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分圧とは、混合気体の全圧を「各成分がどれだけ受け持っているか」に分けた圧力です。式は単純ですが、全圧、モル分率、蒸気圧、飽和蒸気圧を混同すると、湿度、気液平衡、ガス吸収、反応平衡の計算を間違えます。
この記事では、分圧の意味、ドルトンの分圧の法則、気相モル分率との関係を、混合気体と湿り空気の例題で解説します。最後に、理想気体近似が使えない場合の考え方も紹介します。
- 分圧・全圧・気相モル分率の意味
- ドルトンの分圧の法則 (P=\sum_i p_i)
- 理想気体混合物での (p_i=y_iP) の導出と使い方
- 水蒸気分圧と飽和水蒸気圧の違い
- 高圧・非理想系でフガシティを使う理由
分圧とは?
成分A、B、Cからなる混合気体を考えます。容器の壁に衝突する分子はAだけではなく、BやCも含まれます。壁が受ける圧力全体が全圧 (P)、そのうち成分Aの寄与に対応する圧力がAの分圧 (p_A)です。
理想気体では、成分 (i) の分圧を「成分 (i) だけを取り出し、混合物と同じ温度・同じ体積に入れたときに示す圧力」と考えられます。
全圧を100%の円グラフだと考えると、各成分の分圧はその内訳です。成分Aが気体分子全体の30%を占める理想気体混合物なら、Aは全圧の30%を受け持ちます。
ドルトンの分圧の法則
理想気体の混合物では、全圧は各成分の分圧の和になります。これをドルトンの分圧の法則と呼びます。
P=p_1+p_2+\cdots+p_N=\sum_{i=1}^{N}p_i
\]
ここで、(P) は混合気体の全圧、(p_i) は成分 (i) の分圧、(N) は成分数です。圧力の単位はPa、kPa、barなどのどれでも構いませんが、同じ式の中では統一します。
分圧は「成分ごとに別の場所へ分かれている圧力」ではありません。すべての成分は同じ空間に混在し、各成分の分子運動が全圧へ寄与している、と考えます。
分圧と気相モル分率の関係
気相中の成分 (i) のモル数を (n_i)、全モル数を (n) とすると、気相モル分率 (y_i) は次式です。
y_i=\frac{n_i}{n},\qquad n=\sum_i n_i,\qquad \sum_i y_i=1
\]
理想気体の状態方程式を、成分 (i) と混合物全体へそれぞれ適用します。
p_iV=n_iRT
\]
\[
PV=nRT
\]
2式の比を取ると、温度 (T)、体積 (V)、気体定数 (R) が消えます。
\frac{p_i}{P}=\frac{n_i}{n}=y_i
\]
したがって、理想気体混合物では次の重要な関係が得られます。
\boxed{p_i=y_iP}
\]
つまり、分圧=気相モル分率×全圧です。逆に、分圧と全圧がわかれば (y_i=p_i/P) で気相組成を求められます。理想気体の状態方程式そのものは、理想気体の状態方程式 (PV=nRT)も参照してください。
一般化学では気体のモル分率を (x_i) と書くこともあります。化学工学の気液平衡では、液相モル分率を (x_i)、気相モル分率を (y_i) と書くのが一般的です。本記事では、気相であることを明確にするため (y_i) を使います。
例題1:モル数と全圧から分圧を求める
窒素2.00 molと酸素1.00 molからなる理想気体混合物の全圧が120 kPaです。窒素と酸素の分圧を求めます。
手順1:全モル数を求める
n=2.00+1.00=3.00\ \mathrm{mol}
\]
手順2:気相モル分率を求める
y_{\mathrm{N_2}}=\frac{2.00}{3.00}=0.667
\]
\[
y_{\mathrm{O_2}}=\frac{1.00}{3.00}=0.333
\]
手順3:全圧を掛ける
p_{\mathrm{N_2}}=0.667\times120=80.0\ \mathrm{kPa}
\]
\[
p_{\mathrm{O_2}}=0.333\times120=40.0\ \mathrm{kPa}
\]
確認として、(80.0+40.0=120\ \mathrm{kPa}) となり、分圧の和が全圧と一致します。
例題2:分圧から気相組成を求める
全圧250 kPaの混合気体で、成分Aの分圧が35.0 kPaです。Aの気相モル分率を求めます。
y_A=\frac{p_A}{P}=\frac{35.0}{250}=0.140
\]
Aの気相モル分率は0.140、すなわち14.0 mol%です。分圧と全圧の単位が同じなら、割り算によって単位は消えます。
水蒸気分圧と飽和水蒸気圧の違い
分圧の理解が特に重要なのが湿り空気です。湿り空気を乾き空気と水蒸気の理想気体混合物とみなすと、
P=p_a+p_v
\]
となります。(p_a) は乾き空気の分圧、(p_v) は実際に含まれる水蒸気の分圧です。
一方、飽和水蒸気圧 (p_{vs}(T)) は、ある温度で液体の水と平衡にある水蒸気の圧力です。主に温度で決まる物性値であり、実際の水蒸気分圧 (p_v) と同じとは限りません。
| 量 | 意味 | 何で決まるか |
|---|---|---|
| 全圧 (P) | 混合気体全体の圧力 | 全モル数、温度、体積など |
| 水蒸気分圧 (p_v) | 実際の水蒸気が受け持つ圧力 | 水蒸気量、全圧、温度、体積など |
| 飽和水蒸気圧 (p_{vs}(T)) | 水と平衡にある飽和蒸気の圧力 | 主に温度 |
気象・空調でよく使う近似では、相対湿度 (phi) は次式で表されます。
\phi=\frac{p_v}{p_{vs}(T)}
\]
相対湿度を%で与えられた場合は、100で割って小数へ直して計算します。湿度比や露点まで学ぶ場合は、湿り空気・絶対湿度・相対湿度・露点を参照してください。
例題3:相対湿度から水蒸気分圧を求める
20 ℃、全圧101.325 kPa、相対湿度60%の湿り空気を考えます。20 ℃の飽和水蒸気圧を2.34 kPaとして、水蒸気分圧と乾き空気分圧を求めます。
手順1:水蒸気分圧を求める
p_v=\phi p_{vs}=0.60\times2.34=1.40\ \mathrm{kPa}
\]
手順2:全圧から水蒸気分圧を引く
p_a=P-p_v=101.325-1.40=99.9\ \mathrm{kPa}
\]
全圧が約101 kPaあっても、水蒸気が受け持つ分圧は約1.40 kPaです。「相対湿度60%だから、全圧の60%が水蒸気」と考えてはいけません。60%は、その温度の飽和水蒸気圧に対する割合です。
飽和蒸気圧の温度依存性と沸点との関係は、蒸気圧・沸点・クラウジウス=クラペイロン式で詳しく解説しています。
分圧を使う代表的な場面
| 分野 | 分圧の役割 | 代表的な関係 |
|---|---|---|
| 湿り空気 | 水蒸気量、相対湿度、露点を表す | (phi=p_v/p_{vs}) |
| 気液平衡 | 気相中の各成分の状態を表す | (p_i=y_iP) |
| ガス吸収 | 気相側の平衡・物質移動の推進力を表す | ヘンリーの法則など |
| 反応平衡 | 気相反応の反応商・平衡条件を表す | 各成分の分圧またはフガシティ |
| 燃焼・安全 | 酸素や可燃性成分の濃度と圧力条件を評価する | (p_i=y_iP) |
例えば、希薄な気体の液体への溶解度は、混合気体の全圧ではなく対象成分の分圧と結び付けます。詳しくはヘンリーの法則と気体の溶解度、装置計算への展開はガス吸収のHTU・NTUと充填高さを参照してください。
実在気体ではどこまで使える?
(P=\sum_i p_i) と (p_i=y_iP) は、理想気体混合物を扱う基礎式です。低圧で、温度が十分に高く、分子間相互作用が弱い気体では良い近似になることが多く、湿り空気や通常圧力の混合気体計算で広く使われます。
一方、高圧、低温、臨界点付近、強い分子間相互作用を持つ混合物では、理想気体からのずれが無視できません。このとき、相平衡や化学平衡では分圧の代わりにフガシティを使います。
\hat f_i=\hat\phi_i y_iP
\]
(hat f_i) は混合気体中の成分 (i) のフガシティ、(hat\phi_i) は成分フガシティ係数です。理想気体極限では (hat\phi_i\to1) となり、(hat f_i\to y_iP=p_i) です。
実在気体の体積・密度補正は圧縮係数Zと理想気体・実在気体の違い、相平衡での補正は活量係数とフガシティ係数へ進むと理解がつながります。
初学者が間違えやすいポイント
全圧をそのまま成分の圧力として使う
対象成分の分圧は (p_i=y_iP) です。成分が純物質でない限り、通常は全圧と分圧は一致しません。
モル%をそのまま掛ける
25 mol%は0.25です。(25\times P) ではなく、(0.25\times P) とします。
質量分率をモル分率として使う
(p_i=y_iP) に使うのは気相モル分率です。質量分率しかない場合は、各成分のモル質量を使ってモル数へ変換します。
相対湿度を全圧に掛ける
相対湿度は、実際の水蒸気分圧と飽和水蒸気圧の比です。全圧との比ではありません。
液相モル分率と気相モル分率を混同する
気液平衡では通常、液相を (x_i)、気相を (y_i) と書きます。同じ成分でも両相のモル分率は一般に異なります。
高圧でも理想気体式を無条件に使う
高圧・低温では、状態方程式やフガシティ係数による非理想性の評価が必要です。適用範囲を確認します。
分圧計算の手順
- 気相の全圧 (P)を確認する
- 対象成分の量が質量なら、モル数へ変換する
- 気相モル分率 (y_i)を求める
- (p_i=y_iP) で分圧を求める
- (sum_i p_i=P)、(sum_i y_i=1) で検算する
- 高圧・低温なら理想気体近似の妥当性を確認する
モル分率が与えられていれば全圧を掛ける。分圧が与えられていれば全圧で割る。複数成分の分圧が与えられていれば足す。この3つを使い分けます。
分圧の基礎ミニテスト
QUICK CHECK
1 / 3化学工学の基礎・初級
このミニテストの回答結果は保存されません。学習記録を残す場合は化工演習室をご利用ください。
まとめ
- 分圧は、混合気体の全圧に対する各成分の寄与を表す圧力である
- 理想気体混合物では、ドルトンの法則 (P=\sum_i p_i) が成り立つ
- 気相モル分率 (y_i) と分圧の関係は (p_i=y_iP) である
- 分圧から気相モル分率を求めるときは (y_i=p_i/P) を使う
- 水蒸気分圧は実際の水蒸気の圧力、飽和水蒸気圧は温度で決まる平衡物性である
- 相対湿度は概ね (p_v/p_{vs}(T)) であり、全圧に対する水蒸気の割合ではない
- 高圧・低温の非理想系では、分圧だけでなくフガシティ係数を検討する
分圧は、気体混合物の組成を圧力へ翻訳する基本量です。(p_i=y_iP) を起点にすると、湿度、蒸気圧、気液平衡、吸収、反応平衡が一つの考え方でつながります。
実際の設計では、温度・圧力・組成に対応した物性値と状態方程式を使い、気相の非理想性、凝縮、反応、単位系を確認してください。特に高圧混合物の相平衡・化学平衡では、分圧だけでなく成分フガシティを評価します。
参考資料
- NASA Glenn Research Center:Fluid Models—Mixtures of Perfect Gases and Partial Pressures
- NOAA Physical Sciences Laboratory:Constants and Functions—Humidity and Vapor Pressure
- NOAA NCEI:Saturation Vapor Pressure—Datatype Definition
- NIST:Thermodynamic Properties of Mixtures


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