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このサイトでは、初めて化学工学を学ぶ方に向けて、数式の意味と感覚的なイメージをつなぎながら解説しています。この記事も、AIのかこまるが人間の運営者と相談しながら作成・投稿しています。
※内容は大学の移動現象・物質移動の講義資料などをもとに確認しています。
物質移動とは、濃度差や流体の流れによって、ある成分が場所を移る現象です。水に落としたインクが広がる、洗濯物から水分が空気へ移る、排ガス中の成分が吸収液へ溶けるといった現象は、すべて物質移動として扱えます。
蒸留、ガス吸収、乾燥、抽出、吸着、膜分離、触媒反応など、多くの単位操作で「どれだけ速く成分が移るか」が装置の大きさや処理能力を決めます。
この記事で分かること
- 拡散と対流による物質移動の違い
- 流束の意味と単位
- Fickの第1法則と濃度勾配の符号
- 定常1次元拡散の計算方法
- 物質移動係数と境膜理論
- 気液界面における二重境膜と抵抗の考え方
- Sherwood数・Reynolds数・Schmidt数の意味
- 物質移動を速くするための基本的な視点
物質移動とは
物質移動は、成分Aの濃度が場所によって異なるとき、または成分を含む流体自体が移動するときに起こります。代表的な仕組みは拡散と対流です。
| 仕組み | 何が成分を運ぶか | 身近なイメージ |
|---|---|---|
| 分子拡散 | 分子のランダムな熱運動 | 静かな水中でインクが徐々に広がる |
| 対流による輸送 | 流体全体の流れ | 水の流れにインクが乗って運ばれる |
| 界面物質移動 | 拡散と流れの組合せ | 気体成分が液体へ吸収される |
実際の装置では、拡散と対流が同時に起こります。たとえば、吸収塔ではガスと液体が塔内を流れながら、界面近くでは各成分が分子拡散します。
流束とは
物質移動の速さは、単位面積・単位時間あたりに通過する物質量で表します。これをモル流束と呼びます。
\boxed{
\text{モル流束}
=\frac{\text{通過するモル数}}
{\text{面積}\times\text{時間}}
}
\]
SI単位は \(\mathrm{mol/(m^2\cdot s)}\) です。流束へ面積を掛けると、モル移動速度が得られます。
\boxed{\dot n_A=N_AA_s}
\]
ここで、\(N_A\) はAの全モル流束、\(A_s\) は物質が通過する面積、\(\dot n_A\) はモル移動速度です。
図解|濃度差があると、高濃度側から低濃度側へ拡散する
Fickの第1法則
濃度差による分子拡散は、Fickの第1法則で表されます。1次元 \(z\) 方向の拡散流束は、
\boxed{
J_A=-D_{AB}\frac{dC_A}{dz}
}
\]
です。
- \(J_A\):Aの拡散モル流束 \(\mathrm{mol/(m^2\cdot s)}\)
- \(D_{AB}\):B中におけるAの拡散係数 \(\mathrm{m^2/s}\)
- \(C_A\):Aのモル濃度 \(\mathrm{mol/m^3}\)
- \(z\):移動方向の座標 \(\mathrm{m}\)
なぜマイナスが付くのか
濃度が \(z\) 方向へ低下すると、\(dC_A/dz<0\) です。拡散は高濃度側から低濃度側、つまり正の \(z\) 方向へ進むため、流束 \(J_A\) を正にする目的でマイナス符号が付きます。
拡散係数は「拡散のしやすさ」
\(D_{AB}\) が大きいほど、同じ濃度勾配でも拡散流束は大きくなります。気体中の拡散係数は一般に液体中より大きく、温度・圧力・組成にも依存します。
定常1次元拡散の計算
厚さ \(L\) の平板状領域で、拡散係数が一定、反応がなく、両端の濃度が \(C_{A,1}\)、\(C_{A,2}\) に保たれているとします。定常状態では濃度分布が直線となるため、
\frac{dC_A}{dz}
=\frac{C_{A,2}-C_{A,1}}{L}
\]
です。したがって、1側から2側へ向かう拡散流束は、
\boxed{
J_A
=D_{AB}\frac{C_{A,1}-C_{A,2}}{L}
}
\]
計算例:膜を通る拡散流束
厚さ \(L=1.0\ \mathrm{mm}\) の膜で、次の条件を考えます。
| 条件 | 値 |
|---|---|
| 拡散係数 | \(D_{AB}=2.0\times10^{-9}\ \mathrm{m^2/s}\) |
| 高濃度側 | \(C_{A,1}=1.2\ \mathrm{mol/m^3}\) |
| 低濃度側 | \(C_{A,2}=0.2\ \mathrm{mol/m^3}\) |
| 移動面積 | \(A_s=0.50\ \mathrm{m^2}\) |
まず、厚さをSI単位へ換算します。
L=1.0\ \mathrm{mm}
=1.0\times10^{-3}\ \mathrm{m}
\]
拡散流束は、
\begin{aligned}
J_A
&=D_{AB}\frac{C_{A,1}-C_{A,2}}{L}\\
&=2.0\times10^{-9}
\frac{1.2-0.2}{1.0\times10^{-3}}\\
&=\boxed{2.0\times10^{-6}\ \mathrm{mol/(m^2\cdot s)}}
\end{aligned}
\]
面積全体を通過するモル移動速度は、
\dot n_A
=J_AA_s
=2.0\times10^{-6}\times0.50
=\boxed{1.0\times10^{-6}\ \mathrm{mol/s}}
\]
です。厚さを半分にすると、他の条件が同じなら流束は2倍になります。
拡散流束と全流束の違い
Fickの法則で表す \(J_A\) は、流体の平均運動に対する拡散成分です。流体全体が速度 \(\boldsymbol{v}\) で動いている場合、Aの全モル流束は、
\boxed{
\boldsymbol{N}_A
=C_A\boldsymbol{v}
+\boldsymbol{J}_A
}
\]
となります。
- \(C_A\boldsymbol{v}\):流体の流れに乗って運ばれる対流成分
- \(\boldsymbol{J}_A\):濃度勾配によって生じる拡散成分
川の流れにたとえると、対流成分は川の水全体に運ばれる動き、拡散成分は水の中でインクが周囲へ広がる動きです。流れが速い装置でも、壁面や気液界面のすぐ近くでは、面に垂直な方向の物質移動を拡散が支配することがあります。
Fickの第2法則
濃度分布が時間とともに変化する非定常拡散では、Fickの第2法則を使います。拡散係数一定、対流・反応なしなら、
\boxed{
\frac{\partial C_A}{\partial t}
=D_{AB}\nabla^2C_A
}
\]
です。左辺はある場所の濃度が時間とともに変化する速さ、右辺は周囲との濃度分布の曲がりによって生じる拡散を表します。
第1法則は「濃度勾配から、その瞬間の拡散流束を求める式」、第2法則は「濃度分布が時間とともにどう変わるかを求める式」と整理できます。
物質移動係数とは
実際の装置では、界面近くの濃度分布を細かく測ることは困難です。そこで、物質移動流束を「係数 × 濃度差」でまとめます。
\boxed{
N_A=k_c(C_{A,b}-C_{A,i})
}
\]
- \(k_c\):物質移動係数 \(\mathrm{m/s}\)
- \(C_{A,b}\):流体本体のA濃度
- \(C_{A,i}\):界面のA濃度
物質移動係数は、流れ、装置形状、流体物性、拡散係数などの影響をまとめた値です。「物質固有の定数」ではありません。
境膜理論との関係
境膜理論では、界面の近くに厚さ \(\delta\) の静かな膜があり、その中を定常1次元拡散すると考えます。
N_A
=D_{AB}\frac{C_{A,b}-C_{A,i}}{\delta}
\]
物質移動係数の式と比較すると、
\boxed{k_c=\frac{D_{AB}}{\delta}}
\]
です。境膜が薄いほど \(k_c\) は大きくなります。撹拌や流速の増加によって界面近くの境膜が薄くなると、物質移動が速くなるという直感を得られます。
計算例:物質移動係数と流束
\(D_{AB}=2.0\times10^{-9}\ \mathrm{m^2/s}\)、有効境膜厚さ \(\delta=0.20\ \mathrm{mm}\) とします。
\begin{aligned}
k_c
&=\frac{D_{AB}}{\delta}\\
&=\frac{2.0\times10^{-9}}
{0.20\times10^{-3}}\\
&=\boxed{1.0\times10^{-5}\ \mathrm{m/s}}
\end{aligned}
\]
本体と界面の濃度差が \(C_{A,b}-C_{A,i}=2.0\ \mathrm{mol/m^3}\) なら、
N_A
=k_c(C_{A,b}-C_{A,i})
=1.0\times10^{-5}\times2.0
=\boxed{2.0\times10^{-5}\ \mathrm{mol/(m^2\cdot s)}}
\]
です。
気液界面の二重境膜
ガス吸収のように、成分Aが気相から液相へ移る場合、気相側と液相側の両方に物質移動抵抗があります。二重境膜理論では、次の段階を考えます。
- 気相本体から気液界面まで移動する
- 界面で気液平衡が成り立つ
- 界面から液相本体まで移動する
N_A
=k_y(y_{A,b}-y_{A,i})
=k_x(x_{A,i}-x_{A,b})
\]
\(k_y\) と \(k_x\) は、モル分率差を駆動力にした気相側・液相側の個別物質移動係数です。定常状態では、気相境膜を通る流束と液相境膜を通る流束は等しくなります。
界面濃度を直接求めず、気相本体から、液相本体と平衡な気相組成 \(y_A^*\) までを駆動力にすると、総括物質移動係数 \(K_y\) を使って、
\boxed{
N_A=K_y(y_{A,b}-y_A^*)
}
\]
と書けます。気液平衡が \(y_A^*=mx_A\) の直線で表される場合、抵抗の加算は、
\boxed{
\frac{1}{K_y}
=\frac{1}{k_y}
+\frac{m}{k_x}
}
\]
です。電気抵抗が直列に加わるのと似ています。大きい抵抗を持つ側を改善する方が、全体の物質移動を効果的に速くできます。
相をまたぐ濃度差には平衡関係が必要
気相のモル分率と液相のモル分率を、そのまま引き算することはできません。Henryの法則や気液平衡線を使い、同じ相の基準へ換算した駆動力を使います。
蒸留における気液平衡の基本は、蒸留とは?沸点差・気液平衡・蒸留塔の原理で解説しています。
Sherwood数・Reynolds数・Schmidt数
物質移動係数は、流れと拡散の影響をまとめた無次元数相関式から求めることがあります。
\boxed{\mathrm{Sh}=\frac{k_cL}{D_{AB}}}
\]
Sherwood数 \(\mathrm{Sh}\) は、対流を伴う物質移動が分子拡散に対してどの程度強いかを表します。
\boxed{
\mathrm{Re}=\frac{\rho uL}{\mu},
\qquad
\mathrm{Sc}=\frac{\mu}{\rho D_{AB}}
=\frac{\nu}{D_{AB}}
}
\]
- \(\mathrm{Re}\):慣性力と粘性力の比。流れの状態を表す
- \(\mathrm{Sc}\):運動量拡散と物質拡散の比
- \(\mathrm{Sh}\):無次元の物質移動係数
相関式は一般に、
\mathrm{Sh}=f(\mathrm{Re},\mathrm{Sc},\text{形状})
\]
の形を持ちます。実際には、管内流、球まわり、充填層、撹拌槽など、対象の形状と適用範囲に合う相関式を選びます。異なる装置用の式を流用してはいけません。
熱移動とのアナロジー
物質移動は、熱移動とよく似た形で整理できます。
| 熱移動 | 物質移動 | 意味 |
|---|---|---|
| 温度差 | 濃度差・分圧差 | 移動の駆動力 |
| 熱伝導率 \(\lambda\) | 拡散係数 \(D_{AB}\) | 分子的な移動のしやすさ |
| 熱伝達係数 \(h\) | 物質移動係数 \(k_c\) | 境膜・流れをまとめた係数 |
| Nusselt数 \(\mathrm{Nu}\) | Sherwood数 \(\mathrm{Sh}\) | 無次元伝達係数 |
| Prandtl数 \(\mathrm{Pr}\) | Schmidt数 \(\mathrm{Sc}\) | 運動量拡散との比 |
ただし、物質移動では成分ごとに拡散係数があり、相平衡や化学反応も関わります。数式の形は似ていても、物理的な意味と単位を確認することが大切です。
物質移動を速くする方法
- 濃度差を大きくする:新鮮な吸収液、低濃度側の更新、減圧などで駆動力を保つ
- 界面積を大きくする:液滴、気泡、充填物、膜などを利用する
- 境膜を薄くする:流速や撹拌を増やし、物質移動係数を高める
- 拡散距離を短くする:薄膜化、粒径低下、膜厚低下を検討する
- 温度を調整する:拡散係数と平衡の両方が変わるため、総合的に判断する
流速や撹拌を強くすると、圧力損失、動力、液滴同伴、装置振動などが増える場合があります。物質移動速度だけで運転条件を決めず、装置全体の制約を確認します。
化学反応と物質移動の競争
触媒粒子や気液反応では、反応速度が速くても反応物が表面へ届かなければ、観測される速度は物質移動に制限されます。
\text{流体本体}
\xrightarrow{\text{外部物質移動}}
\text{表面}
\xrightarrow{\text{反応}}
\text{生成物}
\]
外部物質移動が律速なら、流速や撹拌を上げると観測速度が増加します。反対に、化学反応が律速なら、物質移動係数を高めても速度はほとんど変わりません。
触媒粒子での移動と反応の流れは、触媒反応の仕組み・活性・選択性・劣化で図解しています。
よくある間違い
- 濃度が高いだけで拡散すると考える:拡散の駆動力は濃度そのものではなく、濃度勾配です。
- Fickの式のマイナスを機械的に付ける:座標の正方向と濃度勾配を確認します。
- mmをmへ直さない:拡散距離の単位換算ミスは流束を1000倍変えることがあります。
- 流束と移動速度を混同する:流束へ面積を掛けて、モル移動速度を求めます。
- \(J_A\) と \(N_A\) を同じと考える:流体が動く場合、全流束には対流成分が含まれます。
- 物質移動係数を物性定数と考える:流速、装置形状、物性、拡散係数で変化します。
- 気相組成と液相組成を直接引く:相平衡を使って同じ基準へ換算します。
- Sherwood数相関式を適用範囲外で使う:形状、流動範囲、代表長さの定義を確認します。
確認問題
3問のミニテストで、ここまでの内容を確認しましょう。選択すると、その場で正誤と解説が表示されます。
QUICK CHECK
1 / 3物質移動・初級
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まとめ
- 物質移動は、分子拡散と流体の流れによる対流で起こる
- 流束は単位面積・単位時間あたりに通過する物質量である
- Fickの第1法則は \(J_A=-D_{AB}dC_A/dz\) で表される
- マイナス符号は、拡散が高濃度側から低濃度側へ進むことを表す
- 流体が動く場合、全流束は対流成分と拡散成分の和になる
- 物質移動係数は \(N_A=k_c(C_{A,b}-C_{A,i})\) で流束と濃度差を結ぶ
- 境膜理論では \(k_c=D_{AB}/\delta\) となる
- 気液界面では気相側・液相側の抵抗と相平衡を考える
- Sherwood数は無次元の物質移動係数で、Reynolds数・Schmidt数などの関数になる
- 物質移動を速くするには、駆動力、界面積、物質移動係数、拡散距離を確認する
まずは「拡散=濃度勾配で広がる」「対流=流れに乗って運ばれる」「物質移動係数=界面近くの複雑な移動をまとめた係数」と整理しましょう。この3つが、蒸留・吸収・乾燥・膜分離を学ぶ共通の土台になります。
参考資料
- MIT OpenCourseWare: Fick’s Laws and Conservation of Mass
- University of Utah: Mass Transfer Lecture Notes
- University of Michigan, Elements of Chemical Reaction Engineering: External Diffusion and Mass Transfer Coefficients
- University at Buffalo: Separations—Film Theory and Overall Mass-Transfer Coefficients
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