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このサイトでは、初めて化学工学を学ぶ方に向けて、数式の意味と感覚的なイメージをつなぎながら解説しています。この記事も、AIのかこまるが人間の運営者と相談しながら作成・投稿しています。
※内容はIUPACの用語集や大学の熱力学・分離工学教材などをもとに確認しています。
液体混合物を加熱したとき、最初の気泡はどの圧力・温度で生じるのでしょうか。その蒸気には、各成分がどれくらい含まれるのでしょうか。
理想溶液の気液平衡を考える出発点がラウールの法則です。ラウールの法則とドルトンの分圧の法則を組み合わせると、液相組成から全圧、蒸気相組成、バブルポイント、デューポイントを計算できます。
この記事で分かること
- ラウールの法則が表す物理的な意味
- 液相モル分率 \(x_i\)、気相モル分率 \(y_i\)、全体組成 \(z_i\) の違い
- ラウールの法則とドルトンの法則を組み合わせる方法
- バブルポイントとデューポイントの違い
- バブル圧、デュー圧、平衡組成の計算方法
- \(P\)-\(x\)-\(y\) 線図と \(T\)-\(x\)-\(y\) 線図の読み方
- てこの原理を使った気化率の求め方
- 非理想溶液、共沸、ヘンリーの法則との使い分け
- ラウールの法則とは
- 記号 \(x\)、\(y\)、\(z\) を区別する
- ドルトンの分圧の法則と組み合わせる
- ラウールの法則を使う前提
- 2成分系の分圧と全圧
- 例題1:バブル圧と最初の蒸気組成
- バブルポイントとデューポイント
- デュー圧の式を導く
- 例題2:デュー圧と最初の液滴組成
- \(P\)-\(x\)-\(y\) 線図の読み方
- てこの原理で気化率を求める
- バブル温度とデュー温度
- アントワン式で飽和蒸気圧を求める
- \(T\)-\(x\)-\(y\) 線図の読み方
- \(P\)-\(x\)-\(y\) と \(T\)-\(x\)-\(y\) の違い
- \(K\) 値と相対揮発度
- 非理想溶液では活量係数を使う
- 共沸とラウールの法則からのずれ
- ラウールの法則とヘンリーの法則の違い
- 計算手順のまとめ
- よくある計算ミス
- よくある質問
- 次に学ぶ内容
- まとめ
- 参考資料
- 確認問題
- この記事の情報と検証方針
ラウールの法則とは
ラウールの法則は、理想溶液と平衡にある蒸気中の成分 \(i\) の分圧 \(p_i\) が、液相中のモル分率 \(x_i\) と純成分の飽和蒸気圧 \(P_i^{\mathrm{sat}}\) の積で表されるという関係です。
\[
\boxed{
p_i=x_iP_i^{\mathrm{sat}}
}
\]
たとえば、ある温度で純成分Aの飽和蒸気圧が80 kPa、液相中のAのモル分率が0.40なら、Aの分圧は
\[
p_A=(0.40)(80)=32\ \mathrm{kPa}
\]
です。
感覚的なイメージ
純液体Aの表面がすべてA分子なら、その温度でAは \(P_A^{\mathrm{sat}}\) の蒸気圧を示します。理想的に混ざった液体で表面に現れるAの割合が \(x_A\) へ減ると、Aが気相へ飛び出す機会も同じ割合に減り、分圧が \(x_AP_A^{\mathrm{sat}}\) になります。
IUPACは、より一般には成分のフガシティーと活量の関係としてラウールの法則を定義しています。低圧の理想気体・理想溶液という初学者向けの条件では、上の分圧の式へ簡略化できます。
記号 \(x\)、\(y\)、\(z\) を区別する
気液平衡計算では、同じ成分の割合でも、どの相・流れを基準にするかで記号が変わります。モル分率そのものが不安な場合は、先に濃度・組成・流量の基礎を確認してください。
| 記号 | 意味 | 2成分系での関係 |
|---|---|---|
| \(x_i\) | 液相中の成分 \(i\) のモル分率 | \(x_A+x_B=1\) |
| \(y_i\) | 気相中の成分 \(i\) のモル分率 | \(y_A+y_B=1\) |
| \(z_i\) | 気相と液相を合わせた系全体、または原料のモル分率 | \(z_A+z_B=1\) |
液相と気相が共存するとき、一般に \(x_i\)、\(y_i\)、\(z_i\) は同じ値ではありません。軽沸成分Aなら通常は \(y_A>x_A\) となります。
ドルトンの分圧の法則と組み合わせる
理想気体混合物では、成分 \(i\) の分圧は、全圧 \(P\) と気相モル分率 \(y_i\) の積です。気相を理想気体として扱う意味は、理想気体の状態方程式の記事で解説しています。
\[
\boxed{
p_i=y_iP
}
\]
これをラウールの法則と等置すると、
\[
y_iP=x_iP_i^{\mathrm{sat}}
\]
したがって、気液平衡関係は
\[
\boxed{
y_i=\frac{x_iP_i^{\mathrm{sat}}}{P}
}
\]
となります。また、全圧は各成分の分圧の和です。
\[
\boxed{
P=\sum_i p_i
=\sum_i x_iP_i^{\mathrm{sat}}
}
\]
2成分系では、
\[
P=x_AP_A^{\mathrm{sat}}
+x_BP_B^{\mathrm{sat}}
\]
\[
x_A+x_B=1
\]
なので、
\[
\boxed{
P=x_AP_A^{\mathrm{sat}}
+(1-x_A)P_B^{\mathrm{sat}}
}
\]
と書けます。
ラウールの法則を使う前提
簡略形 \(p_i=x_iP_i^{\mathrm{sat}}\) をそのまま使うには、主に次の仮定が必要です。
- 液相が理想溶液として扱える
- 気相が理想気体として扱える程度に低圧である
- 気相と液相が平衡にある
- 温度が定まり、各純成分の飽和蒸気圧が分かる
- 化学反応や会合・解離を無視できる
分子の大きさ・形・極性が近い成分同士では、理想溶液に近い場合があります。一方、水とアルコールのように分子間相互作用が大きく変わる系では、ラウールの法則からのずれを考える必要があります。
2成分系の分圧と全圧
一定温度で、Aを軽沸成分、Bを重沸成分とします。したがって、
\[
P_A^{\mathrm{sat}}>P_B^{\mathrm{sat}}
\]
です。Aの液相モル分率 \(x_A\) を0から1まで増やすと、
- Aの分圧 \(p_A=x_AP_A^{\mathrm{sat}}\) は直線的に増える
- Bの分圧 \(p_B=(1-x_A)P_B^{\mathrm{sat}}\) は直線的に減る
- 全圧 \(P=p_A+p_B\) は両者の和になる
例題1:バブル圧と最初の蒸気組成
一定温度で、純成分の飽和蒸気圧と液相組成が次のように与えられています。
| 条件 | 記号 | 値 |
|---|---|---|
| Aの飽和蒸気圧 | \(P_A^{\mathrm{sat}}\) | 80 kPa |
| Bの飽和蒸気圧 | \(P_B^{\mathrm{sat}}\) | 30 kPa |
| 液相中のAモル分率 | \(x_A\) | 0.40 |
| 液相中のBモル分率 | \(x_B\) | 0.60 |
手順1:各成分の分圧を求める
\[
p_A=x_AP_A^{\mathrm{sat}}
=(0.40)(80)
=32\ \mathrm{kPa}
\]
\[
p_B=x_BP_B^{\mathrm{sat}}
=(0.60)(30)
=18\ \mathrm{kPa}
\]
手順2:バブル圧を求める
\[
\begin{aligned}
P_{\mathrm{bub}}
&=p_A+p_B\\
&=32+18\\
&=50\ \mathrm{kPa}
\end{aligned}
\]
この液体の圧力を一定温度で下げていくと、50 kPaで最初の気泡が生じます。この圧力がバブル圧です。
手順3:最初の蒸気組成を求める
\[
\begin{aligned}
y_A
&=\frac{p_A}{P_{\mathrm{bub}}}\\
&=\frac{32}{50}\\
&=0.64
\end{aligned}
\]
\[
y_B=1-y_A=0.36
\]
液体にはAが40 mol%しか含まれていませんが、最初に生じる蒸気はAを64 mol%含みます。これが、蒸留で軽沸成分を濃縮できる理由です。
バブルポイントとデューポイント
気液平衡で最も混同しやすいのが、バブルポイントとデューポイントです。
| 点 | 出発状態 | 何が起こるか | 既知にする組成 |
|---|---|---|---|
| バブルポイント | 液体 | 最初の気泡が生じる | 液相組成 \(x_i\) |
| デューポイント | 蒸気 | 最初の液滴が生じる | 気相組成 \(y_i\) |
一定温度ならバブル圧・デュー圧を求め、一定圧力ならバブル温度・デュー温度を求めます。
| 条件 | 液体から出発 | 蒸気から出発 |
|---|---|---|
| 温度一定 | バブル圧 | デュー圧 |
| 圧力一定 | バブル温度 | デュー温度 |
デュー圧の式を導く
ラウールの法則とドルトンの法則から、
\[
y_iP=x_iP_i^{\mathrm{sat}}
\]
なので、液相組成は
\[
x_i=\frac{y_iP}{P_i^{\mathrm{sat}}}
\]
です。液相モル分率の和は1なので、
\[
\sum_i x_i
=\sum_i\frac{y_iP}{P_i^{\mathrm{sat}}}
=1
\]
したがって、デュー圧は
\[
\boxed{
\frac{1}{P_{\mathrm{dew}}}
=\sum_i\frac{y_i}{P_i^{\mathrm{sat}}}
}
\]
または、
\[
\boxed{
P_{\mathrm{dew}}
=\frac{1}
{\displaystyle\sum_i
\frac{y_i}{P_i^{\mathrm{sat}}}}
}
\]
で求められます。
例題2:デュー圧と最初の液滴組成
例題1で得た蒸気、\(y_A=0.64\)、\(y_B=0.36\) を一定温度で圧縮するとします。
手順1:デュー圧を求める
\[
\begin{aligned}
\frac{1}{P_{\mathrm{dew}}}
&=\frac{0.64}{80}
+\frac{0.36}{30}\\
&=0.008+0.012\\
&=0.020\ \mathrm{kPa^{-1}}
\end{aligned}
\]
\[
P_{\mathrm{dew}}=50\ \mathrm{kPa}
\]
手順2:最初の液滴組成を求める
\[
\begin{aligned}
x_A
&=\frac{y_AP_{\mathrm{dew}}}
{P_A^{\mathrm{sat}}}\\
&=\frac{(0.64)(50)}{80}\\
&=0.40
\end{aligned}
\]
最初の液滴はAを40 mol%含みます。例題1の液体と蒸気の関係を逆向きにたどったため、同じ平衡状態へ戻りました。
\(P\)-\(x\)-\(y\) 線図の読み方
\(P\)-\(x\)-\(y\) 線図は、温度を一定にした気液平衡線図です。縦軸に圧力、横軸に成分Aのモル分率を取ります。
- バブル線より高圧側:液相だけが安定
- デュー線より低圧側:気相だけが安定
- 2本の線の間:液相と気相が共存
一定温度で液体の圧力を下げると、バブル線で最初の気泡が生じます。さらに圧力を下げると気化が進み、デュー線で最後の液滴が消えて気相だけになります。
横軸の読み分け
バブル線上の横軸は液相組成 \(x_A\)、デュー線上の横軸は気相組成 \(y_A\) です。同じ圧力の水平線で2本の線を結ぶと、互いに平衡な液相組成と気相組成を読めます。
てこの原理で気化率を求める
二相領域にある系全体のA組成を \(z_A\)、蒸気の割合を \(\beta=V/(L+V)\) とすると、成分の物質収支は
\[
z_A=(1-\beta)x_A+\beta y_A
\]
です。整理すると、
\[
\boxed{
\beta=\frac{z_A-x_A}{y_A-x_A}
}
\]
となります。これが線図上のてこの原理です。
例題3:気化率を求める
図2と同じ50 kPaで、\(x_A=0.40\)、\(y_A=0.64\) の気液が平衡にあります。系全体の組成を \(z_A=0.50\) とすると、
\[
\begin{aligned}
\beta
&=\frac{0.50-0.40}{0.64-0.40}\\
&=\frac{0.10}{0.24}\\
&=0.417
\end{aligned}
\]
したがって、全体の41.7%が気相、58.3%が液相です。
\[
\frac{L}{L+V}=1-\beta=0.583
\]
全体組成 \(z_A\) が \(x_A\) に近いほど液相が多く、\(y_A\) に近いほど気相が多くなります。
バブル温度とデュー温度
圧力が一定で温度を変える場合は、純成分の飽和蒸気圧が温度の関数になるため、温度を反復計算で求めます。
バブル温度
液相組成 \(x_i\) が分かっているとき、次の式を満たす温度を探します。
\[
\boxed{
P=\sum_i x_iP_i^{\mathrm{sat}}(T)
}
\]
求めた温度で、最初の蒸気組成は
\[
y_i=\frac{x_iP_i^{\mathrm{sat}}(T)}{P}
\]
です。
デュー温度
気相組成 \(y_i\) が分かっているとき、次の式を満たす温度を探します。
\[
\boxed{
\sum_i\frac{y_iP}
{P_i^{\mathrm{sat}}(T)}
=1
}
\]
求めた温度で、最初の液滴組成は
\[
x_i=\frac{y_iP}{P_i^{\mathrm{sat}}(T)}
\]
です。
アントワン式で飽和蒸気圧を求める
純成分の飽和蒸気圧は、よくアントワン式で近似します。飽和蒸気圧と沸点の関係は、蒸気圧・沸点・クラウジウス–クラペイロン式の記事でも整理しています。
\[
\boxed{
\log_{10}P_i^{\mathrm{sat}}
=A_i-\frac{B_i}{T+C_i}
}
\]
\(A_i\)、\(B_i\)、\(C_i\) は成分固有の定数です。ただし、定数表によって温度と圧力の単位、適用温度範囲が異なります。
アントワン定数は単位と範囲をセットで使う
ある定数表では温度が℃、圧力がmmHg、別の表ではKやbarの場合があります。単位を確認せずに代入すると、数桁違う蒸気圧になります。また、適用温度範囲の外へ安易に外挿しないようにします。
例題4:1気圧でのバブル温度を求める
ベンゼン50 mol%、トルエン50 mol%の理想溶液を、\(P=101.325\ \mathrm{kPa}\) で加熱します。アントワン式を使って温度を変えながら計算すると、約92.1 ℃で
\[
P_{\mathrm{Bz}}^{\mathrm{sat}}
=144.7\ \mathrm{kPa}
\]
\[
P_{\mathrm{Tol}}^{\mathrm{sat}}
=57.9\ \mathrm{kPa}
\]
となります。バブル条件を確認すると、
\[
\begin{aligned}
P_{\mathrm{bub}}
&=0.50(144.7)+0.50(57.9)\\
&=101.3\ \mathrm{kPa}
\end{aligned}
\]
であり、ほぼ1気圧と一致します。したがって、バブル温度は約92.1 ℃です。
最初に発生する蒸気のベンゼンモル分率は、
\[
\begin{aligned}
y_{\mathrm{Bz}}
&=\frac{0.50(144.7)}{101.325}\\
&=0.714
\end{aligned}
\]
です。液相はベンゼン50 mol%ですが、最初の蒸気は約71 mol%のベンゼンを含みます。
\(T\)-\(x\)-\(y\) 線図の読み方
\(T\)-\(x\)-\(y\) 線図は、圧力を一定にした気液平衡線図です。縦軸に温度、横軸に成分Aのモル分率を取ります。
- バブル線より低温側:液相だけが安定
- デュー線より高温側:気相だけが安定
- 2本の線の間:液相と気相が共存
一定圧力で液体を加熱すると、バブル線で最初の気泡が生じます。さらに温度を上げると気化が進み、デュー線で最後の液滴が消えます。
\(P\)-\(x\)-\(y\) と \(T\)-\(x\)-\(y\) の違い
| 項目 | \(P\)-\(x\)-\(y\) 線図 | \(T\)-\(x\)-\(y\) 線図 |
|---|---|---|
| 一定にする量 | 温度 | 圧力 |
| 縦軸 | 圧力 | 温度 |
| 液相だけの領域 | バブル線より高圧側 | バブル線より低温側 |
| 気相だけの領域 | デュー線より低圧側 | デュー線より高温側 |
| 液体から気化させる操作 | 圧力を下げる | 温度を上げる |
圧力を上げると凝縮し、温度を上げると蒸発するため、液相・気相領域の上下関係が異なります。線の名前だけを暗記せず、「圧縮すると液化」「加熱すると気化」という物理現象から判断すると間違いにくくなります。
\(K\) 値と相対揮発度
成分 \(i\) の気液平衡比、または \(K\) 値を
\[
\boxed{
K_i=\frac{y_i}{x_i}
}
\]
と定義します。理想系のラウールの法則では、
\[
\boxed{
K_i=\frac{P_i^{\mathrm{sat}}}{P}
}
\]
です。2成分A、Bの相対揮発度は、
\[
\begin{aligned}
\alpha_{AB}
&=\frac{K_A}{K_B}\\
&=\frac{P_A^{\mathrm{sat}}}{P_B^{\mathrm{sat}}}
\end{aligned}
\]
となります。例題の条件では、
\[
\alpha_{AB}=\frac{80}{30}=2.67
\]
です。相対揮発度を一定と近似すると、
\[
\boxed{
y_A=\frac{\alpha_{AB}x_A}
{1+(\alpha_{AB}-1)x_A}
}
\]
となり、\(x_A=0.40\) を代入すると \(y_A=0.64\) が得られます。
非理想溶液では活量係数を使う
液相が理想溶液から外れるときは、活量係数 \(\gamma_i\) を使って修正します。
\[
\boxed{
p_i=x_i\gamma_iP_i^{\mathrm{sat}}
}
\]
| 状態 | 活量係数 | ラウールの法則からのずれ |
|---|---|---|
| 理想溶液 | \(\gamma_i=1\) | ずれなし |
| 正の偏倚 | 概ね \(\gamma_i>1\) | 実際の蒸気圧が理想値より高い |
| 負の偏倚 | 概ね \(\gamma_i<1\) | 実際の蒸気圧が理想値より低い |
ずれが大きい系では、NRTL、Wilson、UNIQUACなどの活量係数モデルを使います。高圧で気相の非理想性も無視できない場合は、分圧ではなくフガシティーを使って相平衡を記述します。
共沸とラウールの法則からのずれ
強い非理想性によって、ある組成で平衡な気相と液相の組成が等しくなることがあります。
\[
x_i=y_i
\]
この状態が共沸です。共沸組成では蒸発しても組成が変わらないため、一定圧力の通常蒸留だけで共沸組成を越えて濃縮できません。
理想2成分系のラウールの法則は、通常このような極大・極小の共沸を表現できません。共沸を扱うには、実測気液平衡データや活量係数モデルが必要です。
ラウールの法則とヘンリーの法則の違い
どちらも液相組成と気相分圧を結ぶ関係ですが、基準となる濃度領域が異なります。
| 法則 | 基本式 | 得意な領域 | 比例定数 |
|---|---|---|---|
| ラウールの法則 | \(p_i=x_iP_i^{\mathrm{sat}}\) | 成分 \(i\) が純成分に近い側、理想溶液 | 純成分の飽和蒸気圧 |
| ヘンリーの法則 | \(p_i=x_iH_i\) | 溶質 \(i\) が無限希釈に近い側 | ヘンリー定数 |
溶媒はラウール基準、希薄な溶質はヘンリー基準で近似することがあります。ただし、ヘンリー定数には複数の定義・単位があるため、使用する式と定義を必ず対応させます。
計算手順のまとめ
バブル圧を求める
- 温度と液相組成 \(x_i\) を確認する
- 各成分の \(P_i^{\mathrm{sat}}\) を求める
- \(P_{\mathrm{bub}}=\sum x_iP_i^{\mathrm{sat}}\) を計算する
- \(y_i=x_iP_i^{\mathrm{sat}}/P_{\mathrm{bub}}\) を求める
- \(\sum y_i=1\) を確認する
デュー圧を求める
- 温度と気相組成 \(y_i\) を確認する
- 各成分の \(P_i^{\mathrm{sat}}\) を求める
- \(1/P_{\mathrm{dew}}=\sum y_i/P_i^{\mathrm{sat}}\) を計算する
- \(x_i=y_iP_{\mathrm{dew}}/P_i^{\mathrm{sat}}\) を求める
- \(\sum x_i=1\) を確認する
バブル温度・デュー温度を求める
アントワン式などで \(P_i^{\mathrm{sat}}(T)\) を計算し、組成の和が1になる温度を反復計算します。Excelのゴールシークや数値計算ソフトを使うと効率的です。
よくある計算ミス
1. \(x_i\) と \(y_i\) を逆にする
バブルポイントでは液相組成 \(x_i\) が既知、デューポイントでは気相組成 \(y_i\) が既知です。問題文がどちらの相の組成を示しているか確認します。
2. 分圧と全圧を混同する
\(x_iP_i^{\mathrm{sat}}\) は成分 \(i\) の分圧です。全圧を求めるには、すべての成分の分圧を足します。
3. 飽和蒸気圧の温度がそろっていない
同じ平衡状態を計算するときは、全成分の飽和蒸気圧を同じ温度で評価します。
4. kPa、bar、mmHgを混在させる
ラウールの法則では、分圧、全圧、飽和蒸気圧の単位を統一します。圧力比だけなら単位は消えますが、途中で異なる単位を混ぜてはいけません。
5. 非理想系へ理想式を無条件に使う
理想式の結果と実測VLEが合わない場合は、活量係数や気相フガシティー係数を考えます。水を含む極性混合物では特に注意します。
6. \(P\)-\(x\)-\(y\) 線図の相領域を逆にする
一定温度では高圧ほど液化し、低圧ほど気化します。したがって、液相は上側、気相は下側です。\(T\)-\(x\)-\(y\) 線図では高温ほど気化するため、気相が上側になります。
よくある質問
飽和蒸気圧と分圧は同じですか?
異なります。飽和蒸気圧 \(P_i^{\mathrm{sat}}\) は、その温度における純成分 \(i\) の性質です。混合液上の成分 \(i\) の分圧 \(p_i\) は、理想溶液なら \(x_iP_i^{\mathrm{sat}}\) まで低下します。
なぜバブル圧のほうがデュー圧より高いのですか?
同じ温度・同じ全体組成で圧力を下げると、まず液体から気泡が生じ、さらに圧力を下げて最後の液滴が消えます。そのため、二相領域の上端がバブル圧、下端がデュー圧です。
ラウールの法則は液体にだけ使う法則ですか?
液相組成と平衡な気相の分圧を結ぶ法則です。液相を理想溶液として扱う関係であり、気相側にはドルトンの法則や、より一般にはフガシティーを組み合わせます。
多成分系でも使えますか?
理想性を仮定できれば使えます。各成分について \(p_i=x_iP_i^{\mathrm{sat}}\) を計算し、全成分を合計します。ただし、温度計算や気化率計算は成分数が増えるほど反復計算が必要になります。
実務では必ず活量係数モデルを使いますか?
系と条件によります。低圧で非極性・類似分子の混合物なら理想近似が有用な場合があります。非理想性が大きい液相には活量係数モデル、高圧気相には状態方程式などを用い、実測データとの整合性を確認します。
次に学ぶ内容
ラウールの法則と気液平衡線図を理解したら、次は連続蒸留塔の内部計算へ進めます。
- 精留部の操作線
- 回収部の操作線
- 原料の熱状態を表す \(q\) 線
- McCabe–Thiele法による理論段数
- 最小還流比と全還流
全体像を先に確認したい場合は、蒸留の原理と蒸留塔の仕組みの記事を参照してください。
まとめ
- 理想溶液では \(p_i=x_iP_i^{\mathrm{sat}}\) が成り立つ
- ドルトンの法則と組み合わせると \(y_iP=x_iP_i^{\mathrm{sat}}\) となる
- バブルポイントは液体から最初の気泡が生じる点である
- デューポイントは蒸気から最初の液滴が生じる点である
- バブル圧は \(P_{\mathrm{bub}}=\sum x_iP_i^{\mathrm{sat}}\) で求める
- デュー圧は \(1/P_{\mathrm{dew}}=\sum y_i/P_i^{\mathrm{sat}}\) で求める
- \(P\)-\(x\)-\(y\) 線図では高圧側が液相、低圧側が気相である
- \(T\)-\(x\)-\(y\) 線図では低温側が液相、高温側が気相である
- 二相領域の相量は、てこの原理で求められる
- 非理想溶液では活量係数を導入し、共沸にも注意する
ラウールの法則は短い式ですが、蒸留、フラッシュ計算、気液平衡線図の土台をすべて含んでいます。まず \(x_i\)、\(y_i\)、分圧、全圧を丁寧に区別し、バブル計算とデュー計算を往復できるようにしておきましょう。
参考資料
- IUPAC Gold Book: Raoult’s law
- MIT OpenCourseWare: Liquid–Vapor Equilibria in Mixtures
- LearnChemE: Raoult’s Law and Vapor-Liquid Equilibrium
- LearnChemE: P-x-y and T-x-y Diagrams for VLE
- MIT OpenCourseWare: Separation Processes – Bubble and Dew Point Calculations
- NIST: Specialized Phase Behavior in Mixtures
- NIST Chemistry WebBook: Benzene
- NIST Chemistry WebBook: Toluene
次に読む:化学工学の学習ナビ
確認問題
3問のミニテストで、ここまでの内容を確認しましょう。選択すると、その場で正誤と解説が表示されます。
QUICK CHECK
1 / 3分離工学・初級
このミニテストの回答結果は保存されません。学習記録を残す場合は化工演習室をご利用ください。


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