シャーウッド数・シュミット数とは?Re・Sc・Shから物質移動係数を求める方法

Reynolds数とSchmidt数をSherwood数へまとめ、物質移動係数を求める流れを示した模式図 物質移動
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物質移動の計算では、物質移動係数 \(k_c\) が必要です。しかし、\(k_c\) は拡散係数のような物性値ではなく、流速、流体物性、装置形状、代表長さなどによって変わります。

そこで使われるのが、Sherwood数(シャーウッド数)Schmidt数(シュミット数)Reynolds数(レイノルズ数)です。実験や理論から得られた無次元相関式を使い、ReとScからShを求めると、最後に物質移動係数を計算できます。

この記事では、3つの無次元数の意味、相関式の選び方、平板と球まわりの計算例、求めた \(k_c\) から物質流束を計算する方法までを、初学者向けに順序立てて解説します。

この記事でわかること

  • 物質移動係数 \(k_c\) と拡散係数 \(D_{AB}\) の違い
  • Reynolds数・Schmidt数・Sherwood数の定義と意味
  • \(\mathrm{Sh}=f(\mathrm{Re},\mathrm{Sc})\) となる理由
  • 相関式から \(k_c\) を求める5つの手順
  • 代表長さ、局所値、平均値、適用範囲の注意点
  • 平板と球まわりの物質移動係数の計算方法
  • ヘンリーの法則で求めた平衡濃度と組み合わせる方法

無次元数そのものの作り方は、次元解析とバッキンガムのΠ定理で解説しています。濃度境界層の物理像を先に確認したい方は、速度・温度・濃度境界層も参考にしてください。

図解|Re・Sc・Shから物質移動係数を求める
Re・Sc・Shから物質移動係数を求める流れ、物性、物質移動を表す三つの無次元数の役割を示す。Re・Sc・Shから物質移動係数を求める流れ、物性、物質移動を表す三つの無次元数の役割を示す。1Re数慣性力/粘性力流れの状態2Sc数運動量拡散/物質拡散ν/D3Sh数対流物質移動/拡散kL/DPOINT相関式 Sh = f(Re, Sc) でShを求め、kc = ShD/Lへ戻す式・図の記号は記事本文の定義と対応しています
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物質移動係数とは

流体本体と表面の間で、希薄成分Aが移動する場合を考えます。濃度差を推進力にしたモル流束は、次のように表せます。

\[
\boxed{
N_A=k_c\left(C_{A,s}-C_{A,b}\right)
}
\]
記号 意味 SI単位
\(N_A\) 表面から流体本体へ向かうAのモル流束 \(\mathrm{mol/(m^2\,s)}\)
\(k_c\) 濃度基準の物質移動係数 \(\mathrm{m/s}\)
\(C_{A,s}\) 表面におけるAの濃度 \(\mathrm{mol/m^3}\)
\(C_{A,b}\) 流体本体におけるAの濃度 \(\mathrm{mol/m^3}\)

この式では、\(C_{A,s}>C_{A,b}\) ならAは表面から流体本体へ移動し、\(C_{A,s}拡散係数と物質移動係数は違う

拡散係数 \(D_{AB}\) は、分子運動によるAとBの拡散しやすさを表す物性値です。一方、物質移動係数 \(k_c\) は、境界層内の濃度勾配をまとめた係数です。

濃度境界層の厚さを \(\delta_C\) として単純化すると、

\[
k_c\sim\frac{D_{AB}}{\delta_C}
\]

と考えられます。流速や撹拌が変わると \(\delta_C\) が変化するため、同じ流体でも \(k_c\) は変わります。

物質移動係数は物性表から一意に決まらない
\(D_{AB}\) は温度・圧力・組成から選ぶ物性値ですが、\(k_c\) には流動状態と形状も含まれます。実験値、装置固有の設計式、または条件に合う無次元相関式から求めます。

物質移動係数と総括物質移動係数の違いは、移動係数と移動抵抗で詳しく整理しています。

3つの無次元数を先に整理する

強制対流による物質移動は、代表的には次の形で整理されます。

\[
\boxed{
\mathrm{Sh}=f\left(\mathrm{Re},\mathrm{Sc}\right)
}
\]

実際の相関式には、形状、境界条件、入口からの距離、層流・乱流などの情報も含まれます。まず、Re・Sc・Shがそれぞれ何を表すのか確認しましょう。

Reynolds数:流れの状態を表す

Reynolds数は、慣性の効果と粘性の効果の比を表します。

\[
\boxed{
\mathrm{Re}
=
\frac{\rho uL_c}{\mu}
=
\frac{uL_c}{\nu}
}
\]
記号 意味 SI単位
\(\rho\) 流体密度 \(\mathrm{kg/m^3}\)
\(u\) 相関式で指定された代表流速 \(\mathrm{m/s}\)
\(L_c\) 相関式で指定された代表長さ \(\mathrm{m}\)
\(\mu\) 粘度 \(\mathrm{Pa\,s}\)
\(\nu=\mu/\rho\) 動粘度 \(\mathrm{m^2/s}\)

Reが小さいほど粘性の影響が強く、規則的な流れになりやすくなります。Reが大きくなると慣性の影響が増し、流れの乱れや境界層の変化が重要になります。

ただし、層流と乱流の境界値は形状によって異なります。円管内流れの基準を、平板や粒子まわりへそのまま使うことはできません。

Schmidt数:運動量と物質の広がりやすさを比べる

Schmidt数は、運動量拡散率である動粘度 \(\nu\) と、物質拡散率 \(D_{AB}\) の比です。

\[
\boxed{
\mathrm{Sc}
=
\frac{\nu}{D_{AB}}
=
\frac{\mu}{\rho D_{AB}}
}
\]
Scの大きさ 意味 濃度境界層の傾向
\(\mathrm{Sc}>1\) 物質より運動量の方が速く広がる 速度境界層より薄くなりやすい
\(\mathrm{Sc}\approx1\) 両者の広がる速さが同程度 両境界層が同程度になりやすい
\(\mathrm{Sc}<1\) 運動量より物質の方が速く広がる 速度境界層より厚くなりやすい

気体ではScが1に近い場合が多く、液体では拡散係数が小さいため、数百から数千程度になる場合があります。ただし、必ず対象物質と温度に対応した \(\rho\)、\(\mu\)、\(D_{AB}\) を使って計算してください。

Sherwood数:対流を含む物質移動の強さを表す

濃度基準の物質移動係数に対するSherwood数は、次のように定義します。

\[
\boxed{
\mathrm{Sh}
=
\frac{k_cL_c}{D_{AB}}
}
\]

これを物質移動係数について解くと、

\[
\boxed{
k_c
=
\frac{\mathrm{Sh}D_{AB}}{L_c}
}
\]

となります。Shは、対流を含む実際の物質移動を、代表長さ \(L_c\) にわたる分子拡散の基準と比較した量と解釈できます。

3つの役割を一言で整理
Reは「流れ方」、Scは「運動量と物質の広がり方の比」、Shは「その結果として得られる物質移動の強さ」です。相関式でReとScをShへ変換し、最後にShから \(k_c\) を取り出します。

物質移動Peclet数との関係

物質移動Peclet数は、対流による輸送と分子拡散の比を表し、

\[
\mathrm{Pe}_m
=
\frac{uL_c}{D_{AB}}
=
\mathrm{Re}\,\mathrm{Sc}
\]

です。ReとScを掛けると、流れと分子拡散の相対的な強さを直接比較できます。

伝熱とのアナロジー

運動量移動、熱移動、物質移動には共通した構造があります。対流伝熱でNu・Re・Prを使うのと同じように、対流物質移動ではSh・Re・Scを使います。

内容 熱移動 物質移動
移動係数 熱伝達係数 \(h\) 物質移動係数 \(k_c\)
分子輸送物性 熱伝導率 \(\lambda\)、熱拡散率 \(\alpha\) 拡散係数 \(D_{AB}\)
移動の強さ \(\mathrm{Nu}=hL_c/\lambda\) \(\mathrm{Sh}=k_cL_c/D_{AB}\)
拡散率の比 \(\mathrm{Pr}=\nu/\alpha\) \(\mathrm{Sc}=\nu/D_{AB}\)
代表的な相関 \(\mathrm{Nu}=f(\mathrm{Re},\mathrm{Pr})\) \(\mathrm{Sh}=f(\mathrm{Re},\mathrm{Sc})\)

この対応を知っていると、対流伝熱で学んだ境界層や無次元相関式の考え方を、物質移動へ応用できます。ただし、熱移動と物質移動が常に完全に相似になるわけではありません。高濃度、化学反応、多成分拡散、相変化などが重要な場合には追加の補正が必要です。

相関式から物質移動係数を求める5つの手順

  1. 形状と流れを決める:平板外部流、円管内流、球まわり、充填層などを区別する
  2. 相関式の定義を読む:代表流速、代表長さ、局所値か平均値か、濃度基準かを確認する
  3. 物性値をそろえる:同じ評価温度・組成における \(\rho\)、\(\mu\)、\(D_{AB}\) を用意する
  4. ReとScからShを求める:相関式の適用範囲内であることを確認して代入する
  5. \(k_c=\mathrm{Sh}D_{AB}/L_c\) へ戻す:最後に物質流束や移動量を計算する
相関式は普遍的な法則ではない
同じ \(\mathrm{Sh}=a\mathrm{Re}^m\mathrm{Sc}^n\) の形でも、係数と指数は形状、流れ、境界条件、物性値の評価方法によって異なります。式だけを切り取らず、出典と適用範囲をセットで使ってください。

代表長さは形状によって変わる

ShとReに入れる代表長さは、計算者が自由に選ぶものではなく、相関式の定義に従います。

対象 代表長さの例 注意点
平板上の外部流 先端からの距離 \(x\)、または板長さ \(L\) 局所値と平均値で使い分ける
球・液滴・粒子 直径 \(d_p\) 半径基準の式と混同しない
円管内流 管内径 \(D_i\) 入口領域と十分発達した領域を区別する
非円形流路 水力直径 \(D_h\) 相関式が水力直径基準か確認する
充填層 粒子径など 空隙率や表面積の定義も式ごとに異なる

代表長さを直径から半径へ変えるだけでも、ReとShの数値は変わります。相関式の係数も代表長さの定義に合わせて決められているため、長さだけを独自に変更してはいけません。

平板上の層流物質移動

一定表面濃度、物性一定、平板に沿う定常な層流外部流などを仮定すると、局所Sherwood数の代表式は、

\[
\boxed{
\mathrm{Sh}_x
=
0.332\mathrm{Re}_x^{1/2}\mathrm{Sc}^{1/3}
}
\]

です。ここで、

\[
\mathrm{Re}_x=\frac{\rho ux}{\mu},
\qquad
\mathrm{Sh}_x=\frac{k_{c,x}x}{D_{AB}}
\]

です。

先端から長さ \(L\) までの平均物質移動係数を使う場合、平均Sherwood数は、

\[
\boxed{
\overline{\mathrm{Sh}}_L
=
0.664\mathrm{Re}_L^{1/2}\mathrm{Sc}^{1/3}
}
\]

となります。NPTELの資料では、この平均式について \(\mathrm{Re}_L<3\times10^5\)、\(0.6<\mathrm{Sc}<2500\) が示されています。

局所式の0.332と平均式の0.664を混同しない
平板先端では濃度境界層が薄く、局所物質移動係数が大きくなります。下流へ行くほど局所係数は低下するため、板全体の平均値は終端 \(x=L\) の局所値より大きくなります。この条件では、平均Sherwood数は終端の局所Sherwood数の2倍です。

同じNPTEL資料には、乱流域の平均式の一例として、

\[
\overline{\mathrm{Sh}}_L
=
0.036\mathrm{Re}_L^{4/5}\mathrm{Sc}^{1/3}
\]

も示されています。ただし、遷移域、平板先端の層流区間、表面条件などの扱いによって別の式が使われます。Reが境界値を超えたからといって、確認せず機械的に式を切り替えないでください。

計算例1:平板の平均物質移動係数を求める

液体が、一定表面濃度を保つ長さ \(L=0.200\ \mathrm{m}\) の平板上を流れています。次の条件で、板全体の平均物質移動係数を求めます。

  • 流速:\(u=0.150\ \mathrm{m/s}\)
  • 密度:\(\rho=1000\ \mathrm{kg/m^3}\)
  • 粘度:\(\mu=1.00\times10^{-3}\ \mathrm{Pa\,s}\)
  • 拡散係数:\(D_{AB}=1.80\times10^{-9}\ \mathrm{m^2/s}\)

手順1:Reynolds数を求める

\[
\begin{aligned}
\mathrm{Re}_L
&=\frac{\rho uL}{\mu}\\
&=\frac{(1000)(0.150)(0.200)}{1.00\times10^{-3}}\\
&=3.00\times10^4
\end{aligned}
\]

\(\mathrm{Re}_L<3\times10^5\) なので、ここでは層流平板の平均式を使用します。

手順2:Schmidt数を求める

\[
\begin{aligned}
\mathrm{Sc}
&=\frac{\mu}{\rho D_{AB}}\\
&=\frac{1.00\times10^{-3}}{(1000)(1.80\times10^{-9})}\\
&=5.56\times10^2
\end{aligned}
\]

Scも相関式の範囲内です。

手順3:Sherwood数を求める

\[
\begin{aligned}
\overline{\mathrm{Sh}}_L
&=0.664\mathrm{Re}_L^{1/2}\mathrm{Sc}^{1/3}\\
&=0.664(3.00\times10^4)^{1/2}(5.56\times10^2)^{1/3}\\
&=9.45\times10^2
\end{aligned}
\]

手順4:物質移動係数へ戻す

\[
\begin{aligned}
\overline{k}_c
&=\frac{\overline{\mathrm{Sh}}_LD_{AB}}{L}\\
&=\frac{(9.45\times10^2)(1.80\times10^{-9})}{0.200}\\
&=8.51\times10^{-6}\ \mathrm{m/s}
\end{aligned}
\]

\[
\boxed{
\overline{k}_c=8.51\times10^{-6}\ \mathrm{m/s}
}
\]

液相では拡散係数が小さいため、物質移動係数も気相より小さな値になることがあります。値の大小だけで誤りと判断せず、単位、相、代表長さ、相関式を確認します。

計算例2:物質流束と移動量を求める

計算例1で求めた平均物質移動係数を使います。平板表面と流体本体の濃度を、

  • 表面濃度:\(C_{A,s}=0.200\ \mathrm{mol/m^3}\)
  • バルク濃度:\(C_{A,b}=0.0300\ \mathrm{mol/m^3}\)
  • 物質移動面積:\(A=0.500\ \mathrm{m^2}\)

とします。平均モル流束は、

\[
\begin{aligned}
\overline{N}_A
&=\overline{k}_c(C_{A,s}-C_{A,b})\\
&=(8.51\times10^{-6})(0.200-0.0300)\\
&=1.45\times10^{-6}\ \mathrm{mol/(m^2\,s)}
\end{aligned}
\]

です。面積を掛けると、移動モル速度は、

\[
\begin{aligned}
\dot n_A
&=\overline{N}_AA\\
&=(1.45\times10^{-6})(0.500)\\
&=7.23\times10^{-7}\ \mathrm{mol/s}\\
&=2.60\times10^{-3}\ \mathrm{mol/h}
\end{aligned}
\]

となります。このように、無次元相関式の最終目的はShそのものではなく、\(k_c\)、物質流束、装置全体の移動量を求めることです。

球まわりの物質移動

粒子、液滴、気泡など、球に近い物体のまわりでは、平板用の相関式を使えません。球直径 \(d_p\) を代表長さにした代表的なRanz–Marshall型相関式は、

\[
\boxed{
\mathrm{Sh}
=
2+0.6\mathrm{Re}^{1/2}\mathrm{Sc}^{1/3}
}
\]

です。この式はNASAの液滴蒸発モデルなどでも使われています。

\(\mathrm{Re}\to0\) では \(\mathrm{Sh}\to2\) となります。球の場合、流れがほとんどなくても、球表面から周囲へ放射状に分子拡散するため、直径基準のShは2になります。平板と球では形状が違うため、「対流がなければShは常に1」とは限りません。

計算例3:球まわりの物質移動係数を求める

直径 \(d_p=2.00\ \mathrm{mm}\) の球状粒子のまわりを気体が流れています。次の条件で気相側物質移動係数を求めます。

  • 相対流速:\(u=1.00\ \mathrm{m/s}\)
  • 気体密度:\(\rho=1.20\ \mathrm{kg/m^3}\)
  • 気体粘度:\(\mu=1.80\times10^{-5}\ \mathrm{Pa\,s}\)
  • 気相拡散係数:\(D_{AB}=1.50\times10^{-5}\ \mathrm{m^2/s}\)

まず、

\[
\mathrm{Re}
=
\frac{(1.20)(1.00)(2.00\times10^{-3})}{1.80\times10^{-5}}
=133
\]

\[
\mathrm{Sc}
=
\frac{1.80\times10^{-5}}{(1.20)(1.50\times10^{-5})}
=1.00
\]

です。相関式から、

\[
\begin{aligned}
\mathrm{Sh}
&=2+0.6(133)^{1/2}(1.00)^{1/3}\\
&=8.93
\end{aligned}
\]

したがって、

\[
\begin{aligned}
k_c
&=\frac{\mathrm{Sh}D_{AB}}{d_p}\\
&=\frac{(8.93)(1.50\times10^{-5})}{2.00\times10^{-3}}\\
&=6.70\times10^{-2}\ \mathrm{m/s}
\end{aligned}
\]

です。

\[
\boxed{
k_c=6.70\times10^{-2}\ \mathrm{m/s}
}
\]

流速・拡散係数・長さはどう効くか

層流平板の平均相関式へReとScの定義を代入すると、

\[
\overline{k}_c
\propto
u^{1/2}
D_{AB}^{2/3}
\nu^{-1/6}
L^{-1/2}
\]

という依存関係が得られます。この特定の相関式と仮定の範囲では、次のように読めます。

  • 流速を4倍にすると、平均 \(k_c\) は約2倍になる
  • 拡散係数が大きい成分ほど、\(k_c\) も大きくなりやすい
  • 板が長くなるほど、下流側で境界層が発達するため平均 \(k_c\) は低下する
  • 粘性の影響はReとScの両方へ入る

ただし、この比例関係を異なる形状や乱流相関式へそのまま移すことはできません。指数が変われば、操作条件への依存性も変わります。

物性値はどの温度で評価するか

\(\rho\)、\(\mu\)、\(D_{AB}\) は温度や組成によって変わります。表面とバルクで温度差がある場合、相関式が指定する膜温度や平均温度で評価します。

特に拡散係数は、気体では温度と圧力、液体では温度、粘度、溶媒と溶質の組合せに強く依存します。Reだけ入口条件、Scだけ出口条件というように、異なる状態の物性を混在させないことが重要です。

ヘンリーの法則と組み合わせる

気体を液体へ吸収する場合、ヘンリーの法則から、現在の気相分圧と平衡になる液相濃度 \(C_A^*\) を求められます。

液相側の容量係数を使う単純なモデルでは、単位体積あたりの移動速度を、

\[
\boxed{
r_A
=
k_La\left(C_A^*-C_{A,L}\right)
}
\]

と書けます。

  • Henry則:どこまで溶けるかを決める
  • Sh相関式:個別物質移動係数を推算する
  • 界面積 \(a\):装置内にどれだけ移動面があるかを表す
  • 濃度差:現在の平衡からのずれを表す

ただし、気液両側に抵抗がある場合、Sh相関式で求めた片側の個別係数だけでは装置全体の速度を表せません。平衡関係を使って両側抵抗を同じ基準へ換算し、総括物質移動係数を求めます。詳しくは相間物質移動・界面平衡・kLaを確認してください。

単純なSh相関式で扱いにくい場合

次の条件では、ここまでの希薄系・一定物性を前提とした式だけでは不十分な場合があります。

条件 追加で考えること
高濃度の蒸発・吸収 Stefan流、物性変化、対数平均推進力など
液相反応を伴う吸収 反応による促進係数、反応速度、平衡反応
自然対流が支配的 濃度差による浮力と物質移動Grashof数
非Newton流体 見かけ粘度、レオロジー、専用相関式
充填塔・多孔質体 空隙率、濡れ面積、粒子径、装置固有相関式
気泡・液滴が変形する 界面運動、循環、合一・分裂、汚染物質
多成分拡散 成分間の連成、Maxwell–Stefan式

等モル相互拡散とStefan流の違いは、等モル相互拡散・一方拡散・Stefan流で解説しています。

よくある間違い

間違い 正しい確認方法
形状を無視して相関式を選ぶ 平板、球、円管、充填層を区別する
代表長さを自由に決める 相関式で定義された長さを使う
局所式を装置全体へ使う \(\mathrm{Sh}_x\) と \(\overline{\mathrm{Sh}}_L\) を区別する
適用範囲外のRe・Scへ外挿する 出典に記載された範囲と条件を確認する
拡散係数と物質移動係数を混同する \(D_{AB}\) は \(\mathrm{m^2/s}\)、\(k_c\) は \(\mathrm{m/s}\) と単位も確認する
濃度基準と分圧基準の係数を混ぜる 流束式と推進力の定義をセットで確認する
\(k_c\) と \(k_La\) を同じと考える \(a\) は単位体積あたりの界面積であることを確認する
片側係数を総括係数として使う 両相抵抗がある場合は平衡関係を介して合成する

確認問題

3問のミニテストで、ここまでの内容を確認しましょう。選択すると、その場で正誤と解説が表示されます。

QUICK CHECK

1 / 3

物質移動・初級

このミニテストの回答結果は保存されません。学習記録を残す場合は化工演習室をご利用ください。

まとめ

  • 物質移動係数 \(k_c\) は、流体物性だけでなく流速、形状、代表長さ、境界条件によって変化する
  • Reynolds数は慣性と粘性の比、Schmidt数は運動量拡散と物質拡散の比を表す
  • Sherwood数は \(\mathrm{Sh}=k_cL_c/D_{AB}\) で定義される
  • 強制対流物質移動は、代表的に \(\mathrm{Sh}=f(\mathrm{Re},\mathrm{Sc})\) で整理される
  • 相関式からShを求め、\(k_c=\mathrm{Sh}D_{AB}/L_c\) で物質移動係数へ戻す
  • 相関式は形状、局所・平均、流動域、物性評価法、適用範囲を確認して使う
  • 平板と球では代表長さも相関式も異なる
  • ヘンリーの法則による平衡濃度、物質移動係数、界面積、推進力を組み合わせると移動速度を表せる
  • 高濃度、反応、多成分拡散、自然対流などでは追加のモデルや補正が必要である

無次元数を暗記するのではなく、「どの現象を比較しているか」「最終的にどの係数を求めたいか」を意識すると、相関式を安全に使えるようになります。

理解できたら、問題で確かめよう
かこまるの化工演習室では、化学工学の基礎を分野別の確認テストで復習できます。学習履歴も残せるので、記事を読んだ後のアウトプットに使ってください。
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参考資料

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