化学工学の基礎を、数式と直感の両面から初学者にもわかりやすくお届けします。
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膜分離装置では、供給液が透過液と濃縮液に分かれます。装置を理解するには「膜が何%の溶質を止めたか」だけでなく、「供給した水の何%を透過液として得たか」「濃縮液の濃度が何倍になったか」を区別しなければなりません。
特に混同しやすいのが、阻止率と回収率です。阻止率は濃度から求める分離性能、回収率は流量から求める水量の割合です。この2つを物質収支で結ぶと、透過液濃度と濃縮液濃度を計算できます。
この記事では、膜分離の流量収支と溶質収支、回収率、阻止率、濃縮倍率を、式の導出と例題で整理します。
- 供給液・透過液・濃縮液の流量収支を立てられる
- 回収率と阻止率の違いを説明できる
- 回収率から透過流量と濃縮液流量を求められる
- 阻止率から透過液濃度を求められる
- 回収率と阻止率から濃縮液濃度を計算できる
- 回収率を上げすぎる問題点を説明できる
膜分離の3つの流れ
膜分離装置に入る流れと、装置から出る流れを次の記号で表します。
| 流れ | 流量 | 溶質濃度 | 意味 |
|---|---|---|---|
| 供給液(feed) | \(Q_f\) | \(C_f\) | 膜分離装置へ入る流れ |
| 透過液(permeate) | \(Q_p\) | \(C_p\) | 膜を通過した流れ |
| 濃縮液(concentrate) | \(Q_c\) | \(C_c\) | 膜に阻止された成分が濃くなる流れ |
添字の \(f\)、\(p\)、\(c\) は、それぞれ feed、permeate、concentrate を表します。この記事では、密度変化が小さい液体を想定し、体積流量と質量濃度で計算します。
MF・UF・NF・ROの分離対象や原理は、先に膜分離とは?MF・UF・NF・ROの違いで確認しておくと理解しやすくなります。
流量収支
定常状態で、装置内に液体が蓄積せず、洗浄水や循環流などの追加流れがない単純な膜分離装置を考えます。全体の流量収支は、
\[
Q_f=Q_p+Q_c
\]
です。「入った流量=出た流量」という、物質収支の基本をそのまま適用しています。
したがって、2つの流量が分かれば残りを求められます。
\[
Q_c=Q_f-Q_p
\]
膜装置に循環流、逆洗排水、フラッシング水、透過液の戻しなどがある場合は、それらも境界を横切る流れとして収支式に加えます。
回収率とは
膜分離における回収率 \(Y\) は、供給液流量のうち透過液として得られた割合です。
\[
Y=\frac{Q_p}{Q_f}
\]
百分率で表す場合は、
\[
Y[\%]=\frac{Q_p}{Q_f}\times 100
\]
です。例えば、供給液10 \(\mathrm{m^3/h}\) から透過液7.5 \(\mathrm{m^3/h}\) を得た場合、回収率は75%です。
流量収支と組み合わせると、濃縮液流量は、
\[
Q_c=Q_f(1-Y)
\]
と表せます。
阻止率とは
膜が対象溶質をどれだけ通しにくいかを表す指標が阻止率 \(R\) です。
\[
R=1-\frac{C_p}{C_f}
\]
したがって、透過液濃度は、
\[
C_p=(1-R)C_f
\]
です。供給液濃度が2000 \(\mathrm{mg/L}\)、阻止率が99%なら、
\[
C_p=(1-0.99)\times 2000=20\,\mathrm{mg/L}
\]
となります。
阻止率は濃度の比、回収率は流量の比です。単位も計算に使う値も異なります。
| 指標 | 式 | 表すもの |
|---|---|---|
| 回収率 \(Y\) | \(Q_p/Q_f\) | 供給液のうち透過液になった水量の割合 |
| 阻止率 \(R\) | \(1-C_p/C_f\) | 対象溶質を膜が阻止した程度 |
溶質の物質収支
供給液に含まれる溶質は、透過液側と濃縮液側へ分かれます。溶質の蓄積や反応がない定常状態では、
\[
Q_fC_f=Q_pC_p+Q_cC_c
\]
です。
左辺は装置へ入る溶質量、右辺第1項は透過液へ出る溶質量、右辺第2項は濃縮液へ出る溶質量を表します。
濃縮液濃度について解くと、
\[
C_c=\frac{Q_fC_f-Q_pC_p}{Q_c}
\]
となります。
濃縮倍率を回収率と阻止率で表す
濃縮液濃度が供給液濃度の何倍になったかを、ここでは濃縮倍率 \(\mathrm{CF}\) として、
\[
\mathrm{CF}=\frac{C_c}{C_f}
\]
と定義します。
流量収支、回収率、阻止率から、
\[
Q_p=YQ_f
\]
\[
Q_c=(1-Y)Q_f
\]
\[
C_p=(1-R)C_f
\]
です。これらを溶質収支へ代入すると、
\[
Q_fC_f=YQ_f(1-R)C_f+(1-Y)Q_fC_c
\]
両辺を \(Q_fC_f\) で割って整理し、
\[
\mathrm{CF}=\frac{C_c}{C_f}
=\frac{1-Y(1-R)}{1-Y}
\]
を得ます。
この式から、濃縮倍率は回収率だけでなく阻止率にも影響されることが分かります。
溶質を完全に阻止すると仮定した場合
\(R=1\) なら透過液へ溶質が出ないため、
\[
\mathrm{CF}=\frac{1}{1-Y}
\]
です。
| 回収率 \(Y\) | 理想濃縮倍率 \(1/(1-Y)\) |
|---|---|
| 50% | 2倍 |
| 75% | 4倍 |
| 80% | 5倍 |
| 90% | 10倍 |
回収率が100%へ近づくほど、理想計算上の濃縮倍率は急激に大きくなります。これが、回収率を少し上げるだけでも濃縮側の運転条件が厳しくなる理由の一つです。
溶質をまったく阻止しない場合
\(R=0\) なら \(C_p=C_f\) であり、
\[
\mathrm{CF}=1
\]
です。水と溶質が同じ割合で膜を通れば、濃縮は起こりません。
例題1:回収率から各流量を求める
供給液流量が10 \(\mathrm{m^3/h}\)、回収率が75%の膜分離装置があります。透過流量と濃縮液流量を求めます。
透過流量は、
\[
Q_p=YQ_f=0.75\times 10=7.5\,\mathrm{m^3/h}
\]
濃縮液流量は、
\[
Q_c=Q_f-Q_p=10-7.5=2.5\,\mathrm{m^3/h}
\]
です。
例題2:濃縮液濃度を求める
例題1の装置で、供給液中の溶質濃度が2000 \(\mathrm{mg/L}\)、阻止率が99%でした。透過液濃度と濃縮液濃度を求めます。
まず、透過液濃度は、
\[
C_p=(1-R)C_f=(1-0.99)\times 2000=20\,\mathrm{mg/L}
\]
です。
濃縮液濃度は溶質収支から、
\[
C_c=\frac{Q_fC_f-Q_pC_p}{Q_c}
\]
\[
C_c=\frac{10\times 2000-7.5\times 20}{2.5}
=7940\,\mathrm{mg/L}
\]
となります。濃縮倍率は、
\[
\mathrm{CF}=\frac{7940}{2000}=3.97
\]
です。
阻止率を100%と仮定した近似では \(\mathrm{CF}=1/(1-0.75)=4\) 倍です。今回の阻止率は99%と高いため、厳密計算の3.97倍と近い値になりました。
溶質収支を検算する
\(\mathrm{m^3/h}\) と \(\mathrm{mg/L}\) の積を \(\mathrm{kg/h}\) に直すときは、1000で割ります。
供給液から入る溶質量は、
\[
10\times 2000\div 1000=20.0\,\mathrm{kg/h}
\]
透過液へ出る溶質量は、
\[
7.5\times 20\div 1000=0.15\,\mathrm{kg/h}
\]
濃縮液へ出る溶質量は、
\[
2.5\times 7940\div 1000=19.85\,\mathrm{kg/h}
\]
したがって、
\[
20.0=0.15+19.85
\]
となり、収支が成立していることを確認できます。
例題3:必要な供給流量を求める
透過液を30 \(\mathrm{m^3/h}\) 生産したいとします。設計回収率が75%の場合、必要な供給液流量は、
\[
Q_f=\frac{Q_p}{Y}
=\frac{30}{0.75}
=40\,\mathrm{m^3/h}
\]
です。濃縮液流量は、
\[
Q_c=40-30=10\,\mathrm{m^3/h}
\]
となります。製品水量から設備の供給能力を概算するときに使える計算です。
単流式と回分濃縮で濃縮倍率を区別する
これまでの式は、供給液、透過液、濃縮液が連続的に出入りする単流式の定常装置を想定しています。
回分濃縮では、タンクから膜へ液を送り、濃縮液をタンクへ戻しながら透過液だけを系外へ取り出します。初期体積を \(V_0\)、濃縮後の残液体積を \(V_r\) とすると、体積濃縮倍率は、
\[
VCR=\frac{V_0}{V_r}
\]
です。溶質を完全に阻止し、体積が加成的とみなせる場合は、
\[
\frac{C_r}{C_0}=\frac{V_0}{V_r}=VCR
\]
となります。
単流式の濃縮液濃度と、循環回分操作の最終タンク濃度は、運転方式と境界の取り方が違います。「濃縮倍率」という言葉だけで判断せず、どの流れ・時点の濃度かを確認しましょう。
回収率を上げすぎると何が起こるか
回収率を上げると、同じ供給液量から多くの透過液を得られ、濃縮液量を減らせます。しかし、回収率は高ければ高いほどよいわけではありません。
- 浸透圧が上昇する:濃縮側の塩濃度が高まり、正味の透過駆動力が小さくなる
- スケールが析出しやすくなる:難溶性塩が過飽和へ近づく
- 濃度分極が強くなる:膜面濃度がバルク濃度より高くなりやすい
- ファウリングが進みやすくなる:有機物やコロイドが膜面に蓄積しやすい
- クロスフローが不足する:濃縮液流量が小さくなり、膜面の堆積を抑える流速を保ちにくい
実際の許容回収率は、膜の種類、膜配列、供給液組成、前処理、温度、圧力、スケールの飽和度などで決まります。例題の75%を、すべての装置に適用できる推奨値と考えてはいけません。
回収率には複数の定義がある
実務では、どの範囲を一つの系として見るかによって回収率が変わります。
- エレメント回収率:1本の膜エレメントに対する回収率
- 段回収率:一つの膜段に対する回収率
- パス回収率:一つの膜処理パス全体に対する回収率
- システム回収率:循環、バイパス、複数パスなどを含む設備全体の回収率
- 回分の体積回収率:一定時間または1バッチで得た透過液体積の割合
さらに、「水の回収率」と「特定成分を製品側へ回収した割合」も別物です。計算前に、分子と分母、対象成分、装置境界を明確にします。
よくある間違い
回収率75%を、溶質除去率75%と考える
回収率は流量の割合です。溶質除去の程度は阻止率で評価します。
濃縮液へ溶質がすべて移ると決めつける
阻止率が100%未満なら、溶質の一部は透過液へ出ます。厳密な濃縮液濃度は、透過液側の溶質量を差し引いて求めます。
流量収支だけで濃度を求める
濃度を求めるには、全体の流量収支に加えて対象溶質の物質収支が必要です。
循環流を供給液として二重に数える
循環流は装置境界の内部に置けば、設備全体の収支式には現れません。境界を膜モジュールだけに置けば、循環流は供給側へ加える必要があります。
高い回収率を無条件に採用する
回収率の上昇は、濃縮、浸透圧、スケール、ファウリングを強めます。実液試験や膜メーカーの設計条件を確認します。
確認問題
3問のミニテストで、ここまでの内容を確認しましょう。選択すると、その場で正誤と解説が表示されます。
QUICK CHECK
1 / 3分離工学・初級
このミニテストの回答結果は保存されません。学習記録を残す場合は化工演習室をご利用ください。
まとめ
- 流量収支は \(Q_f=Q_p+Q_c\)
- 回収率は \(Y=Q_p/Q_f\) であり、水量の割合を表す
- 阻止率は \(R=1-C_p/C_f\) であり、溶質の分離性能を表す
- 溶質収支は \(Q_fC_f=Q_pC_p+Q_cC_c\)
- 濃縮倍率は \(\mathrm{CF}=[1-Y(1-R)]/(1-Y)\)
- 完全阻止を仮定すれば、濃縮倍率は \(\mathrm{CF}=1/(1-Y)\)
- 回収率を上げるほど濃縮側の浸透圧、スケール、ファウリングに注意が必要
膜分離の計算では、まず装置境界と3つの流れを図にし、流量収支と溶質収支を別々に立てます。そのうえで回収率と阻止率を代入すれば、式を暗記しなくても透過液・濃縮液の状態を求められます。
参考資料
- IUPAC: Terminology for membranes and membrane processes
- DuPont Water Solutions: Principle of Reverse Osmosis and Nanofiltration
- DuPont Water Solutions: FilmTec Reverse Osmosis Membranes Technical Manual
- U.S. EPA: Membrane Filtration Guidance Manual


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