負荷は次式です。
\[
Q_R
=Dh_D+Bh_B+Q_C-Fh_F
\]
別の書き方では、次の関係になります。
\[
Q_R-Q_C
=Dh_D+Bh_B-Fh_F
\]
コンデンサー負荷とリボイラー負荷が近いことは多いものの、必ず等しいわけではありません。原料の熱状態、製品温度、熱損失、サイドリボイラーやサイドクーラーの有無によって差が生じます。
リボイラー単体の熱収支
リボイラーへ入る塔底液を \(L_N\)、塔へ戻る蒸気を \(V_B\)、缶出液を \(B\) とすると、リボイラー単体の熱収支は次のように表せます。
\[
Q_R+L_Nh_{L,N}
=V_Bh_{V,B}+Bh_B+Q_{\mathrm{loss},R}
\]
物質収支は次式です。
\[
L_N=V_B+B
\]
塔底液の一部を同じ温度付近で蒸発させ、顕熱と熱損失を無視できる概算では、次の形が使われます。
\[
Q_R\approx V_B\lambda_B
\]
ただし、実際のリボイラーは混合物の一部を蒸発させる装置です。「入口液のすべてを蒸気にする」と誤解しないようにしましょう。
例題:コンデンサー負荷とリボイラー負荷を計算する
単純化した連続蒸留塔を考えます。全凝縮器を使い、塔全体の熱損失は無視します。各流れのエンタルピーは、同じ基準状態で物性計算やシミュレーターから得た教育用の値とします。
| 条件 | 記号 | 値 |
|---|---|---|
| 原料流量 | \(F\) | \(100\ \mathrm{kmol/h}\) |
| 原料の軽沸点成分モル分率 | \(z_F\) | \(0.40\) |
| 留出液の軽沸点成分モル分率 | \(x_D\) | \(0.90\) |
| 缶出液の軽沸点成分モル分率 | \(x_B\) | \(0.10\) |
| 還流比 | \(R\) | \(2.0\) |
| 塔頂の概算凝縮潜熱 | \(\lambda\) | \(30\ \mathrm{MJ/kmol}\) |
| 原料エンタルピー | \(h_F\) | \(12\ \mathrm{MJ/kmol}\) |
| 留出液エンタルピー | \(h_D\) | \(15\ \mathrm{MJ/kmol}\) |
| 缶出液エンタルピー | \(h_B\) | \(10\ \mathrm{MJ/kmol}\) |
手順1:留出液流量と缶出液流量を求める
\[
\begin{aligned}
D
&=F\frac{z_F-x_B}{x_D-x_B}\\
&=100\frac{0.40-0.10}{0.90-0.10}\\
&=37.5\ \mathrm{kmol/h}
\end{aligned}
\]
\[
\begin{aligned}
B
&=F-D\\
&=100-37.5\\
&=62.5\ \mathrm{kmol/h}
\end{aligned}
\]
全成分収支の確認は次のとおりです。
\[
100\times0.40
=37.5\times0.90+62.5\times0.10
=40.0\ \mathrm{kmol/h}
\]
手順2:還流量と塔頂蒸気量を求める
\[
\begin{aligned}
L_0
&=RD\\
&=2.0\times37.5\\
&=75.0\ \mathrm{kmol/h}
\end{aligned}
\]
\[
\begin{aligned}
V_1
&=D+L_0\\
&=37.5+75.0\\
&=112.5\ \mathrm{kmol/h}
\end{aligned}
\]
手順3:コンデンサー負荷を概算する
\[
\begin{aligned}
Q_C
&\approx V_1\lambda\\
&=112.5\times30\\
&=3375\ \mathrm{MJ/h}
\end{aligned}
\]
\(1\ \mathrm{kW}=3.6\ \mathrm{MJ/h}\) を使って換算します。
\[
\begin{aligned}
Q_C
&=\frac{3375}{3.6}\\
&=937.5\ \mathrm{kW}
\end{aligned}
\]
このコンデンサーでは、理想化した条件で約 \(938\ \mathrm{kW}\) の熱を連続的に取り除く必要があります。
手順4:全体熱収支からリボイラー負荷を求める
\[
\begin{aligned}
Q_R
&=Dh_D+Bh_B+Q_C-Fh_F\\
&=37.5\times15+62.5\times10+3375-100\times12\\
&=3362.5\ \mathrm{MJ/h}
\end{aligned}
\]
\[
\begin{aligned}
Q_R
&=\frac{3362.5}{3.6}\\
&=934.0\ \mathrm{kW}
\end{aligned}
\]
この例では、コンデンサー負荷が \(937.5\ \mathrm{kW}\)、リボイラー負荷が \(934.0\ \mathrm{kW}\) となりました。値が近いのは、原料と製品の正味エンタルピー差が小さい条件を設定したためです。
エンタルピーの基準をそろえる
\(h_F\)、\(h_D\)、\(h_B\) は、同じ基準状態・同じ単位で計算した値を使います。エンタルピーのゼロ点は任意ですが、流れごとに異なる基準を混ぜると熱収支は成立しません。
コンデンサー負荷から冷却水量を求める
冷却水が受け取る熱は、次式で表せます。
\[
Q_C
=\dot{m}_{\mathrm{cw}}c_{p,\mathrm{w}}
\left(T_{\mathrm{out}}-T_{\mathrm{in}}\right)
\]
したがって、必要な冷却水質量流量は次式です。
\[
\dot{m}_{\mathrm{cw}}
=\frac{Q_C}
{c_{p,\mathrm{w}}\left(T_{\mathrm{out}}-T_{\mathrm{in}}\right)}
\]
例題の \(Q_C=3{,}375{,}000\ \mathrm{kJ/h}\)、水の比熱を \(4.18\ \mathrm{kJ/(kg\cdot K)}\)、冷却水温度上昇を \(10\ \mathrm{K}\) とします。
\[
\begin{aligned}
\dot{m}_{\mathrm{cw}}
&=\frac{3{,}375{,}000}{4.18\times10}\\
&=80{,}700\ \mathrm{kg/h}\\
&\approx80.7\ \mathrm{t/h}
\end{aligned}
\]
秒単位では約 \(22.4\ \mathrm{kg/s}\) です。実設備では、冷却水の許容温度、汚れ、季節変動、ポンプ能力なども考慮します。
リボイラー負荷から加熱蒸気量を求める
飽和蒸気がリボイラーで凝縮し、潜熱をすべて与えると仮定すると、次式を使えます。
\[
Q_R
=\dot{m}_{\mathrm{steam}}\Delta h_{\mathrm{steam}}
\]
\[
\dot{m}_{\mathrm{steam}}
=\frac{Q_R}{\Delta h_{\mathrm{steam}}}
\]
例題の \(Q_R=3{,}362{,}500\ \mathrm{kJ/h}\)、使用圧力での蒸気の有効エンタルピー差を \(2100\ \mathrm{kJ/kg}\) とします。
\[
\begin{aligned}
\dot{m}_{\mathrm{steam}}
&=\frac{3{,}362{,}500}{2100}\\
&=1600\ \mathrm{kg/h}\\
&\approx1.60\ \mathrm{t/h}
\end{aligned}
\]
実際には蒸気圧力、湿り度、凝縮水の出口状態、配管熱損失を反映したエンタルピー差を蒸気表から求めます。熱利用率を \(\eta\) として扱う場合は、\(\dot{m}_{\mathrm{steam}}=Q_R/(\eta\Delta h_{\mathrm{steam}})\) とします。
還流比を上げると熱負荷はどうなるか
留出液流量 \(D\) と凝縮潜熱 \(\lambda\) を一定とした簡略モデルでは、全凝縮器負荷は次式です。
\[
Q_C
\approx(R+1)D\lambda
\]
例題の \(D=37.5\ \mathrm{kmol/h}\)、\(\lambda=30\ \mathrm{MJ/kmol}\) を使うと、還流比による変化は次のようになります。
| 還流比 \(R\) | 塔頂蒸気量 \(V_1\) | コンデンサー負荷 \(Q_C\) |
|---|---|---|
| 1.0 | \(75.0\ \mathrm{kmol/h}\) | \(625\ \mathrm{kW}\) |
| 2.0 | \(112.5\ \mathrm{kmol/h}\) | \(937.5\ \mathrm{kW}\) |
| 3.0 | \(150.0\ \mathrm{kmol/h}\) | \(1250\ \mathrm{kW}\) |
還流比を上げると、一般に必要段数は減る方向へ進みますが、塔内流量と熱負荷は増えます。つまり「塔を低くできる代わりに、太くなり、蒸気と冷却水を多く使う」というトレードオフがあります。
塔径への影響は「蒸留塔の塔径とフラッディング」で詳しく解説しています。
原料の熱状態が熱負荷へ与える影響
同じ流量・組成の原料でも、冷たい液、飽和液、気液混合物、飽和蒸気ではエンタルピーが異なります。
- 冷たい液原料:塔内で気泡点まで加熱する熱が必要になり、リボイラー負荷が増えやすい
- 飽和液原料:主に液として回収部へ加わる
- 一部気化した原料:液と蒸気の両方として塔内流量へ加わる
- 飽和蒸気原料:塔へ蒸気を直接供給するため、リボイラーでつくる蒸気を減らせる場合がある
McCabe–Thiele法では、この熱状態を \(q\) 値で表します。段数計算と供給段の考え方は「McCabe–Thiele法による理論段数の求め方」を参照してください。
コンデンサー負荷とリボイラー負荷は等しいのか
簡略計算では \(Q_R\approx Q_C\) と置くことがあります。しかし、全体熱収支から分かるように、両者の差は原料と製品のエンタルピー差などで決まります。
\[
Q_R-Q_C
=Dh_D+Bh_B-Fh_F
\]
次の条件では差が大きくなり得ます。
- 原料が塔内温度よりかなり低い、または高い
- 塔頂製品を大きく過冷却する
- 塔底製品を高温のまま抜き出す
- 塔本体や配管からの熱損失が大きい
- サイドリボイラー、サイドコンデンサー、ポンプアラウンドがある
- 原料予熱器や熱回収設備を系境界に含める
熱負荷と熱交換器面積は同じではない
熱収支で求める \(Q_C\) と \(Q_R\) は、単位時間あたりに移動させるべき熱量、つまり熱負荷です。熱交換器の大きさを求めるには、別途、伝熱式を使います。
\[
Q=UA\Delta T_{\mathrm{lm}}
\]
- \(Q\):熱負荷 \(\mathrm{W}\)
- \(U\):総括伝熱係数 \(\mathrm{W/(m^2\cdot K)}\)
- \(A\):伝熱面積 \(\mathrm{m^2}\)
- \(\Delta T_{\mathrm{lm}}\):対数平均温度差 \(\mathrm{K}\)
同じ熱負荷でも、温度差が小さい、総括伝熱係数が低い、汚れ余裕が大きい場合は、より広い伝熱面積が必要です。熱収支は熱交換器設計の入口であり、面積計算そのものではありません。
エンタルピーはどう求めるか
初学者向けの概算では、比熱と潜熱を使ってエンタルピーを組み立てます。基準温度 \(T_{\mathrm{ref}}\) の液体をゼロとした単純な形は次のとおりです。
\[
h_L(T)
\approx c_{p,L}(T-T_{\mathrm{ref}})
\]
\[
h_V(T)
\approx c_{p,L}(T_b-T_{\mathrm{ref}})
+\Delta h_{\mathrm{vap}}
+c_{p,V}(T-T_b)
\]
混合物では、理想混合を仮定するなら、各成分のエンタルピーをモル分率で加重平均します。
\[
h_L(T,\boldsymbol{x})
\approx\sum_i x_i h_{L,i}(T)
\]
\[
h_V(T,\boldsymbol{y})
\approx\sum_i y_i h_{V,i}(T)
\]
非理想性が強い系では混合熱が無視できないことがあります。実務では、適切な物性法を選んだプロセスシミュレーター、物性データベース、蒸気表などを利用します。
定常運転と起動時では熱収支が違う
この記事の式は定常状態を前提にしています。起動時には、塔本体、トレイ、充填物、配管、保有液を温めるため、蓄積項が必要です。
\[
\frac{dU}{dt}
=\text{流入エネルギー}
-\text{流出エネルギー}
+\text{正味の熱入力}
\]
起動時の蒸気使用量を、定常時のリボイラー負荷だけで評価すると不足することがあります。逆に停止時には、装置内に残った顕熱と潜熱の安全な処理が必要です。
熱収支計算の基本手順
- 検査体積を決め、含める装置と含めない装置を明確にする
- 全体・成分物質収支から \(D\) と \(B\) を求める
- 還流比から \(L_0\) と \(V_1\) を求める
- 各流れの温度・圧力・組成・相を決める
- 同じ基準状態で各流れのエンタルピーを求める
- コンデンサー単体の収支から \(Q_C\) を求める
- 塔全体の収支から \(Q_R\) を求める
- 冷却水量と加熱蒸気量へ換算する
- 伝熱式から必要面積を評価する
- 熱損失、設計余裕、最大・最小負荷を確認する
よくある計算ミス
- 物質収支を解かずに熱収支から始める
- \(\mathrm{kJ/h}\)、\(\mathrm{MJ/h}\)、\(\mathrm{kW}\) を混同する
- モル基準エンタルピーと質量基準エンタルピーを混ぜる
- エンタルピーの基準状態を流れごとに変える
- コンデンサー負荷の符号だけを見て、熱の向きを取り違える
- 全凝縮器の式を分縮器へそのまま使う
- 混合物の凝縮を純物質の潜熱だけで精密に計算したつもりになる
- リボイラーで塔底液がすべて蒸発すると考える
- 熱負荷を求めただけで熱交換器面積も決まったと考える
- 定常計算を起動時の必要熱量へそのまま使う
よくある質問
コンデンサー負荷がマイナスで表示されるのは異常ですか?
異常とは限りません。系へ入る熱を正とする符号規約では、熱を除去するコンデンサー負荷が負になります。この記事では、除去熱の大きさ \(Q_C\) を正として表しています。
潜熱だけで熱負荷を計算してもよいですか?
初期検討や学習用の概算には使えます。ただし、混合物の凝縮温度範囲、過熱蒸気の冷却、凝縮液の過冷却、混合熱が重要な場合は、入口・出口のエンタルピー差を使います。
還流比を2倍にすると熱負荷も2倍ですか?
固定した \(D\) に対して \(Q_C\approx(R+1)D\lambda\) なので、還流比だけに比例するのではなく \(R+1\) に比例します。また、厳密には内部流量、温度、組成、段数も変化するため、再計算が必要です。
コンデンサーとリボイラーのどちらを先に計算しますか?
全凝縮器なら、還流比から塔頂蒸気量を求めやすいため、コンデンサー負荷を先に計算し、その後、塔全体の熱収支からリボイラー負荷を求める流れが分かりやすいです。
熱負荷が分かれば運転費も分かりますか?
熱負荷から蒸気量と冷却水量を求め、それぞれの単価と運転時間を掛ければ概算できます。ただし、ポンプ動力、冷却塔、復水回収、ピーク料金、設備効率なども考慮します。
まとめ
- 蒸留塔では、リボイラーから熱を加え、コンデンサーで熱を取り除く
- 熱収支の前に、全体・成分物質収支から \(D\) と \(B\) を求める
- 全凝縮器では \(V_1=(R+1)D\) となる
- コンデンサーの概算負荷は \(Q_C\approx V_1\lambda\) で求められる
- 塔全体では \(Fh_F+Q_R=Dh_D+Bh_B+Q_C\) が成り立つ
- 例題では \(Q_C=937.5\ \mathrm{kW}\)、\(Q_R=934.0\ \mathrm{kW}\) となった
- 必要冷却水量は約 \(80.7\ \mathrm{t/h}\)、加熱蒸気量は約 \(1.60\ \mathrm{t/h}\) となった
- コンデンサー負荷とリボイラー負荷は、常に等しいわけではない
- 熱負荷は \(Q=UA\Delta T_{\mathrm{lm}}\) による伝熱面積計算の入力になる
- 精密計算では、温度・圧力・組成・相に対応するエンタルピーを使う
蒸留塔の熱収支は、「どこから熱が入り、どの物質と一緒にどれだけのエネルギーが出ていくか」を境界ごとに整理する計算です。物質収支、還流比、エンタルピーを順番につなげれば、複雑に見えるコンデンサー負荷とリボイラー負荷も一貫して求められます。
参考資料
- University at Buffalo, CE407 Lecture 09: Continuous Distillation – Enthalpy Balances
- University at Buffalo, CE407 Lecture 08: Enthalpy of Liquid and Vapor Mixtures
- NPTEL, Distillation: Continuous Distillation Column
- Northwestern University Process Design, Distillation Column
- University at Buffalo, CE407 Separations Course Materials
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確認問題
3問のミニテストで、ここまでの内容を確認しましょう。選択すると、その場で正誤と解説が表示されます。
QUICK CHECK
1 / 3分離工学・初級
このミニテストの回答結果は保存されません。学習記録を残す場合は化工演習室をご利用ください。


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