気液平衡とは?x-y線図・K値・相対揮発度を例題で解説

気液平衡とは?x-y線図・K値・相対揮発度を例題で解説 相平衡・蒸気圧

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※内容はIUPACの用語定義、NISTの物性データ、標準的な化学工学の気液平衡式をもとに確認しています。

気液平衡は、蒸留、フラッシュ蒸留、蒸発、凝縮などを理解するための中心的な考え方です。液体と蒸気が共存するとき、各成分が液相と気相へどのように分配されるかを表します。

前の記事では、ラウールの法則を使って液相組成から分圧と気相組成を計算しました。今回はその関係をK値、相対揮発度、x-y線図という形に整理し、分離のしやすさや二相の量まで読み取れるようにします。

この記事で分かること

  • 気液平衡の意味と平衡条件
  • 液相組成 \(x\)、気相組成 \(y\)、全体組成 \(z\) の違い
  • K値と相対揮発度の意味
  • 二成分系の気液平衡式の導出
  • x-y線図の読み方
  • てこの原理とフラッシュ計算の基礎
  • 非理想溶液・共沸に注意すべき理由

ラウールの法則と泡点・露点を先に確認したい方は、ラウールの法則の基礎から読むとスムーズです。

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気液平衡とは

密閉容器の中で液体と蒸気が接触していると、液体から蒸気へ移る蒸発と、蒸気から液体へ戻る凝縮が同時に起こります。十分に時間がたち、巨視的な組成や圧力が変化しなくなった状態を気液平衡といいます。

\[
\text{蒸発速度}=\text{凝縮速度}
\]

平衡でも分子の移動は止まっていません。両方向の移動速度が等しい動的平衡です。

熱力学的には、平衡にある各成分 \(i\) の化学ポテンシャル、またはフガシティが両相で等しくなります。

\[
\mu_i^{\mathrm{L}}=\mu_i^{\mathrm{V}}
\]
\[
f_i^{\mathrm{L}}=f_i^{\mathrm{V}}
\]

ここで上付きの \(\mathrm{L}\) は液相、\(\mathrm{V}\) は気相を表します。初学者の計算では、この厳密な条件をラウールの法則やK値へ置き換えて扱います。

平衡は「同じ組成」という意味ではない

液相と気相が平衡でも、両相の組成は一般に異なります。蒸気圧が高い成分は気相に多く、蒸気圧が低い成分は液相に多く存在します。この組成差が分離操作の原動力です。

x・y・zは何を表すのか

気液平衡計算では、同じ成分について3種類のモル分率を使い分けます。

記号 意味 総和
\(x_i\) 液相中の成分 \(i\) のモル分率 \(\sum_i x_i=1\)
\(y_i\) 気相中の成分 \(i\) のモル分率 \(\sum_i y_i=1\)
\(z_i\) 液相と気相を合わせた全体のモル分率 \(\sum_i z_i=1\)

たとえばフラッシュドラムに入る原料の組成は \(z_i\)、ドラムから出る液体の組成は \(x_i\)、蒸気の組成は \(y_i\) です。

モル分率の定義や質量分率との違いは、濃度と組成の表し方で確認できます。

K値(平衡比)とは

成分 \(i\) の気相モル分率と液相モル分率の比をK値、または平衡比といいます。

\[
K_i=\frac{y_i}{x_i}
\]

したがって、平衡気相組成は、

\[
y_i=K_i x_i
\]

で表されます。

K値 意味
\(K_i>1\) 液相より気相に濃縮される
\(K_i=1\) 気相と液相で同じモル分率になる
\(K_i<1\) 気相より液相に濃縮される

K値は物質だけで決まる定数ではありません。温度、圧力、混合物の組成、非理想性によって変わります。

理想溶液におけるK値

低圧で、液相が理想溶液、気相が理想気体として振る舞うとします。ラウールの法則とドルトンの分圧の法則より、

\[
y_iP=x_iP_i^{\mathrm{sat}}
\]

なので、

\[
K_i=\frac{y_i}{x_i}=\frac{P_i^{\mathrm{sat}}}{P}
\]

となります。純成分の飽和蒸気圧 \(P_i^{\mathrm{sat}}\) が高いほどK値は大きく、全圧 \(P\) が高いほどK値は小さくなります。

飽和蒸気圧と温度・沸点の関係は、蒸気圧の基礎を参照してください。

例題1:K値から気相組成を求める

80 ℃のベンゼン-トルエン系を考えます。全圧は63.7 kPa、液相のベンゼンモル分率は0.40、トルエンモル分率は0.60です。NISTのAntoine式から、80 ℃における飽和蒸気圧を次のようにします。

成分 \(x_i\) \(P_i^{\mathrm{sat}}\)
ベンゼン 0.40 100.9 kPa
トルエン 0.60 38.8 kPa

1. K値を求める

\[
K_{\mathrm{Bz}}=\frac{100.9}{63.7}=1.58
\]
\[
K_{\mathrm{Tol}}=\frac{38.8}{63.7}=0.609
\]

2. 気相組成を求める

\[
y_{\mathrm{Bz}}=K_{\mathrm{Bz}}x_{\mathrm{Bz}}=1.58\times0.40=0.634
\]
\[
y_{\mathrm{Tol}}=K_{\mathrm{Tol}}x_{\mathrm{Tol}}=0.609\times0.60=0.366
\]

気相組成の和は、

\[
0.634+0.366=1.000
\]

となり、平衡条件を満たします。ベンゼンは \(K>1\) なので気相に濃縮され、トルエンは \(K<1\) なので液相に濃縮されます。

相対揮発度とは

二成分A、Bの分離しやすさを表す指標が相対揮発度 \(\alpha_{AB}\) です。

\[
\alpha_{AB}=\frac{K_A}{K_B}
\]

K値の定義を代入すると、

\[
\alpha_{AB}=\frac{y_A/x_A}{y_B/x_B}
\]

です。Aを高揮発度成分、Bを低揮発度成分として \(\alpha_{AB}>1\) になるように表すことが一般的です。

相対揮発度 分離のしやすさ
\(\alpha\) が1より十分大きい 気液の組成差が大きく、蒸留しやすい
\(\alpha\) が1に近い 気液の組成差が小さく、蒸留が難しい
\(\alpha=1\) 組成差がなく、通常の蒸留では分離できない

例題1では、

\[
\alpha_{\mathrm{Bz,Tol}}=\frac{1.58}{0.609}=2.60
\]

です。理想溶液の近似では、

\[
\alpha_{AB}=\frac{P_A^{\mathrm{sat}}}{P_B^{\mathrm{sat}}}
\]

となり、同じ温度における飽和蒸気圧の比で表せます。

二成分系のx-y関係式

二成分系で、成分Aを高揮発度成分とします。相対揮発度の定義は、

\[
\alpha=\frac{y_A/x_A}{y_B/x_B}
\]

です。二成分系では、

\[
x_B=1-x_A
\]
\[
y_B=1-y_A
\]

なので、

\[
\alpha=\frac{y_A(1-x_A)}{x_A(1-y_A)}
\]

これを \(y_A\) について整理すると、

\[
y_A=\frac{\alpha x_A}{1+(\alpha-1)x_A}
\]

が得られます。この式は、相対揮発度を一定と近似したときの気液平衡曲線です。

覚え方

相対揮発度 \(\alpha\) と液相組成 \(x\) が分かれば、平衡気相組成 \(y\) を直接計算できます。蒸留計算では何度も登場する重要式です。

例題2:相対揮発度から気相組成を求める

相対揮発度を \(\alpha=2.60\)、液相の高揮発度成分モル分率を \(x=0.40\) とします。

\[
y=\frac{2.60\times0.40}{1+(2.60-1)\times0.40}
\]
\[
y=\frac{1.04}{1.64}=0.634
\]

ラウールの法則から求めたベンゼンの気相モル分率と一致します。液相では40 mol%だった高揮発度成分が、平衡蒸気では約63 mol%に濃縮されます。

x-y線図とは

x-y線図は、横軸に液相中の高揮発度成分モル分率 \(x\)、縦軸に平衡気相中のモル分率 \(y\) をとった図です。

相対揮発度2.6の気液平衡x-y線図 横軸が液相組成x、縦軸が気相組成y。気液平衡曲線は対角線より上にあり、xが0.4のときyは0.634。 00.20.40.60.81.0 00.20.40.60.81.0 液相モル分率 x気相モル分率 y 気液平衡曲線(α=2.60)対角線 y=xx=0.40, y=0.634
相対揮発度 \(\alpha=2.60\) とした気液平衡曲線。曲線が対角線より上にあるため、蒸気は高揮発度成分に富みます。

対角線 y=x の意味

対角線上では液相組成と気相組成が同じです。気液平衡曲線が対角線から大きく離れるほど、一回の蒸発で大きな濃縮が得られます。

平衡曲線が対角線より上にある場合

\(0<x<1\) で \(y>x\) となり、蒸気は高揮発度成分に富みます。\(\alpha>1\) の通常の表し方ではこの形になります。

相対揮発度による曲線の違い

\(x\) \(y\)(\(\alpha=1.2\)) \(y\)(\(\alpha=2.6\)) \(y\)(\(\alpha=5.0\))
0.20 0.231 0.394 0.556
0.40 0.444 0.634 0.769
0.60 0.643 0.796 0.882
0.80 0.828 0.912 0.952

相対揮発度が大きいほど曲線は対角線から離れ、分離しやすくなります。

x-y線図とT-x-y線図の違い

x-y線図には温度軸がありません。一方、T-x-y線図は一定圧力における温度と液相・気相組成の関係を表します。

  • x-y線図:平衡にある液相組成と気相組成の対応を見る
  • T-x-y線図:泡点温度、露点温度、二相領域を見る
  • P-x-y線図:一定温度における泡点圧力、露点圧力を見る

一定圧力の実際のx-yデータでは、曲線上の各点がそれぞれ異なる平衡温度に対応します。相対揮発度一定の式は、この温度変化を含むK値の変化を平均化した近似です。

温度と圧力がK値へ与える影響

温度の影響

温度が上がると純成分の飽和蒸気圧が上がるため、圧力一定なら一般にK値は大きくなります。ただし、各成分の上がり方は同じではないため、相対揮発度も温度によって変化します。

圧力の影響

理想溶液の近似 \(K_i=P_i^{\mathrm{sat}}/P\) では、温度一定で全圧が上がるとK値は小さくなります。高圧では気相の非理想性も強くなり、単純な式では精度が不足します。

K値表は条件とセットで使う

別の温度・圧力で得たK値をそのまま流用してはいけません。実務では物性パッケージや状態方程式を使い、その装置条件でK値を計算します。

実在溶液と活量係数

液相の非理想性を活量係数 \(\gamma_i\) で表し、気相を理想気体、ポインティング補正を無視できるとすると、修正ラウールの法則は、

\[
y_iP=\gamma_i x_iP_i^{\mathrm{sat}}
\]

です。したがって、

\[
K_i=\frac{\gamma_iP_i^{\mathrm{sat}}}{P}
\]

となります。二成分系の相対揮発度は、

\[
\alpha_{AB}=\frac{\gamma_AP_A^{\mathrm{sat}}}{\gamma_BP_B^{\mathrm{sat}}}
\]

です。分子間相互作用が大きく異なる混合物では、活量係数の影響を無視できません。

共沸点

共沸点では液相組成と気相組成が等しくなります。

\[
x_i=y_i
\]

その成分について \(K_i=1\) となり、二成分系では局所的に相対揮発度が1になります。x-y線図では気液平衡曲線が対角線と交わるため、通常の蒸留ではその組成を越えて分離できません。

全体組成zと気相率

液相と気相が共存するとき、全体組成 \(z_i\) は両相の加重平均です。全モル流量を \(F\)、液相流量を \(L\)、気相流量を \(V\) とすると、

\[
F=L+V
\]
\[
Fz_i=Lx_i+Vy_i
\]

気相率を、

\[
\beta=\frac{V}{F}
\]

と定義すれば、\(L/F=1-\beta\) なので、

\[
z_i=(1-\beta)x_i+\beta y_i
\]

となります。二成分系で平衡組成 \(x\)、\(y\) と全体組成 \(z\) が分かっている場合、

\[
\beta=\frac{z-x}{y-x}
\]

で気相率を求められます。これは線図上の距離の比を使うてこの原理と同じ関係です。

例題3:てこの原理で気相量を求める

全体のベンゼンモル分率が \(z=0.50\) の原料1.00 kmolを、例題1と同じ80 ℃、63.7 kPaで平衡にします。平衡液相組成は \(x=0.400\)、平衡気相組成は \(y=0.634\) とします。

\[
\beta=\frac{0.500-0.400}{0.634-0.400}=0.427
\]

したがって、気相量と液相量は、

\[
V=\beta F=0.427\times1.00=0.427\ \mathrm{kmol}
\]
\[
L=(1-\beta)F=0.573\ \mathrm{kmol}
\]

です。ベンゼンの物質収支を確認すると、

\[
0.500=0.573\times0.400+0.427\times0.634
\]

となり、原料中のベンゼン量と両相へ分配された量が一致します。物質収支の基本は、物質収支の解き方で復習できます。

多成分系のフラッシュ計算

成分数が多い場合は、K値と全体組成から気相率 \(\beta\) を求めます。成分 \(i\) について、

\[
x_i=\frac{z_i}{1+\beta(K_i-1)}
\]
\[
y_i=K_i x_i
\]

です。\(\sum_i x_i=1\) と \(\sum_i y_i=1\) を満たす気相率は、次のRachford–Rice式を解いて求めます。

\[
\sum_i\frac{z_i(K_i-1)}{1+\beta(K_i-1)}=0
\]

通常は \(0\le\beta\le1\) の範囲で数値計算します。得られた \(\beta\) を使って各相の組成を計算し、最後に組成の和と物質収支を確認します。

フラッシュ計算の基本手順

  1. 温度、圧力、全体組成 \(z_i\) を決める
  2. 各成分のK値を求める
  3. Rachford–Rice式から気相率 \(\beta\) を求める
  4. \(x_i\) と \(y_i\) を計算する
  5. 組成の和と物質収支を検算する

化学工学で使う場面

蒸留塔

各段で液相と蒸気が平衡へ近づくことを利用し、高揮発度成分を塔頂側へ、低揮発度成分を塔底側へ濃縮します。x-y線図はMcCabe–Thiele法の出発点です。

フラッシュドラム

原料を減圧または加熱し、一回の平衡接触で蒸気と液体へ分離します。K値、Rachford–Rice式、物質収支を組み合わせて計算します。

蒸発器・凝縮器

どの成分が蒸発しやすいか、または凝縮しやすいかを予測し、製品組成や回収率を見積もります。

プロセスシミュレーター

フラッシュ計算はシミュレーター内部の基本計算です。Peng–RobinsonやSoave–Redlich–Kwongなどの状態方程式、NRTLやUNIQUACなどの活量係数モデルを使い、K値を反復的に更新します。

よくある間違い

x・y・zを混同する

\(x\) は液相、\(y\) は気相、\(z\) は全体組成です。二相が共存する場合、通常は3つとも異なります。

K値を物質固有の定数だと思う

K値は温度、圧力、組成、物性モデルによって変化します。条件の異なるK値を使い回してはいけません。

相対揮発度の分子と分母を逆にする

通常は高揮発度成分を分子に置き、\(\alpha>1\) とします。どちらを基準にしたかを必ず明記します。

x-y線図の1点を同じ温度だと思い込む

一定圧力のx-y線図では、曲線上の各点が異なる泡点温度に対応します。相対揮発度一定は近似です。

共沸系にも一定相対揮発度式を使う

共沸点では気液平衡曲線が対角線と交わります。\(\alpha>1\) を一定とした式ではこの挙動を表せません。

組成の和を検算しない

計算後は必ず \(\sum x_i=1\)、\(\sum y_i=1\) と物質収支を確認します。丸め誤差を除いて満たさない場合は、K値、単位、計算手順を見直します。

まとめ

  • 気液平衡では、各成分の化学ポテンシャルまたはフガシティが両相で等しい
  • K値は \(K_i=y_i/x_i\) で、成分がどちらの相へ分配されやすいかを表す
  • 理想溶液では \(K_i=P_i^{\mathrm{sat}}/P\) と近似できる
  • 相対揮発度は \(\alpha_{AB}=K_A/K_B\) で、蒸留分離のしやすさを表す
  • 二成分系では \(y=\alpha x/[1+(\alpha-1)x]\) で平衡曲線を表せる
  • x-y線図で曲線が対角線から離れるほど分離しやすい
  • 全体組成 \(z\) は液相組成 \(x\) と気相組成 \(y\) の加重平均である
  • 多成分フラッシュではRachford–Rice式から気相率を求める

最初に覚える4本の式

\[
K_i=\frac{y_i}{x_i}
\]
\[
\alpha_{AB}=\frac{K_A}{K_B}
\]
\[
y=\frac{\alpha x}{1+(\alpha-1)x}
\]
\[
z_i=(1-\beta)x_i+\beta y_i
\]

参考資料

※例題の飽和蒸気圧はNIST Chemistry WebBook掲載のAntoine式から計算し、表示桁に合わせて丸めています。実設備の設計では、適用範囲を確認した物性モデルとデータを使用してください。

確認問題

3問のミニテストで、ここまでの内容を確認しましょう。選択すると、その場で正誤と解説が表示されます。

QUICK CHECK

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分離工学・初級

このミニテストの回答結果は保存されません。学習記録を残す場合は化工演習室をご利用ください。

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