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液液抽出では、混ざり合いにくい2つの液体を接触させ、目的成分を一方の液相からもう一方へ移動させます。しかし、平衡関係や必要段数を計算できても、実際にどの装置で液体を接触・分離させるかが決まらなければプロセスは完成しません。
液液抽出装置には、ミキサーセトラー、スプレー塔、充填塔、多孔板塔、撹拌抽出塔、脈動塔、遠心抽出器などがあります。本記事では、それぞれの仕組み・長所・短所を比較し、液物性や処理条件から装置を選ぶ考え方を解説します。
この記事で分かること
- 液液抽出装置が担う「分散」と「相分離」の役割
- ミキサーセトラー・抽出塔・遠心抽出器の違い
- 各装置に向く条件と注意すべきトラブル
- 液物性・処理量・滞留時間から装置を絞る手順
- 装置選定でパイロット試験が重要な理由
先に読むと理解しやすい記事
液液抽出装置に必要な2つの働き
液液抽出装置は、外観が違っても次の2つの働きを必ず持っています。
- 分散・接触:一方の液体を液滴にし、もう一方の液体と十分に接触させる
- 相分離:物質移動後の2液を、密度差などを利用して再び分ける
接触面積を増やすには液滴を小さくしたくなります。一方、相分離を速くするには液滴を大きくし、沈降または浮上しやすくするほうが有利です。液液抽出装置の設計には、最初からこの「混ぜたい」と「分けたい」のトレードオフがあります。
液滴を小さくすると界面積が増える
直径のそろった球形液滴を考えると、装置体積当たりの液液界面積 \(a\) は、おおよそ次式で表せます。
\[ a=\frac{6\phi}{d_{32}} \]ここで、\(\phi\) は分散相の体積分率、\(d_{32}\) はザウター平均液滴径です。同じ分散相量なら、液滴径を半分にすると界面積は約2倍になります。物質移動速度を
\[ N_A=K_Aa\,\Delta C \]と表すと、界面積 \(a\) の増加は装置体積当たりの移動速度を高める方向に働きます。ただし、細かすぎる液滴は合一・沈降しにくく、エマルション化や液の同伴を起こしやすくなります。
直感的なイメージ
ドレッシングを強く振ると油が細かい粒になり、酢とよく触れます。しかし、振った直後はなかなか二層に戻りません。抽出装置でも同じで、強い撹拌は物質移動には有利でも、その後の相分離には不利になり得ます。
液液抽出装置の大きな分類
装置は、接触と分離を段ごとに行う段式装置と、塔内で連続的に物質移動させる微分接触式の抽出塔に大別できます。遠心力を利用する遠心抽出器は、接触と分離を非常に短時間で行う段式装置として扱われることが一般的です。
ミキサーセトラー
ミキサーセトラーは、撹拌して液液接触させるミキサー部と、重力で二相に分けるセトラー部を組み合わせた装置です。1組を1段として複数段を直列に並べれば、向流多段抽出を構成できます。
長所
- 1段ごとの流入・流出が明確で、理論段の考え方と対応させやすい
- 撹拌速度、滞留時間、相界面の位置を段ごとに調整しやすい
- 比較的広い流量範囲に対応しやすく、運転状態を目視確認しやすい
- 塔内構造物が密な装置より、固形物を含む系を扱いやすい場合がある
短所
- セトラー面積が必要なため、段数が多いと設置面積が大きくなる
- 各段に撹拌機や界面制御が必要となり、機器点数が増える
- 強く混ぜすぎると微細液滴や安定なエマルションが生じ、セトラーが大きくなる
確実な段接触や高いターンダウン比を重視し、設置面積を確保できるときに有力です。設計では、ミキサー内の物質移動だけでなく、セトラー内の分散帯の厚さや液滴の合一速度も確認します。
スプレー塔
スプレー塔は、ノズルから一方の液を液滴として噴出し、もう一方の連続相の中を上昇または下降させる、最も単純な抽出塔です。塔内構造が少ないため、安価で圧力損失も小さく、洗浄しやすいのが特徴です。
一方、液滴の合一や再分散を制御しにくく、軸方向混合も生じやすいため、単位高さ当たりの分離性能は高くありません。必要な移動単位数が少ない系や、汚れや固形物への耐性を優先する用途で候補になります。
充填塔
充填塔では、塔内の充填物が液滴の分裂・合一を促し、液液界面積を増やします。構造が比較的簡単で、少ない移動単位数を得る装置として使いやすい方式です。
ただし、充填物による閉塞、偏流、液の滞留、スケールアップ時の液分布の悪化に注意が必要です。固形物が多い系や、第三相が生成しやすい系では慎重な検討が必要です。
多孔板塔(シーブトレイ抽出塔)
多孔板塔では、穴の開いた棚段を液滴が通過するたびに再分散されます。連続相は堰や下降管を通って反対方向へ流れ、向流接触します。スプレー塔より接触状態を整えやすく、比較的大きな処理量に対応しやすい装置です。
棚段間隔、孔径、開孔比、各相の流量を適切に決める必要があります。流量が過大になると液が塔内に滞留するフラッディング、流量が小さすぎると分散不良や逆流が起こる場合があります。
撹拌抽出塔
撹拌抽出塔は、回転円板、タービン、往復板などで外部からエネルギーを与え、塔内の液滴径と接触状態を制御する装置です。代表例にはRDC(Rotating Disc Contactor)、Kühni塔、Scheibel塔などがあります。
自然な液滴運動だけでは物質移動が不足する系でも、高い界面積を得やすい点が長所です。ただし、撹拌動力が必要で、回転軸・シール・内部構造物の保守も考えなければなりません。撹拌が強すぎると微細液滴が増え、相分離をかえって難しくします。
脈動塔
脈動塔は、塔内の液を上下に周期運動させ、多孔板や充填物を通過するときのせん断で液滴を分裂させます。回転軸を塔内に持たずに接触を強化でき、装置内滞留量を比較的小さくできる場合があります。
脈動の振幅と周波数が重要な操作変数です。弱すぎると分散が不足し、強すぎると液滴が細かくなりすぎて同伴やフラッディングにつながります。
遠心抽出器
遠心抽出器は、高速回転するローターで2液を混合した後、遠心力により軽液相と重液相を短時間で分離する装置です。重力の数十倍から数百倍に相当する分離場を利用できる機種もあり、重力分離が遅い系をコンパクトに処理できます。
長所
- 相分離が速く、装置の占有面積と液の滞留量を小さくしやすい
- 迅速な起動・停止や洗い出しが必要なプロセスに向く
- 熱・放射線・反応などで劣化しやすい物質の滞留時間を短くできる
短所
- 高速回転機械のため、設備費・保守・振動管理の負担がある
- 固形物による詰まりやローター不均衡に注意が必要
- 1台当たりの容量や運転可能範囲は機種に依存する
液液抽出装置の比較表
| 装置 | 接触・分離の特徴 | 主な長所 | 主な注意点 | 向きやすい条件 |
|---|---|---|---|---|
| ミキサーセトラー | 撹拌槽と重力沈降槽を段ごとに配置 | 段が明確、制御しやすい、広い運転範囲 | 設置面積、液保有量、機器点数 | 確実な段接触、流量変動、固形物を含む系 |
| スプレー塔 | ノズルで液滴化し塔内を移動 | 単純、安価、低圧力損失、洗浄しやすい | 分離性能と液滴制御が限定的 | 分離が容易、必要移動単位数が少ない系 |
| 充填塔 | 充填物で分裂・合一を促進 | 構造が比較的単純、界面積を確保しやすい | 閉塞、偏流、スケールアップ | 清浄な液、比較的少ない移動単位数 |
| 多孔板塔 | 棚段の孔を通して再分散 | 処理量を大きくしやすい、尺度拡大しやすい | フラッディング、流量範囲 | 大容量の連続向流操作 |
| 撹拌抽出塔 | 回転子などで機械的に分散 | 物質移動性能を高めやすい | 動力、回転部の保守、過剰分散 | 自然分散だけでは接触が不足する系 |
| 脈動塔 | 往復流と内部構造で分散 | 回転軸なしで接触を強化 | 脈動条件、同伴、フラッディング | 短い滞留時間と強い接触が必要な系 |
| 遠心抽出器 | ローターで混合し遠心分離 | 小型、短滞留、速い相分離 | 回転機械の保守、固形物、設備費 | 分離が遅い系、滞留時間制限、狭い設置面積 |
この表は一次選定の目安です。同じ形式でも内部構造や運転条件によって性能は大きく変わるため、表だけで最終決定はできません。
装置選定で確認する8つの条件
1.必要な段数・処理量
必要段数が少なく分離が容易なら、単純なスプレー塔や充填塔が候補になります。段ごとの平衡接触を明確にしたい場合はミキサーセトラー、大容量を縦長の設置面積で処理したい場合は抽出塔が有力です。
2.両相の密度差
重力式装置では、密度差が大きいほど液滴が沈降・浮上しやすくなります。密度差が小さく重力分離に長時間かかる場合は、セトラー面積を大きくするか、遠心抽出器を検討します。
3.粘度
粘度が高いと液滴の運動と合一が遅くなり、物質移動係数も低下しやすくなります。機械撹拌で接触を補う選択肢がありますが、過度に細かい液滴を作らない範囲で運転条件を決めます。
4.界面張力とエマルション性
界面張力が低い系や界面活性物質を含む系は、微細液滴や安定なエマルションを作りやすくなります。撹拌強度を上げればよいとは限らず、コアレッサー、滞留時間、温度調整など相分離側の対策も必要です。
5.固形物・汚れ・第三相
固形物や析出物は、充填物、棚段孔、遠心抽出器の狭い流路を詰まらせる可能性があります。内部構造が単純な装置、分解洗浄しやすい装置、固形物を事前除去できるフローを検討します。
6.許容滞留時間
熱分解、加水分解、放射線分解、副反応などで物質が劣化する場合は、装置内滞留量と滞留時間が重要です。短時間で接触・分離できる遠心抽出器や脈動塔が有利になることがあります。
7.設置面積と高さ
ミキサーセトラーは横方向の面積、抽出塔は高さを必要とします。既設建屋への導入では、プロセス性能だけでなく床荷重、階高、保守スペースも含めて比較します。
8.制御・保守・材質
流量変動への追従性、液液界面の制御、回転部の保守、腐食性液に対応する材質、シール部からの漏えいリスクを確認します。高性能な装置でも、保守できなければ安定運転は続きません。
フロー図は候補を絞るための入口です。実際には複数の条件が同時に効くため、たとえば「固形物があるが滞留時間も短くしたい」といった場合は、前処理を加える案も含めてプロセス全体を比較します。
運転で起こりやすい現象
分散相と連続相
液滴として存在する側を分散相、液滴の周囲を満たす側を連続相と呼びます。どちらを分散相にするかで、液滴径、濡れ、相分離、物質移動性能が変わります。
エントレインメント(液の同伴)
本来分離されるべき液滴が、もう一方の出口流に混ざって持ち出される現象です。抽出率の低下、下流設備への溶媒混入、溶媒損失につながります。
フラッディング
両相の流量が大きすぎ、液滴が塔内を進めずに滞留・蓄積する状態です。差圧や分散相ホールドアップが急増し、安定運転できなくなります。抽出塔の処理能力は、通常フラッディング条件に余裕を持たせて決めます。
相反転
流量や分散相率が変わり、それまで分散相だった液が連続相へ、連続相だった液が分散相へ入れ替わる現象です。物質移動や相分離の挙動が大きく変わるため、運転範囲内で相反転が起こらないか確認します。
軸方向混合
抽出塔内で液が主流方向とは逆にも混ざり、濃度勾配が緩くなる現象です。理想的な押し出し流れから外れるため、同じ塔高でも分離性能が低下します。
条件別の装置選定例
例1:相分離が速く、必要な分離性能も高くない
界面張力と密度差が十分あり、少ない移動単位数で目標に届くなら、まずスプレー塔や充填塔を検討できます。構造が簡単であることが大きな利点です。
例2:流量が変動し、段ごとの状態を確実に管理したい
ミキサーセトラーが有力です。各段の撹拌や界面位置を調整しやすく、トラブルの発生段も把握しやすい一方、十分な設置面積が必要です。
例3:液滴を作りにくく、自然接触では物質移動が不足する
撹拌抽出塔や脈動塔で外部エネルギーを与えます。ただし、エマルション性が強い系では、接触強化より相分離が律速になる可能性があります。
例4:製品が劣化しやすく、設備スペースも限られる
短い滞留時間と小さい液保有量を実現しやすい遠心抽出器が候補です。回転機械の保守性や固形物の有無を同時に確認します。
なぜパイロット試験が必要なのか
液液抽出の平衡データは、必要段数や溶媒量を決める基礎になります。しかし、装置性能は平衡だけでなく、液滴の分裂・合一、界面汚染、濡れ、エマルション、軸方向混合などに左右されます。これらを物性値だけから高精度に予測するのは難しいため、候補装置で実液試験を行います。
試験では、少なくとも次の項目を確認します。
- 流量と撹拌強度に対する液滴径・分散相ホールドアップ
- 抽出率・総括物質移動係数・段効率
- 相分離時間、分散帯の厚さ、同伴量
- フラッディング限界と安定運転範囲
- 汚れ、析出、材料腐食、洗浄性
装置選定の要点
平衡計算で「何段必要か」を求め、物質移動で「どれだけ接触させるか」を考え、流体力学と相分離で「実際に安定運転できるか」を確認します。液液抽出装置は、この3つを同時に満たす必要があります。
よくある質問
最も性能の高い液液抽出装置を選べばよいですか?
いいえ。高い物質移動性能だけでなく、相分離、保守、設置スペース、液保有量、固形物、設備費を含めて選びます。分離が容易なら、単純な装置のほうが合理的な場合もあります。
ミキサーセトラーは必ず1台で1理論段になりますか?
理想的にはミキサーとセトラーの1組を1段と考えますが、実装置では平衡への到達不足や液の同伴があるため、段効率は100%とは限りません。必要実段数は試験データや経験式で補正します。
抽出塔では軽液と重液のどちらを分散相にしますか?
密度差だけで一意には決まりません。濡れ性、粘度、流量比、物質移動抵抗、相分離性、塔内構造との相性を比較して決めます。相反転を含む運転安定性も重要です。
遠心抽出器ならエマルションを必ず分離できますか?
遠心力は分離を速めますが、極端に小さい液滴、固形物、第三相、界面活性物質の影響を完全になくせるわけではありません。実液での分離試験が必要です。
確認問題
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QUICK CHECK
1 / 3分離工学・初級
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まとめ
- 液液抽出装置は、液滴を作って接触させる働きと、二相に分離する働きを持つ
- 液滴を小さくすると界面積は増えるが、相分離は難しくなる
- ミキサーセトラーは段が明確で制御しやすい一方、設置面積が大きい
- 抽出塔は省スペースで連続処理しやすく、内部構造により接触を強化できる
- 遠心抽出器は小型・短滞留・高速分離に優れるが、回転機械の保守が必要である
- 密度差、粘度、界面張力、固形物、滞留時間、設置条件から候補を絞る
- 最終選定では、実液による物質移動・相分離・安定運転範囲の確認が欠かせない
装置名の暗記よりも、各装置がどのように液滴を作り、どのように二相を分けるのかを理解することが大切です。この視点を持つと、液物性や運転条件が変わったときにも装置の向き・不向きを考えられるようになります。
参考資料
- University of Michigan, Visual Encyclopedia of Chemical Engineering Equipment: Extractors
- Karlsruhe Institute of Technology: Mixer-settlers—Description of the coalescence and breakage behavior
- Idaho National Laboratory: Advanced Aqueous Separation Systems
- U.S. Atomic Energy Commission: Liquid-Liquid Extraction Equipment
- Argonne National Laboratory: Development of an Improved Annular Centrifugal Contactor
- Argonne National Laboratory: Engineering-Scale Demonstration of the UREX+ Process
- Oak Ridge National Laboratory: Scale-Up of Mixer-Settlers
- University at Buffalo / R. E. Treybal: Liquid Extraction


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