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※内容は大学の反応工学教材や講義資料などをもとに確認しています。
CSTRは、原料を連続的に供給し、よく撹拌しながら、同じ流量の反応液を連続的に取り出す反応器です。化学工学では、回分反応器やPFRと並ぶ代表的な理想反応器として学びます。
CSTRの設計で最も重要なのは、槽内は完全に混ざっており、槽内の濃度と出口濃度が同じと考えることです。この仮定を物質収支へ入れると、必要な反応器容積を代数式で求められます。
この記事で分かること
- CSTRの構造と連続運転の仕組み
- 完全混合・定常状態という仮定の意味
- 物質収支からCSTRの設計式を導く方法
- 反応速度を出口濃度で評価する理由
- 空間時間・平均滞留時間と流量・容積の関係
- 0次・1次・2次反応の転化率
- 1次反応の転化率と必要容積の計算
- CSTRを直列に並べる効果
CSTR(連続撹拌槽型反応器)とは
CSTRは Continuous Stirred-Tank Reactor の略称で、日本語では連続撹拌槽型反応器、連続槽型反応器、完全混合槽型反応器などと呼ばれます。
撹拌機を備えた槽へ原料を連続供給し、反応液を連続的に抜き出します。定常運転では、液面を一定に保つため、体積流量が変化しない液相系なら入口流量と出口流量は同じです。
CSTRの代表的な用途
- 均一液相反応を行う連続生産プロセス
- 撹拌が必要な液液反応、気液反応、固液反応
- 温度やpHを一定に保ちたい反応
- 連続発酵や培養を行うバイオリアクター
- 複数の槽を直列にした連続反応システム
理想CSTRの3つの仮定
CSTRの基本設計式は、主に次の仮定に基づきます。
1.完全混合
槽内の濃度、温度、反応速度は場所によらず均一です。したがって、出口から出る流体の状態は槽内の状態と同じです。
\[
\boxed{
C_{A,\mathrm{tank}}
=C_{A,\mathrm{out}}
}
\]
2.定常状態
十分に安定した連続運転中は、槽内のモル数、濃度、温度などが時間によって変化しないと考えます。したがって物質収支の蓄積項は0です。
\[
\boxed{
\frac{dN_A}{dt}=0
}
\]
3.反応器全体で同じ反応速度
濃度と温度が一様なら、それらで決まる反応速度も槽内のどこでも同じです。
\[
r_A=r_{A,\mathrm{out}}
\]
入口濃度で反応速度を計算しない
CSTRへ高濃度の原料が入っても、入った瞬間に槽内の低い濃度まで薄まると考えます。そのため、設計式の \(-r_A\) は槽内濃度、すなわち出口濃度で評価します。
物質収支からCSTRの設計式を導く
成分Aについて、一般的な物質収支は次式です。
\[
\text{蓄積}
=\text{流入}
-\text{流出}
+\text{反応による生成}
\]
Aの入口モル流量を \(F_{A0}\)、出口モル流量を \(F_A\)、反応器体積を \(V\)、Aの生成速度を \(r_A\) とすると、
\[
\frac{dN_A}{dt}
=F_{A0}-F_A+r_AV
\]
です。定常状態では蓄積項が0なので、
\[
\boxed{
F_{A0}-F_A+r_AV=0
}
\]
となります。Aが反応物なら \(r_A<0\) です。正の消失速度 \(-r_A\) を使うと、
\[
F_{A0}-F_A=(-r_A)V
\]
したがって、
\[
\boxed{
V=\frac{F_{A0}-F_A}{-r_A}
}
\]
が得られます。
転化率を使った設計式
入口Aのうち反応した割合を転化率 \(X_A\) とすると、
\[
X_A
=\frac{F_{A0}-F_A}{F_{A0}}
\]
なので、
\[
F_A=F_{A0}(1-X_A)
\]
です。\(F_{A0}-F_A=F_{A0}X_A\) を設計式へ代入すると、
\[
\boxed{
V
=\frac{F_{A0}X_A}
{(-r_A)_{\mathrm{out}}}
}
\]
となります。これが、入口転化率が0の単一CSTRの基本設計式です。
設計式の感覚的な意味
分子の \(F_{A0}X_A\) は、単位時間あたりに反応させたいAのモル数です。分母の \(-r_A\) は、単位体積あたり・単位時間あたりにAを反応させられる能力です。「必要な仕事量÷1 m³あたりの処理能力」と考えると、必要体積 \(V\) になります。
空間時間・滞留時間とは
入口の体積流量を \(v_0\) とすると、空間時間 \(\tau\) は次式で定義されます。
\[
\boxed{
\tau=\frac{V}{v_0}
}
\]
単位は時間です。たとえば容積2 m³の反応器へ0.50 m³/minで供給するなら、
\[
\tau
=\frac{2.0}{0.50}
=4.0\ \mathrm{min}
\]
です。空間時間は、入口条件の流量で反応器1基分の容積を送り込むのに必要な時間と解釈できます。
空間時間と平均滞留時間
密度一定で入口・出口流量が等しい理想CSTRでは、\(\tau=V/v_0\) は流体の平均滞留時間と一致します。ただし、すべての流体要素がちょうど \(\tau\) だけ槽内にいるわけではありません。
完全混合槽では、入った直後に出口へ出る流体もあれば、長時間槽内に残る流体もあります。\(\tau\) はそれらの平均です。個々の流体が滞在する時間の分布は滞留時間分布(RTD)として扱います。
「反応時間」と呼ばない理由
回分反応器では、原料全体を所定時間だけ反応させるため \(t\) を反応時間と呼べます。一方、CSTRでは流体が連続的に出入りし、個々の滞在時間が異なるため、設計には空間時間や平均滞留時間を使います。
空間時間を使ったCSTR設計式
密度一定の液相系では、
\[
F_{A0}=v_0C_{A0}
\]
です。CSTRの設計式
\[
V=\frac{F_{A0}X_A}{-r_A}
\]
へ代入して \(v_0\) で割ると、
\[
\frac{V}{v_0}
=\frac{C_{A0}X_A}{-r_A}
\]
したがって、
\[
\boxed{
\tau
=\frac{C_{A0}X_A}
{(-r_A)_{\mathrm{out}}}
}
\]
となります。
1次反応の転化率
体積流量一定の液相反応で、Aが次の1次反応速度式に従うとします。
\[
-r_A=kC_A
\]
濃度と転化率の関係は、
\[
C_A=C_{A0}(1-X_A)
\]
です。したがって出口条件の反応速度は、
\[
(-r_A)_{\mathrm{out}}
=kC_{A0}(1-X_A)
\]
となります。これを空間時間の式へ代入すると、
\[
\tau
=\frac{C_{A0}X_A}
{kC_{A0}(1-X_A)}
\]
\[
\boxed{
\tau
=\frac{X_A}
{k(1-X_A)}
}
\]
です。転化率について解くと、
\[
\tau k(1-X_A)=X_A
\]
\[
k\tau=X_A(1+k\tau)
\]
\[
\boxed{
X_A=\frac{k\tau}{1+k\tau}
}
\]
となります。無次元の積 \(k\tau\) が大きいほど、転化率は高くなります。
計算例1:容積と流量から転化率を求める
1次反応を行うCSTRについて、次の条件が与えられています。
- 反応器容積 \(V=2.0\ \mathrm{m^3}\)
- 入口体積流量 \(v_0=0.50\ \mathrm{m^3\,min^{-1}}\)
- 速度定数 \(k=0.25\ \mathrm{min^{-1}}\)
まず空間時間を求めます。
\[
\tau
=\frac{V}{v_0}
=\frac{2.0}{0.50}
=4.0\ \mathrm{min}
\]
1次反応の転化率式へ代入すると、
\[
\begin{aligned}
X_A
&=\frac{k\tau}{1+k\tau}\\
&=\frac{(0.25)(4.0)}
{1+(0.25)(4.0)}\\
&=\frac{1}{2}\\
&=\boxed{0.50}
\end{aligned}
\]
したがって、CSTR出口ではAの50%が反応しています。
計算例2:80%転化に必要な容積
同じ1次反応で、目標転化率を \(X_A=0.80\)、入口体積流量を \(v_0=0.50\ \mathrm{m^3\,min^{-1}}\) とします。
必要な空間時間は、
\[
\begin{aligned}
\tau
&=\frac{X_A}
{k(1-X_A)}\\
&=\frac{0.80}
{(0.25)(1-0.80)}\\
&=\boxed{16\ \mathrm{min}}
\end{aligned}
\]
です。したがって必要容積は、
\[
\begin{aligned}
V
&=v_0\tau\\
&=(0.50)(16)\\
&=\boxed{8.0\ \mathrm{m^3}}
\end{aligned}
\]
となります。
転化率50%から80%で容積が4倍になる
同じ流量・速度定数では、50%転化に必要な容積が2 m³、80%転化では8 m³です。転化率が上がるほど槽内濃度が低くなり、反応器全体が低い反応速度で働くためです。
0次・1次・2次反応の設計式
体積流量一定、単一の不可逆反応を考えます。CSTRでは、どの次数でも出口濃度 \(C_A=C_{A0}(1-X_A)\) で速度を評価します。
| 次数 | 速度式 | 空間時間と転化率 |
|---|---|---|
| 0次 | \(-r_A=k\) | \(\tau=C_{A0}X_A/k\) |
| 1次 | \(-r_A=kC_A\) | \(\tau=X_A/[k(1-X_A)]\) |
| 2次 | \(-r_A=kC_A^2\) | \(\tau=X_A/[kC_{A0}(1-X_A)^2]\) |
0次反応では反応速度が濃度に依存しないため、CSTRで完全混合しても速度低下は起こりません。1次・2次のような正の反応次数では、高転化率ほど出口濃度が低くなり、必要な空間時間が急増します。
レーベンシュピールプロットで容積を読む
CSTRの設計式は、
\[
V
=F_{A0}
\frac{X_{A,\mathrm{out}}-X_{A,\mathrm{in}}}
{(-r_A)_{\mathrm{out}}}
\]
と書けます。横軸を転化率 \(X_A\)、縦軸を \(F_{A0}/(-r_A)\) としたグラフでは、CSTRの必要容積は長方形の面積です。
正の反応次数では転化率が高いほど反応速度が低下するため、曲線は右上がりになります。CSTRは反応器全体を出口の低い反応速度で評価するため、曲線より上にある部分も含めた長方形が必要です。
CSTRと回分反応器の違い
| 項目 | CSTR | 回分反応器 |
|---|---|---|
| 原料・製品の流れ | 連続的に流入・流出 | 仕込み後、反応中は流入・流出なし |
| 基本的な状態 | 定常状態 | 非定常状態 |
| 濃度の変化 | 定常運転では時間変化なし | 時間とともに低下 |
| 設計で求める量 | 必要容積・転化率 | 必要反応時間 |
| 操作 | 連続生産 | バッチごとに仕込み・排出 |
回分反応器は、反応が進むにつれて濃度と反応速度が連続的に変化するため、速度の逆数を積分して反応時間を求めます。一方、CSTRは槽内が出口条件で均一なので、出口反応速度を使う1つの代数式で容積を求めます。
1次反応で80%転化する場合
\(k=0.25\ \mathrm{min^{-1}}\) とすると、回分反応器の反応時間は、
\[
t_{\mathrm{batch}}
=-\frac{\ln(1-0.80)}{0.25}
=6.44\ \mathrm{min}
\]
CSTRの空間時間は、
\[
\tau_{\mathrm{CSTR}}
=\frac{0.80}{(0.25)(1-0.80)}
=16.0\ \mathrm{min}
\]
です。同じ転化率でも、正の反応次数ではCSTRのほうが大きな空間時間を必要とします。ただし、回分反応器の実際の生産性には仕込み、排出、洗浄などの非反応時間も影響するため、単純に数値だけで装置の優劣は決められません。
CSTRを直列にすると転化率が上がる
1基の大きなCSTRを複数の小さなCSTRへ分割し、直列に接続すると、同じ総容積でも正の反応次数では転化率が高くなります。前段の槽は後段より濃度が高く、より速い反応速度で働けるためです。
1次反応で、同じ大きさのCSTRを \(n\) 基直列にし、総空間時間を \(\tau_{\mathrm{total}}\) とすると、
\[
\boxed{
X_A
=1-
\left(
\frac{1}
{1+k\tau_{\mathrm{total}}/n}
\right)^n
}
\]
です。\(k=0.25\ \mathrm{min^{-1}}\)、\(\tau_{\mathrm{total}}=4.0\ \mathrm{min}\) の場合を比較します。
| 構成 | 転化率 |
|---|---|
| CSTR 1基 | \(X_A=0.500\) |
| 同容積のCSTR 2基直列 | \(X_A=0.556\) |
| 同容積のCSTR 4基直列 | \(X_A=0.590\) |
基数を増やすほど、各槽で濃度が段階的に下がるため、PFRに近い挙動になります。ただし、槽数が増えると設備費、配管、計装、保守対象も増えます。
CSTRの長所と短所
| 長所 | 短所 |
|---|---|
| 連続運転により大量生産へ対応しやすい | 正の反応次数では単位容積あたりの転化率が低くなりやすい |
| 撹拌により濃度と温度を均一にしやすい | 撹拌動力が必要 |
| ジャケットやコイルで温度制御しやすい | 不十分な混合で短絡流や滞留部が生じる |
| 気液・固液など多相系にも適用しやすい | 滞留時間に分布がある |
| 定常運転では製品品質を一定に保ちやすい | 起動・停止時は非定常解析が必要 |
実際の設計で注意すること
撹拌不良と非理想流れ
実際の槽では完全混合にならず、入口から出口へ近道する短絡流、流れが弱いデッドゾーン、濃度むらが生じる場合があります。撹拌翼の種類、回転数、邪魔板、槽形状を適切に設計します。
起動時は定常状態ではない
運転開始直後は槽内濃度が時間とともに変わるため、蓄積項を0にできません。体積一定の液相系なら、
\[
V\frac{dC_A}{dt}
=v_0C_{A0}-v_0C_A+r_AV
\]
のような非定常式を使います。定常設計式は、起動後に十分な時間が経過した運転状態を表します。
発熱反応と多重定常状態
発熱反応では、温度上昇による反応速度の増加と、ジャケットからの除熱が釣り合う点を考える必要があります。非等温CSTRでは、同じ入口条件でも複数の定常温度が存在する場合があり、着火・消火や熱暴走へ注意が必要です。
気相反応と体積流量変化
気相反応では、反応による総モル数、温度、圧力の変化によって出口体積流量が入口と異なることがあります。その場合、単純な \(C_A=C_{A0}(1-X_A)\) は使えず、体積流量変化を含む化学量論式が必要です。
よくある間違い
- 反応速度を入口濃度で計算する:CSTRでは槽内=出口なので、出口濃度で評価します。
- 蓄積項を常に0にする:0にできるのは定常運転中です。起動・停止時は蓄積があります。
- 空間時間を全流体の滞留時間と考える:個々の流体の滞留時間は分布を持ち、\(\tau\) は平均です。
- \(F_{A0}\) と \(v_0\) を混同する:\(F_{A0}\) はモル流量、\(v_0\) は体積流量です。
- \(r_A\) の符号を間違える:Aが反応物なら \(r_A<0\)、正の消失速度は \(-r_A\) です。
- 1次反応の転化率式を別の次数へ使う:\(X_A=k\tau/(1+k\tau)\) は1次反応の式です。
- 実槽を完全混合と無条件にみなす:撹拌・RTD・伝熱の確認が必要です。
確認問題
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QUICK CHECK
1 / 3反応工学・初級
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まとめ
- CSTRは、原料と製品が連続的に流入・流出する撹拌槽型反応器である
- 理想CSTRでは完全混合を仮定し、槽内濃度と出口濃度が等しい
- 定常状態では蓄積項が0となる
- 基本設計式は \(V=F_{A0}X_A/(-r_A)_{\mathrm{out}}\) である
- 反応速度は必ず出口条件で評価する
- 空間時間は \(\tau=V/v_0\) で定義される
- 1次反応の転化率は \(X_A=k\tau/(1+k\tau)\) である
- 正の反応次数では、高転化率ほど必要容積が急増する
- CSTRを直列にすると、同じ総容積でも転化率を高められる
- 実機では撹拌不良、RTD、伝熱、起動時の非定常性を考慮する
次は、管内を流れながら濃度が連続的に変化するPFR(管型反応器・押し出し流れ反応器)を学ぶと、なぜCSTRより小さい容積で高転化率を得やすいのかが数式と図から理解できます。
参考資料
- University of Michigan, Elements of Chemical Reaction Engineering: Continuous Stirred Tank Reactors
- University of Michigan, CSTR Design Equation Derivation
- University of Michigan, ChE 344: Reaction Engineering and Design Lecture Summaries
- University of Michigan, Elements of Chemical Reaction Engineering: Isothermal Reactor Design
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