蒸留塔とは?連続精留の仕組み・理論段・還流比を例題で解説

蒸留塔とは?連続精留の仕組み・理論段・還流比を例題で解説 蒸留

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※内容は大学の化学工学教材と標準的な物質収支・気液平衡の関係をもとに確認しています。

蒸留塔は、液体と蒸気を何度も接触させ、混合物を連続的に分離する装置です。石油精製、溶剤回収、化学品や医薬品の精製など、幅広いプロセスで使われています。

前回学んだフラッシュ蒸留は「一段の気液平衡分離」でした。しかし、一段だけでは得られる純度に限界があります。そこで、平衡分離を塔の中で何段も繰り返し、塔頂では高揮発度成分を、塔底では低揮発度成分を濃縮するのが連続精留です。

この記事で分かること

  • フラッシュ蒸留と連続精留の違い
  • 蒸留塔、コンデンサー、リボイラー、還流の役割
  • 濃縮部と回収部で組成が変化する仕組み
  • 理論段と実段数の違い
  • 全物質収支・成分収支から留出量と缶出量を求める方法
  • 還流比と理論段数・エネルギー消費の関係
  • 棚段塔と充填塔の使い分け

一段分離の収支を復習したい方は、先に単蒸留・フラッシュ蒸留の基礎を読むと理解しやすくなります。

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蒸留塔とは

蒸留塔(distillation column)は、上昇する蒸気と下降する液体を向流接触させ、揮発度の違いを利用して混合物を分離する装置です。塔内には棚段(トレイ)または充填物が設けられ、気液が接触する面積と時間を確保します。

二成分系で、成分Aを高揮発度成分、成分Bを低揮発度成分としましょう。一般に、ある段から出る平衡な気相と液相では、気相のほうが成分Aに富みます。

\[
y_A>x_A
\]

この関係を塔内で繰り返すと、上へ進む蒸気ほど成分Aが濃くなり、下へ進む液体ほど成分Bが濃くなります。蒸留塔は、小さな平衡分離を縦方向に何度も重ねた装置と考えると分かりやすいでしょう。

気液平衡、K値、相対揮発度を確認したい方は、気液平衡とx-y線図の基礎も参照してください。

単蒸留・フラッシュ蒸留・連続精留の違い

操作 平衡分離の回数 運転 特徴
回分単蒸留 時間とともに変化 回分 釜に仕込んだ液を蒸留し、組成が時間変化する
フラッシュ蒸留 基本的に一段 連続 原料の一部を気化し、一度の気液平衡で分ける
連続精留 多段 連続 還流と再沸騰により高い分離度を得る

連続精留では、原料 \(F\) を連続的に供給し、塔頂から留出物 \(D\)、塔底から缶出物 \(B\) を連続的に取り出します。定常状態では、各流量と各部の組成は時間によらず一定とみなします。

蒸留塔の全体構成

連続精留を行う蒸留塔の模式図 中央の蒸留塔へ原料が入り、上部のコンデンサーと還流槽から留出物と還流が分かれ、下部のリボイラーから蒸気が塔へ戻り缶出物が取り出される。 連続精留を行う蒸留塔 濃縮部 回収部 蒸気↑ 液体↓ 原料 F 組成 xF 原料段 コンデンサー 蒸気を凝縮 還流槽 液を分配 留出物 D 組成 xD 還流 L0 リボイラー 蒸気を塔へ 缶出物 B・組成 xB
蒸気は上昇し、液体は下降する。塔頂の一部を還流し、塔底の一部を再沸騰させて多段接触をつくる

コンデンサー

塔頂から出た蒸気を冷却して凝縮する熱交換器です。すべてを液体にする全縮器と、一部だけを凝縮する分縮器があります。全縮器では、凝縮前後で全体組成が変わらないため、通常は理論段として数えません。一方、分縮器は平衡な気液に分けるため、理論段として扱う場合があります。

還流槽と還流

凝縮液をいったん還流槽に受け、その一部を留出物 \(D\) として取り出し、残りを還流 \(L_0\) として塔頂へ戻します。冷たい液体を上から戻すことで、上昇蒸気との接触が続き、高揮発度成分を塔頂側へ濃縮できます。

リボイラー

塔底液の一部を加熱して蒸発させ、発生した蒸気を塔へ戻す熱交換器です。蒸発しなかった液体は缶出物 \(B\) として取り出します。部分的に蒸発させるリボイラーは気液平衡分離を行うため、一般に1理論段として数えます。

コンデンサーとリボイラーはいずれも熱交換器です。伝熱量や温度差の考え方は、熱交換器とLMTDの基礎につながります。

棚段または充填物

塔内で蒸気と液体を接触させる部分です。棚段塔では、各段に液を保持し、その中を蒸気が通過します。充填塔では、充填物表面を流れる液と空隙を上昇する蒸気が連続的に接触します。

濃縮部と回収部

原料段より上を濃縮部(rectifying section)、原料段より下を回収部または放散部(stripping section)と呼びます。

濃縮部の役割

塔頂へ向かう蒸気中の高揮発度成分をさらに濃くする部分です。還流液が上昇蒸気から低揮発度成分を受け取り、蒸気側は高揮発度成分に富んでいきます。

回収部の役割

下降液に残っている高揮発度成分を、リボイラーから上がる蒸気によって回収する部分です。その結果、塔底へ向かう液は低揮発度成分に富みます。

「上で濃縮、下で回収」と覚える

濃縮部は留出物の純度を高め、回収部は高揮発度成分が缶出物へ逃げるのを減らします。原料段はこの二つの領域をつなぐ境目です。

理論段とは

理論段とは、その段を出る蒸気と液体が気液平衡に達していると仮定した理想的な接触段です。段 \(n\) を出る液相組成を \(x_n\)、気相組成を \(y_n\) とすると、平衡関係は次式で表せます。

\[
y_n=y^{*}(x_n)
\]

ここで \(y^{*}(x_n)\) は、液相組成 \(x_n\) と平衡な気相組成です。実際の棚段では接触時間や混合が有限なので、完全な平衡には達しません。そのため、同じ分離を行うには理論段数より多くの実段が必要です。

設備 理論段としての扱い 理由
理想的な棚段 1段 出口の気液が平衡にあると仮定
全縮器 通常は数えない 蒸気を全量凝縮し、平衡分離を行わない
分縮器 数える場合がある 平衡な蒸気と液体に分かれる
部分リボイラー 通常は1段 平衡な蒸気と液体をつくる

蒸留塔全体の物質収支

定常状態で蓄積と反応がない蒸留塔を考えます。原料流量を \(F\)、留出物流量を \(D\)、缶出物流量を \(B\) とすると、全物質収支は、

\[
F=D+B
\]

高揮発度成分のモル分率を、原料で \(x_F\)、留出物で \(x_D\)、缶出物で \(x_B\) とすると、成分収支は、

\[
Fx_F=Dx_D+Bx_B
\]

です。二つの式を連立すると、留出量と缶出量を直接求められます。

\[
D=F\frac{x_F-x_B}{x_D-x_B}
\]

\[
B=F\frac{x_D-x_F}{x_D-x_B}
\]

物質収支の立て方に不安がある場合は、物質収支の基礎も確認してください。

例題1:留出量と缶出量を求める

ベンゼン-トルエン混合物を連続精留するものとします。ベンゼンを高揮発度成分とし、次の条件が与えられています。

  • 原料流量:\(F=100\ \mathrm{kmol/h}\)
  • 原料中のベンゼンモル分率:\(x_F=0.40\)
  • 留出物中のベンゼンモル分率:\(x_D=0.90\)
  • 缶出物中のベンゼンモル分率:\(x_B=0.05\)

1. 留出量を求める

\[
D=100\times\frac{0.40-0.05}{0.90-0.05}
=41.18\ \mathrm{kmol/h}
\]

2. 缶出量を求める

\[
B=100-41.18
=58.82\ \mathrm{kmol/h}
\]

3. 成分収支を検算する

入口のベンゼン流量は、

\[
Fx_F=100\times0.40=40.00\ \mathrm{kmol/h}
\]

出口のベンゼン流量は、

\[
Dx_D+Bx_B
=41.18\times0.90+58.82\times0.05
=40.00\ \mathrm{kmol/h}
\]

入口と出口が一致するため、収支は成立しています。

全体収支だけでは段数は分からない

この計算で求まるのは製品流量です。必要な理論段数や原料段の位置を求めるには、気液平衡と塔内の操作線を組み合わせる必要があります。

還流比とは

還流比 \(R\)は、塔頂へ戻す液流量 \(L_0\) と、製品として取り出す留出物流量 \(D\) の比です。

\[
R=\frac{L_0}{D}
\]

たとえば \(R=2\) なら、留出物を1 mol取り出すごとに、2 molを塔へ戻すことを意味します。全縮器を用いる場合、塔頂からコンデンサーへ入る蒸気流量 \(V_1\) は、

\[
V_1=L_0+D=(R+1)D
\]

となります。

例題2:還流量と塔頂蒸気量を求める

例題1の留出物流量 \(D=41.18\ \mathrm{kmol/h}\) に対し、還流比を \(R=2.0\) とします。

1. 還流量

\[
L_0=RD
=2.0\times41.18
=82.36\ \mathrm{kmol/h}
\]

2. 塔頂蒸気量

\[
V_1=L_0+D
=82.36+41.18
=123.54\ \mathrm{kmol/h}
\]

製品として取り出す量よりも、塔内を循環する量のほうが大きいことが分かります。この内部循環が気液接触を増やし、高い分離度を生みます。

還流比を大きくすると何が起こるか

同じ原料と製品純度を考えると、還流比を大きくするほど塔内の液流量と蒸気流量が増え、分離はしやすくなります。そのため、必要な理論段数は少なくなります。

ただし、コンデンサーで除く熱量とリボイラーで加える熱量が増え、エネルギー消費と装置負荷は大きくなります。還流比は、段数と運転費のトレードオフを決める重要な設計変数です。

還流比 必要理論段数 熱負荷 特徴
最小還流比 \(R_{\min}\) 理論上は無限大 小さい側 目的純度を達成できる限界
有限の実用値 有限 有限 設備費と運転費を考えて選ぶ
全還流 \(R\to\infty\) 最小 大きい 製品を取り出さず、全量を塔へ戻す

NPTELの蒸留教材でも、一定の分離条件では還流比を高くすると必要理論段数が減るという逆関係が示されています。ただし、実設計で単純に還流比を最大にすればよいわけではありません。

濃縮部操作線

全縮器、一定モル流れ、一定の還流比を仮定すると、濃縮部の物質収支から次の操作線が得られます。

\[
y_{n+1}
=\frac{R}{R+1}x_n
+\frac{x_D}{R+1}
\]

この式は、隣接する段の液相組成と気相組成を結びます。傾きは \(R/(R+1)\)、切片は \(x_D/(R+1)\) です。

気液平衡線と操作線の間を階段状にたどると、必要理論段数を図的に求められます。これがMcCabe–Thiele法の基本です。詳しい作図は次の記事で扱います。

原料の状態を表すq値

原料が冷たい液体なのか、沸点液なのか、気液二相なのか、飽和蒸気なのかによって、原料段の上下で液流量と蒸気流量が変わります。この熱的状態を表す指標が \(q\) です。

原料状態 qの範囲 直感的な意味
過冷却液 \(q>1\) 塔内蒸気の一部を凝縮させる
飽和液 \(q=1\) 原料が液として加わる
気液二相 \(0<q<1\) 液と蒸気の両方として加わる
飽和蒸気 \(q=0\) 原料が蒸気として加わる
過熱蒸気 \(q<0\) 塔内液の一部を蒸発させる

q値は原料線(q線)の傾きを決め、適切な原料段位置にも影響します。エンタルピーを使う考え方は、エネルギー収支の基礎と共通しています。

理論段数と実段数

実際の棚段は完全な平衡段ではありません。塔全体を平均化した総括段効率を \(E_o\)、理論段数を \(N_{\mathrm{th}}\)、実段数を \(N_{\mathrm{actual}}\) とすると、概算では、

\[
E_o=\frac{N_{\mathrm{th}}}{N_{\mathrm{actual}}}
\]

\[
N_{\mathrm{actual}}
=\frac{N_{\mathrm{th}}}{E_o}
\]

と表せます。

例題3:実段数を概算する

必要理論段数が10段、総括段効率が0.65なら、

\[
N_{\mathrm{actual}}
=\frac{10}{0.65}
=15.38
\]

したがって、端数を切り上げて少なくとも16段が必要です。

段数の数え方を先に決める

理論段数に部分リボイラーや分縮器を含めるかで、棚段本体の段数が変わります。計算結果を使うときは、どこを1段と数えたのかを必ず確認します。

棚段塔と充填塔

項目 棚段塔 充填塔
気液接触 段ごとに接触 充填物表面で連続接触
設計指標 理論段数、段効率 移動単位、高さ、HETP
圧力損失 比較的大きい 小さくしやすい
液量変動への対応 操作範囲を取りやすい場合が多い 液分布の良否が重要
向く例 大流量、多段、側流を設ける場合 真空蒸留、低圧力損失が重要な場合

充填塔では棚段のような明確な実段がないため、一定の分離に相当する充填高さをHETP(Height Equivalent to a Theoretical Plate)などで表します。装置形式は、圧力損失、流量、発泡性、汚れ、保守性などを考えて選定します。

蒸留塔の温度・組成分布

一般的な二成分蒸留では、塔頂ほど高揮発度成分が多く、温度は低くなります。塔底ほど低揮発度成分が多く、温度は高くなります。

  • 塔頂:高揮発度成分が多い、温度が低い
  • 塔底:低揮発度成分が多い、温度が高い

ただし、これは圧力と混合物の種類が同じ範囲での一般的傾向です。実際には塔内圧力が下部ほど高くなるため、各段の気液平衡計算では圧力分布も考慮します。

蒸留塔のエネルギー収支

リボイラーで加える熱量を \(Q_R>0\)、コンデンサーで除く熱量を \(Q_C>0\) と定義すると、塔全体の定常エネルギー収支は、運動・位置エネルギーを無視して、

\[
Fh_F+Q_R
=Dh_D+Bh_B+Q_C
\]

と書けます。還流比を上げると塔内循環量が増えるため、一般に \(Q_R\) と \(Q_C\) も増加します。物質収支が製品量を決め、エネルギー収支が必要な加熱・冷却量を決める、と整理するとよいでしょう。

蒸留塔計算でよくある間違い

xF・xD・xBを混同する

\(x_F\) は原料、\(x_D\) は留出物、\(x_B\) は缶出物の組成です。すべて同じ基準成分、通常は高揮発度成分のモル分率でそろえます。

質量分率とモル分率を混ぜる

気液平衡式とMcCabe–Thiele法は通常モル分率で扱います。質量分率が与えられた場合は、分子量を使って変換してから計算します。組成表示の違いは、濃度・組成・流量の基礎で確認できます。

還流比と還流率を混同する

還流比は \(R=L_0/D\) です。一方、凝縮液に対する還流の割合 \(L_0/(L_0+D)\) は別の量で、数値が異なります。

全縮器を無条件に1段と数える

全縮器は通常、理論段に含めません。分縮器と部分リボイラーは平衡分離を行うため、段として数える場合があります。

理論段数をそのまま実段数にする

実際の段効率は100%ではありません。棚段塔では段効率、充填塔ではHETPなどを使って実際の塔高へ換算します。

一定モル流れを無条件に仮定する

McCabe–Thiele法では、各成分のモル蒸発潜熱が近く、熱損失や顕熱変化が小さいとして一定モル流れを仮定します。非理想性が強い系や熱効果が大きい系では、厳密な物質・エネルギー収支が必要です。

初学者向けの計算手順

  1. 高揮発度成分を決め、すべての組成基準をそろえる
  2. \(F\)、\(x_F\)、目標の \(x_D\)、\(x_B\) を整理する
  3. 全物質収支と成分収支から \(D\)、\(B\) を求める
  4. 圧力と気液平衡データを用意する
  5. 還流比 \(R\) と原料状態 \(q\) を設定する
  6. 操作線と平衡線から理論段数・原料段を求める
  7. 段効率またはHETPを使って実設備へ換算する
  8. コンデンサー・リボイラーの熱負荷と塔径を検討する

この記事では1~3と、4~6に必要な概念を整理しました。次はMcCabe–Thiele法を使い、平衡線、濃縮部操作線、q線、回収部操作線を描いて理論段数を求めます。

確認問題

3問のミニテストで、ここまでの内容を確認しましょう。選択すると、その場で正誤と解説が表示されます。

QUICK CHECK

1 / 3

分離工学・初級

このミニテストの回答結果は保存されません。学習記録を残す場合は化工演習室をご利用ください。

まとめ

  • 蒸留塔は、上昇蒸気と下降液を多段接触させる分離装置
  • 塔頂側の濃縮部では高揮発度成分を濃縮し、塔底側の回収部では高揮発度成分を液から回収する
  • コンデンサーは塔頂蒸気を凝縮し、リボイラーは塔底液の一部を蒸発させる
  • 全体収支 \(F=D+B\) と成分収支 \(Fx_F=Dx_D+Bx_B\) から製品流量を求められる
  • 還流比は \(R=L_0/D\) で、値を大きくすると必要段数は減る一方、熱負荷は増える
  • 理論段は平衡に達する理想段であり、実段数への換算には段効率が必要
  • 理論段数と原料段位置は、気液平衡線と操作線を組み合わせて求める

蒸留塔を理解する鍵は、「一段の平衡分離」「塔全体の物質収支」「還流による多段化」の三つを分けて考えることです。まず収支で製品量を求め、次に気液平衡と操作線で必要段数を求める、という順番で整理しましょう。

参考資料

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