膜の阻止率・透過率とは|濃度から分離性能を計算する方法

膜の阻止率と透過率を濃度比から計算する方法を示すアイキャッチ画像 分離工学
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「この膜の阻止率は98%です」と言われたとき、何が98%なのでしょうか。

膜分離では、供給液に含まれる成分が膜によってどれだけ止められたかを阻止率、どれだけ透過液側へ抜けたかを溶質透過率(passage)で表します。どちらも濃度から簡単に計算できますが、回収率や透過流束と混同しやすいため注意が必要です。

この記事では、阻止率と溶質透過率の定義、計算方法、回収率との違い、濃度分極を考えた見かけの阻止率まで、例題を使って解説します。

この記事でわかること

  • 阻止率と溶質透過率の意味と計算式
  • 阻止率0%・98%・100%の具体的な意味
  • 目標透過液濃度から必要阻止率を求める方法
  • 阻止率・回収率・透過流束の違い
  • 見かけの阻止率と真の阻止率が異なる理由
図解|阻止率と透過率の関係
阻止率と透過率の関係供給側濃度と透過側濃度から膜の分離性能を評価する考え方を示す。阻止率と透過率の関係供給側濃度と透過側濃度から膜の分離性能を評価する考え方を示す。1供給側濃度 CF溶質を含む2分離膜溶質を阻止溶媒を透過3透過側濃度 CPCFより低いPOINT阻止率 R = 1 − CP/CF透過率 S = CP/CFR + S = 1式・図の記号は記事本文の定義と対応しています
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阻止率とは

阻止率は、供給側にある特定成分を膜がどれだけ透過液側へ通さなかったかを表す指標です。供給液中の対象成分濃度を (C_f)、透過液中の濃度を (C_p) とすると、阻止率 (R) は、

\[
R=1-\frac{C_p}{C_f}
\]

で定義されます。百分率で表すと、

\[
R[\%]=\left(1-\frac{C_p}{C_f}\right)\times100
\]

です。

IUPACでは、阻止率を「膜の下流側濃度と上流側濃度の比を1から引いた値」と定義しています。実際の装置では、どの位置の濃度を基準にするかによって、見かけの阻止率や膜固有の阻止率を区別します。

阻止率の値を直感的に理解する

阻止率 濃度の関係 意味
0% (C_p=C_f) 対象成分をまったく阻止していない
90% (C_p=0.10C_f) 供給濃度の10%が透過液に残る
98% (C_p=0.02C_f) 供給濃度の2%が透過液に残る
100% (C_p=0) 理想的には対象成分が透過液から完全に除かれる

阻止率98%は、「供給液に含まれる対象成分の総量の98%を回収した」という意味ではありません。あくまで、基準とする供給側濃度に対して透過液濃度がどれだけ低いかを表す濃度比です。

溶質透過率とは

溶質透過率 (P_s) は、対象成分が膜をどれだけ通過したかを表します。

\[
P_s=\frac{C_p}{C_f}
\]

百分率では、

\[
P_s[\%]=\frac{C_p}{C_f}\times100
\]

です。阻止率と溶質透過率には、

\[
R+P_s=1
\]

または百分率表示で、

\[
R[\%]+P_s[\%]=100
\]

という関係があります。

たとえば、阻止率98%なら溶質透過率は2%です。RO・NFでは、溶解塩類を対象にした溶質透過率を塩透過率(salt passage)と呼ぶことがあります。

「透過率」という言葉の注意点
この記事の透過率は、濃度比 (C_p/C_f) で表す溶質透過率です。透過液の量を表す透過流束 (J_v=Q_p/A) や、膜材料の透水係数・透過係数とは別の指標です。

例題1:供給液濃度と透過液濃度から阻止率を求める

供給液中の塩濃度が1000 mg/L、透過液中の塩濃度が20 mg/LであるRO膜を考えます。阻止率と溶質透過率を求めます。

阻止率は、

\[
R=\left(1-\frac{20}{1000}\right)\times100=98\%
\]

です。溶質透過率は、

\[
P_s=\frac{20}{1000}\times100=2\%
\]

となります。

したがって、この運転条件では供給液濃度の2%に相当する塩濃度が透過液に残り、濃度基準で98%が阻止されています。

例題2:阻止率から透過液濃度を求める

供給液の対象成分濃度が500 mg/L、膜の阻止率が96%とします。透過液濃度 (C_p) を求めます。

阻止率の式を変形すると、

\[
C_p=C_f(1-R)
\]

です。阻止率96%を小数で0.96として代入すると、

\[
C_p=500(1-0.96)=20\ \mathrm{mg/L}
\]

となります。

百分率を計算式へ代入するときは、96ではなく0.96に直すことが重要です。

例題3:水質基準から必要阻止率を求める

供給液濃度が250 mg/Lで、透過液濃度を5 mg/L以下にしたいとします。必要な最低阻止率を求めます。

\[
R=\left(1-\frac{5}{250}\right)\times100=98\%
\]

したがって、計算上は98%以上の阻止率が必要です。

ただし、カタログ阻止率だけで膜を選んではいけません。実際の阻止率は、温度、圧力、回収率、供給濃度、pH、イオン種、膜の劣化などでも変化します。設計時には、想定する運転条件で透過液濃度を確認します。

阻止率と回収率の違い

阻止率と回収率は、どちらも百分率で表示されますが、意味はまったく異なります。

  • 阻止率:濃度から求める分離性能
  • 回収率:流量から求める水・溶媒の回収割合

供給液流量を (Q_f)、透過液流量を (Q_p) とすると、回収率 (Y) は、

\[
Y=\frac{Q_p}{Q_f}
\]

です。

たとえば、供給液10 m3/hから透過液7.5 m3/hを得た場合、回収率は75%です。一方、供給濃度1000 mg/L、透過濃度20 mg/Lなら阻止率は98%です。

指標 代表式 表しているもの
阻止率 (R=1-C_p/C_f) 溶質濃度をどれだけ低下させたか
溶質透過率 (P_s=C_p/C_f) 溶質がどれだけ透過液へ抜けたか
回収率 (Y=Q_p/Q_f) 供給液のうち透過液になった流量割合
透過流束 (J_v=Q_p/A) 単位膜面積・時間あたりの透過液量

膜分離の流量収支と回収率は、膜分離の物質収支|回収率・濃縮倍率・透過液流量で詳しく解説しています。

高い回収率が阻止率に影響する理由

クロスフロー膜装置では、透過液が取り出されるにつれて、膜を通らない成分が濃縮液側に残ります。そのため、装置の下流ほど供給側濃度が高くなります。

回収率を上げると、一般に次の変化が起こります。

  • 濃縮液の溶質濃度が上昇する
  • 膜面濃度と浸透圧が上昇する
  • 透過液側へ移動する溶質量が増える場合がある
  • システム全体の透過液濃度が上がり、見かけの阻止率が低下する場合がある

したがって、「膜単体の阻止率」と「装置全体の阻止率」は、同じ値になるとは限りません。DuPontのRO・NF技術資料でも、システムの塩透過率は (C_p/C_f)、膜の塩透過率は透過液濃度と供給・濃縮側の平均濃度との比として区別されています。

デッドエンドろ過とクロスフローろ過の違いは、デッドエンドろ過とクロスフローろ過の違いを参照してください。

見かけの阻止率と真の阻止率

膜の近くでは、膜を透過しにくい成分が蓄積し、バルク液より濃度が高くなることがあります。これが濃度分極です。

バルク供給液濃度を (C_b)、膜面濃度を (C_m)、透過液濃度を (C_p) とします。

バルク濃度を基準にした見かけの阻止率は、

\[
R_{obs}=1-\frac{C_p}{C_b}
\]

膜面濃度を基準にした真の阻止率は、

\[
R_{int}=1-\frac{C_p}{C_m}
\]

です。濃度分極が起きると通常は (C_m>C_b) なので、同じ透過液濃度なら、

\[
R_{int}>R_{obs}
\]

となります。

数値で比較する

(C_b=100) mg/L、(C_m=125) mg/L、(C_p=5) mg/Lとします。

見かけの阻止率は、

\[
R_{obs}=\left(1-\frac{5}{100}\right)\times100=95\%
\]

真の阻止率は、

\[
R_{int}=\left(1-\frac{5}{125}\right)\times100=96\%
\]

です。装置で測定しやすいのはバルク濃度と透過液濃度なので、実務やカタログでは見かけの阻止率を扱うことが多くなります。膜そのものの選択性を議論するときは、膜面濃度との差に注意します。

濃度分極とファウリングの違いは、膜ファウリングと濃度分極とは|原因・対策・洗浄で解説しています。

MF・UFで使われるふるい係数

MF・UFで粒子や高分子の透過を表すときは、ふるい係数またはシービング係数 (S) が使われることがあります。

\[
S=\frac{C_p}{C_f}
\]

単純な濃度比として定義する場合、溶質透過率と同じ形なので、

\[
R=1-S
\]

です。(S=0)なら完全に阻止、(S=1)なら供給側と同じ濃度で透過します。

ただし、濃度の基準位置や試験方法は文献・メーカーによって異なる場合があります。数値を比較するときは、供給濃度、膜面濃度、濃縮液濃度のどれを基準にしているかを確認します。

MF・UF・NF・ROの違いは、膜分離とは|MF・UF・NF・ROの違いをご覧ください。

阻止率を測定・比較するときの注意点

同じ運転条件で比較する

阻止率は膜だけで決まる定数ではありません。圧力、温度、回収率、供給濃度、膜面流速、pH、溶質の種類などをそろえて比較します。

供給液と透過液を同じタイミングで採取する

原液濃度が時間変化していると、異なる時刻の試料から求めた阻止率は正しくありません。装置が定常状態に近づいてから対応する試料を採取します。

濃度の測定下限を確認する

透過液濃度が分析装置の定量下限未満なら、阻止率を厳密な一点の値として求められません。たとえば (C_p<1) mg/Lであれば、条件に応じて「阻止率99%以上」のように範囲で示します。

電気伝導率は組成変化に注意する

ROの運転管理では、塩濃度の代わりに電気伝導率から阻止率を近似することがあります。ただし、イオン組成や温度が変わると、伝導率と濃度の関係も変化します。温度補正と測定条件をそろえることが重要です。

除去率と回収量を混同しない

阻止率が高くても、対象成分がどれだけ濃縮液へ回収されたかは、流量を含む物質収支を行わなければ分かりません。成分回収率を求める場合は、各流れの濃度だけでなく流量も使います。

よくある間違い

阻止率98%なら透過液濃度は常に2 mg/L

透過液濃度は供給液濃度に依存します。阻止率98%でも、供給濃度が100 mg/Lなら2 mg/L、1000 mg/Lなら20 mg/Lです。

阻止率98%は溶質量の98%を回収したという意味

阻止率は濃度比です。溶質量の回収を評価するには、供給液・透過液・濃縮液の流量と濃度による物質収支が必要です。

透過率と透過流束は同じ

溶質透過率は無次元の濃度比、透過流束はL/(m2・h)などの単位をもつ液量の指標です。

カタログ阻止率はどの条件でも再現する

カタログ値は指定された標準試験条件で測定された値です。実液の組成、温度、圧力、回収率、膜の使用履歴によって実測値は変わります。

確認問題

3問のミニテストで、ここまでの内容を確認しましょう。選択すると、その場で正誤と解説が表示されます。

QUICK CHECK

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分離工学・初級

このミニテストの回答結果は保存されません。学習記録を残す場合は化工演習室をご利用ください。

まとめ

  • 阻止率は (R=1-C_p/C_f) で表される濃度基準の分離性能
  • 溶質透過率は (P_s=C_p/C_f) であり、(R+P_s=1)
  • 阻止率98%なら、透過液濃度は基準濃度の2%
  • 回収率は流量比 (Q_p/Q_f) であり、阻止率とは別の指標
  • 透過流束は単位膜面積あたりの透過液量で、溶質透過率とは異なる
  • 濃度分極があると膜面濃度はバルク濃度より高くなり、見かけの阻止率と真の阻止率に差が生じる
  • 阻止率を比較するときは、温度・圧力・回収率・濃度・分析条件をそろえる

阻止率は、膜の性能を理解するための最も基本的な指標の一つです。ただし、阻止率だけでは装置能力を評価できません。回収率、透過流束、濃縮倍率、ファウリングも組み合わせて判断しましょう。

参考文献

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