ジュール–トムソン効果とは?等エンタルピー膨張と逆転温度を例題で解説

高圧ガスが絞り弁を通って減圧・冷却されるジュールトムソン効果と逆転曲線を示す熱力学記事アイキャッチ 熱力学・物性
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高圧の気体を細い穴やバルブに通して低圧にすると、温度が変化することがあります。この現象がジュール–トムソン効果です。冷凍・液化装置だけでなく、天然ガス設備、圧力調整弁、ガスボンベの減圧などでも重要になります。

ただし、「気体は膨張すれば必ず冷える」と覚えるのは危険です。絞りによって冷えるか温まるかは、流体の種類・温度・圧力で決まり、理想気体なら温度は変化しません。

この記事では、絞り過程が等エンタルピーになる理由、ジュール–トムソン係数の符号、逆転温度、理想気体との違い、実務的な計算方法を例題と図解で学びます。エンタルピーの定義が曖昧なら、先にエンタルピー・内部エネルギー・熱・仕事の違いを確認してください。

この記事でわかること

  • 絞り弁の前後でエンタルピーがほぼ一定になる理由
  • ジュール–トムソン係数の定義と符号の読み方
  • 圧力低下によって冷却・加熱が起こる条件
  • 理想気体ではジュール–トムソン効果が生じない理由
  • 逆転温度・逆転曲線と水素・ヘリウムの予冷
  • 物性表や状態方程式を使った出口温度の求め方
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ジュール–トムソン効果とは?

ジュール–トムソン効果とは、実在気体が絞り弁、多孔質栓、細孔などを通って等エンタルピー的に減圧するときに温度が変化する現象です。「J–T効果」「JT効果」とも呼ばれます。

典型的な装置は、上流側の高圧配管と下流側の低圧配管を、流路の狭いバルブでつないだものです。流体は狭い部分で強い抵抗を受け、圧力が急激に低下します。

まず押さえる3点
① 絞り過程は、通常「断熱・軸仕事なし・速度差と高さ差を無視」と近似します。
② その結果、入口と出口の比エンタルピーはほぼ等しくなります。
③ 等エンタルピーでも温度は一定とは限りません。実在気体では圧力と温度の組合せが変わります。
ジュール–トムソン効果と逆転曲線 高圧気体が絞り弁を通って低圧になり、等エンタルピー条件のもとでジュール–トムソン係数が正なら冷却、負なら加熱されることと、逆転曲線で領域が分かれることを示す。 絞り弁では h₁ ≈ h₂、でも温度は変わる

絞り弁・細孔 入口:高圧 P₁ 出口:低圧 P₂ 温度 T₁・エンタルピー h₁ 温度 T₂・エンタルピー h₂ h₁ ≈ h₂

圧力低下時の符号判定 μJT > 0→ 冷却(T₂ < T₁) μJT < 0→ 加熱(T₂ > T₁) μJT = 0→ 逆転曲線上

逆転曲線 圧力 P温度 T 冷却領域 加熱領域 境界:μJT = 0

絞り弁前後は等エンタルピーでも、実在気体の温度は変化します。圧力低下時はジュール–トムソン係数の符号で冷却・加熱を判断します。

なぜ絞り弁の前後で等エンタルピーになる?

入口1つ・出口1つの定常流動系に、単位質量あたりの定常流エネルギー式を適用します。

\[
q-w_s=(h_2-h_1)+\frac{v_2^2-v_1^2}{2}+g(z_2-z_1)
\]
  • 外部との熱交換が小さい:\(q\approx0\)
  • バルブから軸仕事を取り出さない:\(w_s=0\)
  • 入口・出口配管で速度差と高さ差が小さい

これらを仮定すると、

\[
\boxed{h_1\approx h_2}
\]

となります。これが等エンタルピー絞りです。圧力低下で膨張仕事を外へ取り出すタービンとは異なり、絞り弁は流体の有効なエネルギーを仕事に変換しません。不可逆性が大きく、通常はエントロピーが増加します。

断熱だから等エンタルピー、ではありません
断熱に加えて、軸仕事なし、運動・位置エネルギー変化を無視できることが必要です。ノズルではエンタルピーが速度へ、タービンではエンタルピーが軸仕事へ変わるため、断熱でも入口と出口のエンタルピーは一般に同じではありません。

ジュール–トムソン係数

等エンタルピー条件で、圧力変化に対して温度がどれだけ変化するかを表す物性値がジュール–トムソン係数 \(\mu_{JT}\) です。

\[
\mu_{JT}=\left(\frac{\partial T}{\partial P}\right)_h
\]

単位には \(\mathrm{K/Pa}\)、\(\mathrm{K/kPa}\)、\(\mathrm{K/bar}\) などが使われます。圧力変化が小さく、係数を一定とみなせるなら、

\[
\Delta T\approx\mu_{JT}\Delta P
=\mu_{JT}(P_2-P_1)
\]

と近似できます。減圧では \(P_2-P_1<0\) なので、符号は次のように読みます。

係数 減圧時の温度変化 意味
\(\mu_{JT}>0\) \(\Delta T<0\) 冷却される
\(\mu_{JT}<0\) \(\Delta T>0\) 加熱される
\(\mu_{JT}=0\) 一次近似で変化なし 逆転条件

例題1:係数から温度変化を求める

問題
ある気体の入口条件付近で \(\mu_{JT}=0.25\ \mathrm{K/bar}\) とします。100 barから10 barまで絞ったときの温度変化を、係数一定として概算してください。
\[
\Delta T\approx0.25\times(10-100)=-22.5\ \mathrm{K}
\]

出口温度は入口より約22.5 K低いと見積もれます。ただし90 barもの大きな圧力差では、実際の \(\mu_{JT}\) は途中で変化します。この計算は概算であり、設計では物性表や状態方程式を使って \(h_1=h_2\) を直接解きます。

熱膨張係数を使った表現

エンタルピーの全微分は、定圧比熱 \(c_p\) と比容積 \(v\) を使って次のように書けます。

\[
dh=c_p\,dT+\left[v-T\left(\frac{\partial v}{\partial T}\right)_P\right]dP
\]

絞り過程では \(dh=0\) なので、

\[
\mu_{JT}
=\frac{1}{c_p}\left[T\left(\frac{\partial v}{\partial T}\right)_P-v\right]
=\frac{v}{c_p}(\alpha T-1)
\]

ここで、体膨張係数 \(\alpha\) は、

\[
\alpha=\frac{1}{v}\left(\frac{\partial v}{\partial T}\right)_P
\]

です。したがって、\(\alpha T>1\) なら \(\mu_{JT}>0\)、\(\alpha T<1\) なら \(\mu_{JT}<0\) です。

例題2:比容積と体膨張係数から求める

問題
\(T=300\ \mathrm{K}\)、\(v=0.0080\ \mathrm{m^3/kg}\)、\(c_p=1.00\ \mathrm{kJ/(kg\,K)}\)、\(\alpha=4.0\times10^{-3}\ \mathrm{K^{-1}}\) の気体について、ジュール–トムソン係数を求めてください。

\(c_p=1000\ \mathrm{J/(kg\,K)}\)、\(\alpha T=1.20\) なので、

\[
\mu_{JT}=\frac{0.0080}{1000}(1.20-1)
=1.6\times10^{-6}\ \mathrm{K/Pa}
=0.16\ \mathrm{K/bar}
\]

係数は正なので、この状態から減圧すると冷却されます。

理想気体ではなぜ温度が変わらない?

理想気体では、比容積は \(v=RT/P\) です。一定圧力で温度微分すると、

\[
\left(\frac{\partial v}{\partial T}\right)_P=\frac{R}{P}=\frac{v}{T}
\]

したがって、

\[
T\left(\frac{\partial v}{\partial T}\right)_P-v=0
\quad\Rightarrow\quad
\boxed{\mu_{JT}=0}
\]

理想気体のエンタルピーは温度だけの関数なので、\(h_1=h_2\) なら \(T_1=T_2\) です。つまり、ジュール–トムソン効果は分子間力や分子の有限な大きさをもつ実在気体の性質です。理想気体と実在気体の違いは、圧縮係数Zと実在気体でも解説しています。

分子レベルのイメージ
分子間の引力が効く条件では、分子同士を引き離すためにエネルギーが使われ、並進運動のエネルギーが減って冷却しやすくなります。一方、反発の影響が優勢な高温・高密度側では、減圧によって温度が上がる場合があります。

逆転温度と逆転曲線

ジュール–トムソン係数がゼロになる状態を逆転点と呼びます。温度–圧力線図上で逆転点を結んだものが逆転曲線です。

ある圧力で、冷却側と加熱側の境界となる温度が逆転温度です。一般に、

  • 逆転温度より低い側:\(\mu_{JT}>0\)、減圧で冷却
  • 逆転温度より高い側:\(\mu_{JT}<0\)、減圧で加熱

ただし逆転温度は圧力によって変わるため、厳密には1つの定数ではなく逆転曲線で考えます。

水素とヘリウムには予冷が必要

多くの気体は常温付近で正のジュール–トムソン係数をもち、絞ると冷却します。一方、水素・ヘリウム・ネオンは常温付近で加熱側になることがあり、液化の前に逆転温度より低くなるよう予冷が必要です。

実際の極低温冷凍機では、予冷したヘリウムを小さなオリフィスで膨張させ、ジュール–トムソン効果による最終冷却を利用します。

絞り・タービン・自由膨張の違い

過程 代表的な一定量 外部仕事 温度変化の主因
絞り弁 エンタルピー \(h\) なし 実在気体のJT効果、相変化
理想的な断熱タービン エントロピー \(s\) 取り出す エンタルピーが軸仕事へ変換
ノズル 全エンタルピー なし 静エンタルピーが運動エネルギーへ変換
真空への自由膨張 内部エネルギー \(u\) なし 閉じた系の膨張

「断熱膨張」という言葉だけで式を選ばず、流れが定常か、軸仕事があるか、速度が変わるか、開いた系か閉じた系かを確認します。

物性表から出口温度を求める方法

大きな圧力差では \(\mu_{JT}\) が変化するため、入口の温度・圧力からエンタルピーを求め、出口圧力で同じエンタルピーになる温度を探す方法が基本です。

  1. 入口条件 \((T_1,P_1)\) から \(h_1\) を求める。
  2. 出口では \(h_2=h_1\) と置く。
  3. 出口圧力 \(P_2\) において \(h(T_2,P_2)=h_1\) を満たす \(T_2\) を探す。
  4. 飽和域に入る場合は、温度だけでなく蒸気品質や相の状態も確認する。

例題3:物性表を補間する

問題
入口条件から \(h_1=288\ \mathrm{kJ/kg}\) と求まりました。出口圧力における物性表が、280 Kで284 kJ/kg、290 Kで294 kJ/kgを示しています。等エンタルピー絞りの出口温度を線形補間してください。
\[
T_2=280+
\frac{288-284}{294-284}(290-280)
=284\ \mathrm{K}
\]

入口温度が300 Kなら、この物性表の条件では16 K冷却されたことになります。実際の計算にはNIST REFPROPなどの信頼できる物性データやプロセスシミュレーターを使います。

液化・二相化が起こる場合

出口圧力で等エンタルピー線が気液二相域に入ると、流体の一部がフラッシュ蒸発または凝縮します。この場合、単純な \(\Delta T=\mu_{JT}\Delta P\) だけでは出口状態を表せません。

蒸気表や圧力–エンタルピー線図を使い、出口圧力 \(P_2\) とエンタルピー \(h_2=h_1\) から、飽和温度と蒸気品質を求めます。水・蒸気系なら蒸気表の読み方が参考になります。

化学プラントでの主な用途

ガスの減圧・圧力調整

高圧ガスを調整弁で減圧すると、下流温度が低下して配管や弁が冷えることがあります。水分が含まれると氷やハイドレートが生成し、閉塞の原因になるため、乾燥、加熱、材料選定を検討します。

冷凍・ガス液化

Linde–Hampsonサイクルでは、高圧ガスを熱交換器で予冷してから絞り、得られた低温流体で入口側をさらに冷却します。この回生を繰り返すことで低温化し、液化へ近づけます。

冷媒の膨張弁

蒸気圧縮冷凍サイクルの膨張弁も、基本的に等エンタルピー絞りとして扱います。ここではJT効果だけでなく、液体冷媒の一部がフラッシュ蒸発して気液二相になることが温度低下に大きく関わります。

極低温冷却

宇宙望遠鏡や低温検出器などでは、予冷とジュール–トムソン膨張を組み合わせた低振動の冷却方式が利用されています。

設計・運転での注意点

  • 入口の係数を大圧力差へそのまま使わない:温度・圧力とともに係数は変化します。
  • 混合ガスの組成を確認する:天然ガスや冷媒混合物では組成で物性が変わります。
  • 相変化を確認する:凝縮、フラッシュ、固化、ハイドレート生成を評価します。
  • 最低金属温度を確認する:低温脆性、シール材、計器の使用温度範囲に注意します。
  • 流量計算と分けて考える:JT係数は温度変化の指標であり、弁の流量やチョーク流れは別途計算します。
  • 熱侵入を無視できるか確認する:長い配管や小流量では周囲との熱交換が無視できない場合があります。

よくある間違い

  1. 減圧すれば必ず冷える:係数が負なら温度は上がります。
  2. 断熱膨張はすべて等エンタルピー:タービンやノズルとはエネルギー変換が異なります。
  3. 理想気体でもJT冷却する:理想気体では \(\mu_{JT}=0\) です。
  4. 逆転温度を流体固有の1つの温度と考える:逆転条件は圧力にも依存します。
  5. 温度変化だけ見て相状態を確認しない:出口が二相域へ入る場合があります。

計算の基本手順

  1. 流体組成と入口温度・入口圧力・出口圧力を決める。
  2. 断熱、軸仕事なし、速度・高さ変化無視の近似を確認する。
  3. 小さな圧力差の概算なら \(\Delta T\approx\mu_{JT}\Delta P\) を使う。
  4. 大きな圧力差なら、物性モデルで \(h_1=h_2\) を満たす出口状態を解く。
  5. 逆転曲線、相変化、最低温度、材料・閉塞リスクを確認する。
  6. 実測温度やベンダーデータと照合する。

理解度チェック

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まとめ

  • ジュール–トムソン効果は、実在気体の等エンタルピー減圧による温度変化である。
  • 絞り弁では、断熱・軸仕事なし・速度と高さの変化無視により \(h_1\approx h_2\) となる。
  • \(\mu_{JT}>0\) なら減圧で冷却、\(\mu_{JT}<0\) なら加熱される。
  • 理想気体ではエンタルピーが温度だけの関数なので \(\mu_{JT}=0\) である。
  • 逆転曲線は冷却領域と加熱領域の境界を表す。
  • 大きな圧力差や相変化を伴う場合は、物性表や状態方程式で等エンタルピー出口状態を求める。
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参考資料

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