化学工学の基礎を、原理・数式と直感的なイメージの両面から、初学者にもわかりやすくお届けします。
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量論係数は、化学反応式に書かれた物質が「何molずつ反応し、何molずつ生成するか」を表します。反応を伴う物質収支では、質量をモルへ変換した後、量論係数から各成分の消費量・生成量を求めます。
この記事では、化学反応式の読み方、モル比、限界反応物と過剰反応物、過剰率、反応進行度までを、初学者向けの例題で一つにつなげて解説します。
- 化学反応式の係数と添字の違い
- 量論係数から反応モル比を求める方法
- 限界反応物と過剰反応物の判定方法
- 理論量と過剰率の計算方法
- 反応進行度を使って反応後の物質量を表す方法
量論係数とは?
化学反応式は、反応物と生成物の種類だけでなく、それぞれが反応する数の比も表します。例えば、水素の燃焼反応は次のように書けます。
2\mathrm{H_2}+\mathrm{O_2}\rightarrow2\mathrm{H_2O}
\]
化学式の前にある2、1、2が量論係数です。この反応式は、分子の個数でもモル数でも次の比を表します。
\mathrm{H_2}:\mathrm{O_2}:\mathrm{H_2O}=2:1:2
\]
したがって、水素2 molと酸素1 molが完全に反応すると、水2 molが生成します。水素200 kmolと酸素100 kmolなら、水は200 kmol生成します。反応式の係数は、量の大きさではなく比を示すため、同じ倍率で拡大・縮小できます。
モルそのものや、質量からモルへの換算に不安がある場合は、先にモル・モル質量・平均分子量の基礎を確認してください。
係数と化学式の添字は違う
反応式をそろえるときに変更してよいのは、化学式の前の係数です。化学式の右下にある添字を変えると、別の物質になってしまいます。
| 表記 | 意味 | 変更したとき |
|---|---|---|
| \(2\mathrm{H_2O}\) | 水分子が2個、または水が2 mol | 物質の量が変わる |
| \(\mathrm{H_2O}\) | 1分子中にH原子2個、O原子1個 | 添字を変えると別物質になる |
| \(\mathrm{H_2O_2}\) | 過酸化水素 | 水とは性質が異なる |
化学反応の前後では、各元素の原子数と電荷が保存されます。化学式は変えず、前の係数を調整して左右の原子数を一致させます。
量論係数からモル比を読む
一般的な反応を、正の係数 \(a,b,c,d\) を使って次のように表します。
a\mathrm{A}+b\mathrm{B}\rightarrow c\mathrm{C}+d\mathrm{D}
\]
反応した量と生成した量の関係は、次の比で表せます。
\frac{-\Delta n_{\mathrm{A}}}{a}
=\frac{-\Delta n_{\mathrm{B}}}{b}
=\frac{\Delta n_{\mathrm{C}}}{c}
=\frac{\Delta n_{\mathrm{D}}}{d}
\]
反応物は減少するので変化量 \(\Delta n\) が負、生成物は増加するので正です。上式では、反応物側にマイナスを付けて全体を正の量として比べています。
例題1:アンモニア生成量を求める
窒素と水素からアンモニアが生成する反応を考えます。
\mathrm{N_2}+3\mathrm{H_2}\rightarrow2\mathrm{NH_3}
\]
水素が12 mol反応したとき、アンモニアの生成量は、
n_{\mathrm{NH_3}}
=12\ \mathrm{mol}\times\frac{2}{3}
=8\ \mathrm{mol}
\]
となります。「既知の物質量 × 求めたい成分の係数 ÷ 既知成分の係数」と考えると整理できます。
量論係数と量論数
初学者向けの計算では、反応式の前に書く正の数をまとめて「量論係数」と呼ぶことが一般的です。一方、熱力学や反応工学では、反応物を負、生成物を正にした量論数 \(\nu_i\)を使うと便利です。
\sum_i \nu_i\mathrm{B_i}=0
\]
水素燃焼では、
\nu_{\mathrm{H_2}}=-2,\qquad
\nu_{\mathrm{O_2}}=-1,\qquad
\nu_{\mathrm{H_2O}}=+2
\]
IUPACでも、量論数は生成物を正、反応物を負として定義されています。以降、限界反応物や反応進行度の式では、この符号付きの \(\nu_i\) を使います。
限界反応物と過剰反応物
複数の反応物を量論比どおりに供給しない場合、完全反応を仮定すると、どれか一つが最初に尽きます。この成分を限界反応物と呼びます。反応終了時に残る反応物は過剰反応物です。
反応物ごとに、初期物質量を量論係数の絶対値で割ります。
r_i=\frac{n_{i,0}}{|\nu_i|}
\]
反応物の中で \(r_i\) が最も小さい成分が限界反応物です。最小値は、反応が最大でどこまで進めるかを示す最大反応進行度にもなります。
\xi_{\max}=\min_{\text{reactants}}
\left(\frac{n_{i,0}}{|\nu_i|}\right)
\]
例題2:水素と酸素のどちらが限界反応物か
反応式 \(2\mathrm{H_2}+\mathrm{O_2}\rightarrow2\mathrm{H_2O}\) に対して、水素5 mol、酸素2 molを供給します。
\frac{n_{\mathrm{H_2},0}}{|\nu_{\mathrm{H_2}}|}
=\frac{5}{2}=2.5\ \mathrm{mol}
\]
\[
\frac{n_{\mathrm{O_2},0}}{|\nu_{\mathrm{O_2}}|}
=\frac{2}{1}=2.0\ \mathrm{mol}
\]
小さいのは酸素の2.0 molなので、酸素が限界反応物です。反応進行度の最大値は \(\xi_{\max}=2.0\ \mathrm{mol}\) です。
水素の消費量、水の生成量、反応後に残る水素は、
n_{\mathrm{H_2},\mathrm{reacted}}=2\times2.0=4.0\ \mathrm{mol}
\]
\[
n_{\mathrm{H_2O},\mathrm{formed}}=2\times2.0=4.0\ \mathrm{mol}
\]
\[
n_{\mathrm{H_2},\mathrm{final}}=5.0-4.0=1.0\ \mathrm{mol}
\]
したがって、酸素は0 mol、水素は1 mol残り、水が4 mol生成します。
過剰率とは?
理論量は、基準にした反応物を量論どおりに完全反応させるために必要な最小量です。実際の供給量が理論量より多いとき、過剰率は次式で表します。
\text{過剰率(\%)}
=\frac{n_{\mathrm{actual}}-n_{\mathrm{stoich}}}
{n_{\mathrm{stoich}}}\times100
\]
逆に、過剰率から実供給量を求める式は、
n_{\mathrm{actual}}
=n_{\mathrm{stoich}}
\left(1+\frac{\text{過剰率}}{100}\right)
\]
例題3:20%過剰の酸素を供給する
メタン100 kmolを完全燃焼させるため、酸素を量論量より20%多く供給します。
\mathrm{CH_4}+2\mathrm{O_2}\rightarrow
\mathrm{CO_2}+2\mathrm{H_2O}
\]
メタン1 molに酸素2 molが必要なので、理論酸素量は、
n_{\mathrm{O_2,stoich}}
=100\times2=200\ \mathrm{kmol}
\]
20%過剰で供給する酸素量は、
n_{\mathrm{O_2,actual}}
=200\times(1+0.20)
=240\ \mathrm{kmol}
\]
完全反応を仮定すると、酸素は40 kmol残り、二酸化炭素100 kmol、水200 kmolが生成します。
過剰率の分母は理論量です。この例では過剰酸素40 kmolは、理論量200 kmolの20%ですが、実供給量240 kmolの16.7%です。
反応進行度とは?
反応進行度 \(\xi\)は、反応式で表された反応が何mol分進んだかを表す量です。単一反応の閉じた系では、成分 \(i\) の物質量を次式で表せます。
\boxed{n_i=n_{i,0}+\nu_i\xi}
\]
反応物の量論数は負なので、反応が進むと物質量が減ります。生成物の量論数は正なので、物質量が増えます。一つの \(\xi\) で全成分の変化を同時に計算できることが利点です。
例題4:反応進行度から各成分量を求める
水素5 mol、酸素3 mol、水0 molから反応を開始し、反応進行度が1.5 molになったとします。
| 成分 | 初期量 \(n_{i,0}\) | 量論数 \(\nu_i\) | 変化量 \(\nu_i\xi\) | 最終量 \(n_i\) |
|---|---|---|---|---|
| \(\mathrm{H_2}\) | 5.0 mol | −2 | −3.0 mol | 2.0 mol |
| \(\mathrm{O_2}\) | 3.0 mol | −1 | −1.5 mol | 1.5 mol |
| \(\mathrm{H_2O}\) | 0 mol | +2 | +3.0 mol | 3.0 mol |
反応前後でH原子とO原子の総数が保存されていることも確認できます。
反応進行度と転化率の関係
基準反応物Aの転化率 \(X_A\) は、初期量のうち反応した割合です。
X_A=\frac{n_{A,0}-n_A}{n_{A,0}}
\]
反応進行度を使うと、\(n_A=n_{A,0}+\nu_A\xi\) なので、
\boxed{X_A=\frac{|\nu_A|\xi}{n_{A,0}}}
\]
となります。転化率、収率、選択率の使い分けは転化率・収率・選択率の違いで詳しく解説しています。
反応を伴う物質収支への使い方
回分系の単一反応なら、反応前後の物質量は \(n_i=n_{i,0}+\nu_i\xi\) で整理できます。定常流通系では、物質量をモル流量 \(F_i\) に置き換えて、
F_{i,\mathrm{out}}
=F_{i,\mathrm{in}}+\nu_i\dot{\xi}
\]
と表せます。\(\dot{\xi}\) は単位時間あたりの反応進行度です。実際の装置では、未反応成分、生成物、不活性成分、リサイクル、パージなども含めて成分ごとの収支を立てます。
収支式の基本形は物質収支の基本式と解き方を参照してください。
初学者が間違えやすいポイント
質量比とモル比を混同する
反応式の係数は、基本的に粒子数またはモル数の比です。質量が2:1になるとは限りません。質量が与えられた場合は、モル質量で割ってモルへ変換します。
限界反応物を単純に「モル数が少ない成分」とする
比較するのはモル数そのものではなく、\(n_{i,0}/|\nu_i|\) です。係数で規格化してから最小値を選びます。
反応物の量論数を正にする
反応進行度の式では、反応物の \(\nu_i\) を負、生成物を正にします。すべて正にすると、反応物まで増加してしまいます。
過剰率の分母を実供給量にする
過剰率の基準は理論量です。実供給量に対する余剰分の割合とは異なります。
完全反応を無条件に仮定する
限界反応物の計算は「反応式どおりに完全に進む」と仮定した理論計算です。実際には化学平衡、副反応、反応速度、混合状態などによって未反応成分が残ります。
量論計算の基本手順
- 化学反応式を原子数と電荷が保存するようにそろえる
- 質量や体積を必要に応じてモル数へ変換する
- 反応物ごとに \(n_{i,0}/|\nu_i|\) を計算する
- 最小の成分を限界反応物とし、\(\xi_{\max}\) を決める
- \(n_i=n_{i,0}+\nu_i\xi\) で反応後の各成分量を求める
- 過剰反応物の残量と生成物量を確認する
- 元素収支と、すべての物質量が0以上であることを検算する
モル比は量論係数の比、限界反応物は \(\min(n_{i,0}/|\nu_i|)\)、反応後の量は \(n_i=n_{i,0}+\nu_i\xi\) です。この3つを同じ表の中で使うと、複雑な反応量論も整理できます。
量論係数・限界反応物の基礎ミニテスト
QUICK CHECK
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このミニテストの回答結果は保存されません。学習記録を残す場合は化工演習室をご利用ください。
まとめ
- 量論係数は、反応物と生成物の粒子数またはモル数の比を表す
- 反応式をそろえるときは化学式の添字ではなく、前の係数を変える
- 量論数 \(\nu_i\) は反応物を負、生成物を正にする
- 限界反応物は、反応物の \(n_{i,0}/|\nu_i|\) が最小の成分である
- 過剰率は、実供給量と理論量の差を理論量で割って求める
- 反応進行度を使うと、全成分を \(n_i=n_{i,0}+\nu_i\xi\) で表せる
- 理論計算と実際の転化率・平衡・副反応は区別する
量論係数を正しく読めるようになると、反応を伴う物質収支、燃焼計算、反応器設計の入口が一気につながります。最初は、係数で規格化して限界反応物を決め、反応進行度で最終量を計算する手順を繰り返し練習しましょう。
実装置では、完全反応の仮定だけでなく、転化率、選択率、化学平衡、反応速度、空気組成、水分、パージやリサイクルも確認します。採用した反応式、組成基準、乾き・湿り基準、標準状態を計算書に明記してください。
参考資料
- IUPAC Gold Book:stoichiometric number
- IUPAC Gold Book:extent of reaction
- IUPAC Gold Book:reactant
- NIST:Thermodynamics of biochemical reactions(stoichiometric number and extent of reaction)


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