化学工学の基礎を、数式と直感の両面から初学者にもわかりやすくお届けします。
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膜ろ過装置のフローを見ると、原液を膜に向かって押し込むものと、膜面に沿って流すものがあります。前者がデッドエンドろ過、後者がクロスフローろ過です。
この2方式の違いは、単なる配管の向きではありません。膜面に粒子がたまる速さ、濃縮液の有無、逆洗の必要性、ポンプ動力、向いている膜や用途まで変わります。
この記事では、両方式を流れ方・物質収支・透過流束・ファウリングの観点から比較し、例題を通して使い分けられるところまで解説します。
- デッドエンドろ過とクロスフローろ過の流れ方の違い
- 供給液・透過液・濃縮液の物質収支
- 膜面堆積と透過流束低下の関係
- 逆洗を含めたデッドエンドろ過の平均処理量
- 原液と目的に応じた運転方式の選び方
結論:2方式の違いを一言で整理
- デッドエンドろ過:原液のほぼ全量を膜へ向けて流し、ろ過中に捕捉物が膜面へ蓄積する方式
- クロスフローろ過:原液を膜面に沿って流し、その一部を透過液として取り出し、残りを濃縮液として流出させる方式
コーヒーフィルターをイメージすると、デッドエンドろ過が理解しやすくなります。液体はフィルターを通り、コーヒー粉はフィルター上に残ります。ろ過を続けるほど粉の層が厚くなり、液体が通りにくくなります。
一方、クロスフローろ過では、原液を膜面に沿って横方向へ流します。膜を通過しなかった粒子や溶質は横向きの流れによって下流へ運ばれます。このため、膜面への蓄積を抑えながら連続的に濃縮液を取り出せます。
デッドエンドろ過を「膜に完全に垂直」、クロスフローろ過を「膜に完全に平行」と暗記する必要はありません。重要なのは、ろ過中に濃縮液が連続して流出するか、捕捉物が主として膜面に蓄積するかという運転上の違いです。
デッドエンドろ過の原理
デッドエンドろ過では、ろ過運転中の主な出口は透過液側です。膜を通れない粒子や懸濁物は膜表面に残り、時間とともにケーク層を形成します。
U.S. EPAの膜ろ過ガイダンスでは、デッドエンドろ過は、除去された汚染物質が膜面に蓄積する「deposition mode」として説明されています。MF・UFの中空糸膜では、蓄積した固形物を定期的な逆洗で除去する運転が一般的です。
デッドエンドろ過の流量収支
膜装置の一般的な流量収支は、供給液流量を (Q_f)、透過液流量を (Q_p)、濃縮液流量を (Q_r) とすると、
\[
Q_f=Q_p+Q_r
\]
です。
濃縮液を連続排出しない理想的なデッドエンドろ過では、ろ過中は (Q_r\approx 0) なので、
\[
Q_p\approx Q_f
\]
となります。ただし、これはろ過している瞬間の関係です。実際の装置では逆洗排水、フラッシング、薬品洗浄、停止時間があるため、長時間平均の製品水量は供給量より小さくなります。
デッドエンドろ過の長所
- 供給液の大部分を一度の通過で透過液として得やすい
- 大きな循環流量を必要とせず、配管や運転が比較的単純
- 循環ポンプ動力を抑えやすい
- 低濃度の懸濁物を含む水のMF・UF処理に適しやすい
デッドエンドろ過の短所
- 捕捉物が膜面に蓄積しやすく、透過流束が低下しやすい
- 定期的な逆洗・エアスクラビング・薬品洗浄が必要
- 固形分濃度が高い原液では、ろ過時間が短くなりやすい
- 瞬間透過量だけでなく、逆洗を含むサイクル平均で性能を評価する必要がある
クロスフローろ過の原理
クロスフローろ過では、供給液が膜面に沿って流れ、その一部だけが膜を透過します。透過しなかった液体は、膜に保持された成分を多く含む濃縮液(保持液、リテンテート)として下流へ流れます。
膜面に沿う流れがせん断を与えるため、粒子や溶質の過度な蓄積を抑えられます。ただし、クロスフローにすればファウリングがゼロになるわけではありません。濃度分極、ゲル層、スケール、有機物付着などは起こり得ます。
クロスフローろ過の流量収支
クロスフローろ過では、濃縮液流量 (Q_r) がゼロではないため、
\[
Q_f=Q_p+Q_r
\]
をそのまま使います。供給液のうち透過液として得られた割合を回収率 (R) とすると、
\[
R=\frac{Q_p}{Q_f}
\]
です。したがって、
\[
Q_p=RQ_f
\]
\[
Q_r=(1-R)Q_f
\]
と計算できます。
溶質が膜をほとんど透過しないと仮定すれば、溶質収支は、供給液濃度を (C_f)、濃縮液濃度を (C_r) として、
\[
Q_fC_f\approx Q_rC_r
\]
です。よって濃縮倍率は、
\[
\frac{C_r}{C_f}\approx\frac{Q_f}{Q_r}=\frac{1}{1-R}
\]
となります。回収率を上げるほど濃縮液量は減りますが、濃縮液の濃度は上がり、浸透圧・濃度分極・スケール形成のリスクも大きくなります。
膜分離の物質収支と回収率を詳しく復習したい方は、膜分離の物質収支|回収率・濃縮倍率・透過液流量を参照してください。
クロスフローろ過の長所
- 膜面への粒子堆積や濃度上昇を抑えやすい
- 濃縮液を連続的に取り出せる
- 高濃度液、粘性液、微粒子を含む液にも適用しやすい
- NF・ROのように溶解成分を濃縮するプロセスと相性がよい
クロスフローろ過の短所
- 膜面流速を確保するための循環ポンプ動力が必要
- 配管、循環ループ、圧力損失の管理が複雑になりやすい
- 供給液の全量が透過するわけではなく、濃縮液の処理が必要
- ファウリングを完全には防げず、前処理や洗浄が必要
透過流束とファウリングを数式で理解する
単位膜面積・単位時間あたりの透過液量を透過流束 (J_v) と呼びます。
\[
J_v=\frac{Q_p}{A}
\]
ここで、(A) は膜面積です。圧力差で液体を透過させる膜では、抵抗直列モデルを用いると、概念的に次式で表せます。
\[
J_v=\frac{TMP}{\mu\left(R_m+R_c+R_f\right)}
\]
- (TMP):膜間差圧
- (\mu):透過液の粘度
- (R_m):膜そのものの抵抗
- (R_c):ケーク層の抵抗
- (R_f):細孔閉塞や吸着などによるファウリング抵抗
デッドエンドろ過では、捕捉された粒子が膜面に残るため、時間とともに (R_c) が増えやすくなります。圧力を一定に保つ定圧運転なら透過流束が低下し、透過流束を一定に保つ定流束運転なら必要な (TMP) が上昇します。
クロスフローろ過では、膜面に沿う流れによって粒子が運び去られやすくなるため、ケーク層の成長を抑えられます。しかし、流速を上げれば必ず最適になるわけではありません。ポンプ動力と圧力損失が増え、膜や原液に過度なせん断を与える場合もあります。
ファウリング、濃度分極、洗浄の違いは、膜ファウリングと濃度分極とは|原因・対策・洗浄で詳しく解説しています。
デッドエンドろ過とクロスフローろ過の比較表
| 比較項目 | デッドエンドろ過 | クロスフローろ過 |
|---|---|---|
| 主な流れ | 供給液を膜へ向けて流す | 供給液を膜面に沿って流す |
| ろ過中の出口 | 主に透過液 | 透過液と濃縮液 |
| 捕捉物 | 膜面に蓄積しやすい | 濃縮液側へ運ばれやすい |
| 洗浄 | 定期的な逆洗が重要 | 循環流で堆積を抑えるが、CIPなどは必要 |
| エネルギー | 循環動力を抑えやすい | 膜面流速を作る循環動力が必要 |
| 代表的な用途 | 低濃度懸濁水のMF・UF | NF・RO、高濃度液、濃縮操作 |
| 主な設計指標 | ろ過時間、逆洗条件、サイクル平均流束 | 回収率、膜面流速、濃縮倍率、圧力損失 |
計算例1:クロスフローろ過の透過液量と濃縮液量
供給液流量が10 m3/h、回収率が75%のクロスフロー膜装置を考えます。
透過液流量は、
\[
Q_p=RQ_f=0.75\times 10=7.5\ \mathrm{m^3/h}
\]
濃縮液流量は、
\[
Q_r=Q_f-Q_p=10-7.5=2.5\ \mathrm{m^3/h}
\]
です。膜が対象溶質を完全に阻止すると仮定した濃縮倍率は、
\[
\frac{C_r}{C_f}\approx\frac{1}{1-0.75}=4
\]
となります。つまり、供給液の75%を透過液として取り出すと、残る25%の濃縮液には対象溶質が理想的には4倍に濃縮されます。
計算例2:逆洗を含めたデッドエンドろ過の平均処理量
次の条件で運転するデッドエンドろ過装置を考えます。
- ろ過流量:5.0 m3/h
- ろ過時間:30分
- 逆洗流量:6.0 m3/h
- 逆洗時間:2分
1サイクルのろ過水量は、
\[
V_{filtration}=5.0\times\frac{30}{60}=2.5\ \mathrm{m^3}
\]
逆洗に透過水を使うとすると、その消費量は、
\[
V_{backwash}=6.0\times\frac{2}{60}=0.20\ \mathrm{m^3}
\]
したがって、1サイクルの正味生産量は、
\[
V_{net}=2.5-0.20=2.30\ \mathrm{m^3}
\]
1サイクルは32分なので、平均正味生産流量は、
\[
Q_{net,avg}=\frac{2.30}{32/60}=4.31\ \mathrm{m^3/h}
\]
です。ろ過中の表示流量は5.0 m3/hでも、逆洗水と逆洗時間を考えると、長時間平均は4.31 m3/hまで低下します。
デッドエンドろ過の能力を比較するときは、瞬間流束だけでなく、逆洗水量、逆洗時間、薬品洗浄、停止時間を含めた正味の平均処理量を確認します。
膜モジュールの種類と運転方式は別物
よくある誤解は、「中空糸膜=デッドエンド」「管状膜=クロスフロー」と一対一で覚えることです。
膜モジュールは膜を装置に収める形であり、デッドエンド/クロスフローは液体の流し方です。同じ中空糸膜でも、デッドエンド運転とクロスフロー運転の両方が可能な場合があります。
一般的には、低濃度の懸濁物を除く中空糸MF・UFではデッドエンド方式が多く、スパイラル型NF・ROではクロスフロー方式が基本です。管状膜は広い流路を生かし、高濃度液や粘性液をクロスフローで処理する用途に向きます。
モジュール形状の違いは、膜モジュールの種類|中空糸・スパイラル・管状・平膜を参照してください。
どちらを選ぶか:原液と目的から考える
低濃度の懸濁物を除去したい
原液中の固形分が少なく、清澄な透過液を多く得たい場合は、デッドエンドろ過が有力です。上水処理の中空糸MF・UFのように、短いろ過サイクルと逆洗を組み合わせます。
濃縮液を連続的に取り出したい
タンパク質、微粒子、溶解塩などを濃縮したい場合は、クロスフローろ過が適します。供給液の一部を透過させ、保持成分を濃縮液側へ残します。
固形分濃度や粘度が高い
固形分が多い原液をデッドエンドで処理すると、ケーク層が短時間で成長します。広い流路を持つ管状膜などをクロスフローで運転する方法が候補になります。ただし、高粘度では圧力損失とポンプ動力も増えるため、実験データによる確認が必要です。
省エネルギーを優先したい
原液が十分に清浄で、逆洗間隔を確保できるなら、循環流量の小さいデッドエンド方式が有利になりやすいです。一方、デッドエンドで頻繁な逆洗や交換が必要になる条件では、クロスフローの方が総合的に有利な場合もあります。
よくある間違い
クロスフローならファウリングしない
クロスフローは堆積を抑えますが、ファウリングをなくす方式ではありません。膜面流速、回収率、TMP、温度、前処理、洗浄条件を適切に管理します。
デッドエンドろ過には排水がない
ろ過中に連続濃縮液がなくても、逆洗排水や排泥は発生します。プロセス全体の水収支では、これらを必ず含めます。
回収率は高いほどよい
回収率を上げると透過液量は増えますが、濃縮側の溶質濃度も上がります。浸透圧上昇、スケール形成、濃度分極、透過流束低下とのバランスが必要です。
膜面流速と透過流束を混同する
膜面流速は膜に沿う流れの速さ、透過流束は膜を通過する単位面積あたりの流量です。クロスフローでは両者が同時に存在しますが、意味も単位も異なります。
確認問題
3問のミニテストで、ここまでの内容を確認しましょう。選択すると、その場で正誤と解説が表示されます。
QUICK CHECK
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まとめ
- デッドエンドろ過では原液のほぼ全量を膜へ向け、捕捉物を膜面に蓄積させる
- クロスフローろ過では原液を膜面に沿って流し、透過液と濃縮液に分ける
- デッドエンドは装置が比較的単純で省エネルギーだが、逆洗を含むサイクル評価が必要
- クロスフローは膜面堆積を抑えやすいが、循環ポンプ動力と濃縮液処理が必要
- クロスフローでもファウリングは起こるため、前処理・運転条件・洗浄が重要
- 膜モジュールの形と運転方式は別の分類である
- 選定では原液濃度、目的、回収率、洗浄性、動力を総合的に比較する
MF・UF・NF・ROの全体像から復習したい方は、膜分離とは|MF・UF・NF・ROの違いもご覧ください。
参考文献
- IUPAC: Terminology for membranes and membrane processes
- U.S. EPA: Membrane Filtration Guidance Manual
- DuPont Water Solutions: Nanofiltration


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